はじめに

 

昨年9月11日の同時多発テロ事件以降、中東情勢の緊迫化等に伴い原油価格の高騰が続く中で、エネルギー安全保障に対する懸念が世界的に表面化しております。今後米国の対テロ戦争の進展如何によっては、原油の対中東依存度が30年前の第1次石油危機以前の90%台に達している日本にとっては、まさに「油断」のできない状況に発展する惧れがあります。

他方、深刻化する地球温暖化問題に関しては、日本は、本年6月京都議定書の批准に踏み切りましたが、それに先立ち3月に政府が発表した「地球温暖化対策推進大綱」では、同議定書に基づく二酸化炭素等の削減目標を達成するためには、一層の省エネルギー努力や再生可能な新エネルギーの開発に加えて、原子力発電を今後10年間に約3割増加する必要があるとしております。

このように原子力は今後、我が国のエネルギー安全保障と温暖化対策の両面で一層重要な役割を果たすことを期待されておりますが、にもかかわらず、近年相次いだ事故や不祥事等の影響で、きわめて厳しい逆風下にあり、先行きが懸念されております。 

そもそも原子力推進の大前提として、安全性や経済性等が重要であることは申すまでもありませんが、そうした国内レベルの視点だけでエネルギーや地球環境問題を論ずるのは不十分であり、とりわけ「資源小国、消費大国」日本にとっては、国際政治的、戦略的な視点を含めた総合的な判断が必要不可欠と考えられます。

このような問題意識に基づき、財団法人日本国際フォーラムでは、過去数年間にわたり「エネルギー環境外交研究会」(会長:金子熊夫理事)を中心に種々の調査研究を重ねて参りましたが、昨年度からは更に、ハイレベルの「日本のエネルギー安全保障と原子力の将来を考える会」(座長:村田良平元駐米大使)を設置し、議論を重ねて参りました。

これらの研究成果や議論を踏まえ、当フォーラムでは、読売新聞社のご後援を得て、本年7月8日、東京・大手町の経団連会館において、緊急国際会議「エネルギー安全保障と環境保全:原子力の役割」(Tokyo International Forum on “Energy Security and Environment: The Role of Nuclear Power を開催いたしました。

幸い当日は、内外の著名な指導者や専門家の方々のご出席をいただき、約400名に及ぶ一般参加者との間で終日きわめて熱心な議論が展開されました。ここに、当日の会議の内容をとりまとめ、各位のご高覧に供します。21世紀のエネルギー安全保障と地球環境問題及びその関連における原子力の役割について、一層関心と理解を深め、国民的合意の形成に役立つことができれば、主催者として望外の喜びであります。

最後に、本会議の開催にあたり多大のご支援、ご協力を賜った皆様方に対し、心からの謝意を表します。

                  
      
                          財団法人日本国際フォーラム理事
                          エネルギー環境外交研究会会長
                               金子 熊夫
  2002年8月




目 次

1.プログラム_ 1

 

2.第Tセッション: 世界各国のエネルギー・環境・原子力政策_ 2

<開会挨拶>    村田良平(企画実行委員会委員長)_ 2

<来賓挨拶>    中曽根康弘(元内閣総理大臣)_ 5

<基調講演1>   尾身幸次(科学技術政策担当大臣)_ 12

<基調講演2>   ハワード・ベーカー駐日米国大使_ 20

<基調講演4>   ドミンゴ・シアゾン駐日フィリピン大使_ 45

 

3.第Uセッション: 国内的次元から見たエネルギー安全保障・環境保全と原子力の役割  59


議長:       金子熊夫(東海大学教授、エネルギー戦略研究会会長)
<コメント1>   バートラム・ウルフ(元GE社副社長・元米国原子力学会会長)_ 60

<コメント2>   テレンス・ウィン(欧州議会予算委員長)_ 62

<コメント3>   近藤駿介(東京大学大学院教授)_ 63

<コメント4>   秋元勇巳(三菱マテリアル会長)_ 65

<コメント5>   今井隆吉(世界平和研究所理事・主席研究員)_ 68

<コメント6>   松田英三(読売新聞社論説委員)_ 70

 

4.第Vセッション: 国際的次元から見たエネルギー安全保障・環境保全と原子力の役割  77


議長:       伊藤 憲一(国際フォーラム理事長)
<コメント1>   オリビエ・アペール(IEA長期協力政策分析局長)_ 78

<コメント2>   ヨンフン・ジュン(APECアジア太平洋エネルギー研究所副所長)_ 80

<コメント3>   森本敏(拓殖大学教授)_ 82

<コメント4>   バートラム・ウルフ(元GE社副社長、元米国原子力学会会長)_ 84

<コメント5>   袴田茂樹(青山学院大学教授)_ 85

<コメント6>   金子熊夫(エネルギー環境外交研究会会長) 87

 

5.閉会挨拶_ 90

<議論のまとめ>  黒田眞 (企画実行委員会副委員長) 90

 

6.報告者・パネリストの横顔_ 93







緊急国際会議「エネルギー安全保障と環境保全:原子力の役割」

Tokyo International Forum on
“Energy Security and Environment: the Role of Nuclear Power”

2002年7月8日(月) 経団連ホール(経団連会館14階)
主催:日本国際フォーラム 後援:読売新聞社


1.プログラム

 

0  9:00- 9:30  開場・受付

 

0 9:30-12:00  第Tセッション:「世界各国のエネルギー・環境・原子力政策」 

総合司

宮崎 緑  千葉商科大学助教授

開会挨

村田良平  企画実行委員会委員長・元駐米大使

来賓挨

中曽根康弘 衆議院議員・元内閣総理大臣

基調講演

 

「日本のエネルギー・環境政策と原子力の役割」                             

尾身幸次  科学技術政策担当大臣

基調講演

 

「米国のエネルギー・環境・原子力政策」                                           

ハワードH.ベーカー 駐日米国大使(前上院議員)

基調講演

 

「欧州のエネルギー・環境・原子力政策」                                         

テレンス・ウィン  欧州議会予算委員長(英国)

基調講演

 

  「アジアのエネルギー安全保障と原子力」                                          

ドミンゴL.シアゾン  駐日フィリピン大使(前外務大臣)

( 昼食休憩 )

 



14:00-15:45

Uセッション:「国内的次元から見たエネルギー安全保障・環境保全と

        原子力の役割」

金子熊夫 日本国際フォーラム理事・エネルギー環境外交研究会会長

パネリス

バートラム・ウルフ 元GE社副社長・元米国原子力学会会長                          

 

 テレンス・ウィン   欧州議会予算委員長(英国)

 

 近藤駿介 東京大学大学院教授

 

 秋元勇巳 三菱マテリアル会長

 

 今井隆吉 世界平和研究所理事・首席研究員

 

 松田英三 読売新聞社論説委員














( コーヒーブレイク )

16:00-18:00

第Vセッション:「国際的次元から見たエネルギー安全保障・環境保全と

        原子力の役割」

伊藤憲一 日本国際フォーラム理事長

パネリス

オリビエ・アペール  国際エネルギー機関長期協力政策分析局長(仏国)

 

バートラム・ウルフ 元GE社副社長・元米国原子力学会会長                          

 

 ヨンフン・ジュン   APECアジア太平洋エネルギー研究所副所長(韓国)

 

袴田茂樹 青山学院大学国際政治経済学部長

 

 森本 敏 拓殖大学教授

 

 金子熊夫 日本国際フォーラム理事・エネルギー環境外交研究会会長        

閉会挨

黒田 眞 企画実行委員会副委員長 

























2.第Tセッション

世界各国のエネルギー・環境・原子力政策

 

宮崎緑(総合司会)  皆様、おはようございます。大変長らくお待たせ申し上げました。定刻が参りましたので、ただいまより緊急国際会議「エネルギー安全保障と環境保全:原子力の役割」と題しました国際会議を開始させていただきたいと存じます。

 私は、本日の進行役を仰せつかりました千葉商科大学の宮崎緑と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。(拍手)恐れ入ります。本日の会議は日本国際フォーラム主催でございます。日本国際フォーラムのメンバーの一員として若干たりともお役に立てればと思うんですが、大変未熟なつたない進行かと思います。お許しいただきたいと思います。

 このようなテーマの会議をエネルギーの専門家、あるいは特定の政治的な立場からのディスカッションとして開催することは過去にも多々あったのではないかと思いますが、本日のように国際政治の専門家、しかも安全保障、グローバルな戦略という観点から政策決定の中枢にいらっしゃる方々が発言をしていくというのは、非常に貴重な機会、珍しい会議ではないかと思います。そういう意味で、時間を有効に展開していければと思います。

 初めに、本日の趣旨の説明を、企画実行委員会の村田良平委員長(元駐米大使)から、ご挨拶としてお願いしたいと思います。よろしくお願い申し上げます。(拍手)

 

<開会挨拶>         村田良平(企画実行委員会委員長)

 

村田良平  私は、この会議の企画実行委員長を務めております村田良平と申します。この会議の主催者は日本国際フォーラムでございます。このフォーラムにおきましては、昨年2月ごろから、安全保障、エネルギー、地球環境問題、そして原子力、こういう問題に関心を持つ人々が一つのグループをつくりまして、「日本のエネルギー安全保障と原子力の将来を考える会」という形でずっと議論をしてきたわけでございます。私は、このグループの座長を務めてまいりました。

 しかしながら、これは非常に国際的なディメンションのある総合的な問題でございます。それから、皆様ご案内と思いますけれども、来る8月にはヨハネスブルクにおきまして「持続可能な開発に関する世界首脳会議」が開かれることになっております。こういうことも念頭に置くべきだと考えまして、全世界からの代表に参加していただいて討議するに値するテーマだということから、私たちは緊急にこの国際会議を開催することにした次第でございます。

 本日は、日本駐在のハワード・ベーカー米国大使、フィリピンのシアソン大使をはじめ、遠路アメリカ、ヨーロッパあるいは韓国からの出席も得られたことは、主催者にとりまして大変光栄でございます。

 企画実行委員長として一言申し上げたいことは、この会議が必ずしも狭い意味での専門家の会合ではないということでございます。私自身は長年外交官でございました。外務省の経済局というところで仕事をしましたので、OECD、さらにはOECDと関係のあるIEA(国際エネルギー機関)の問題を非常に勉強もし、取り組みました。さらにアラブ首長国連邦、UAEの大使をしておりましたときは大いに石油の勉強をいたしました。

 その後、経済局長として中曽根総理のお手伝い等をさせていただいた後で、私はオーストリアの大使になりました。オーストリアの大使の場合には、オーストリア共和国の大使に加えまして、オーストリアにある重要な国際機関の日本政府代表になります。私の場合には、IAEA(国際原子力機関)の日本政府代表を務めて、原子力につきましても若干勉強をしたということでございます。

 その後、アメリカ合衆国とドイツ連邦共和国の大使を務めまして、この両国におきまして、国家安全保障、エネルギー、環境、そうした問題がどのように議論されているかということを一生懸命フォローした次第でございます。そういうことですから、英語でsomething in everythingという表現がありますが、私は本日の議題のほんのちょっぴりをみんな少しずつは知っているという人間でございます。

 かつて私は京都で生まれまして、京都大学を卒業した人間でございます。1997年12月にいわゆるCOP3の会議が行われて、京都議定書というものができたわけでございまして、どんな人間でもローカル・パトリオットでございますから、私の郷里の名前のつく議定書が発効すればいいなと思っていたのでありますが、どうも最近の米国の新しい政策等を見ると果たしてそのようになるかどうか、かなり疑問が出てきているということでございます。

 ここで、開会に当たりまして私が特に強調いたしたいのは、私を含めて、特に日本側からのこの会議への出席者は、どちらかといえば国際政治あるいは外交の専門家が多く、エネルギー、環境等のエキスパートは比較的少ないということでございます。

 かつてフランスにクレマンソーという大統領がおりました。彼は、「戦争は専門家に任せておくにはあまりにも重要だ」という有名な言葉を吐いております。このクレマンソーの言葉をかりますと、「人類にとって原子力問題、あるいは環境問題はあまりにも重要であって、少数の専門家だけには任せておけない問題である」ということが言えると思います。我々、一般市民レベルで、かつ国際問題に広く関心と見識を持つ人たちが討議するに値する問題なのでございます。そういう認識からInternational Conference on Global Environment and Nuclear Energy Strategic Perspectiveという名前をこの会議につけたわけでございます。

 したがいまして、私どものねらいとしましては、本日、問題を単に技術的な視野ということではなくて、できるだけ広く国際政治、戦略的な立場から討議をしていただきたいということでございます。どうか、参加者の皆様が、特に21世紀のエネルギー安全保障と地球規模の環境問題及びそれとの関連における原子力というものの役割を中心に討議を進められまして、有益な結果が得られることを期待いたします。

 以上をもちまして、私の開会のあいさつを終わります。どうもありがとうございました。(拍手)

 

宮崎緑(総合司会)  ありがとうございました。村田良平企画実行委員長(元駐米大使)よりごあいさつ申し上げました。

 それでは今、村田委員長のお話にございました趣旨に基づいて会議を進めてまいりたいと存じます。

 きょうは、大変錚々たる方々にお出ましいただいておりますが、まずはご来賓を代表してのご挨拶を賜りたいと存じます。プロフィールにつきましては、皆様、お手元の資料でご覧いただきたいと思います。もう申し上げるまでもないことでございますけれども、中曽根康弘元内閣総理大臣、我が国の原子力政策の策定で大変重要な大きな役割を果たしてくださった方でもございます。

 それでは、中曽根康弘元総理、どうぞよろしくお願い申し上げます。(拍手)

 

<来賓挨拶>      中曽根康弘(元内閣総理大臣)

「日本の原子力が歩んできた道」

 

中曽根康弘  原子力に関する平和利用を中心にした国際会議が開催されまして、心からお喜び申し上げます。平和利用とか、安全とか、環境とか、国際協力とか、さまざまな問題が絡み合って、これからも非常に重要な国家政策であるだろうと思います。私はこの原子力平和利用を日本で始めたいきさつを知っておりますものですから、主にその話を話せというご命令をいただきまして、今日はまずその話を申し上げてみたいと思うんです。

 マッカーサーの占領軍が来まして一番、目についたのは、仁科博士のサイクロトロンを品川の沖へ捨てたということです。私はそれを新聞で見まして非常に驚きまして、当時国会議員でありましたが、原子力の将来に非常に関心を持っておりましたので、これをやられたら日本は永久に四等の農業国家になってしまうと。これは平和条約なんかで禁止されたら大変だと、そう思いまして、昭和26年にダレスさんが日本との平和条約の交渉に来る前に、そのほかマッカーサー元帥の占領政策に対する感想、批判を述べた”Presentation to General MacArther”というマッカーサーに対する建白書というのをGHQに持っていって出した。Dr.ウィリアムズというのが国会課長で、受け取らないと言ったのを、受け取ってもらうように言って帰ったんです。

 その中に書いたのが、一つは平和条約において原子力平和利用及び民間航空機の製造・保有を禁止するなということです。占領軍にはその意図が見えつつありまして、そんなものを入れられたら大変だと思ったわけです。

 そして、1950年正月以後に、ダレスさんがやってきて平和条約の交渉をしました。そのときも私はダレスさんにお会いいたしました。ダレスさんの秘書をやっているMr.フェアリーというのはハーバードの出身で、私はたまたまワシントンへ行って彼のうちに泊まったと。そんな因縁がありまして、彼を通じてダレスさんに会いまして、そのときに平和条約に対する私の考えを述べた。

 その中にあるのは、まず一つは日米防衛同盟条約案であります。現在の安保条約にやや似たものであります。それと今、申し上げた原子力の平和利用及び民間航空機の製造・保有を禁止するなということであった。ダレスさんはその文章を見ておりまして、原子力の点のところを見たら、手で突っついて、にやっと私の顔を見ました。だから、はっはあ、やっているなという印象を持ったのかもしれません。

 それで、昭和28年にアメリカのハーバード大学でDr.キッシンジャーの司会のもとにインターナショナル・サマー・セミナーというのが行われて、2カ月間ハーバードの学生寮に泊まって世界中の学者や文化人や政治家が討論をやったものであります。

 それを終わって、私はニューヨークへ来て財界人にいろいろ会いましたときに、財界人が私に言うには、アメリカではアイゼンハワー大統領のもとに、”Atoms for Peace”ということで、今、政府の権限は民間に委譲して、民間が原子力の中心になろうとしている、それで原子力産業会議というのができたと。そういう話を聞いて、はあ、これも日本はつくらないというと遅れてしまうな、これは大変だという感じを持ちまして、東京へ帰る途中、サンフランシスコの総領事館に来て、ちょうど嵯峨根(遼吉)博士がバークレーにいた。嵯峨根博士に来てもらって、日本で原子力推進をやろうと思うんだが一体何を注意したらいいかという話を聞いた。

 一番よく覚えているのは、これは非常に大事なことで、政府として正式に国策を確立して、まず法律と予算をつくって国策の基礎を確実にしないといけない、さもなくて民間やその中で適当に始めるというと、ろくな学者が入ってこない、そうなるというといい学者が来なくなってしまう、そうすると日本の原子力はだめになってしまう、だからやっぱり政府は正式の国策として予算と法律をつくることが先でしょう、しかし、学者の選定にはよほど注意しないといけませんよと、そういう話を受けた。

 私はそれを聞きまして、なるほどそうだな、しかしもうやらなければいけないと。そういうので帰ってきまして、日本の原子力予算をまず取ろうと。それは今言ったように、予算と法律を先行しなければだめだということだからです。それで、これは表に出すというと反対されちゃう。そこで我々の仲間の川崎代議士、桜内代議士、園田代議士、稲葉代議士、その程度に相談をして、日本でも何とかやりたいから協力してくれと。協力するということになって、大体2億3,500万円の原子力調査費、それから燃料を探す1,500万円の炭鉱の費用をつくったわけです。

 当時、自由党だけでは予算が通らない。鳩山自由党とそれから我々の重光改進党、それと吉田自由党、3党で予算が通ったんだ。私は改進党の予算委員会の理事をしていまして、川崎君も理事をしていたものだから、党の幹部には多少話しておいたけれども、予算修正のときに突如2億3,500万円の予算修正案を出したわけです。

 そうしたら実に大騒ぎになって、新聞やラジオはもちろん、中曽根は原爆をつくるつもりだ、ああいう右翼国家主義者にやられたら大変だと、そういうことで散々な批判で、ジャーナリズムに反対ののろしが上がりました。しかし、我々はそれには屈しない。ともかく、突如出したものですから、きょう、あした通らないと予算が通らないという形になっちゃって、それで自由党の方もしようがないというので、呑んで、それで衆議院を通過した。参議院に行ったら、もう衆議院を通過したんだからしようがないということで。

 そのときでも審議中に日本学術会議やそのほかが大挙して反対陳情に来た。その中で一つ覚えているのは、学術会議の会長であったと思いますが、茅(誠司)さんが反対の陳情を大分して、いよいよ帰るときになったらひとり言を言ったんです。「だけど、通ってしまったらしようがありませんね」という一言を言ったの。私は、その意のあるところを察して、心ある学者は実は欲しているのかなと、そういう気持ちもして。

 それで予算が通ってしまったら、もう準備しなければならないというので、経済企画庁に原子力平和利用準備室というのができた。議会でなぜ2億3,500万円の予算を出したのかと聞かれたから、濃縮ウランはウラニウム235だろうと、そう言って大笑いをさせて、それで通ったといういきさつもあります。

 それで、お金ができて、昭和30年にジュネーブで第1回原子力平和利用国際会議があった。そこへ、藤岡博士以下が中心で財界の方々も行って、私と松前重義さん、それから前田君等々4人ばかりが顧問で行って、ジュネーブの原子力国際会議に始めて出た。日本は一番遅れていた。インドのホミ・バーバー博士というのが議長をしておりました。

 それを終わってから、我々4名がフランス、ドイツ、イギリス、アメリカの原子力施設を丹念に見て回ったのであります。見た後ホテルへ帰ってきて、ベッドに座ってステテコ姿で、日本はどういう法律をつくろうかという相談事をしたんだ。まず基本法、炉の設置法、燃料の処理法、アイソトープの問題、役所の問題、原子力委員会等々、フランスやイギリスやアメリカでやっているものをずっと勉強してきたものですから、日本もこういう体系をつくろうと。ステテコ姿でベッドで毎晩12時過ぎまで一つ一つについて議論をした。それは我々のような自民党、それから社会党の右派と左派、それが入ってやったわけです。みんな非常にまじめにやって、ほとんど1時ごろ寝たものです。ですから、あのころ在外公館が、こんなくそまじめな議員団はない、観光も食事もしないと、そう言われていたものだ。しかし、我々は、日本を遅らせては大変だというので必死になって議論をして、羽田に帰ってきたときには、道中で大体の法案要綱をつくってしまったものであります。

 それで、羽田に着いたときにみんなで相談して、超党派の原子力合同委員会というのをつくって、私が委員長になりまして、正式に党間の話し合いで法案づくりをやろうと持っていった。そして各党の了承を得て、今度は正式に超党派で原子力合同委員会というものをつくって、私が会長になって法案の作成をやった。

 それはまず第一に原子力委員を選定する原子力委員会設置法、それから炉の規正法、それから燃料、あのころは原子燃料公社といいました。そのほか放射線の問題とか、それと同時に科学技術を監督する場所がなければ困るから科学技術庁設置法、そういうようなもの、大体8つの法体系をつくったものです。

 みんな超党派でやったものですから、1議会でそれを通してしまった。これは全く議員立法であって、科学技術庁も役所もないわけですから、私らが衆議院の法制局の要員を動員していろいろ調べてもらい、あるいは彼らと一緒になって法案をつくったの。それが日本の原子力が成立したときの姿であって、これが全く議員立法で行われた、国会議員の主導性で行われたというのは、日本の政治史の中でも特筆すべきものです。あのころ議員立法でもものをやったというのは、田中角栄さんが道路の問題で、幹線道路の法律をつくる、私らが原子力平和利用及び科学技術庁設置法以下をやった。

 原子力委員をだれに選ぶかという問題になった。それには、科学技術庁設置法で科学技術庁ができて、だれを大臣にするかというので、松前さんとも相談して、正力(松太郎)さんがいい、あの人は非常に迫力があるし、熱心だと。

 正力さんを第1回の大臣に推薦して、大臣になってもらって、それで我々は参謀として働いて、原子力委員をだれにするかということを松前さんとも相談をして、そして財界から1人とか、学会から1人または2人、あるいは文化的な第三者から1人と、そういうようなわけで、原子力委員を推薦して決めていただいた。

 正力さんは、非常に実際家ですから、ばんばん仕事をやるのが好きで、「おい、中曽根君、いい原子炉を外国から買ってこよう」と言い出して、英国のコールダーホール型の天然ウラン黒鉛原子炉、正力さんは、「国が出さないなら、おれが読売新聞で買うよ」と、実はそういうことを言ったぐらいです。それで正力さんの馬力に押されて、政府の方もそれを認めて、ついにコールダーホール型が入った。これが日本の最初の原子炉であります。

 そこで基本法をつくるときに、平和、自主、公開、そういうような原則をつくったんですね。その中で「平和」という言葉を入れた。これは松前さんからの要望もあって、結構だろうというので、平和という言葉を入れた。これで現在でも問題が出てくる、例えば、日本も核兵器を持ったらどうかという議論なんかがちょろちょろ出始めている。核兵器を持つについては、防衛目的ならば小型のものは憲法上禁止されていないとなっているけれども、日本の原子力は平和利用で「平和」と書いてあるのであって、原子力基本法のその部分を直さなければ核兵器は持てないんだ。我々は将来のことも考えて、そういう規制を厳重にしておいたのであって、この点は特に申し上げておくものなのであります。

 そこで、現在の状態になるといろいろな問題が起きてきました。一つは廃炉の問題です。もう年数が来たのがどんどん出てくる。一つ壊すのに大体300億円ぐらいかかるとか何とか言われている。今、52基か幾つかの発電炉が動いていますから。

 その次はプルサーマル。これも今、見送られている状態だ。これをやらなければ、プルトニウムを生かしてやれる方法はないので、これも解決しなければならないと。

 それから、第3番目には機密保護、つまり危機管理という問題があるんです。今、有事立法をつくっている、あるいは自衛隊がいざというときに日本を守るためにやるというんだけれども、あれだけではだめだ。もっと大きな問題がある。それは緊急事態法という法律がもう一本要るんだ。

 それはどういうものであるかといえば、いざという場合に、民間のそういうものをどうして我々が協力してやるかという、もう一つの大事な部面で、その中に原子力の安全、原子炉の安全という問題も入るわけなんです。もし外国が日本に攻めるとか、攻めないにしてもいろいろ悪さをしようという場合に、原子炉に手をかけたら大変なことになるでしょう。日本海沿岸にずうっとみんなあるわけです。それでそっちは大陸に一番近い場所でしょう。正面でしょう。あの辺で海の上からも、あるいはそのほかからも悪さをされたら、日本国内が大騒ぎになってしまって、米軍出動どころじゃないです。そういう意味で、原子炉の安全管理というものをいかにやるか、特に今のような緊急事態の場合どうするかと。

 今、原子炉を守っているというのは、大体会社の者がやっているか、あるいは一般の危険防止の会社、セキュリティーカンパニーがやっているわけです。そんなことだけでやれるはずではないんです。ある段階になったら、防衛庁の自衛隊の兵隊さんが出てきて、ある程度の範囲を広範囲にわたって守るようにしなければ安全は期することができない。原子炉の問題については、むしろ有事立法以上に大事な問題がここにあるわけです。それを私は特に強調しておきたいと思うのであります。

 それから国際協力の問題がございます。これからの問題を考えてみると、何といっても環境問題、安全問題、国際協力問題というものが正面に出てくる。これを一つ一つうまくこなしていかなければならないと。

 国際協力問題の中で一つ覚えておいてほしいのは、もう使い古したソ連の原子力潜水艦がウラジオストクに何十隻も並んでいるんです。捨てられたままにしてある。そういうようなソ連の危険なものが日本海に投棄されたり何かして一時大騒ぎになって、その問題をどうするかというので、その対策を練ったことがある。

 ソ連の原子力で使ったプルトニウムをどう処理するか、相当なプルトニウムができている。アメリカのハーバード大学も心配して、それに対する対策や議論をいろいろやって、我々の世界平和研究所と提携してロシアに協力する体系をつくろうというので、我々のほうでは、日本でも最高権威の方ですが、今井(隆吉)さんという方を中心に、ハーバード大学とも打ち合わせして、セミナーをやったり、モスクワへ行ったり、そういうことでソ連のプルトニウムをどう処理するかという相談事をやった。

 それでアメリカの方からもお金を出そうというので、日本もお金を出してくれというので、日本も2億ドルの金を出したんです。ソ連側がそれを消化する能力がない。またそういう組織や何かがないんですね。金をよく使い切らない。今回、またその問題がここへ出てきて、この間のG8(カナナスキス・サミット)で10年間に200億ドル出そうという相談があって、その中でアメリカが相当出して、日本も2億ドル出してくれという話になっている。今も相当大きな使い残りがあるから、もちろんそれでやりましょうというので、ソ連の原子炉の処理について協力する、これが国際協力という大きな問題です。

 それから廃棄物処理という問題があります。永久的処理をどこでやるか、北海道でやるとか、今、これも大きな問題で、みんな悩んでいる問題であります。

 そして最後に大事なことは国民的理解をさらに進めなければいけないと。日本のような国で環境問題等を考える、また化石燃料に多分に依存している日本は将来の問題を考えてみると、2008年度から、1990年に対してマイナス6%にしなければいけないという課題を我々は受けているわけです。それを何で達成するかといえば、やはり原子力の平和利用に頼らざるを得ない。それを能率的に推進するためには、プルサーマルをやらなければならない、あるいは核融合まで前進しなくてはならない。

核融合については世界的な施設をつくろうというので、日本とかフランスとかスペイン、各国が手を挙げている。日本は六ヶ所村でやろうというので手を挙げている。そういう情勢で、国際関係とともに、今これはたくましく前進しつつある。核融合からプルサーマル、これが、我々が次に乗り切っていかなければならない問題です。それには、国民的理解が非常に大事なのであって、ここにおっしゃる皆様方は我々と一緒になって共同してご努力願えれば幸いであると思う次第でございます。

 これで私のご挨拶を終わりにいたします。どうもありがとうございました。(拍手)

 

宮崎緑(総合司会)  どうもありがとうございました。中曽根元総理には、原子力政策の歩みを政治力学の舞台裏から率直にお話しいただきました。貴重なお話をありがとうございます。

 中でたくさん重要なテーマが出てまいりました。キーワード的に申し上げますと、原子力政策と核戦略とのかかわりをどう考えていくか、あるいは国際協力について、国民的理解について等々でございますが、このあたりは午後のセッションでじっくりと深めていただきたいと存じます。

 それにつけても、そうした政策を遂行していくに当たってのリーダーシップのあり方と、そのリーダーシップを支える背景にある適正で強力なビジョン、理念、これがまさに問われるのではないかと思います。

 では、次に、そのビジョン、理念の部分についてのお話を基調講演として承ってまいりたいと思います。まず基調講演の一番目でございます。「日本のエネルギー環境政策と原子力の役割」と題しまして、尾身幸次科学技術政策担当大臣よりお話をいただきたいと存じます。

 尾身大臣、よろしくお願い申し上げます。(拍手)

 

<基調講演1>  尾身幸次(科学技術政策担当大臣)

「日本のエネルギー政策と原子力の役割」

 

尾身幸次  ご紹介いただきました科学技術政策を担当しています尾身幸次でございます。

 ただいま中曽根元総理から原子力の草分けの話を大変感銘深くお伺いしました。私もコールダーホール改良型というのを東海村に入れましたときに、たまたま通産省にいまして、初代の原子力発電課の総括係長というのをやっておりました。安全性のほうは技術系の方々がチェックをし、経済採算のほうは私がチェックをして、4円99銭という数字をはじいた当事者でございまして、私がかかわるその前からの、もともとの原子力平和利用の草分けでございます中曽根元総理から私も知らない話をお伺いいたしまして、やはりそういう先人の苦労が今日の原子力平和利用の発展へとつながっているんだなという思いを深くいたしました。

 私の方は、ただいま科学技術政策担当として原子力問題にも携わっているわけでございます。このテーマにもありますとおり、日本のエネルギー需給というのが大変に世界の中で特別な構造になっているわけでございます。それは、もう皆様よくご存じのとおり、日本という国は資源が乏しい、国土が狭い国でありまして、エネルギーにおいても自給エネルギーが極めて低い。海外依存度が96%というようなことになっているわけであります。

 原子力発電を国内のエネルギーと考えますと、これでかなり増大をいたしまして、海外依存度80%ということでございまして、20%は原子力を含めた国産エネルギーでカバーできるということになっているわけでございます。

 今はそうなっていますけれども、もともと非常にエネルギー供給構造が脆弱でございまして、1973年に第一次オイルショックというのがございまして、私は当時ニューヨークの総領事館に行っておりましたんですけれども、1ドル原油と言われていたのが、1カ月ぐらいの間に一遍に4ドルにまで上がりまして、当時の日本国内のほうも、「40%上がったのか」「そうじゃない、4倍に上がったんだ」というような話でございました。これは大変だ、石油だけに頼っているわけにはいかないなというようなことで、皆さんが騒いだわけであります。

 さらにその後、第二次石油ショックと言われている1979年から83年までの間に、一挙にバレル当たり41ドルと、40ドルという水準にまで上がって、現在は27,8ドルという水準になっておりますけれども、当時は大変に大きなショックを与えました。

 実を言うと、日本はもともとその前から原子力発電も進めていました。全体のエネルギー政策を石油、しかも中東依存度が大変高い石油にだけ依存しているのではなくて、その他のエネルギーにももっと比重をかけて、日本全体のエネルギー需給構造を変えていくことが大変大事だと。例えば、天然ガスとか、あるいは原子力というようなことで、以来、最近に至るまで、私どもはずうっと努力をしてきたわけでございます。

 その結果として、石油の依存度を1973年の第一次石油ショックのときと比べますと、一次エネルギー供給の中の石油の比率が77%から52%まで下がり、石炭が多少上がって15%から18%へ、天然ガスが大幅増で、1.5%だったものが13%まで増える。それから原子力も0.6%だったものが12%にまで増えるということで、実は大きくエネルギー供給構造が変わったわけでございます。それにしても、実は日本はエネルギーの中で石油の依存度が一番高くて52%、アメリカあたりでも39%という中で、まだまだ石油の依存度が高いなというのが私どもの実感であります。しかし、いろいろな努力をしてこれを引き下げてきて、エネルギー供給構造をバランスのとれた構造にしてきているという状況でございます。

 そういうところへ、先ほど来お話にございましたが、COの影響による温暖化を防がなければいけないということで、1997年の京都の会議で京都議定書を採択いたしました。これは2010年に90年比で6%の削減をするということでございまして、大変に大きなといいますか、厳しい目標を立てました。

 しかし、1990年対比6%減という目標を立てたにもかかわらず、その後、最近10年間、我が国のエネルギー需要は伸びてまいりまして、16%も伸びてきている。そして温室効果ガスの排出実績も99年の段階では、90年対比で11%増となっているわけでございまして、減らすべきところがむしろ逆に増大しているというのがここのところの実績でございます。

 私どもは、ことし3月に「地球温暖化対策推進大綱」を閣議決定いたしましたり、また今度の国会で地球温暖化対策の法律改正も成立いたしまして、6月に京都議定書を批准したわけであります。

 批准はしたけれども、これを国として確実に実行できるかどうかということについては極めて難しいというのが実情でございます。もとより、そういう中で、国を挙げてこれを達成しなければならないという非常に難しい課題を解決しなければならないというふうな状態になっているわけでございます。簡単に言うと、省エネルギーをしたり、新しいエネルギーを開発したり、特に原子力を進めていかなければならない。そう考えて、総力を挙げてこれを実行しているという状況でございます。

 GDP当たりのエネルギー消費量というのがありまして、GDP100万ドル当たり原油換算で幾らエネルギーを使っているかといいますと、一番使っているのがカナダ100万ドル当たり365トン、アメリカ264トン、それからずっと下がって実は日本が96トンと、カナダの4分の1、アメリカの3分の1しかGDP当たりでは使っていない。簡単に言うと、GDP当たりですると日本の石油の消費量は世界中で一番低い、つまり非常に効率よく使っているということが全体として言えると考えております。

 国として非常に厳しい選択でありますけれども、90年比6%の削減を目指してやっていくということを決定しているわけでございまして、これを進めていかなければいけないと考えて、今いろいろな対策をしているところでございます。

 これからどういうふうにしてそれをやっていくかということでありますけれども、新エネルギーとか、省エネルギー、そういうことも大いにやっていかなければいけない。しかし、議会、国会とのいろいろな議論を見て、聞いておりますと、新しいエネルギーを開発していって原子力をやめればいいじゃないかという議論が、特に野党のほうから出てきております。

 新しいエネルギーには地熱とか、太陽エネルギーとか、バイオマスとか、あるいは廃棄物による発電とかいろいろなエネルギーがありますけれども、どう考えても2010年のレベルで、新エネルギーは全体のエネルギー供給の3%が限度である。3%以上にはどうしてもなりそうにないという状況であります。

 ですからエネルギー問題、あるいは環境問題を新エネルギーと称するもので解決するということは、現実的にはできないことをできることのように錯覚して政策を進めているということにほかならない。新エネルギーでやれば、今のところだれも反対がないわけであります。もちろん我々は、新エネルギー開発も全力でやりますが、これがエネルギー問題、あるいは環境問題への抜本的解決にはならないということは、政党の主義、主張のいかんにかかわらず、どう考えてもそれが科学的な事実でございまして、そこをしっかりと認識した上で対応していかなければならないと考える次第でございます。そういう中で、やはり石油の比率を下げていく、あるいは天然ガスとか原子力の比率を上げていくということが大変大事であると考えております。

 そこで、京都議定書の批准の問題、あるいは発効の問題でございますけれども、京都議定書の発効の要件というのは、55%の排出量の国々がこれを批准するということが条件になっているわけでございます。つまり、55カ国以上の国が締結をして、全体の排出量、1999年の排出量の比率が55%以上になる国々が批准をして初めて発効するということになっております。

 実際に数字を見ますと、EUが24%、日本が8%、ルーマニア、チェコが2.4%、ノルウエー0.3%で、今35.4%のシェアの国々が京都議定書の批准をしております。あと残っている大口は、アメリカ36%、ロシア17%ということでありまして、両方の国を合わせて53%のシェアがあるわけでございます。したがって、今はまだその2つの国だけを除いてあと全部が批准しても45%にしかならないということでございまして、簡単に言うと、アメリカかロシアかどちらかが批准をしないと京都議定書は発効しないとなっているわけでございます。

 きょうはベーカー大使もおられますが、アメリカが京都議定書の内容については批准できないというようなことを決めておりまして、アメリカやロシア、つまりまだ批准していない国々に対して、私どもは、ぜひこれに参加して批准をしてほしいということを申し入れているわけでございます。しかし同時に、ほんとに地球温暖化の問題を解決するためには、京都議定書参加国だけがいくら頑張っても問題は解決しないわけでございまして、グローバルな地球環境の問題は、例えば中国とか、発展途上国とか、そういう国々も含めて、全地球、人類が共通の目標としてこれを解決するということが必要でありまして、やはりそういう意味で、私ども日本としては全力で努力をいたします。何とか発展途上国も含めて、全人類、全部の国々が参加する形で地球温暖化問題、環境問題というものは解決していかなければならないと考えて、我々はこれからもその努力を続けていきたいと思っているところでございます。

 しかし今度は、先ほどの状況を踏まえて、我が国全体の中でどういうふうな解決策があるかというと、やはりこの問題の根本的解決は、原子力の平和利用をさらに進めて、原子力による、いわば温暖化ガスを出さない原子力によるエネルギー供給をさらに増やしていくというのが日本としての王道でありまして、これをどうしても進めていかなければならないということであります。

 原子力については先ほど中曽根元総理からのお話にございましたが、多分、きょうお越しの皆様は原子力推進の必要性というのは大体おわかりになっておられる方が多いのではないかと思います。しかし、エネルギー問題の解決のためには、一つは今の地球温暖化問題、もう一つはいかにも石油だけに頼っている、それから外国エネルギー供給依存度も80%という世界最高の水準になっているという状況から見て、独立国としてもうちょっとエネルギーの安定供給、安全保障、それから同時に環境問題というCO₂の問題、この両方の観点から原子力の比率を増やしていかなければならないと。これをもうちょっと国民的なレベルでのコンセンサスにしていかなければならないというのが、私どもが考えている最大のポイントであります。

 じゃ、どういうふうにするかということでありますけれども、一番目先、大事なことは、予定どおり原子力発電所の建設を進めていくと。今後10年間で130万キロワット級の発電所を13基ぐらいつくっていくという計画になっているわけでございますが、これを着実に実行するということがまず第一に大事だと考えております。

 これにつきましては、地元の対策、いわゆるパブリック・アクセプタンス等の問題で現場で大変苦労しておられますけれども、これを着実に実行していく。そして原子力の比率を増やすことによって、その他エネルギーを何とか節約してCO₂の排出量を少なくしていく。またエネルギーの安全保障を保っていくということが極めて大事な問題であります。

 同時に、先ほどのお話にありましたような、ウラン238も活用できるような、プルトニウムにかえた後でプルサーマルというような格好、あるいは高速増殖炉というような格好で、今のウラン235だけ使っている発電所だけではなしに、238も使えるような体制、いわゆる核燃料サイクルの確立というのをどうしてもやっていかないといけない。

 フランスやドイツ、この大きな2つの国ではプルサーマルもかなり実績が進んでいるわけでございますけれども、日本は刈羽村の住民投票で負けたりなんかいたしまして、プルサーマルの実用化というのがちょっととまっているという非常に憂慮すべき状況でございます。国民の皆様に何とかこれを理解していただいて、少なくとも高速増殖炉が実用化に入るまでの間はプルサーマルをやっていかなければいけないという国民の理解が大変大事だと考えております。

 それから今、高速増殖炉もとまっているわけでございますけれども、これは核分裂エネルギーの活用という意味ではどうしても達成しなければならない大事な研究開発の課題であると考えておりまして、何とか高速増殖炉を完成して、トータルとしての核燃料サイクルを確立し、ウランの効率的な利用をはかって、原子力がほんとうにエネルギー供給の基本として確立するような対応をしていかなければならない。これもまたパブリック・アクセプタンスの問題、国民の理解ということが非常に大きな課題でございまして、私どもはこのためにも全力で努力をしていきたいと考えている次第でございます。

 そういう中で、後でお話があろうかと思いますけれども、実はアメリカもブッシュ政権の成立に伴いまして、あるいはカリフォルニアの電力危機等もございまして、エネルギー供給の中における原子力の位置づけを見直していこうというような動きがございます。また、核燃料サイクルについても前向きに取り組まなければいけないと、やや政治の姿勢がかわってきたように見受けられます。

 それからイギリス、その他の国におきましても、特にヨーロッパの国々におきまして、今までは、例えば緑の党とかというような党が非常に勢力を持っておりまして、反原発運動というのが非常に燃え盛っておりましたが、その流れがヨーロッパ全体の中でやや変わりつつあって、原子力の位置づけの見直しというのが行われてくるのではないかと私は感じております。

 そういう状況で、アメリカやヨーロッパが原子力の再認識という方向になってくるのと同時に、私どもも中長期にわたるエネルギーの供給体制の確立という意味で、この際、もう一度、我々関係者が頑張って原子力についての国民の理解をもっと深めるような努力をして、いわば流れを変えていくべき大事な時期に来ていると考えます。

 いずれにいたしましても日本という国は、エネルギー供給構造の実態から見て、原子力利用をもっと進めていかなければ、環境と開発の両立のもとでの経済の発展ということができないということはもう明らかでございまして、この点についての理解をさらに一層得、そしてまた安全性について絶対安全という対応をしながらこれを進めていくことが大事であると考えている次第でございます。

 先ほど、ITERの話も出ました。ITERについては、私どもはようやくこの6月初めに意見をまとめまして、青森と茨城が対立しておりましたが、青森県六ヶ所村を候補地として1本に絞って、国としてITERの誘致に立候補するということになったわけでございます。ライバルといいますか、ほかの候補地としては、フランスのカダラッシュ、それからスペイン、カナダなどがございます。カナダについては、場所は提供するけれどもお金の負担はしないということを言っておりますし、いろいろな状況から考えて候補地は日本の六ヶ所村とフランスのカダラッシュの2つが最終的には競合するのではないかと考えております。

 私ども日本としては、このITERの研究開発プロジェクトというのは、世界の各極でやる最初の大型の研究開発プロジェクトになると認識しておりまして、これを共同プロジェクトとしてどうしても成功させたいと考えております。

 これはいろいろな経緯がございまして、もともとは1985年にレーガン大統領とゴルバチョフ書記長が米ソ首脳会談で核融合のITER計画を進めようということで、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、日本と4極で進めてきたわけでございますが、今から3年前、1999年にアメリカの議会筋の反対があって、アメリカがITERから脱落したということで、以来、日本、ロシア、ヨーロッパの3極でいろいろな研究開発の準備を進めてまいりました。その結果として、全体で1兆円かかるプロジェクトを、外からエネルギーを注入する外部エネルギー注入方式に設計を変えることによって、半額の5,000億円でできると設計変更をいたしまして、いよいよ建設着手という段階に入ったわけでございます。

 そこで、私は去年9月にアメリカに参りまして、エネルギー省のエイブラハム長官に会ったり、ことし1月にはマーバーガー科学技術担当補佐官にお目にかかったり、きょうお越しのベーカー大使ともいろいろ相談をいたしまして、ITERプロジェクトは国際プロジェクトで大変大事なプロジェクトなので、ぜひアメリカの再参加をお勧めするという話をしてまいりました。後でお話があると思いますが、ベーカー大使は上院議員時代に、ITERプロジェクトの草分けの時代からこの問題を担当していただいていたわけでございまして、大変にご理解をいただき、アメリカの本土のほうにもいろいろと働きかけをしていただいているところでございます。そういう中で、多分、私の見通しでは近くアメリカがITERに復帰をして、4極体制がまた整って進むと期待しているところでございます。

 それと同時に、今イギリス側からITERは実用化までに50年かかるけれども、材料試験を早くすることによって30年ぐらいに縮められるファーストトラックという考え方の提案がございまして、私どもはこれには賛成なので、ぜひ30年のファーストトラックで材料試験も同時並行的に進めることでやりましょうというような考え方で、今、国際的な話し合いを進めているところでございます。

 いずれにいたしましても、核融合も核分裂も、我が国のようなエネルギー供給の外国に対する依存度が非常に高い国としては、これを積極的に進めていくということが国の基本的な方向としてどうしても必要でございまして、この非常に大事な必要性を国民の皆様に理解していただく、そしてまた世界の大きな流れに乗って原子力の開発を進めていく、平和利用を進めていくということが我々の課題であると考えている次第でございます。

 今、非常にいろいろな困難がございますけれども、エネルギー政策、あるいは原子力政策というものを正しく位置づけして、安全性は断固として守り抜きながら、国全体として、日本国の経済活性化、あるいは経済安定化ということの一番ベースになる大事なエネルギー政策をしっかりと進めていきたいと考えている次第でございます。

 そういう意味で、きょうのお集まりは大変に時宜を得たものであり、多分、きょうお越しの皆様のいろいろなご活躍によってそういう正しい方向づけがさらに一層きちっと進んで、日本という国の経済、社会の基礎ともなるべき原子力の利用が正しい形で進むことを心から期待し、また私も責任者の一人として全力で努力をすることを皆様にお約束を申し上げ、私の話を終わりにさせていただきます。

 ご静聴、どうもありがとうございました。(拍手)

 

宮崎緑(総合司会)  どうもありがとうございました。尾身科学技術政策担当大臣によります「日本のエネルギー・環境政策と原子力の役割」という基調講演をいただきました。

 お話の中にも出てまいりましたように、1992年にリオで行われました地球サミットから10年を経まして、この8月には南アフリカのヨハネスブルクで環境開発サミットが行われます。これを前に、京都議定書からの離脱を表明したアメリカがどのようなスタンスをとるのか大変注目されるところでございます。

 そのアメリカのエネルギー、環境、原子力政策につきまして、本日は大変な方がお出ましくださいました。早速、お話を伺いたいと思います。ハワード・ベーカー駐日米国大使、「米国のエネルギー・環境・原子力政策」と題しての基調講演を賜ります。

 では、ベーカー大使、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

<基調講演2>   ハワード・ベーカー駐日米国大使

「原子力と地球環境に関する米国の視点」

 

ハワード・ベーカー  大使、大臣閣下、ご出席の皆様。本日このような会議に参加できますことは、私にとりまして、大きな喜びであります。また原子力エネルギーと地球環境という重要なトピックに関しましてお話をするよう、ご招待いただきましたことを感謝申し上げます。これらの問題に関しましては、私も、上院議員として、またこれらの問題に関連するいくつかの委員会での仕事を通じて、以前から深い関心を抱いている次第であります。

本日の私のお話は、ブッシュ大統領の指示によりチェイニー副大統領の指揮の下で作成されました「国家エネルギー政策」(National Energy Policy)を中心に申し上げたいと思います。ご承知のように、この極めて前向きの報告書は、米国の一流のエネルギー問題の専門家がかかわりまして、広範な調査と議論の結果、昨年5月に作成、発表されたものであります。この報告書は、米国の将来のエネルギー需要についての正確な評価を提供するとともに、原子力の分野におきまして重要な提言をしております。

 また、本日は、米国の視点からの将来の原子力の役割についてもお話をしたいと思います。原子力のもたらす利益は、多くの国々にとりまして大きなものでありますが、各国は、それぞれ自国の状況とエネルギー需要に照らして、原子力がこの新しい世紀においてどういう役割を果たすべきかを決定しなければなりません。従いまして、私が申し上げることのある部分は他の国にも当てはめることができるかもしれませんが、大半は、米国独自の原子力に関する経験ということになろうかと思います。

世界の各国は、信頼性が高く、効率的で、かつ環境にやさしいエネルギーを国民に提供するというユニークな課題、チャレンジに直面しております。各国が選択するアプローチというのは、各国の資源状況、経済発展の段階や政府の諸決定に基づいてそれぞれ異なるでありましょう。しかしながら、将来のエネルギーの課題、チャレンジに関して世界の大半の国々に一般的に当てはまるような点もいくつかあろうかと思います。それは以下のような点であります。

−エネルギーの需要が増大するということです。場合によりましては、極めて急激な需要増がエネルギーの分野で出てくるということ、

−将来のニーズに対しまして既存のインフラが不十分であるということ、

−さらに、エネルギー増大と環境保護とを両立させる必要があるということです。

これらの課題は、確かに米国に当てはまるものであります。だからこそ、ブッシュ大統領は「国家エネルギー政策」の起草を求めたわけです。

 実際、これからの20年間を見た場合、米国の石油消費は33%増え、天然ガスの消費は50%以上増大し、さらに電力需要は45%上昇すると予想されております。米国における既存のエネルギーインフラ――発電所、製油所、送電網、パイプライン等々――は、予想されるこのような需要増に対応するのには不十分であります。従って、我々は新しいエネルギーインフラを作っていかなければならないということであります。

 そこで、米国におけるエネルギー状況のある一部についてお話をしたいと思います。すなわち、発電についてです。 向こう20年間に45%の電力需要増が見通されているわけで、このことは、1,300から1,900の新しい発電所を建設しなければならないということを意味するわけであります。これは向こう20年間、毎週1つの発電所と送電網につながる送電線の建設が必要になるということであります。これは明らかに大変な課題であります。同じような課題は、世界の工業国、及び途上国の多くについても当てはまるのではないかと思います。

 米国におきましては、エネルギーの供給源の多様化を図ろうとしております。すなわち石油とガス、また再生可能エネルギー源、石炭、水力、そしてもちろん原子力、を含めての多様化であります。このようなバランスのとれたアプローチが私どものエネルギー上の目標の達成するために必要だと考えております。その中には、当然、環境の保護を同時に達成するということも含まれております。この計画の中で、原子力は潜在的に大きな役割を果たし得ると考えております。そして原子力は比較的にクリーンで、かつ実証されたエネルギー源でもあるということで、大きな貢献をなし得ると考えております。

 

米国における原子力の過去と将来

現在、原子力は米国の総発電量の20%を占めております。そして、北東、南部、中西部の10州では40%以上を占めております。電源としましては、石炭に続いて2番目に大きいものとなっております。トータルで、米国では現在103の原子力発電所が操業中であります。そして、史上いかなる時期に比べても最も多くの電気が原子力発電によって供給されております。

 しかしながら、ご案内のとおり、米国において原子力が果たしている大きな役割は、これまで数十年の間、新規の原子力発電の建設がない状況にもかかわらず、続いております。一番最後に新規原子力発電所が発注されたのは1973年でありました。

 この米国の原子力産業低迷の主要な要因は、1979年のスリーマイル島の原発事故です。あの事故以降、新規の原子力発電所の安全性に対する一般大衆の懸念が全米で高まりまして、電力会社が新規の発電所を建設することができなくなってしまいました。それに加えて、新規発電所のライセンス期間が平均14年間となったということで、新規の原子力発電所の開発コストも大きく嵩んでしまい、経済的に採算がとれないものになってしまいました。

 しかし、スリーマイル島の事故時及びそれ以後原子力の歴史を考えますと、現在の米国におけます原子力産業の健康状態がいまだかつてないほど良好であるということは、驚くべきことかもしれません。過去、米国の原子力発電所の稼働率は僅か70%だったんですけれども、現在は平均的な原子力発電所の稼働率は90%近くになっております。

 このような効率性の向上を齎した最大の要因は、米国の過去10年間におけます電力事業の規制緩和であります。ほかの電力業者との直接的なコストベースでの競争を強いられたことにより、米国の原子力発電会社は、劇的に合理化し、効率化しました。資本の償却コストは別といたしまして、現在の原子力発電の電力コストは、平均してkw/h当たり約1.7セントであります。これは石炭火力のコストよりも少ない、そして天然ガスの価格が最近高騰したということで、ガス火力よりも安いということになっております。現在の米国のエネルギー市場におきまして、既存発電所からの原子力は極めて高い競争力を持っているということは明らかであります。

この原子力発電の効率性の向上は、米国のエネルギー状況にとって大変大きなプラスとなっております。現在103基の発電所が稼動しておりますが、これは1990年よりも7基少ないにもかかわらず、米国の原子力による総発電量は、この期間に35%ほど増大したのであります。これは、この期間に大体23の新規の発電所を建設したに匹敵する量です。しかも、既存発電所の運転のパフォーマンスを向上することにより、原子力の発電量はさらなる増大の可能性を秘めております。

 既存の原子力発電所からの発電を増やす最終的な方法は、ライセンスの更新によってであります。多くの原子力発電事業者は、原子炉の運転ライセンスを20年間延長することを計画しておりまして、現在稼動中の発電所の90%ものライセンスが更新されることになるでしょう。

 一般大衆の視点からみまして、おそらく最大の朗報は、発電量の増大と比例して、米国における原子力の安全性が、あらゆる客観的な尺度から見ましても、劇的に改善したということであります。

 

米国における原子力の将来

さて、これまで私がお話してまいりました諸要因は、米国における原子力エネルギーには潜在的に明るい未来があるということを示しております。だからこそ、ブッシュ大統領の「国家エネルギー政策」の中では、原子力エネルギーの拡大を全般的に支持する勧告が出されているということであります。

 しかしながら、米国の原子力産業には幾つかの課題があるわけでありまして、原子力の潜在性な可能性を実現するためには、まず、それらを克服しなければなりません。4つの分野があります。第一にテロ問題、次にパブリック・アクセプタンス(PA)の問題、3番目に経済の採算性の問題、そして最後に、廃棄物の安全で効果的な処理の問題です。それぞれについてお話をいたしましょう。

 9月11日の事件以降、すべての原子力発電所を閉鎖すべしという声が一部に高まりました。率直に申しまして、私どもの原子力の安全性の専門家は、ジェット燃料満載の大型航空機が原子力発電施設に激突するというような事態について考えたことはなかったわけでありますが、現在彼らはこの問題を積極的に検討しております。その間、9月11日以降、重要なセキュリティー上の改善措置が原子力発電所ですでに実施されております。原子力施設周辺では空域が規制されております。現在、原子力発電所のオペレーターは、最も高いレベルのセキュリティーの状態を維持するよう命令されております。そして、安全面での公の当局、そして電力会社、さらに軍や法の執行機関を含めて連携をとりつつ、テロ攻撃の予測、予防、対応の準備態勢の改善に当たっております。

 しかし、より大きな問題は、テロに対してどのように対応するべきなかということであります。パニックに対応し、ドラスチックな措置をとるということは、テロリストの思うつぼにはまってしまうということでありましょう。テロに対して最もいい対応の仕方というのは、例えば標的となるような橋、化学工場、オフィスのビル、原子力発電所を操業停止にして、ターゲットにならないようにするというのではなく、むしろテロリストに直接対応して、彼らが行動をとれないようにする、そして我々を攻撃する手段を彼らに与えないということであります。

 この点に関しましては、先週のカナダでのG8会議におきまして、指導者たちは「大量破壊兵器及び物質の拡散を防ぐためのグルーバル・パートナーシップ」という重要な計画を発表いたしました。その中には、テロリストたちが核兵器及び、それを製造するための物質や技術を入手したり開発することを食いとめる努力も含まれております。我が国政府といたしましては、日本国政府がこの努力に対し大きく貢献するという決定をされたことを高く評価しております。

 米国における新規原子力発電所に対するパブリック・アクセプタンス問題は、テロの問題とも絡んで、いまや、原子力の将来を決定するおそらく最も重要な要素でありと考えられます。一般大衆が新設の原子力発電施設のリスクと利益を受け入れる意思があるかどうかを計算したり予測することは大変難しく、そして、それは外的な出来事によって最も多く影響を受けてしまうものであります。

 1979年のスリーマイル島事故は、一般大衆に対して驚きとショックを与えたのみならず、原子力業界自身にも大きな衝撃となりました。 業界全体がこれまでに、そしてこれからも、人的な過ちと不注意に対して非常に重い対価を支払い続けております。より小さな規模ではありますが、日本もまた、数年前の東海村での事故の後始末で、同じような経験をされておられます。

 しかしながら、米国の原子力に対する世論は、過去23年間で改善してきております。その改善は、さきほど私がお話しましたような原子力の安全の実績があった結果だということであります。

このような原子力に対する世間の姿勢の改善にもかかわらず、もし電力会社で新しい原子力発電所を建設するという決定を公表したならば、一般からの反対がかなり強く出てくるでありましょう。そのプロジェクトを完了するまで一般大衆の支持を得る上で、原子力の安全性と原子力のもたらす利益について一般市民を教育啓蒙することが重要であります。

 もちろん新しい原子力発電所の経済的な採算性も重要な点であります。もし新設建設の資本コストが十分に低いものであるならば、米国の企業側としては新規の発電所を建設するという関心が当然出てくるでありましょう。しかし、もし初期資本コストが高いために新しい原子力発電所が競争力がないということであれば、米国においては原子力発電所の新設というものは出てこないでありましょう。

 最後が廃棄物貯蔵の問題です。これもまた満足した形で対応しなければならないものです。我が国議会は現在、長期の廃棄物の貯蔵施設をネバダ州のヤッカマウンテンに設けるべきかということについて検討しております。下院ではすでにこのプロジェクトを了承しております。そして、上院でもこれに関しまして近々に表決を行うことになるでしょう。この問題については、きょう長々とお話しするつもりはないんですけれども、少なくとも原子力発電の社会的需要の問題は、米国だけに限らず、世界のどこにおいても、廃棄物の貯蔵という問題をいかに解決することができるかということにかかっていると申し上げておきたいと思います。

 

原子力の効用

それでは、ここで原子力エネルギーと環境という問題に目を転じてみたいと思います。私はこれまで既に、今後、将来にわたって米国ではエネルギー増産の必要性があるということを詳しくお話してまいりました。中には、その結果、不可避的に大気汚染、土壌汚染、海洋汚染などが深まるという人もおりますけれども、私はそういった議論には反対いたします。より多くのエネルギーを生産し、同時によりクリーンな環境をつくるということは両立可能です。ここでのかぎとなるのは、これまでのすばらしい技術的な前進というものがこれまでも、そして今もあります。そういったものを使って、これまで以上に、より効率的にエネルギーの発見、生産ができるわけであります。

これはすべてのエネルギー源に適用できます。石炭ベースのエネルギー、風力、太陽のような再生可能なエネルギー、原子力エネルギー、燃料電池、そして将来的には核融合エネルギーにも当てはまるでしょう。しかし、本日は原子力エネルギーに焦点を当てるということで、そこに限ってお話をしたいと思います。

 まず指摘しておきたいのは、多くの人々は驚くんじゃないかと思いますけれども、この原子力が米国において環境汚染の防止にいかに大きな貢献をしているかということです。もし原子力発電がなければ、我が国の多くの部分において、大気汚染法(Clean Air Act)で設定された基準を遵守することができないということになりましょう。

毎年、米国の原子力発電所は、510万トンのSOxの排出、そして240万トンのNOxの排出を防止しております。つまり、それが大気中に入るのを回避しているわけです。同じエネルギーを石炭とか、石油ベースの発電所でつくろうと思うと、これだけの公害が生まれるわけです。

 温暖化ガスはいかがでしょうか。米国では、毎年、エネルギー関係の活動が、人間の活動による温暖化ガスの85%を占めていると言われております。原子力エネルギーは、ご存じのように温室効果ガスは全く排出いたしません。

米国は地球の気候変動の問題を真剣にとらえておりまして、ほかの国々とともにもっとそれについて学習をしたいと思っております。我々のコミットメントを知る場合に、米国がこれまで投じてきた気候変動のための研究費の額を言うとわかっていただけるのではないかと思います。米国においてはこれまで1990年以来、気候変動の研究をするために、欧州の15カ国と日本の研究費を合わせた以上の額、つまり総額180億ドル以上を投じてきたわけであります。米国政府は、今年度だけでも17億ドルを気候変動の研究に投じようとしております。

 最近の科学についての理解を深め、気候変動の科学研究を進めていくということが、我々の最適な戦略をつくる上で必要になってきます。私は、我々の科学者が日本や世界各国の科学者と協力をすることによって進歩し、我々の気候変動の力学について理解を深めるというだけではなく、新技術を開発し、この問題により効果的に対処することができるようになると確信しております。

 しかし、我々の努力は、研究だけで終わるものではありません。世界最大の経済大国といたしまして、我々は人間活動由来の温室効果ガスの最大の排出国でもあります。しかしながら、我が国の経済は拡大して成長を続けているにもかかわらず、米国におきまして、温室効果ガスの排出の伸び率がやっと下がり始めております。CO₂の濃度はGDP1単位当たりのCO₂の排出量ということではかれますけれども、これが1990年代に15%低下いたしました。

米国は温室効果ガスの単位排出量というものを削減してきました。それはエネルギー効率を促進し、再生可能なエネルギーなどを導入し、官民協力を進めているからにほかなりません。これらのプログラムに基づいて省エネを促進し、エネルギー料金も下がり、経済成長も高まり、そして温室効果ガスの削減だけでなく、従来型の大気汚染物質も削減できているわけです。

 このような進歩があるにもかかわらず、ブッシュ大統領は、これはまだまだ不十分であると認識しています。だからこそ、大統領は今年2月に「米国の気候変動イニシアチブ」(U.S. Climate Change Initiative)を発表したわけです。その目標というのは、今後10年間、米国において温室効果ガスの単位排出量をさらに18%削減しようとするものです。我々は、マーケットベースのインセンティブを使って、企業に対し、新技術、クリーンな技術に投資を促進し、温室効果ガスの削減を自主的に進めていかせようというものであります。

 大統領の予算によりますと、本年だけで45億ドルを気候変動に使うことになっておりまして、この中には、初年度の資金といたしまして、46億ドルを再生可能なエネルギーのための税額控除の原資として投入しております。

具体的に言いますと、大統領の計画においては、米国におけます温室効果ガスの率を、2002年の数字でGDP100万ドル当たり183メトリックトン、これを2012年には151メトリックトンに下げるという目標です。このような削減率は、京都議定書のもとで削減約束をしているほかの国々の努力に比べてもまさるものであります。またその結果、今後10年間に5億メトリックトンの温室効果ガスの排出を回避することができるわけです。これはどういうことかというと、アメリカの道路を走っている車の数を3分の1減らすことに相当するわけです。

 米国における原子力は既に、温室効果ガスの排出の回避に大きく貢献しております。毎年、米国の原子力発電所は1億6,400万トンのCO₂が大気中に排出されるのを回避しております。1973年から98年にかけて、ほぼ25億トンのCO₂が原子力発電所のおかげで大気に排出されなかった、回避されたということになります。

 端的に言いますと、我々が地球温暖化の話をする場合、原子力発電は明らかにエネルギー源としてもっと真剣に考慮されるべきものだと思います。原子力は温室効果ガスを排出しないし、また効率的で経済的なエネルギー源でもある。そして、これは将来を約束するものであると考えております。もし、我々が地球温暖化、そしてCO₂を排出することを本当に懸念しているのであるならば――そう懸念するべきだと思いますけれども――、我々はもっと積極的に(aggressively)、しかし安全に、原子力エネルギーの利用を進めるべきだと思います。残念なことに、地球温暖化の問題について一番大きな声で叫んでいる人々のほとんどが、一たび原子力発電の拡大ということになると、もっと大きな声で反対をするということなんです。

 

今後の課題

米国における原子力発電の役割を拡大する第一ステップが既にとられようとしております。具体的に言って、エネルギー省が目標をセットいたしまして、万事うまくいくと、米国において2010年までに幾つかの原子力発電所が新設されることになります。これが実現するためには、私がこれまで申し上げてきましたようないろいろな課題を克服するだけでなく、さらに幾つかの具体的なステップが必要になります。

まず第一に、新規発電所の立地先を見つけることが必要です。第2に、効率的に、かつ経済性のある形で建設と運転のライセンスを認めていくということ、最後に、先進的な技術というものが米国で使われるようにし、受け入れ可能なデザイン、設計を考える必要があるということです。

これらの問題に対処するために、エネルギー省は、全米のエネルギー生産業者と力を合わせて、エネルギー省が呼ぶところの「原子力2010年」(Nuclear Power 2010)というイニシアチブを始めております。

 このイニシアチブにおいては、官民が一緒になって、民間の土地でも、連邦政府の土地でも、新しい原子力発電所の建設に適したサイトを探すことになります。また、これらのサイトには、既存の商業発電施設を拡大するということもあるでしょうし、DOEが持っている保留地、例えばサバンナリバー・サイト、アイダホ国立工学環境研究所、あるいは、オハイオ州のポーツマス・サイトなどが候補になると思います。でもまだわかりません。もっとほかにも候補地はあるかもしれません。

 立地場所が指定されたならば、原子力規制委員会(NRC)が評価をして、許認可をしていきます。そして新しい規制プロセスを使って、電力会社に対し、建設と事業を同時に許可するということをやっていきます。これまではやっていない新しい方法になります。そして、このようなプロセスが成功するということをアメリカの電力事業者に対して実証して見せることが絶対に必要であります。つまり、新しい原子力発電所をつくるということが採算性があるんだということを見せなければなりません。

 最後に、エネルギー省は、米国のエネルギー事業者と協力して、競争入札のやり方でもって、1つか、2つの先進的で、経済的に競争力のある原子炉の設計を進めようとしております。先進的な設計のリサーチというのが産業、そして国際的なパートナーとともに進められておりまして、「ぺブルベッド・モジュール型原子炉」(PBMR)、あるいは「ガスタービン・モジュール型ヘリューム原子炉(GTMHR)といったようなガス炉技術が、今後米国における現実的なオプションとして考えられるようにして行く計画であります。

 これらの新しい技術のポテンシャルは非常に大きいものがあると思います。なぜならば、モジュール構造ということで、コストを低く抑えることができますし、内在的な安全性が組み込まれることにより、原子力発電というものに対する人々の考え方を変える可能性もあります。

事故があっても溶融しないような燃料を持った原子力発電所、あるいは放射線物質が誤って外部に漏れないようにするための在来型の格納建屋を必要としない安全な原子力発電所を作るということは、なんと素晴らしいことか、考えてみてください。もしこのような技術の開発が成功すれば、一般国民にとっても、電力事業者にとっても、また資金を提供する投資家にとっても非常に魅力的なものになることは間違いありません。

このように原子力発電のもつ環境的なベネフィットについて論じてまいりましたが、それに加えて、これらの技術を使いますと非常に高温の熱を生成することができ、その熱を使って、水素を大量に生成するのに必要とされる熱化学的プロセスを促進させることができるということも注目に値します。

水素を安い値段でつくることができる、これは非常にエクサイティングなことだと思います。なぜならば、ご承知のように、水素というのは将来の輸送用燃料として途方もなく大きな可能性を持っているからです。つまり、燃料電池技術を使ってということです。ちょっと考えてみてください。本質的に安全でかつ効率的な原子力発電所があって、日中はクリーンな電力をつくり、夜はクリーンな水素をつくることができ、そして将来、CO₂を排出しないような燃料電池を使った自動車の動力としてこの水素を使うことができる。これは非常にエキサイティングなビジョンでありますし、これは十分に実現可能性があることだと私は信じております。

 最後になりますけれども、将来と原子力エネルギー問題を論ずる場合に、私たちは、核融合エネルギーの可能性についても忘れてはならないと思います。私は米国において18年間上院議員を務め、そのときに原子力エネルギーの合同委員会の仕事をしておりました。その中で核融合というものも扱ってきましたので、ほんとに率直に申し上げますけれども、私はそのときから核融合技術というのはまさに現実のものとしてそこまで来ていると思っております。ほんとにすぐそこということではありませんけれども、ほんとに有望な技術であると思います。採算性がとれるような核融合エネルギーの炉というものが将来の原子力エネルギー研究の究極の姿だと思います。

 無限のクリーンなエネルギーをつくることができる、廃棄物もないということで、米国の場合には、DOEを中心に、エイブラハム・エネルギー省長官のもとで、ITERに復帰するということを現在検討中であります。このプロジェクトに関して日本でも非常に大きな関心が集まっていることを承知しておりますし、おそらく日本がこのプロジェクトのホスト国になるという可能性もあると思います。米国がITERに復帰するとここで明言できるといいんですけれども、まだまだこれを再検討している段階でありますので、公表することができないという状況であります。

 

結び

それでは一体我々は何をしていけばいいのかということです。米国におきましては、ブッシュ政権は、「国家エネルギー政策」やその他の声明などを通じて、私たちは原子力発電の大きな潜在的なメリット及びその課題を無視することはできないのだということを明確に述べております。米国の「国家エネルギー政策」で明記されているように、温室効果ガスを出さない原子力発電は、米国のエネルギーの将来において、ますます大きな役割を果たすことができるのであります。原子力はまだ完璧な技術ではなく、効率性と安全性の面で改善は可能であり、かつ必要であります。けれども、原子力発電は可能性として非常に明るい未来を持っていると言うことができると思います。

 これは当然のことであります。現在我々が生産することが出来るいかなるエネルギーにもそれぞれ二律背反的な面があります。がしかし、もし我々が環境保護ということに真剣に取り組もうとするならば、そしてまた、地球温暖化が、多くの人々がそう信じているように、重大な脅威となっているとするならば、原子力はまさにその出番であります。ほとんど現実的にCO₂を排出しない、そして潜在的には他のどのエネルギーよりも経済性が高い、競争力がある、そしてかなり大規模で持続可能である、そういうふうな数少ないエネルギー源の1つが原子力発電であると思います。他方で、もちろん、太陽、風力のような再生可能なエネルギーを利用する方法も改善して行くでしょうし、石炭、石油、ガスなどの火力発電所から出てくる汚染をさらに削減する各種技術も開発して行かなければなりません。

 より信頼性のある、より安価な、環境にやさしいエネルギーを開発することは、すべてに国にとって共通の目標だと思います。しかし、それは一夜にして達成できるものではありません。科学や技術の革新が必要になりますし、国家のリーダーたちの集中的な努力が必要になってきます。より効率的な、また厳しい規制システムも必要になってくるでしょう。そして公衆衛生、環境を守るような努力が必要になってきます。言いかえるならば、世界のエネルギーの供給と地球の気候という問題に対処するとき、我々は、これらの深刻な問題に深刻に取り組まなければならないということであります。

しかし、これらの課題は、克服不可能ということではありません。私たちは世界のエネルギー需要を満たしながら、環境も同時に守ることができる、両立ができると信じております。

 ご静聴ありがとうございました。(拍手)

 

宮崎緑(総合司会)  どうもありがとうございました。ベーカー駐日大使に、「米国のエネルギー、環境、原子力政策」と題してお話をいただきました。持続的発展についてアメリカの基本的な方向性をお話しいただけたかと存じます。それにつけても、やはり9・11の前と後での世界は変わったとよく言われるところですが、改めてこの重大性を思うところでございます。ベーカー大使、どうもありがとうございました。

 続きまして、ヨーロッパからのスタンスでお話をいただきたいと思うんですが、ちょっとその前に、ベーカー大使のご講演の途中で同時通訳に不具合がございまして、大変申しわけございませんでした。ただ今、3のチャンネルも4のチャンネルも日本語が聞けるようでございます。適宜、切りかえてお使いいただければと思います。申しわけございませんでした。

 それでは続きまして、基調講演の3番をいただきたいと存じます。「欧州のエネルギー・環境・原子力政策」と題して、テレンス・ウィン欧州議会予算委員長よりお話を賜ります。それでは、テレンス・ウィン委員長、どうぞよろしくお願い申し上げます。(拍手)

 ごめんなさい。ベーカー大使が今ご退席になられます。(拍手)どうもありがとうございました。

 それではウィンさん、よろしくお願い申し上げます。(拍手)

 

 

「ヨーロッパにおけるエネルギー安全保障と原子力政策」

 

テレンス・ウィン  ご紹介ありがとうございます。ご参会の皆様、ご来賓の皆様、この重要な会議に出席することができて、私にとって大変な栄誉でございます。

 本日、私の方からは、ヨーロッパにおける原子力エネルギーの現状、課題について、そしてまた長期的未来を確保するために何をしなければいけないかについてお話をさせていただきます。私の方から政治家として政治的分析を期待されているかもしれません。私も、原子力エネルギーの問題と解決案というのは技術的、環境的なものではなくて、政治的なものだと信じておりますので、そのようなお話をさせていただきたいと思います。政治家こそがすべての大陸における原子力産業の将来を決定するものであり、私のこのスピーチにおいてはヨーロッパに限定してお話をさせていただきます。

 では、まず私自身と私の選挙区についてお話をさせていただきます。私は1989年以来、欧州議会の議員をしておりまして、過去3年間にわたっては予算委員会委員長を務めております。この委員会というのは、15カ国のEU加盟国と欧州委員会と交渉を行って、EUの1,000億ユーロの予算を決定する組織であります。これはほんとに国際的な場で行われる真の意味のパワーポリティクスと言えるでしょう。

 この会議の関連では、私の選挙区というのがイギリスの北西部にございます。この選挙区の人口は約700万人、リバプール市とマンチェスター市も所在しておりまして、イギリスで最も美しい国立公園であります湖水地方も所在しております。そしてまた規模の大きな原子力産業も立地しております。域内においてはヘーシャム(Heysham)の2基の原子炉、リスレー(Risley)には英国核燃料公社(BNFL)の本社が所在しております。また、ケイペンハースト(Capenhurst)においてはウラン濃縮施設があります。またスプリングフィールド(Springfields)、これはシンプソンの漫画に出てくるスプリングフィールドではないんですけれども、このスプリングフィールドにおきましては原子力燃料棒がつくられております。バロンインファネス(Barrow-in-Furness)においては、世界中に核物質等を輸送する船の母港となっております。そして最後になってしまいましたが、セラフィールド(Sellafield)もございまして、廃棄物管理、再処理と燃料のリサイクリングをカバーしております。セラフィールドには、さらに、世界で初めての商業ベースの原子力発電所であるコルダーホール(Calder Hall)もございますし、またドリッグ(Drigg)には低レベル核廃棄物貯蔵所もあります。

全体では約1万4,500人の雇用がこの産業には存在しております。そしてさらにこの産業に依存しているものがほかに何千人も存在しています。

 皮肉家たちは、政治家として私が原子力産業を支持しているのは、私の選挙区において原子力が重要な産業であるからだと指摘するかもしれません。しかし、それは間違っています。私は、この選挙区から選出されるよりずっと以前から原子力産業を支持してきました。また私の選挙区が炭鉱地域だったときにも支持しておりました。

 私が原子力産業を支持するのは、私の経歴のバックグランドによるところです。私はチーフ・エンジニアの資格を持つまでの海洋エンジニアでありますが、発電関係のエンジニアとして、原子力エネルギーはすばらしい技術だと考えております。

 私はまた環境の観点からも原子力を支持しています。これは京都会議以前から支持しているところであります。私の孫、またその孫の世代もクリーンで住みやすい世界で暮らしてほしいと考えるからです。

 一つはっきりとさせておかなければいけません。「緑の党」や「グリーンピース」はこの美しい地球の環境について気にかける唯一の団体ではないということです。しかし、この2つがこの地球環境問題をあたかもハイジャックしたようになっています。

 エンジニアとして、私は天然ガスを燃焼させて発電することは犯罪行為に等しいと受けとめています。このような純粋なエネルギー源は直接消費されるべきです。電力に転換することによって、効率性を減少されるべきではありません。残念ながら、エンジニア出身の政治家は少ないので、どうしても私の負けになってしまうわけです。

 

問題の背景

私はまた、将来の世代が、今日の我々と同じ電力に対するアクセスを持ってほしいと考えるのであれば、原子力エネルギーなくしてこのことは不可能だと思います。

しかし、それが可能だと考える人もいます。 彼らは、原子力産業は危険なものだと描写しながら、同時に、大気へのCO₂排出を増やしたくないし、物理的な環境がダメージを受けることも望まないと言っています。そうなると、ダムを建設して水力エネルギー発電を行うこともできないし、潮力エネルギーを使うための構築物を建てることもできないわけです。彼らは、風力、波力、太陽光エネルギーですべてのニーズを満たすことができると信じているんです。

 私ももちろん、再生可能エネルギー源はもっと奨励するべきだと思います。 風力、波力、太陽熱エネルギーももっと使われるべきです。ただし、そのためには適切な立地が必要です。風力発電所によって、イギリスの最も美しい場所のせっかくの景観が台無しになっています。海上の沖合いに立地するのはいいですが、田園地帯に作るべきではありません。

再生可能エネルギーはもっと増やべきですが、しかし、太陽光エネルギーで東京の地下鉄を動かすことは決してできません。 例えば、皆様が入院して手術を受けようとするとき、外科医に対して、きょうは風が吹いているかと確認しなければいけなくなるのは困ります。

 また、効率化も進めるべきです。省エネというのは、70年代の石油危機以来、欧州議会のメーンテーマとなっています。予算委員会も毎年、研究開発費としての予算を可決しています。しかしながら、 皮肉なことでありますけれども、各世帯がエネルギー効率化を図ったとしても、社会全体の消費量というのは増え続けているわけです。エネルギーの効率化がコストの削減につながり、またそうすると消費者がより多くのエネルギー、そして家電製品を購入することになり、メーカーはどんどん生産量を増やすという仕組みになっています。

 私の選挙区では、人口は減っているんですが、世帯数は増えつつあります。生活様式が変わるに従って消費が増えます。テレビ、DVD、エアコン、またガレージのドアも電動になっています。

 

いくつかの基本的な事柄

エネルギーは、生活の質にとっては水のように基本的なものですが、豊かな欧米やアジア社会の人たちはエネルギーと水は存在するが当たり前ととらえています。

原子力発電所の閉鎖を主張する者たちは、果たして現在、そして将来の世代が、ほんとに電気が足りない生活を望んでいるのか考えてみなければいけません。例えば、すべての原子力発電所の発電を1週間ないしは1日とめてみて、一般市民の反応がどういうものになるかということを試してみるのはよい実験かもしれません。水の供給を毎週二、三日打ち切って反応を見るのも同じことです。

1人当たり消費量が最低の国々、あるいは産業が破綻したがために消費量が落ち込んだ国々を考えてみてください。そして、その国の市民に、そこに暮らしたいか、そのように暮らしたいか尋ねてみてください。

 電力需要は世界中で上昇し、今後も上昇し続けるということは、事実であります。経済成長率が上昇するに従って、電力消費も上昇するのです。人口が増えるに従って、電力需要も増えます。もしこの地球上の、日常的に電力供給を受けていない20億人の人たちに、貧困と飢餓から逃れる希望を与えたいとするのであれば、電力へのアクセスを提供しなければなりません。

 

強力な政治家の必要性

我々がヨーロッパで抱えている問題というのは、影響力を持っている、あまりにも多くの人たちが、以上のことをすべて無視しているという点です。今、グリーンのアジェンダを推進することは格好いいとされています。しかし、今のような時代にこそ、現実を直視し、「万事オーケー、大丈夫」というディズニーランドの世界に住んでいるのではないのだということを、人々に気づかせるような、強力かつ正直な政治家が必要であります。

あまりにも多くの政治家たちが世論調査の結果を恐れ、原子力が不人気で、票につながらないと思うと、みずからの首をかけることを嫌います。しかし、政治家はこのような時代には先導役を果たさなければいけない。世論に影響力を行使しなければいけないわけです。今こそ、その時代であり、短期的、長期的な将来のエネルギーニーズに関しては政治家がそのような役割を果たし、声高に明確なメッセージを伝えるべきであります。

 老朽化した原子力発電所が閉鎖、デコミの時期が到来しています。そして何らかの戦略的な決定を行い、どのように置きかえていくか考えていかなければいけません。そのような決定がなされなければ、ヨーロッパ全域を通じてカリフォルニア州のようなシナリオが直ぐにも発生してしまうでありましょう。あるいは、CO₂の排出量を増やしてしまうことになります。

 緑の党の人たちにこのことを伝えようとしても、壁に向かって叫んでいるようなものです。緑の党の人たちが一たん決意してしまえば、事実は問題を混乱させるだけです。彼らのマスコミの友人たちについてもしかりです。原発についての悪いニュースばかり報道したがり、また反原発ロビーのプレスリリースについてはすべてその内容を鵜呑みにしています。

 欧州委員会は最近、エネルギー安全保障に関するグリーン・ペーパー(Green Paper)を発表いたしました。そして、この問題をヨーロッパの政治的アジェンダに載せたわけです。EUはバランスのとれたエネルギー政策を掲げる決意を固めなければいけないと語っています。つまり、あまりにも制限的過ぎるようなアプローチをとるのではなく、将来の見通しを立てるということです。核融合は、40年後でなければ実現しないと常に言われています。しかし、突破口が開ければ、発電方式を革命的に変えることが可能になるでしょう。ただし、それにはEUが、核融合研究に予算をつけ続ければの話であって、それまでの間は、原子力が、このバランスの取れたエネルギー政策の一部でなければなりません。

 欧州委員会副委員長(エネルギー担当委員)であり原子力支持者であるデ・パラシオ(Loyola de Palacio)女史は、マドリッドにありますスペイン鉱業クラブで行なった最近のスピーチの中で、原子力は、放射性廃棄物管理に関する深刻な問題があるにもかかわらず、「ヨーロッパの競争力維持のためにも、環境のためにも、必要不可欠なエネルギー源」であると明言しておられます。しかしながら、彼女は同時に、エネルギー政策全体の中で原子力が果たすべき役割に関しては、「より多くの透明性、より多くの情報、そしてより多くの議論」が必要であるとし、電力会社がその議論の中で主導的な役割を果たすことを強く求めました。デ・パラシオ副委員長は、「原子力問題の責任の一端は電力会社にある」と述べ、さらに、電力会社は、そうする「手段や可能性」を持っているにもかかわらず、一般大衆に原子力について「十分な情報」を提供してこなかったとつけ加えました。

 ある時期、原子力反対派は廃棄物管理問題を主たる武器として利用しましたが、今や9月11日以降は、テロ攻撃の危険性というもう一つの武器を手にしました。しかし、はっきりさせましょう。前者の廃棄物管理の問題は、技術の問題ではなく政治の問題です。後者については、業界が原子力発電所の安全性を実証していかなければならないということでありましょう。

もし、そのような形で、テロの脅威に反応してしまうということであれば、原子力発電所もなくなるでありましょうし、また高層ビルも化学や石油プラントもなくなってしまうでありましょう。テロリストが最大規模の民間人の犠牲者を求めるのであれば、原子力発電所よりも超満員のサッカースタジアムに飛行機を撃墜させたほうがより多くの人を殺すことができるということであるわけです。

 

ヨーロッパの概況

さて、それではEU各国の状況についてお話しましょう。推進派のフランスから反対派のオーストリアやアイルランドまで、各国の態度は異なります。また、原子力産業を閉鎖してしまったイタリアから、フィンランドのようにこれから拡大を計画している国まで多種多様です。

 

<英国>

まず私の母国、英国ですけれども、イギリス政府は『明日のためのエネルギー:21世紀のエネルギー源』(“Energy for Tomorrow, Powering the 21st Century”)という報告書を発表いたしました。その中で、原子力問題の徹底した検討調査を呼びかけ、廃棄物処理と安全性に対する研究の継続の重要性を強調しています。

 内閣府のパフォーマンス&イノベーション・ユニット(PIU)の報告には、原子力のオプションをオープンにしておき、「二酸化炭素を出さない」ことに対するクレジットを得られるような仕組みを新設すべきだという提言が含まれております。これらの問題に関しまして、政府は公開の協議会合を行い、その結果は本年末に出される『エネルギー政策白書』にも盛り込まれる予定です。

首相とエネルギー大臣ともに原子力の価値については確信しておられます。セラフィールドのMOXプラントの運転に関しましては承認がなされております。BNFL社の信頼回復問題は、日本の電力会社と日本政府により、進んでいると認定されておりまして、BNFLの船舶が関西電力の高浜発電所からMOX燃料を引き取るために、日本に向けて出航いたしました。

 原子力が役割を果たすようなエネルギー政策にイギリス政府がコミットしているということは、研究と技術の前進、新型炉の建設、新規雇用の創出と経済を促進する力となるということを意味するわけであります。

これらの決定は早く必要になります。特に、高レベル放射性廃棄物の長期的貯蔵の問題に早急に対応しなくてはなりませんが、この問題に関しては貴族院でさえも早期決定を勧告しております。 しかし、こうした決定や提案に対しては強力な反原発ロビーからの強い反対が避けられません。いまこそ強い政治のリーダーシップが必要とされております。

<フランス> 

さて、フランスはご案内のとおり、EU最大の原子力の発電能力を有した国でありまして、59基の原子炉が稼動中で、フランスの電力の77%を生産しております。フランスはまた、原子力発電電力の大輸出国でありまして、程度の差はありますが、反原発国であるイタリアなど、すべての近隣諸国に供給しております。イタリアは政治決断をいたしまして、以前に原子力発電所を閉鎖いたしましたが、フランスから原子力発電の電力を購入することについては問題を感じないでおります。

 フランスでは緑の党以外のすべての政党が、概ね原子力発電には賛成をしているということです。緑の党は、一、二カ月前まで政権の座にいたわけですけれども、社会党と連立を組んだときに、反原子力の姿勢をとって、実験炉「スーパーフェニックス」の閉鎖というものをもたらしてしまいました。しかしながら、メロックスのMOXプラントのキャパシティー増強、これは日本の顧客向けでありますけれども、これを阻止することはできなかったということであります。

 緑の党は大統領選挙の第一ラウンドでは得票率が5%ありました。しかしながら全国的な支持は下降傾向にありまして、6月の議会選挙では3議席しか獲得できませんでした。ようやく緑の党が政権から離れたということで、新政権はこの業界を破壊する意思は全くないわけであります。実際、私の聞きましたところでは、フィンランドが新設の決定をするということを受けまして、フランスの新政府が近い将来、新しい炉の建設に着手したいとの意向があるようであります。フィンランドの新しい炉の建設の競争に向けまして、自国でも同様に建設をすることでみずからの信憑性を示したいという意向があるようであります。

 <ドイツ>

さて、それでは次にドイツです。電力の30%を原子力から得ている国であります。昨年、社会党と緑の党の連立政権は、向こう32年かけて原子力の段階的な廃止、フェーズアウトを立法化いたしました。新原子力法のもとでは原子力発電会社は、原子力による固定した一定の総電力量を生産し、経済上の根拠に基づき、みずから閉鎖の日を決定する自由が与えられております。ほとんどの評論家は、ドイツが原子力がなくても京都議定書のCO₂の削減目標の遵守ができるかどうかについて懐疑的であります。

 フランスのように社会党と政権の座にありました緑の党の人気は低下しております。ザクセンアーンハルト州の選挙では緑の党の得票率は2%でありまして、政権復帰に必要な全国での5%の得票率を大きく割り込んでしまいました。総選挙が9月22日にあるわけですけれども、緑の党が政権入りすることはまずないだろうと思います。一方、野党であるキリスト教民主同盟(CDU)は、もし政権に復帰すれば、原子力法を廃棄するだろうといわれております。 しかし、私が接触したドイツ原子力業界の人々は、わざわざ廃棄する必要もないと言っています。現状では今後15〜20年間原子力は議論の対象とされることなく、これまでの発電実績の記録を塗り替え続けることができるからです。現時点ですでに過去最高の稼働率を示しております。

 また、ドイツでは、使用済み燃料と高レベル廃棄物の深地層貯蔵に関する決定をしなければならないという問題もあります。ドイツ国内には、有毒化学廃棄物――半減期もなく、永遠に減衰しない、そして貯蔵のために外国から輸入された廃棄物――のための地下貯蔵施設が5カ所あります。しかしながら、原子力用の廃棄物貯蔵施設の建設については政治的コンセンサスがまだ得られていません。おそらく今後かなり長い期間得られそうもありません。

<ベルギー> 

さて、ベルギーであります。7つの炉(現在同国の総発電量の58%を賄っている)が寿命の40年間、つまり2014年から2025年に達しましたときに、原子力発電を終了するという法案を最近承認しました。この法律は、緑の党が連立の現政権に参加するための一つの公約でありました。大変おもしろいことに、私がこの点に関してベルギーの社会党の同僚に質問しましたときに、彼の反応は、「グリーンが政権から離脱した時に我々は考えを変更できる」ということでありました。

ベルギーはまた、英仏海峡において大型の海上風力発電施設を開発するという計画を持っております。しかし、これらの施設も、原子力能力に置きかわるほどのものには到底ならないでしょう。

 昨年、将来のエネルギーオプションに関する専門家委員会(アンぺール)の報告が、

緑の党のエネルギー担当大臣オリビエ・デルーズ(Olivier Deleuze)に提出されましたが、それによれば、コンバインド・ガス・サイクル・タービンと比較しても、原子力がベストかつ最も経済的なオプションであり、決して放棄するべきではないということであります。 

フランス、ドイツ、ベルギーからの教訓といたしましては、もし、原子力を推進したいということであれば、緑の党を政権に入れるべきではないということであります。

 <スウェーデン>

スウェーデンは1980年の国民投票で原子力のフェーズアウトを決めております。99年11月に、12基のうちバーセベック(Barsebaeck)の1基のみが、時期尚早の形で閉鎖されたにしかすぎないわけであります。原子力は現在、スウェーデンの電力の44%を占めております。

 最近の世論調査によりますと、一般大衆の77%は国の原子炉の寿命前の閉鎖に反対をしている、また、83%の人が、原子力は、スウェーデンのエネルギー・ミックスにおける将来の役割を決定するに当たって、温室効果ガスを事実上排出しないということで「非常に重要」、または「かなり重要」と考えているということであります。ドイツのプラントと同様に、記録的なレベルの生産が原子力発電から出ております。2000年には39%、2001年には44%が全電力に占める役割でありました。 さらにまたこの期間、電力の純輸出もかなり増加しております。

 しかし、スウェーデンは、2基目の炉の閉鎖では問題があるようであります。1980年にフェーズアウトを決めたときには、大気汚染がない、また環境に悪くないという条件も同時に決めたわけですが、それによりますと、化石燃料による火力発電所や、水力発電所は全く問題外となってしまったわけであります。

風力、波力、太陽エネルギーも試してみたんですけれども、環境に影響を与えず、また大気を汚さないで、44%分を置きかえることはできないということが分かったのであります。したがって、もし第2基目を閉鎖するとなりますと電力の減少を来たしてしまうか、あるいは、第1基目の閉鎖以来スウェーデンがすでにやっていること、すなわち隣国のデンマークから、主に石炭火力で生産された電力を南部スウェーデン地方に輸入するということになるでありましょう。このことは、彼らの反原発姿勢がいかに偽善的なものであるかを示すもので、その点で、イタリアの場合と似ていると言えましょう。朗報としましては、スウェーデンでは、明年中に、第2基目の閉鎖問題を見直すことにしているということです。

<フィンランド>

 スウェーデンとは対照的にフィンランドは、本年1月に、議会で新しく第5基目の原子炉の建設を決定しております。「社会全体の公益に即して」そういう決定をしたのであります。現在の原子力発電は、フィンランドの電力の31%を発電しております。政府がこの提案を了承し、議会では5月24日、15票差でこれを支持いたしました。緑の党はそれを受けまして連立から離脱いたしました。

 『ファイナンシャル・タイムズ』の2月のインタビューでリッポネン(Paavo Lipponen)

首相は、次のように述べております。

「なぜある勢力は、EUを、石油や天然ガスに依存する本当の“化石燃料のお化け”にしてしまおうとしているのか。我々は、原子力を一つのオプションとして持っていなくてはいけない。もしすべての西ヨーロッパ諸国が、主にロシアから来る天然ガスに依存してしまうとすれば、どのようなことが起こるか。価格は上がるであろう。我々の懸念は、我々が輸入された電力にあまりにも依存するようになっているということである。ドイツのような原子力のフェーズアウトを決めた国は、あらゆる方法をもって、急激なデコミを回避しようとしている。がしかし、これは膨大な量の化石エネルギーが必要になるということを意味しているのである。」

 同首相はさらに、東欧諸国からのEU申請国に対して原子力発電所の閉鎖政策を条件とするという現行のEUの政策は、極めてアンフェアなものであって、これは、「ある種のエネルギー帝国主義」であると言っています。彼はまた、フィンランドは、ソ連のテクノロジーを使った原子炉を使っているけれども、世界中で最もこれが安全なものであるとも述べております。リッポネンのような大胆な政治家がもっといればと思うわけです。

 <その他の国々>

EUのほかの諸国の中では、スペインは9基の原子炉で原子力発電を維持しています。オランダは1基、ポルトガル、デンマーク、ルクセンブルク、オーストリア、アイルランド、ギリシャは原子力発電所を持っておりません。イタリアはチェルノブイリの事故の後に、原子力発電所を閉鎖いたしましたけれども、フランスから電力を喜んで輸入しています。

 

EUの拡大

 では、次にEUの拡大についてお話しいたしましょう。現在の15カ国の加盟国を持っているEUは、2004年までさらに10カ国が加盟することによって拡大する予定になっています。そしてそれより後に、ブルガリアとルーマニアも加盟するということになります。第1弾の加盟国のうち、5カ国がブルガリアやルーマニアと同様に原子力発電所を持っています。チェコ共和国のテメリンと同様に、まだ多くの加盟候補国の中には、旧型のソ連設計の原子炉が操業しています。欧州委員会の「Beyond 2000」というペーパーでは、3カ所の原子力発電所、ブルガリアの4基のコズロドイ、スロバキアの2基のボフニス、そしてリトアニアのイグナリアの2基が、欧米のスタンダードにアップグレードすることが不可能な原子炉だとされております。

 ECとその加盟国は、これらの原子炉、特にイグナリアについては、閉鎖の前倒しを交渉しています。イグナリアというのはRBMK型の原子炉であり、チェルノブイリと同一ではなくても、非常に似ている炉型となっています。早期閉鎖に伴い、EUの資金の保障が要求されております。すべての参加国は閉鎖の前倒しを強制されることを拒否しています。というのは、大々的な電源を持っておりませんし、今まで、原子炉の安全性をアップグレードする努力で十分だと考えているからです。

 リトアニア人を引用いたしますけれども、イグナリアの原子力発電所の全体的な安全性基準というのが、西側の原発と比較して低いということの科学的に信頼の置ける理由は示されていない、その理由というのは、一般市民のイメージ、並びに原子力に対するイデオロギー上の反対にしかすぎない、そしてイグナリアの原発について維持するべきだということについて説得力のある抗弁をしています。

 しかし、6月17日には、イグナリア1号機は2005年、イグノリア2号機については2009年までに閉鎖するということを約束いたしました。もし、このことを約束しなければ、EUへの加盟が危険にさらされてしまうからです。このことの条件としては、EUが長期的に「十分な資金援助」を提供することが条件になっています。予算委員長といたしまして「十分な資金援助」の明確な定義があればと願います。リトアニア経済省の見積もりによりますと、2カ所の原発の閉鎖のコストは30億ユーロ程度であり、これは代替エネルギー源のコスト、そしてまた関連した社会的なコストが含まれておりません。「十分な資金的援助」というのは、この2つの分野をカバーするものだと考えています。

 ブルガリアもコズロドイの原発について同じような主張をしています。 World Council of Nuclear Workers(WONUC)、そしてまたコズロドイ、ブルガリアの原子力発電所の5つの労働組合は、ヨーロッパのルクセンブルクの欧州司法裁判所に要請して、EUがこの2つの原子炉の閉鎖の前倒しの要求を取りやめるよう命令してほしいと言っています。これはコズロドイの3号機、4号機の閉鎖を2010年まで延ばしてほしいということであります。

 ある意味では、こういった加盟申請国については、多くのEUの加盟国よりも進んでいるわけです。そして、将来について決定を行い、高レベル廃棄物の長期貯蔵についての決定も行っています。例えば、チェコにつきましては、深い地層への貯蔵所の建設は、2030年に改修することになっています。そして、実際の貯蔵については2065年に着手するということになっています。これはほんとに長期的な計画と言えるでありましょう。

EUにとっては、フィンランドは深地層における貯蔵を開始する初めての国となり、それに引き続きスウェーデンが行うでありましょう。

 

大衆の原子力受容

最近、チェコのドコバニ原子力発電所を視察いたしましたけれども、私が非常に印象深く思いましたのが、一般大衆の原子力に対しての受け入れに対して努力が傾注されているという点でありました。世論というのは、賛成派が80%、しかしながら、オーストリア側がテメリンに対して反対し始めてからは20%ぐらい増大したということなんです。

 政治家もここから学ぶべき点があるでありましょう。教育、啓蒙のプロセスが必要だということ、パーセプションを変える必要があるということであります。グリーンピースのような人たちと対抗する場合でさえもです。英語でgreenとpeaceという言葉を嫌うということは中々でないわけです(日本語の通訳でこれらの語句がどうなっているかわかりませんけれども)。 若い人たちは「グリーン」と「平和」という大義名分に乗りやすいということでありましょう。

グリーンピースは非常に金持ちの組織でもありますし、だれに対しましても責任を担わない者、そしてプロパガンダ、パフォーマンス、メディアの操縦では非常に巧みにやるということなんです。今までやってきたことには相当実績もあったということで、お祝いをしてやらなければならないかもしれません。

 しかし、グリーンの中には、ジェームズ・ラヴロック、つまりグリーンのグルたる存在、持続可能なガイア説を出した人ですけれども、原子力も非常に重要であるという立場をとっております。つまり再生利用可能の資源というのは、温室効果ガスの大惨事というものが化石燃料を使うことにより増して出てくることに十分に早く対応ができなくなるので、原子力が必要であると言っているわけであります。

 このメッセージは、グリーンの運動に対しましてもはっきりと伝えなければなりません。人騒がせをするわけではありません。しかし将来の地球上の問題を考えることが重要であります。今のイニシアチブをとるということが重要なわけであります。

 最近の欧州連合における世論調査があったわけですけれども、原子力賛成派というのはたくさんいる。しかしながら放射性廃棄物、そしてその関連問題に正しく対応し、取り扱いができれば、という条件つきであります。非常に懐疑心を持ってしまっている一般大衆に対してのメッセージを伝えなければなりません。原子力を無視してはやっていけないということであります。

 原子力業界、そして政治家に対してのメッセージは、自信を持って誤った情報に対して戦うということであります。全世界で438基の原子炉が操業中、そしてさらに36基の炉が現在建設中ということですので、この懐疑心を表明している人たちに対しまして、彼らがわかる言葉でチャレンジをしなければならない。グリーンに対してもチャレンジをしなければならない。24時間閉鎖をしようというような人たちに対しまして、原子力は安全であるということで対応しなければならない、人間の健康に対して脅威でもなく、これは環境により必要である、CO₂の大気への排出に対して戦う上で非常に有用であるということ、原子力の廃棄物は、無効化、無害化できるということ、原子力は非常にコスト効果があるということであります。

 原子力産業を信じる者は、現代世界のチャレンジに直面する勇気が必要であります。この星の将来の世代の福祉について思いをはせるなら、この業界から逃げることはできないわけです。政治家として、科学者として、原子力産業に全面的な支持を与えるのが我々の義務でありましょう。もしそうするのであれば、歴史は我々に感謝をすることになるでありましょう。

 ありがとうございました。(拍手)

 

宮崎緑(総合司会)  どうもありがとうございました。

 テレンス・ウィン委員長によりますヨーロッパのエネルギー、環境、原子力政策。大変歯切れのよい調子で、いかにヨーロッパが一枚岩ではないかということもよく伝わってきたのではないかと思います。午後のセッションでパネリストとして参加していただくことになっております。コンセンサス形成などについては、より具体的なお話を伺えるかと存じます。

 さて、基調講演も最後になりました。今後はアジアからの視点でございます。「アジアのエネルギー安全保障と原子力」と題しまして、ドミンゴ・シアゾン駐日フィリピン大使にお話をいただきたいと存じます。シアゾン大使は東京教育大学で物理学を学ばれたという大変知日派でもあり、物理学のベースを持っていらっしゃるすてきな方なんですが、日本語も堪能でいらっしゃいます。きょうはどちらでお話いただくんでしょうか。

 大使、どうぞよろしくお願い申し上げます。(拍手)

 

 

<基調講演4>   ドミンゴ・シアゾン駐日フィリピン大使

「アジアのエネルギー安全保障と原子力の可能性」

 

ドミンゴ・シアゾン  ご列席の皆様、まず冒頭に日本国際フォーラムに対し、本日のエネルギー安全保障に関する国際会議を企画・開催されましたことに謝意を表したいと思います。このような場を通じて、すべての利害関係者が集まり、東アジアのエネルギー需要について、そして当地域の発展における原子力の役割について意見交換ができますことは、大いに歓迎すべきことであります。

東アジアにとりまして、この会議のテーマ以上に重要なものはそんなに多くないと思います。現在では、エネルギー安全保障というのは、「信頼性があり、クリーンで安価な」エネルギーを確保することだと一般に理解されておりますが、これはこの地域にけるあらゆる国家開発計画の中で決定的に重要な要素となってきております。

コンセンサスといたしましては、この地域が21世紀における世界最速の経済成長の中心になるという予測が実現するにつれて、東アジアのエネルギー需要は、今後劇的に増えるであろうということであります。近年の金融・経済危機にもかかわらず、この地域の長期的経済成長のファンダメンタルズは非常に強いと一般的に考えられておりますし、その結果、エネルギー需要は大きく増加すると思われます。

 需要増加の要因は多くあると思います。欧米諸国でますますコンサルタント、銀行、ソフトというような三次産業やサービス産業へのシフトが進んでおりますが、それは一方で、よりエネルギー消費の大きい製造業が中国やASEANで拡大しつつあることを意味します。このような工業生産が増大するにつれて、生産された商品や原材料の輸送のためにより多くの燃料が必要になってきます。また経済成長の結果、消費が増大します。なぜならば、購買力が増大し、消費者たちは光熱費、エアコン、余暇、またモータリングなどに対してより多くの消費をするようになるからです。

 しかしながら、より高いエネルギー消費というのは、環境に対する影響、また将来の世代への影響という問題を提起します。地球温暖化、気候変動というような懸念があるがために、先進国の多くは、途上国に対し、環境を配慮するように圧力をかけつつあります。 エネルギーの重要性というのは、単に経済、環境の考慮だけではありません。それを越えて、戦略的な利害にもかかわってくるわけであります。特に日本にとってこれは真実だと思います。世界第2の経済国であり、アジアのGDPの6割以上を占める日本は、国際エネルギー源が乏しい国であり、その結果、輸入エネルギーへの依存が高まっており、エネルギー消費の80%が輸入に依存しているということであります。現在、日本の石油依存度は1970年代の石油危機の時期よりは低くなっておりますけれども、中東石油への相対的な依存度は逆に高まっており、総石油輸入の86%を占めるようになっています。

中東の政治問題は、エネルギーの価格と供給に関して地球規模のインパクトを持っています。しかしながら、世界は将来的に同地域に依存せざるをえません。なぜならば、石油確認埋蔵量の7割が中東に存在するからです。中国でさえも、この現実を直視しなければならず、1993年に中国は純石油輸入国になりました。中国は自国で消費する石油の約30%を輸入しておりますが、その3分の2が中東から来ております。1997年に中国の輸入石油への依存度は22%でしたが、国際エネルギー機関(IEA)の推定によりますと、2020年までには、この数字は77%に増えると言われております。このことは、中国の戦略計画の上でも、大きな意味を持つことになるになるでしょう。ほとんどの先進国と同じようなエネルギー源、そしてシーレーンに依存することになるからです。

 

東アジアのエネルギー状況

東アジア全体は、米国やロシア、そして西欧諸国のような経済大国に比べると石油資源が乏しい国々であります。東アジアにおきましては、石油の自給自足が可能な国はほとんどありません。ブルネイ、インドネシア、マレーシアは例外ですが、彼らの状況も長くは続かないでしょう。APECアジア太平洋エネルギー研究所(APERC)によると、インドネシアは2012年、そしてマレーシアは2016年に石油の輸出国ではなくなるであろうと予測されております。

 しかしながら、エネルギーが紛争の火種になり得るのであるならば、逆に多角的協力を強化する力ともなり得るはずです。考えてみれば、EUは当初は石炭鉄鋼共同体ということで始まりました。エネルギーというものを地域統合の刺激剤に使っていったわけです。そして、EUは鉄鋼と石炭の生産でも成功し、そしてその経済的な成功を越えて、欧州連合の基礎を築いたのは共同体の行政機構でした。

 我々は、ASEANにおきましてこのヨーロッパの経験から学びました。我々はエネルギーを協力分野の一つと決めまして、その精神のもとに1999年に、それまで10年間存在してきた「ASEAN-ECエネルギー管理訓練研究センター」を新しい「ASEANエネルギーセンター」に格上げをいたしました。このセンターの役割は、さらに地域的、集団的エネルギー活動を開始し、調整し、また円滑化することによって、ASEAN地域の成長と発展を刺激しようとするものであります。

 この使命を達成するために、センターは1999年から2004年に関する「エネルギー協力のためのASEAN行動計画」というものをつくりましたが、この中には、ASEAN電力網、トランスASEANガス・パイプライン、石炭クリーン技術促進、エネルギー効率、省エネの促進、新エネルギー、再生可能エネルギーの開発、そしてエネルギー政策、環境分析などが含まれております。

 エネルギー協力のもう一つの場は、ASEAN+3のフレームワークです。この中にはASEAN10カ国、日本、中国、韓国が含まれております。そして、最近のASEAN+3のサミットが2001年11月に開催されましたが、小泉総理がセミナーを提唱いたしました。アジアのエネルギーセキュリティーに関して、それを通してASEAN+3の諸国での協力をさらに強化しようという提案です。このセミナーはことし3月に東京で開催されまして、当該地域におけるエネルギー協力の諸分野を審議いたしました。ASEAN+3の中には、エネルギーの輸出国と輸入国の両方が含まれておりますので、非常に相互依存の強いネットワークです。セミナーの結論としましては、いわゆる3E、エネルギー安全保障、経済成長、そして環境保全を同時に達成することが重要であるということでした。

 

フィリピンのエネルギー計画

次にフィリピンのエネルギー計画についてですが、石油資源が極めて乏しい1つの開発途上国のエネルギー問題ということでお話をしたいと思います。「フィリピン・エネルギー計画2002年〜2011年」の中には6つの目標が入っておりまして、その2つが本日の会議に関連しております。

 まず第一にエネルギー計画。フィリピンにおきましては安定性、確実性、そして効率的なエネルギー供給を達成しようとするものです。そしてその需給の目標を達成するために、天然ガス、そして地熱のような再生可能なエネルギーがより大きな役割を果たすことになります。フィリピンは特に「マランパイア深海ガス電力プロジェクト」(Malampaya Deepwater Gas-to-Power Project)には楽観視をしておりまして、これは南シナ海にあるガス田ですけれども、2.6兆立方フィートの推定埋蔵量があると言われております。政府の推定によりますと、このマラインパイアからのガスが最終的に合計2,700メガワットキャパシティーで、20年間にわたって火力発電を3基運転することができるということです。その結果、2,600万バレルの石油燃料が今後20年間にわたって不必要になるということであります。

 2番目にフィリピンのエネルギー計画は、より公正なリーズナブルな価格をマーケットベースで提供していきたいということであります。最近成立した「2001年電力産業改革法」の効果的な実施により、電力業界のより大きな規制緩和を行い、そして国営企業の分割、民営化などを進めていきたいと考えております。この法律は昨年6月26日に成立いたしましたけれども、これは国内資源を開発し、電力コストを下げ、そして外国投資を誘致することを目的としております。

 ASEANとフィリピンのエネルギー計画を概観する中で、両方とも原子力エネルギー開発計画が入っていないということが注目に値すると思います。実験原子炉は、フィリピンやインドネシア、タイやベトナムには存在いたします。過去のある時点ではこれらの国々はすべて、原子力エネルギー開発に一定の関心を示しておりました。特に電力需要の伸びに対処するためにです。

例えば、2001年におきまして、韓国、インドネシア、IAEAの3者は覚書にサインをいたしました。これはインドネシアのマドゥーラ(Madura)島で、原子力発電による淡水化プロジェクトのフィージビリティースタディー(F/S)をしようというものです。韓国原子力研究所が、330メガワットの原子炉――「スマート」といいますけれどもーーの基本設計を完成させました。この炉は、90メガワットの電力を発電し、10万メトリックトン(日量)の真水を精製することができるとされております。

 信頼できる情報によれば、インドネシアとベトナムは、今後2010年、2015年以後にそれぞれ原子力発電所を持つと言われております。しかしながら、日本、韓国、台湾、中国に比べますと、ASEAN諸国の原子力発電に対する関心は若干生ぬるいものがあると思います。専門家が、東アジア地域は今後数十年間において原子力成長の中心となるであろうと言うときには、これらの4カ国(日本、韓国、台湾、中国)のことを指しております。最近では、北朝鮮もこれに加わっております。現在、北朝鮮において原子力発電所を建設中であるからです。

 簡単に言いますと、このような原子力開発の背景にある理由というのは、原子力発電が証明済みの能力を持っている、つまり信頼性のある形で、比較的安全な形で大量なエネルギーを生産することができるということであります。これが、十分な天然資源を持っていない国々、あるいは輸入エネルギーに高度に依存している国々にとっては、魅力になるわけであります。

 専門家の一致した意見によれば、電力が原子力が最も貢献できる分野であろうということです。「世界エネルギー展望」(2001年)によりますと、原子力発電所からの電力の消費量は、1999年から2020年にかけて年間で4.9%伸びるであろうと言われております。

原子力発電はこの分野でいい実績を示しております。2000年におきまして、日本の電力の36%は原子力から、また韓国に関しては43%、台湾は25%、これらの電力を原子力で賄っているわけです。アジアの途上国は、1999年には世界の原子力発電のキャパシティーの僅か6%であったにもかかわらず、2020年までには17%を占めるであろうということであります。

 エネルギー源の多様化を促進する要因としては、石油に対する過度の依存、特に中東への依存に関連する問題がありました。この地域への依存というのは、外交的、また安全保障上の考慮を伴いました。例えば、1970年代には、少なからぬ国々が、中東の政治動向に適応するために、一夜にして外交政策を変えなければならないというようなことがありました。こうした石油ショックを再現するOPECの能力はかなり弱くなってきておりますけれども、例えば1990年のイラクのクウェート侵攻などを見てもわかりますように、中東の情勢は相変わらず非常に流動的であります。

これまで長い間不安定要因となってきた、もう一つの中東問題は、やはり泥沼化したイスラエル・パレスチナの抗争でありまして、まだ解決のめどが立っておりません。アルカイダのようなテログループなどは、中東の政治力学の構造を変えようとしてきましたが、その結果、この地域における治安、平和を不安定化し、世界中の石油供給と石油価格に悪影響を及ぼす惧れがあります。

 

シーレーンの安全確保

過度の石油依存は、さらに、スーパータンカーの航路に対するテロの脅威や軍事的な攻撃への脆弱性を持つということを意味します。アラビア海、マラッカ海峡、南シナ海、そして東アジアの港に至るまでの航路上の問題です。例えばマラッカ海峡が閉鎖されたとするならば、世界のタンカーの約半分がさらに航路を伸ばさなければならない。原油、あるいはドライバルクなどに関しても、輸送料が高くなってしまいます。日本は、このルートを輸入石油の70%が通航するので、最も大きな被害を蒙るでしょう。

また、石油シーレーンの安全を確保するためには、海賊などの犯罪行為や、タンカールート沿いの国々における独立・分離運動などにもより注意をしていかなければなりません。アルカイダのネットワークが東南アジアの幾つかの国々に存在しているということも、非常に当惑するところであります。

 また、シーレーンについて言えば、南シナ海においては多数の軍事衝突があるということを忘れるわけには行きません。私がフィリピンの外務大臣を務めていた1995年から2001年の期間、南沙諸島と西沙諸島の領有権を主張する国々の間でしばしば軍事衝突がありました。今後、石油やガスへの需要が高まるにつれて、南シナ海は益々戦略的な重要性を増すでしょうし、そのことが領有権を主張する国々の間の緊張関係をさらに悪化させる可能性があります。

 石油に欠点があるのと同じように、石油代替の最大の有力候補である天然ガスにも欠点はあります。もちろん、石炭や石油に比べると汚染の量は少ないんです。また燃やしたときに灰が出ないというようなことがあります。天然ガスというのは、「炭化水素のプリンス」と呼ばれておりました。しかし、投資が多大なんです。広範な地域のガスグリッド、パイプライン、港、液化プラントなどのネットワークをつくらなければならない。投資的にはリスクがあると思います。とくに石油の価格が相当上がるというようなことになれば別ですが。

 ほかの代替エネルギーについても、東アジアにおいて不均等に分散しているということが問題です。地熱を例外として、再生可能エネルギーに関する問題は、出力密度が非常に低いということです。また風力、太陽エネルギーは予見可能性が低く、また断続的であります。これらの諸要因があるがために、再生可能エネルギーを電力の供給システムに統合することは難しいと思います。

 代替エネルギー源に関するこれらの問題を見てみますと、原子力発電がやはりエネルギー開発計画の中で重要な部分を占めることは明らかです。とくに日本、韓国、台湾、中国ではそうであります。

 

地球温暖化対策

多様化という理由に加えて、原子力発電は、温室効果ガスを排出しない、また大気を汚染しないということで好意的に見られております。事実、日本における原子力発電の拡大の一つの理由は、2008年から2012年に6%のCO₂の削減を達成するという1997年の京都議定書の目標を達成するためであります。化石燃料由来のCO₂が人間活動由来のCO₂の約4分の3を占めると言われております。

 世界が汚染と地球温暖化についてより真剣に取り組むに従って、環境問題はますます高い重要性を持つことになるでしょう。だからこそ、アジア地域は世界の石炭供給の3分の1を保有しているにもかかわらず、石炭の利用はアジアにおいては低迷しているのです。日本は特に中国の石炭利用について懸念を持っておりまして、中国の石炭依存こそが日本の富山県、島根県などの森林崩壊につながっている酸性雨の原因をつくっているとみなしています。

この酸性雨は、我々のエネルギー問題が相互にいかに関連しているかということのもう一つの証左であります。だからこそ、エネルギー計画に当たって、我々の協力を緊密化しなければいけない理由ともなっています。

 2002年7月1日の『ジャパン・タイムズ』紙で発表された論文において、細川元総理が、中国の酸性雨地域からの黄砂の問題に言及しています。この黄砂というのは、毎年春に日本に到来しています。細川元総理によりますと、ことし黄砂を運ぶ雲というのが九州から北海道に至るまで記録的に多い日数で記録されたということです。同氏は、この現象が地球温暖化と関連しているとし、日本は炭素税を導入すべきであると論じております。

 

原子力の5つの問題点

これらの諸要因と、東アジアの高いエネルギー需要見通しを併せて考えると、原子力は石油代替エネルギーとして重視されなければならないのです。しかしながら、原子力エネルギーを東アジアに広めるためには、5つの問題に対処しなければなりません。

<安全性問題>

まず第一に安全志向の文化を養成することが重要です。これは原子力発電所において厳しい安全基準を遵守することであります。特に発電所の設計立地、建設、操業についてです。また安全志向の文化は規制機関の独自性と能力を強化することにもつながります。

 しかし、最も重要なのは、一般市民の信任を勝ち取るために、手続の透明化を図っていかなければいけないということです。日本については特にそうです。牛肉の誤った表示、そしてまた汚染された血液が輸血に使われたことなどの出来事が、日本の国民の不信感を高めているからです。

 加えて、情報、データの共有、そしてさまざまな関係者の間の経験の共有を強化するためのチャンネルをつくるべきです。これは原子力発電所のオペレーター、政府機関、機材サービスのサプライヤー、各国政府、そして、国際機関を含めるものであります。原子力にかかわる主要機関と専門家を糾合したアジア地域の機関を創設することによって、域内の原子力オペレーションの効果的な管理を向上させることができるでしょうし、また、官民にわたる関係者の政策に整合性と責任を持たせることができるでしょう。

 国際原子力機関(IAEA)は、原子力エネルギーの平和利用に関する世界唯一の機関として、原子力の安全性についてはリーダーシップを発揮し続けるべきでしょう。私は、原子力事故を防止する上でIAEAが果たしている役割は、核兵器の拡散をストップする使命と同様に重要だと考えています。

<核廃棄物管理>

第2に、安全性以外には、使用済み燃料の管理、放射性廃棄物の長期的処分、核燃料サイクルのバックエンドに関連した問題等にきちんと対処しなければいけません。これは原子力エネルギー計画の中で最も批判されている側面です。台湾のランユ(蘭島)のタオ部族の状況が一つの例となるでしょう。

 原子力エネルギー計画を持っている政府は、すべての核廃棄物について全面的に責任を負わなければいけません。各国が個別に独自の廃棄物処分場を開発することはプラクティカルではないので、核エネルギー計画を持つ諸国が一緒になって共同の地域的廃棄物処分施設を作る決定をすべきだという提案がなされております。

最近、中国とロシアは、商業ベースで第三国からの使用済み燃料を受け入れてもいいとの意向を示しました。これは核燃料サイクルのバックエンドについての貴重な解決策となる可能性があります。両国ともに貯蔵目的に適した無人の領土を沢山持っているからです。 

もし域内諸国が「使用済み燃料管理の安全性と放射性廃棄物管理の安全性に関する条約」にもっと加盟することができれば、それは役に立つでありましょう。この条約は2001年6月18日に発効いたしました。この条約は締約国間の協議を奨励するものであります。また使用済み燃料と放射性廃棄物の施設、そしてデコミ(廃炉)についての活動に影響を与えるものであります。北東アジアの5か国のいずれもこの条約に加盟していないのは残念であります。

 

<経済コスト> 

第3に、もし安全性関連の問題が正しく対処されたとしても、原子力産業は、ほかのエネルギー源との関係でコスト的な競争力を確保しなければいけません。

日本の場合、1960年代、70年代、すなわち石油ショックの前後に、元々の原子力開発計画が立案されたわけですが、当時と比較すると、原子力エネルギーのニーズは現在それほど差し迫ったものではないと一般に言われております。

 今後のエネルギー需要の見通しによりますと、東アジアの石油依存度は、向こう20年間、大幅に下落することは予想されておりません。油価が高騰しないからであります。長期的なトレンドとしては向こう20年間には、石油の余剰状態、そして低い油価が長期化するであろうとみなされております。

 一般的に低い油価というのは、原子力エネルギーのみならず、その他の代替エネルギーすべての開発の障害となっています。原子力エネルギーが採算性を持たない限りにおいては、市場の実勢からかんがみ、新しい原子力発電所の建設や研究開発に有利には働きません。

現在のところ、特に欧米の先進諸国においては、原子力発電所は高い資本コストと長期の工期によって阻まれております。相対的に見ると、ほかのエネルギー源による発電所は発電量は低いけれども、コストもより低く済むということで投資しやすくなっています。

 また見過ごされがちな原子力のもう一つの側面は、原子力発電所のデコミに伴う高いコストであります。日本においては、電力会社は「ふげん」のデコミに着目しています。「ふげん」は1979年3月に操業を開始いたしました。その建設費は685億円でありました。しかし、デコミにかかる費用というのは2,000億円に到達するであろうと想定されております。新しい見積もりによりますと、日本の電力会社の準備資金といたしましては、商業用原子炉52基のうち、17基のデコミ分しか払う能力がないということであります。

 今日、操業しているほとんどの原子力発電所は電力系統が独占企業によって運営されていた時代に形成されたものであります。そこで、電力のマーケットが確保されていたがために、投資に伴うリスクも低かったわけです。しかし、それは今日には当てはまりません。フィリピンも含めて多くの国において電力の規制緩和が進むに従って、競争が激化しているからです。

日本では原子力発電所のコストが高いがために、原子力発電所を保有している電力会社は、電力市場の規制緩和に対応する上でより多くの困難に遭遇するでありましょう。

東アジアにおいては、ほかの電源と比較して、外部要因も含めて、原子力のコストと経済性を決定する受け入れ可能なモデルを設立する必要が差し迫っています。

向こう数年間において、東アジアの地域的なバックエンド施設と、地域的な再処理施設をつくることができれば、原子力のコストの合理化につながるでありましょう。もし日本が原子力再処理施設の計画を進めるのであれば、その施設を地域ベースのものに転換すれば一層コスト的に有利になるのではないかと思います。炭素税の導入も原子力エネルギーの経済性を助けるものでありましょう。

<イメージ問題>

4番目に、原子力産業の経済性以外に、原子力発電の支持者達は、原子力エネルギーのマイナスイメージをどうするかを考えなければなりません。

一般大衆の原子力エネルギーの見方は、1979年スリーマイルアイランドの部分的炉心メルトダウン、86年のチェルノブイリの大事故によって消え去ることのできないダメージを受けました。

 また、日本においても、1995年に高速増殖炉「もんじゅ」(280MWe)に関して二次ループのナトリウム漏れが起きました。それによって同炉は閉鎖されたわけです。また99年には、東海村における臨界事故がありまして、ウラン処理工場の制御不可能な連鎖反応が起き、放射性ガスが放出しまして、69人が放射線にさらされ、2人の従業員が死亡いたしました。また、浜岡の原子炉1号機と2号機の事故が2001年11月、2002年5月にそれぞれ起きました。その結果、浜岡におけるシステムチェックの能力が問われております。

 原子力に対する一般市民の姿勢や考え方をいかに理解し、それに対応していくかということが原子力エネルギー計画のさらなる拡大にとって大きなカギであります。最近では、透明化とよりオープンな協議プロセスが多くの国々によって採用されています。原子力エネルギー計画は、早い計画段階において影響をこうむってしまうということであります。これは数十年前と相当状況が変わっているということです。当時の意思決定過程はより単純でありまして、政府と業界が協力して、原子力エネルギー計画を進めてPA向けのプランを発表すればよかったわけであります。

 日本においては、昨年刈羽村において東京電力と国のプルサーマル計画が、住民投票によって否決されました。この投票結果というのは、拘束力がないわけでありますけれども、草の根レベルに原子力エネルギー、そして再処理燃料を再利用することに対する不安感があることをはっきり示すものと見るべきでしょう。

 刈羽村の投票においては、有権者の53.4%だけが提案に反対したということに注意する必要があると思います。2001年7月の『アトムズ・イン・ジャパン』誌の社説によりますと、プルサーマル計画に対して反対票を投じた多くの有権者は、実際には、村長に対する反対を示したのだということであります。このことは、住民投票を実施するに当たっては、投票が原子力の問題だけに限定されて、ほかの政治的思惑が絡まないような方法を採用しなければならないということを示唆していると思います。

日本においては、原子力エネルギー計画に対していかにPA、市民の理解を勝ち取るかが今後とも大きな課題、チャレンジになっていくでありましょう。

<核拡散防止> 

それでは最後に、安全保障問題の専門家にとって最大の関心事であります原子力エネルギーのもう一つの問題点、すなわち核兵器の拡散についてお話しいたしましょう。

東アジアにおいては、核兵器の拡散を阻止する方法を開発して行かなければいけません。なぜならば、民生利用の原子力エネルギーを軍事転用することは容易なことであるからです。今日では、私達は、各国政府単位の核拡散のみならず、テロリストが核爆弾製造のための核分裂物質に対してアクセスを持っていることに対しても、十分懸念して対応しなければいけません。

 危険が最も大きいのは、旧ソ連においてでありまして、直近のG-7サミットにおいて、ロシアはその正規のメンバーとなったわけですけれども、向こう10年間、ロシアの核兵器その他の大量破壊兵器のセキュリティー維持のために200億ドルがコミットされました。

 この東アジアにおきましては、2002年6月29日、北朝鮮と韓国の海軍が衝突した事件は、冷戦が完全に終焉したわけではないということを示しています。この地域において、中国は核兵器保有国です。北朝鮮も若干の核兵器を持っていると言われております。韓国と台湾も1970年代に再処理能力を確保しようとしました。日本でもトップの政治家の一部の方たちが核兵器を取得する可能性について語っています。北東アジアはまた、すべての諸国が実際にロケット開発や衛星打ち上げのプログラムを持っている地域であります。

したがって私達は、この地域内においては、核兵器の拡散についてもっと心配するべき十分な理由があります。こうした理由により、私は、原子力エネルギーの平和利用の分野における地域協力を推進していくために、ASEAN、オーストラリア、カナダ、中国、日本、北朝鮮、韓国、ニュージーランド、ロシア、台湾とアメリカを含むような地域機構を創設するべきだと信じております。この地域機構というのは、相互査察を行うべきであり、それによって核不拡散条約(NPT)と国際原子力機関(IAEA)のグローバル・システムを補完するべきであります。この地域機構ではまた、核燃料サイクルのすべての段階に対して、より厳密な安全基準を適用することも可能となるでしょう。

 この点に関連して、私は、以前フィリピンのラモス元大統領が行なった「アジアトム」(ASIATOM)設立提案を思い起こしたいと思います(注1)。そのような機構ができれば、日本の国民の方々が自国の規制機関に対する信頼性を一層高める効果があると思いますし、日本における原子力関連施設のより秩序立った建設と操業にも資するでありましょう。また、この地域機構は、六ヶ所村の核燃料再処理施設を地域的な施設(regional facility)に転換することをも容易にするでしょう。このような多国間アプローチは再処理施設の経済コストを削減するとともに、他方で、北朝鮮と韓国と台湾が個別の再処理施設を持つ必要性を除去するでありましょう。

 金子熊夫教授は、アジア地域の原子力協力、とくにASIATOMのコンセプトについて、非公式なバックグランド・ペーパーをいくつか発表されております(注2)。我々は、これらの構想に関する検討を開始すべきであり、それによって、エネルギー安全保障に関するASEAN+3協力の枠内においてこれらの構想が討議されることを期待したいと思います。

ヨーロッパにおけるEURATOMの例は、東アジアにとっても、域内経済統合化が進むに従って、よいモデルとなり得るでしょう。我々は、南アジアのような方向に行ってしまうことは何が何でも避けなければなりません。原子力エネルギーの平和利用や、その他の機能的協力の分野での地域協力を一層緊密に行うことによって、東アジアは平和と繁栄を確保し、そして、21世紀を真に「東アジアの世紀」とすることができるでしょう。

 ご静聴ありがとうございました。(拍手)

 

(注1)  1996年5月東京で開催された「アジアの将来」会議(日本経済新聞主催)におけるフィデル V. ラモス大統領の演説。1997年5月に開催された同名会議において、シアゾン外務大臣(当時)も、ラモス提案に触れ、ASIATOM設立の必要性を強調した。

(注2)  「アジアの原子力のルネッサンスのために:ASIATOM設立構想」(金子熊夫編著、

国際フォーラム出版、1998年3月)

 

宮崎緑(総合司会)  どうもありがとうございました。シアゾン大使によります「アジアのエネルギー安全保障と原子力」というお話をいただきました。地域紛争やテロとエネルギー安全保障について、また核拡散の懸念などについても言及していただきました。あるいは、我が国の一部の政治家の核戦略にあまり配慮しない発言などについての言及もあったところでございまして、このあたりは午後のセッションでぜひ具体的に深いディスカッションをしていただければと思っております。

 以上、大変駆け足ではありましたが、第Tセッション「世界各国のエネルギー・環境・原子力政策」ということで、各地域の視点から見た現状、あるいは将来展望につきましての基調講演をいただきました。これをもとに、午後からのセッションでは2つのテーマで行ってまいりたいと思います。

 最初のセッションが午後2時にスタートでございます。お昼の休憩を挟みまして、ぜひお早目にまたこちらの方にお戻りいただければと存じます。それでは第Tセッション、午前の部はここで一通りの日程を終了とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)






3.第Uセッション

国内的次元から見たエネルギー安全保障・環境保全と原子力の役割

 

議長         金子熊夫 日本国際フォーラム理事・エネルギー環境外交研究会会長

パネリスト    バートラム・ウルフ 元GE社副社長・元米国原子力学会会長

              テレンス・ウィン   欧州議会議員・同予算委員長(英国出身)

              近藤駿介 東京大学大学院教授

              秋元勇巳 三菱マテリアル会長

              今井隆吉 世界平和研究所理事・首席研究員

              松田英三 読売新聞社論説委員

 

金子熊夫(議長)  最初に議長として、自己紹介をさせていただくと、もともと私自身は、典型的な文系人間で、外交官になってからも専ら文系的な仕事をしてきたが、30年ほど前から偶然のきっかけで科学技術、エネルギー、原子力といった専門的分野に関係するようになり、1970年代後半から80

年代半ばにかけて外務省の初代原子力課長も務めた。その後退官し、10年余大学教授も務めた。現在は、もっぱらエネルギーや原子力問題の専門家ということになっているようだが、何を隠そう、もともとは環境問題の専門家であって、わが国の環境問題の草分け的存在と自負している。 1960年代末、日本で「公害」問題がやかましく言われていた時代に、「公害」に代わる新しい概念として「環境」という言葉を初めて打ち出し、また、「かけがえのない地球」というキャッチフレーズを作り、地球環境問題の普及に努めた。いささか自慢話めいて恐縮だが、私自身が元来エネルギー、原子力至上主義者ではないということ、また本日の会議が「初めに原子力ありき」で、環境保護よりエネルギーが大事だ、原子力が必要だということを強調するだけの会議ではないということを明確にするために、この機会に敢えて一言申し上げた次第である。

(続いて議長より、パネリストの紹介がなされる)

 今朝、村田良平企画実行委員長の開会挨拶にもあったように、私たちは外交や国際政治の専門家であって、原子力、エネルギー、環境問題についての技術的な専門知識はあまり持ち合わせていない。聴衆の方々には大変な専門家もおられるが、そうでない一般の方や学生の方もおられる。そこで、パネリストの皆さんにはなるべく平易にお話しいただきたい。また、時間が限られているので、ポイントを絞ってお願いしたい。それでは最初に、ウルフ博士に、ベーカー大使の米国のエネルギー政策・原子力政策についてのご講演を受けて、ご発言いただきたい。

 

<コメント1>  バートラム・ウルフ(元GE社副社長・元米国原子力学会会長)

 

バートラム・ウルフ  1973年のアラブ諸国による原油禁輸を振り返ってみたい。それ以前は、米国の電力量は10年ごとに倍増していた。また、世界各国はエネルギー危機の可能性を予見していなかった。しかし、アラブ諸国による原油禁輸以降、多くの国々は輸入エネルギーへの依存に懸念を持つようになった。そして、フランスや日本では、不確実な化石資源燃料の輸入を減らすため、原子力利用の推進に向かった。今日、フランスでは電力の80%以上、日本では約35%を原子力に依存している。

米国では、原油禁輸以前の電力消費の伸びを背景として、毎年、数十基もの新規発電所が発注された。その結果、原油禁輸後に化石資源燃料価格が上昇し、経済成長が鈍化すると、今度は電力に余剰が生じるようになり、これは昨年まで続いた。

70年代から90年代にかけて、私は日本で日立、東芝、東京電力と共に仕事をしていたが、原子力の必要性が認識されており、原子力に対する公衆の反対があまりないことを喜ばしく感じた。一方、米国では、1973年以前は環境主義運動は原子力に好意的であったが、1973年以降は、以前に発注されていた発電所が次々と稼動しはじめ、電力が余るようになると、環境主義者たちは反原発の立場をとるようになった。1973年以降、新規原子力発電所の発注はないが、現在稼動している103基の原子力発電プラントの内の約60基は1973年以前に発注され、1973年以降に環境主義者たちが反対する状況下で建設されたものである。

現在、新規電力の必要性は減少しており、日本やフランスにおいて公衆の原子力に対する支持は以前ほど高くはなくなっている。また、ドイツやスウェーデンのような、かつては原子力発電に熱心であった国々も、原子力プラントを閉鎖しようとしている。(しかしどのようにしてそれを埋め合わせるかが問題である)。一体、何が起こっているのであろうか?最終的には世界中の原子力発電所が閉鎖されてしまうのであろうか?

ここで指摘しておかなければならない点は、日本では、公衆は東海村で起きたような、あるいは、増殖炉で起きたような事故に対して、恐怖心を持っているということである。しかし、日本とロシア以外の国々では、公衆は誰一人として原子力エネルギーによって亡くなっていない。一方、毎年、化石燃料が原因で亡くなる人、例えばガスや石油の爆発など、あるいは石炭から毒性のある物質を吸引することによって亡くなる人はもっといるのである。

原子力の大きな問題点は、原子力業界が公衆を適切に教育することに失敗していることである。反原子力団体は、公衆に原子力に対する恐怖心を与えることに成功しているが、われわれ事業者は、公衆は誰一人として(チェルノブイリを除いて)原子力発電やその廃棄物から危害を受けてはいないということを公衆に伝えてこなかった。

私は、これからの半世紀、原子力が世界中で主要電力源になると信じている。原子力は壊滅的な地球温暖化を防止する観点からも必要であろう。しかし、おそらくより重要なのはエネルギー需給である!おそらく、半世紀の内に石油と天然ガスは不足するようになるであろう。唯一の大きな解決策は原子力である。太陽エネルギーや風力も少しは足しになるかもしれない。しかし、1000MWeの太陽光発電プラントは50平方マイルあるいはそれ以上の広さの土地を必要とするのに対し、同じ規模の原子力発電所や石炭火力発電所の場合には数エーカーですむ。また、太陽光発電は夜間、および、日中でも雲がかかっている間は停止してしまい、コストやメインテナンスの点で極めて疑問である!

来たる半世紀、第三世界の人口は増加し、世界人口は今日の60億人から、2050年には100億人近くに増加すると見込まれている。もし、第三世界の生活水準が向上し、世界の一人あたりの平均エネルギー消費量が今日の米国の1/3に達すると、世界のエネルギー消費量は3倍になり、原子力エネルギーの利用に大きく依存する他、エネルギー需要を満たす方法はない。実際のところ、2050年までには原子力は世界のエネルギ−の半分を供給することが必要とされるであろう!このためには、今後50年間、年間約50基の新規原子力発電所の建設が必要となる。1973年以前、米国では年間約30基の原子力発電所が、それらを建設することに対する懸念がほとんどなしに発注されたことを想い起こそう。従って世界中で毎年50基の原子力発電所が必要になることは、明らかに大したことではない。

必要とされる原子力供給量と現在の熱中性子原子炉を考えると、世界のウラン資源は50年以内に不足することになるかもしれない。この解決策は高速増殖炉の開発であり、これは明らかに可能なことで、ウランからのエネルギー発生量をほぼ100倍に高める。世界中で多数の増殖炉が建設されてきた。しかし、ロシアで稼動している2基を除いて、電力供給を目的とした高速炉は建設されなかった。しかしながら、それは疑いなく可能なことであり、また、増殖炉は現在のウラン資源を数千年間、海水からのウラン利用と同じように実質的には無限に、用い続けることを可能にする。また、熱中性子炉の放射性廃棄物の放射能は数千年で減衰するが、増殖炉からの放射性廃棄物は二、三百年で減衰することにも留意すべきである。

まとめであるが、原子力エネルギー利用を大きく拡大することなしに、世界の将来のエネルギー需要を満たすことは不可能である。われわれは今、このような原子力の必要性を受け入れるべきであり、国内の反対運動やエネルギー危機の発生を待つべきではない。われわれは必要となる原子力の設計に取りかかるべきである。さらに、世界各国が必要となる原子力プラントを手に入れられること、それらのプラントが安全に稼動すること、そして、原子爆弾に転用可能なプルトニウムが取り出されないことを保証するための国際的組織を設立するべきである。

全世界の将来のエネルギー需要は、今、われわれが将来の問題に合理的に取り組んでこそ満たされる。世界的危機の発生をただ待っていることは大きな過ちである。米国において、日本において、また、他の国々においても、次世代の子供たち、次世代の世界を原子力エネルギーで救うことが出来ることを認識すべきである。

 

<コメント2>  テレンス・ウィン(欧州議会予算委員長)

 

テレンス・ウィン  今朝第Iセッションで、十分な発言時間をいただき、多くの内容について発表したので、2点に絞ってお話したい。

1つはパブリックアクセプタンスの問題である。ヨーロッパでは、1900万人を対象とする世論調査が行われ、廃棄物の安全管理の問題がクリアされれば、原子力に賛成しても良いという結果が出ている。これは日本でも当てはまるのではないか。もしそうならば、一般市民の原子力に対する支持はより得やすいであろう。廃棄物処理は技術的な問題ではなく純粋に政治的な問題であって、政治的な解決が求められている。

 もう1点強調したい点は、日本についてはどうか分からないが、ヨーロッパや米国では政治家に対する信頼が失墜していることである。同様に、科学者に対する信頼も失墜している。このような環境においては単一の争点に関する政治対立が先鋭化してしまい、特に若年層がその争点にばかり目を向けるようになる。だから、緑の党がこれだけの成功を収めているのである。我々は緑の党に対してもチャレンジを投げかけるべきだ。

また、原子力産業の透明化を図るべきである。正直ということが大切で、政治家はより正直に語らねばならない。イギリスは廃棄物に関する法案について決定に踏み切る必要がある。スウェーデンでは20年間にわたって原子力を廃棄しようとしてきたができなかった。しかし、どの政治家も自らの過ちを認める用意がない。スウェーデンのような失敗を繰り返してはならない。

リトアニア、チェコ、スロバキア、スロバニア、ブルガリア、ルーマニアがEUに加盟するようになると、欧州議会、欧州委員会、そして閣僚理事会は、EU各国の国民に対して原子力の必要性を説得しやすくなると思う。日本においても強力な政治的リーダーシップの下、国民に対し説得をしていかねばならない。

 

<コメント3>  近藤駿介(東京大学大学院教授)

近藤駿介  尾身大臣は午前中の基調講演で、我が国のエネルギー施策の目標は、第一に、省エネルギー等の推進により、我が国の社会のエネルギー効率をさらに向上させること、第二には、石油備蓄等により50%を超える供給を担っている石油の安定供給を確かなものにすること、第三には、太陽、原子力、石炭、天然ガス等のいわゆる石油代替エネルギー、とりわけ、エネルギー自給率の向上と、温室効果ガス排出抑制に効果的で、経済性においても輸入化石燃料に遜色がない原子力発電のシェアを増大させることであると述べられた。

 私が申し上げたいのは原子力についてであるが、ご承知のように、原子力発電は石油危機を挟んでいわゆる準国産エネルギー源として開発利用が進められ、現在は我が国の一次エネルギー供給の16%、電力供給の35%を担っている。

 昨年度、総合資源エネルギー調査会は、今後、我が国が年率2%の経済成長を実現しつつ、京都議定書が定めるところの2010年におけるエネルギー起源の二酸化炭素排出量を1990年の水準に抑制するための方策を公表した。それによると、この10年間に原子力発電の発電量を30%以上増大させること、その結果として電力供給の42%を担うまでにすることが期待されている。これを実現するには、1つにはもちろん設備容量を増大させること、2つには稼働率を向上させることが必要である。

 設備容量の増加については、現在は3基が建設中で、6基が建設準備中である。経済成長率2%というのは、現在の状況ではなかなか実現が困難とも予想され、30%の原子力発電供給量の増加が、mustであるかどうかについては議論があるというか、今後の状態による。しかし、今の建設状況では原子力が期待されているところに応えることはできないと思う。

 それでは、何をすべきかということになるが、第一には原子力施設の安全、安定運転に努めつつ、原子力発電の必要性に対する社会の理解を深めていくことである。さまざまな世論調査から、原子力に対する態度が必要性の認識と密接に関係していることが明らかになっている。従って、この理解増進活動は電力会社のみならず、国、地方自治体、国会、あるいは地方議会はもとより、学校教育や社会人教育の場を活用して実施されることが重要と考える。

 現在、電力市場自由化の議論の中で環境問題の影が薄くなっていることを危惧している。自由化という枠組みに並行して、発電事業者に対するその発生電力の一定割合を非化石燃料起源の電力とすることの義務づけが、グリーン・ポートフォリオというか、ニュークリア・ポートフォリオというか分からないが、公共政策の観点から進められるべきである。現在は、再生可能エネルギーの供給割合を義務づける方向で制度整備がなされているが、京都議定書を批准した今日においては、非化石エネルギー全般の割合を義務づけることがより合理的な社会選択と考える。

 気候変動条約の締約国会議、いわゆるCOPは温室効果ガス排出抑制のためのジョイント・インプリメンテーション(JI)やCDMにおいて、原子力の抑制効果をカウントしないことを決定した。これは気候変動条約のミッションを履き違え、かつ現に原子力が温暖化防止に果たしている役割に目をつぶる、反原子力の教条主義的な、非科学的な決定である。我が国はこれを削除することを第二約束期間の取り組みの検討に着手する前提として主張すべきではないか。

 もう一つのイシューは稼働率の向上である。ベーカー大使からもご紹介があったように、アメリカの原子力発電所の稼働率は大変に高い。日本が約80%であるのに対して、アメリカは約90%と、約10%の差がある。これを改善できると、発電所の増設なくして原子力の発電量が10%増加するわけで、30%の増加が求められている内の3分の1がこれで賄えることになる。

 なぜ両国の稼働率がこんなに違うかというと、規制制度の違いである。現在、経済産業省の原子力安全・保安院において、検査制度の見直しが行われている。おそらく最も肝心なことは、電力事業者が現在の安全水準を変えないでより合理的な検査計画、プログラムを用意して、これなら安全性は変わらない定期検査や計画であるということを、論理的・合理的に説明していくことだと思う。ぜひここは電気事業者に知恵と工夫を発揮していただきたい。また、こうした安全対策、あるいはパブリックアクセプタンスの問題においては、透明性、オネスティー、一言で言うと、リスク情報を効果的に活用することについての社会的合意が重要であろう。

 我が国の原子力発電の安全基準は、設置許可の段階では災害の防止上、支障がないということが判断基準になっているが、それがどういうわけか、運転段階なり、実際にトラブルなどが起こってしまうと、トラブルがないことが安全基準になってしまっている感じがする。

 結局のところ、安全についての社会的な規範というか、判断基準が一定していない。これはさまざまな社会的、政治的な要因があるが、リスク情報を基準にものを考えることを社会の約束事にしていくことによって解消できるのではないか。また、リスクを考えるということは、様々な可能性を考えたということを相手に言わなければならないわけで、透明性とか、説明責任とか、正直ということが必然的に必要になる。リスクをきちんと分析した上で意思決定をしたということを伝えていくリスクコミュニケーション、リスクのインフォームドアプローチがいろいろな判断基準にかかわるミスマッチを減少させていくことにも効果があると考えている。

 先ほど、尾身大臣も何とかしなければならないと言われた軽水炉のプルトニウム利用、いわゆるプルサーマルについては、欧州では長年にわたって実施されてきており、我が国でも炉型は違うが、新型転換炉「ふげん」ではプルトニウムはすでに使われている。にもかかわらず地域社会の合意が得られずに計画が進行していない。これもリスク・コミュニケーションの失敗ということだと考えている。これは金子座長の言われるセキュリティーの問題と関連しているが、安全という意味でのリスク、それから将来の不確実に対するリスク、この両方のコンテクストでのコミュニケーションを強化して、この計画の重要性の理解増進活動を継続していくことが最も重要と考えている。

 

<コメント4>  秋元勇巳(三菱マテリアル会長) 

 

秋元勇巳  今朝から話題になっているが、原子力がエネルギーの安定供給や環境保全にどのくらい貢献できるかについては既に実証されていることである。尾身大臣は、GDP当たりの炭酸ガス放出量をお話しになられたが、年間1人当たりの炭酸ガス排出量で比較すると、アメリカが5.2トン、日本は2.5トン、フランスは1.8トンである。この違いは、石油ショック時の対応ぶりを反映している。フランスや日本は原子力の導入を進めてきた。73年の第一次石油ショック時に、フランスの一次エネルギーに占める原子力の割合は2%程度であったが、93年には40%になった。これは電力は80%ぐらいが原子力によるということになる。

 日本の場合には、幸運にも原子炉の建設ラッシュに当たっていた。73年には一次エネルギーの1%以下であった原子力の割合が、20年後の1993年には15%、電力では30%以上という状況にまで改善した。この間、アメリカはスリーマイルアイランドの事件などがあり、新しい原子炉の建設ができなかった。

 今後、京都議定書の義務を遂行していくためには、少なくとも10基から13基の原子炉を建てないとどうにもならない状況である。しかし、国が確固たる戦略を樹立して国策としてやっていくところまで中々いかない。いわゆる底の浅い自由化論議であるとか、地方分権論などがまかり通っており、中央環境審議会の佐和(隆光)先生のお言葉を借りれば、「20年遅れのサッチャリズムが日本を席巻している」という状況である。

 今年6月に「エネルギー政策基本法」が国会で成立し、この中でようやくエネルギー供給保障政策、環境政策を重点にやるべきである、エネルギー市場自由化政策はその2つの政策の目的を考慮して進めるというような文言が盛り込まれた。また、地方自治体は国のエネルギー政策に準じて施策を講ずるべきであるというような文言も盛り込まれた。

 この精神をどうやって現実のものとしていくかが、これからの課題であろう。エネルギー基本法の作成にあたり議会に参考人として呼ばれた際、今のエネルギー供給保障と環境と市場の自由化、この三つは正三角形なのかというような議論があった。私は「同じ平面上の三角形ではない」と申し上げた。やはり安定供給なくして環境対策もできず、そういう状況では経済の成長も望み得ないわけであるから、実はこの三つは親ガメの上に子ガメが乗っかって、その上にまた孫ガメが乗っかっている孫ガメ構造であり、その親ガメはエネルギーの安定供給なのである。

 最近、福島県の核燃料税の問題が新聞を賑わせている。現在、原子炉に装荷する燃料に対して、その価格の7%から10%程度を課税する格好となっているが、今春、重量1キロ当たり1万1,000円の税をかけるという、現在の核燃料税の2.4倍に当たるような増税をする話が突然出てきた。この税金を払うのは、福島県に原子炉を持っている東電であるが、そことの対話が進まない内に県の議会で可決されてしまった。

 原子力を推進せざるを得ない日本の状況において、このような話が出てくることは非常に不思議な感じがする。中央では地方政治に国が容喙する時代ではないというような格好で、やや見て見ぬふりをしているという状況が今の正直なところではないか。

 この他、MOX燃料や原子力発電所の新規立地の問題など、一つの地方でその影響の責任を負えないような問題に関して、地方が勝手に施策をしていけば国の政策は成り立たない。ここを何とかしていくことが非常に大事であろう。

 日本はコンフィデンス・クライシスというか、クレディビリティー・クライシスというか、そういった状況になっている。これは政治だけでなく、行政も、それから企業もそうだと思う。パッチワークやつじつま合わせはやるが、一部からでも世間から批判を受けるリスクがあるような行動に出るという、責任ある行動をなかなか取らない状況が日本に蔓延している。

 先ほどウルフさんが述べられた公衆への啓蒙不足、近藤先生が述べられたリスク・コミュニケーションの不足の問題がある。特に、原子力の場合には、プルトニウムが原爆にすぐ転用されるのではないかとか、低レベルの放射線でも危険ではないのかといった、原子力のリスクを誇大視したいびつな原子力像が一般化している。

 JCOの臨界事故の際に、放射能の雲が広がって数十人の被曝者が出たというような表現があった。しかし、これは明らかな間違いで、チェルノブイリとかスリーマイルと、JCOの事故を混同した憶測記事であったと考えざるを得ない。チェルノブイリやスリーマイルの場合には放射能の雲という言葉も無理ではなかったが、JCOの場合には、空中に放出された放射性ガスの量はミリグラムのオーダーであり、とても雲という状況ではない。被曝の量も、その場にいた3人を除き、職業人の年間被曝限界の50ミリシーベルトを越えた人はいなかった。また、公衆の被曝も最大では7ミリシーベルト程度であったが、ほとんどは1ミリシーベルトを少し越える程度であった。これは、日本とアメリカの間をジェット機で数回往復すると浴びてしまうレベルである。

 政府は正しい報告を出したし、あらゆる情報は公開されているが、タイミングや公開の方法などがうまくいっておらず、その内容が大衆には全く伝わっていない。こういった問題をどのようにクリアしていくかが、これから原子力を進めていく場合には非常に大きな問題であろう。

 原子力は化石エネルギーの100万倍のポテンシャルを持っており、扱いようによっては危険がある。しかし、ここ数十年、原子力界はその危険を封じ込める能力を既に実績として示しているわけで、炭酸ガスの波間に沈んでくるような文明社会に向けて、原子力の実用化というのは、そういう波間に投げられた最後の救命ブイではないかと思う。これをいわれない恐怖心や嫌悪感に駆られて拒絶して溺れていくという状態にだけはしてはならない。

 

<コメント5>  今井隆吉(世界平和研究所理事・主席研究員)  

 

今井隆吉  とりあえず4つの点に絞って申し上げたい。

 第一の点は、いわゆる規制緩和、電力でいえば自由化の議論である。ご承知のように電気は貯蔵ができない。また、今の先進国では大規模な電力ネットワークになっていて、大きな送配電線で広い地域に電力の分配が行われている。こういう電源を維持するためには、経済性が良いというだけで小さな発電施設をたくさん作れば良いかというとそうではなく、大容量の安定した電源がないと系統の運営ができないのである。これは話としては結構複雑な話で、細かいことはここでは飛ばさせていただくが、コージェネのガスタービンで小さいものが早く安くできるというので非常に人気があるが、それだけでは電源系統というのは組めないのである。大容量の発電所というと、火力、原子力ということになる。

二番目の問題はその火力、原子力にかかわる環境汚染の問題で、火力についてはご承知のようにCO₂をはじめとする温暖化ガスによる地球温暖化問題がある。温暖化が進むと、太平洋の島で水没してしまうというような種類の話もある。また、地球の生態系に変化が起きて、例えば、今、穀物の最大の生産地であるアメリカの中西部の辺が非常に暑くなってしまい、トウモヨコシや小麦の生産地がシベリアへ移るのではないかというような話もある。これらは一般論としては面白いが、本当のところどうなるかは何ともいえない。

 それに対して原子力をやる場合には、放射線の問題がある。放射線は五感に感じないものである。昔から、目にも見えず、姿も見えず、色もないし、形もないというものはお化けであって、お化けというのは怖い。放射線というのは、具体的にどういうことが起きるという話より前に、お化けであって怖いという話が先行してしまうので、それに対しては絶対安全にしろという要請が出てくる。そのためにいろいろな意味で原子力の建設コストが高くなったり、それから核燃料税の話などでコストが上がる傾向が非常に強くなっている。

 従って、大容量の電源が必要だというときに、原子力をやるのか、あるいは石油火力や天然ガス火力をやるのかという話はいろいろなことを考えないと決められず、一概にどちらが良いと割り切ってしまうことは難しい。

 三番目は核武装の問題である。最近、日本の有力な方が少し不用意な発言を続けてされたこともあって、日本が核武装するのではという懸念があちこちにあるという話が新聞に出ている。私も軍縮大使をしていたころに、他国の大使から「日本には電気冷蔵庫もあるし、ステレオもあるし、自動車もあるし、すごいものばかりあるから、爆弾などはさぞいいのを持っているだろう」と言われ、日本には核兵器はないという説明をするのにとても苦労した。

 日本が核兵器を持つかもしれないという議論の根拠の一つは、例えば、これは2000年頃に、日本にはプルトニウムが5.2トンあったということである。今はもう少し増えているかもしれない。核兵器をつくるのには、1つの爆弾に対してプルトニウムが大体8キロあれば十分ということになっており、5.2トンもあれば、爆弾は何千発もつくれるというような種類の話になって、問題を混乱させている。

 核拡散の問題というのは、一つは小型の核兵器の管理がよくないということである。一番言われるのはロシアであるが、そういう所から所謂ならず者国家に小型核兵器が渡るというのが問題という点。もう一つの問題は、日本が持っている5.2トンか5.3トンのプルトニウムが核兵器になるという話で、実はこれは非常に厄介な話である。細かい話は技術的なことになるので省略するが、核兵器用のプルトニウムは、プルトニウム239が93%ぐらい入っていないといけない。というか、それでつくるのが普通である。一方、軽水炉からとれるプルトニウムというのは、プルトニウム239が60%ぐらいしか入っていないのが普通である。

 核分裂するのはプルトニウム239であって、プルトニウム240は自然核分裂をするとか、プルトニウム241はアメリシウム241になってガンマ線を出すのでマジックハンドを使わないと加工ができないなどいろいろな理由から、原子炉級のプルトニウムは、核兵器級のプルトニウムより扱いにくい。

 それでは、原子炉級のプルトニウムでは爆弾はつくれないのかというとそうではないらしい。私も何年か前にアメリカのいろいろな物理屋と随分手紙の交換をしたり、会って話をしたりしたが、原子炉級のプルトニウムで核兵器や核爆発装置ができたからといって、それは物理学の法則に何ら反するわけでもない。だから物理学からいえば、できておかしくないということである。

 この件に関しては、実は私も論文を書いているが、最近、以前のIAEAの査察担当事務局次長が全く同じような論文を書いており、物理屋は物理学的にできるものはできると思うけれども、エンジニアは自分で作ってできないものはできないと思うという傾向があるという話をしている。従って、実際問題として、先ほど申し上げた日本にある5.2トンのプルトニウムで核兵器を作ることはできないだろう。できないというか、これはあるイギリス人に言わせると、鉄で飛行機をつくるようなもので、十分注意して設計すれば鉄の飛行機だって飛ぶに違いないけれども、わざわざ鉄で飛行機を作る者はいないわけで、やってできないことはないということと、やるということは別のことであるという話である。

 実際、アメリカは原子炉級プルトニウムで核爆発装置を作ったと、私は作った本人から説明を聞いたことがある。どうもこれは軽水炉のプルトニウムではなくて、コールダーホール級のプルトニウム239が80%以上あるプルトニウムで作ったもののようである。

 そういうことで、この話も落ちのない話である。ただ、最初に申し上げたように、日本にはプルトニウムが5トンもあるから幾らでも核兵器がつくれるというようなことを言う方があったとしたら、それは非常な間違いだということをこの際申し上げておきたい。

 最後に全体の問題として、技術というのは先の予測はできないのである。1950年代ジュネーブ会議でインドの原子力委員長は核融合はあと20年でできると言ったが、結局まだできていない。従って、今からエネルギーのことを考えるに当たっても、何はできる何はできないということを決めてかかるのは難しい。常にいろいろな可能性を考えながら、研究開発をしていかなければならない。

 

<コメント6>  松田英三 (読売新聞社論説委員) 

 

松田英三  これまで電力自由化について考えてきてが、少なくとも自由化は必要であると思っている。現在、エネルギーコストのみならず様々なコストを下げることが、日本の競争力を回復するために最も重要なことである。少し前、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が出した『世界競争力年鑑』が話題になった。これによれば、日本は調査対象となった49カ国中30位である。この49カ国というのはOECD加盟30カ国プラス19カ国であるが、どういうことの競争力を問うたかというと、企業がそこの国で事業活動を展開する上での競争力ということである。

 この調査で用いられた314の評価項目には、GDPや失業率をはじめとして、アンケートによるものもあるが、産業用大口電気料金も入っている。要するに、電気代というのは国の競争力にとって重要な要素なのである。ちなみにこの項目に関しては、2000年の数字で日本は49カ国中46位になっている。

 日本も電力の自由化を進めてきて、2000年3月から大口の需要家についてだけ部分自由化ということになった。全需要の3割程度が、相対取引で、料金なり、供給先を決めることになった。ただ、去年8月の数字で、自由化電力中、既存の地元の電力会社以外から買ったという電気の比率は0.39%で、実際にはまだまだほんの一部しか新たな供給先から電気を買っていない。

しかし、すでに大きな効果があったと考えている。というのは、自由化前後から電力会社が自発的に値下げするという動きがあり、東京電力では既に2度下げているし、他の電力会社も秋までには2度目の引き下げを行うことになっている。先ほどIMDで日本の電気代は2000年は46位だと申し上げたが、もう既にもっと上位に上がっていると思う。

 ただ、自由化されたことで実は日本の大口の電気料金が企業秘密に属し、調べようがなくなっている。これはアメリカとか、ヨーロッパでもそうで、これをどうやって調べているのか。IEAが何年か前に出した数字が大手を振ってまかり通っているが、もしIMDが電気料金について相変わらず日本は46位という数字を出しているようであれば、この調査も当てにならないという証拠ではないかと考えている。

 自由化をやって、もう少し電気料金を下げるべきだと考えている。現在、電力会社が料金を下げたと言っても、下げた原資というのは資本コストの下がった分、要するに金利が低いから利払いに回す分が以前より大分楽になっている分がある。また、調達コストの引き下げがある。今までは殿様商売で、日立や東芝から非常に安定的な価格、要するに高値で買っていたわけである。これが値下げ交渉をしたらあっという間に下がって、そのかわり最も安定的と言われた総合電気会社の重電部門は赤字になったりした。この2つが値下げの原資だと思う。しかし、まだ割高である。ハードコアである人件費には手がついていないのだと思う。

 やはり、価格競争をやるとき考えなければいけないのが原子力で、これらの両立をどのように図るかについてまだ回答が出ていない。去年の夏、アメリカに行き、エクセロンという電力会社の幹部にインタビューをした。この会社はアメリカで原発が一番人気のない時代に既存の原子力発電所を買って大変な収益源にしている。ここの幹部に言わせると、100万キロワット級の大きい原子力発電所を建設するという計画は全くない。要するに、自由化された電力というのは、将来の電力需要は不確実、それから幾らで売れるのかという価格も不確実ということで、計画から完成までに何年もかかる。しかも投ずるコストが大きい100万キロワット級の原発というのは、もう今の世の中ではとても採算に乗らないという話であった。

 その副社長はペブルベッド型炉という、今、南アで開発が進んでいる30万キロワット級のモジュラータイプの、自由に出力を調整できる原子炉に興味を示していた。やはり自由化時代の原子力発電所の建設というのは、そういうことを考えなければいけない。要するに需要の不確実性が出るということが宿命だと改めて感じた。

 政策として考えなければいけないのは、バックエンドである。使用済み核燃料をどうするか。これは、税の優遇措置を設けて、電力会社が独自にやることになっているが、アメリカの場合は、バックエンドは、もちろん有料ではあるが、エネルギー省がやる仕組みになっている。高レベル廃棄物の最終処理はまだ技術が固まったわけではないので、幾らかかるかわからない要素がある。従って、そういうバックエンド対策に国の関与をもう少し強める必要があると思う。

 それから一定の発電比率を原子力にやらせるというアイデアはなかなか面白いと思うが、自由化して新規に入ってくる電気事業者というのは原発を持つわけがない。従って、そこはお金を払う側になるはずで、自由化しておいて何だという声が出ることは間違いない。面白いアイデアではあるが、やるとなるとなかなか大変であろう。

 

金子熊夫(議長)  皆さん大変な学識経験をお持ちの方で、もっと時間があればいろいろ伺いたいが、残念ながら先へ進ませていただく。

先ほどウィンさんも言っておられたが、やはり政治家の方にエネルギー問題の重要性、その中での原子力の役割ということを声を大にして言っていただかないといけないと思う。原子力というのは票にならない。だから政治家はどうしても腰が引けてしまって発言をなさらない。その中でウィンさんは非常に力強く言っておられ立派だと思う。

 ヨーロッパでは、トップの政治家は皆さん、エネルギー問題、原子力についても非常に発言しておられる。EUの副委員長でデ・パラシオ(Loyola de Palacio)という立派な人がおられる。女の方で、エネルギー担当委員を兼務しているが、非常にはっきり原子力支持を言っておられる。日本にはそういう発言をあれだけ堂々とする人はいないと思う。デ・パラシオさんにしろ、ウィンさんにしろ、ヨーロッパではっきり発言しておられる。私は非常に感心したが、それに対してプレッシャーがあるのかないのか、そういったご苦労、あるいは日本の政治家に対するアドバイスがあれば伺いたい。

 

テレンス・ウィン  デ・パラシオ女史は欧州委員会のエネルギー担当副委員長で、原子力についての強力な支持者である。欧州委員会は正式に任命された20人の委員によって構成されている。デ・パラシオ委員は原子力支持者であるが、オーストリアの農業漁業担当のフィッシャー委員は、直接は話したことはないが、内政の関連でやはり原子力については反対のポジションをとっておられると思う。環境担当委員はスウェーデン出身であるが、彼女も決して原子力支持ではなく、むしろ反原子力である。

 何かにコミットすることは政治家にとっては特に困難ではない。私自身が信じていることについてはコミットする用意がある。一方、政治家は有権者の票を求めるものであり、もちろん受け入れられないという有権者もいるが、政治家は正直に語らなければいけないと思う。

 政治家に対する尊敬の念が失われているのは、政治家が確信を持っていない、正直に見えない、自ら信じている政策について立ち上がっていない、有権者の票ばかり安易に求めていると見られているからである。

 しかし潮流は変わったと思う。今後、イギリスのブレア首相が原子力支持のキャンペーンを打ち出していくと思う。スウェーデンも現状を維持することはできない。スウェーデンは原子力については段階的に削減するけれども、環境を破壊することもなく、CO₂の排出も行わないと言った。しかしそうすると、手元のオプションが限られてしまう。過去22年間にわたって、スウェーデンは原子力に対する代替策、ありとあらゆる手だてを試したが、代替策はなかった。政治家は政策の誤りがあり方針を変えなければいけないと素直に認めることである。政治家、そして原子力産業が信頼をかち得ることができれば、将来の問題は払拭されるであろう。

 

金子熊夫(議長) 京都議定書では先進国だけが排出削減義務を負っている。日本は6%削減となっているが、これは第一約束期間の2012年までの話で、温暖化の問題はそこからまだまだ続く。先ほど近藤先生も指摘されておられたが、日本政府は第二約束期間、つまり西暦2012年以後を目指していろいろやっていくわけである。そこで問題になるのは途上国、特に心配なのは中国とかインドなどである。そのような人口大国は、生活水準が向上するにつれて多くのエネルギーを使うようになり、CO₂も排出する。そうした国々が、俺たちは知らないということではどうしようもない。そこで、途上国にもなるべく早い段階で、ある種の責任を負ってもらうという努力を日本政府が中心になってしていくべきだと思う。

 そのためにも、いずれかの段階でアメリカに京都議定書のシステムの中に戻ってきてもらって、一緒に率先して削減をしつつ、開発途上国もこのシステムに入りやすくすることが必要だと思う。そういう形で日米が協力していく可能性はいかがであろうか。ウルフさんはその辺をどのように考えておられるか。アメリカ政府の公式見解でなくてもいいので、ご意見を伺いたい。

 

バートラム・ウルフ  我が国の大統領は京都議定書にサインはしないと表明しているが、他方、米国においてCO₂などの排出量を減らすとも言っている。もう一つ彼が言ったことは、第三世界の国々で京都議定書に関与していない国々についてであるが、彼の言っていることは正しいと思う。彼らの経済を助け、より多くの支出をエネルギーに費やせるようにしなければならない。我々が彼らの国々に原子力エネルギーを推進していくようにしなければ、達成はなかなか難しいと思う。

 

金子熊夫(議長)  先ほど、松田さんが電力自由化の問題で原子力との関係に触れられた。大事な点であるが、時間がないので深い議論はできない。お手元の会議資料に14ページから私どもの研究会が勉強した結果が書かれているので、後ほどお読みいただきたい。

 今井大使が提起された問題に関しては、例の非核三原則の見直しとか、日本の核武装だとかいうような物騒な話がある。それと日本の原子力平和利用、とりわけプルトニウム利用計画との関係というのは非常に機微な問題であるが、今井さんのお話で大体分かったように思う。ただ、日本以外、特に東南アジア、韓国などでは懸念があるようだ。

 

近藤駿介(東京大学大学院教授) 松田さんが仰られた自由化とRPSの問題について述べたい。自由化とは、ルールをなくすということではないと思う。マーケットというものは、設計してこそマーケットたり得るのであって、マーケットの設計において公益の観点からのルールをマーケットに導入するとことは、一般的に言ってごく当たり前のことである。原子力がRPSの対象に入るかどうかは議論の結果によるが、そのこと自体、性格的には何の問題もないと思う。

 それから、途上国のエネルギー需要が増大していくに違いないとすれば、いかに効率の良いエネルギーシステムを彼らが構築していくか、それに対していかに貢献するか、協力するかということが重要である。全体として、なるべくエネルギー需要のピークを高くしないで、世界全体のエネルギー供給システムを合理的な方向に向けていく共同作業をもっと進めていくべきだと思う。今のCDMの枠組みはやや制限的過ぎる。

 

金子熊夫(議長)  それでは時間になったので、まだ議論すべき点は沢山あるが、この辺でこのセッションを終わりたい。午前中のセッションでいろいろなスピーチを伺っていて印象に残っていることは、エネルギーとか原子力の問題については、安全性は技術的問題であると同時に、安全保障というような問題はすぐれて政治的な問題であるから、政治家も含めて、市民教育などに勇気を持って取り組んでいかなければならないということである。

 それからベーカー大使が、原子力関係者はもっとアグレッシブリーに発言しなければいけないと言われたことも印象深い。日本では、JCO事故とか色々なことがあったので無理もないとは思うが、若干腰が引けているようなところもある。私は日本の原子力の技術屋、専門家はもっと勇気を持ってアグレッシブリーに原子力の重要性を主張していただきたいと思う。また、そのための市民教育、学校教育も大いにやっていただきたい。

 温暖化防止は大事だ、地球環境は大事だと言っている人たちが、原子力はだめだと頭から決めてかかっていることはやっぱりおかしい。温暖化防止、地球環境の保全ということが本当に大切であるならば、あらゆるオプションを残しておくべきであり、原子力もその一つとして大事にキープしていかなければならないと思う。

 確かに原子力は選挙の票にならないかも知れない。大学で原子力を教えてもあまり学生の人気は得られない。しかし、重要なものは重要であるということをはっきり言う勇気というか、見識が必要だと思う。口幅ったい言い方ではあるが、我々はこれからもその方向で頑張っていきたい。(拍手)

 



4.第Vセッション

国際的次元から見たエネルギー安全保障・環境保全と原子力の役割

 

  議長    伊藤 憲一  日本国際フォーラム理事長

            パネリスト O.アペール  国際エネルギー機関長期協力政策分析局長(フランス)

        Y.H.ジュン    アジア太平洋エネルギー研究所副所長(韓国)

        森本 敏   拓殖大学教授

        B.ウルフ   元GE副社長・元米国原子力学会会長

        袴田 茂樹  青山学院大学教授

        金子 熊夫  日本国際フォーラム理事・エネルギー環境外交研究会会長

 

伊藤憲一(議長)  第Vセッションでは国際的次元から議論する。国内的次元と国際的次元を分けるのは難しいが、意味が無いわけではない。我々が国内的次元で、原子力の役割を経済性や技術的観点から議論する場合、無意識に前提をおいている。日本を取り巻く国際社会という与件が変化しない、あるいは変化があってもコントロール可能な範囲であり無視していいという前提をおいている。

しかし、国際的文脈、次元で物事をみれば、ある日突然石油の輸入が完全に途絶するという変化が国際システムの中で起こったとすれば、これは国内的次元だけの議論では解決できない。最終的には国際的、世界的次元で問題をとらえる必要がある。それが本日の会議を企画した趣旨、狙いである。

我が国は、一次エネルギーの52%を石油に依存し、そのほぼ100%が輸入である。しかも90%が中東からの輸入である。石油の需給は国内事情と関係のない中東情勢によって決まる。国内だけで供給を議論できない。需要も日本の需要だけではなくアジア、特に中国、インドネシア、インドなど膨大な人口を抱えて急速な経済成長をとげる国々の動向を無視できない。

まずパネリストを紹介する(紹介コメントは省略)。各パネリストには10分を目標にプレゼンテーションをお願いする。特に国際的次元に留意し問題の所在と見解を述べていただきたい。

 

<コメント1>  オリビエ・アペール(IEA長期協力政策分析局長) 

 

オリビエ・アペール  国際エネルギー機関(IEA)は1974年発足以来、三つのEを強調してきた。エネルギー供給の安全保障、経済成長並びに環境保全である。本日のプレゼンは四部構成で行う。

第一に、2020年までのグローバルエネルギー情勢を2000年IEA世界エネルギー見通しに従って、東アジアに重点をおき説明する。第二に、原子力エネルギーの現状を経済、環境、一般市民の信任(Public Acceptance:以下PA)の脈絡で述べる。第三に、エネルギー安全保障と原子力の関係、最後に将来の原子力開発について結論を述べる。

まず、2000年IEA世界エネルギー見通しによれば、化石燃料需要は年率2%で伸び、2020年には世界で1億1500万バレルに到達する。OECD以外の国々が3分の2を占める。東アジアは大幅な需要の伸びが予想されており、特に中国の伸びの影響が大きい。東アジアの原子力の伸びは目覚しい。新規の原子力発電所に関しては支配的地位を占めつづける。しかし、東アジアの原子力は一次エネルギー供給の6%程度のシェアにとどまると予想される。

第二に、原子力エネルギーの現状であるが、原子力はOECDの電力の4分の1を供給している。OECD加盟30ヶ国の内17カ国が稼動中の原発を保有している。OECD 諸国の原発の稼働率は80%を上回っており、過去20年間で20%程度の改善を示している。原発の新規建設については反対意見の強い国もある。日本、韓国は新規の建設がない。東アジアでは原発の重要性は低下している。しかし、米国ではブッシュ政権下で原発建設に新たな関心が高まっているが、ほとんどの新規発電所は2005年までは天然ガス火力である。東欧では、1980年代に発注された発電所が竣工中であり、安全対策もアップグレードが行われている。西欧では新規のものはガス火力、再生可能エネルギーである。フィンランドは例外的存在である。

 次に、フランスの原子力について若干話しをする。現在58基稼動中で、トータル63億kwの能力がある。2001年には400twhであり、電力の75%を占め、かなりの部分が輸出されている。フランスの一次エネルギー供給の15%以上を占めエネルギー安全保障に多大な貢献している。一番新しい原発は’99.12に立ち上がったもので現在は原子力の過剰能力が存在している。原発の新規建設については現在論争中である。フランスにおいても原発へのPA下がっている。原発反対が49.3%で賛成を上回っている。

9.11テロ以降フランス国民の80%以上がエネルギー安全保障を向上させるべきであると感じている。しかし原発については国民の10%しかエネルギー安全保障に寄与すると考えていない。どうしてそうなったのか。三つのEについて考えるべき。効率、安定供給、環境、更に技術への信頼性の問題も加えて考えたい。原発は競合する発電所と同じか、それを下回る操業コストである。電力市場に競争が導入され、原発の整理統合、機材や燃料のサプライアー同士の整理統合につながっている。逆に、新規の原発は厳しい競争条件にさらされている。業界としては、より経済性、安全性の高い原発の開発に取り組んでいる。廃棄物処理は原発の環境上の弱みとみなされてきたが、科学者の間では地中処分が最善の方法であるというコンセンサスがある。政府がそれを実施する為には、廃棄物管理プログラムに関するPAの醸成が必要である。気候変動への取り組みは、原子力に対する見通しを変更するものであり劇的にプラスの影響をもたらす。しかし、現在のところ気候変動への対応において原発の果たす役割に関して国際的コンセンサスできていない。CDM(クリーン開発メカニズム)に原子力を認めないことになっている。

次に、一般市民の原発に対する信頼については、OECD域内で政治的反対が広まっている。OECD30カ国中13カ国で将来の開発について政治的制限措置を導入している。原発への反対の根拠としては、NIMBY(うちの裏庭にはダメ!)というものから、安全上の懸念、原子力の軍事機密性、核不拡散の問題、経済性がある。それに対して、分析的なアプローチで説得を試みてきた。しかし、この種の事実関係に基づいた合理的コミュニケーションは過剰に強調されたきらいがある。原発に関する論争は基本的な価値観や信念に課題を投げかけるものであり、技術的というよりは政治的脈絡で解決されるべきものである。廃棄物処理などの懸念事項について一歩一歩プロセスをふむことが信頼醸成につながる。

最後にエネルギー安全保障について語り、結論を導く。エネルギー安全保障は1970年代に各国政府が原子力を支持した大きな理由であった。しかし、発電との関連ではほとんどのOECD諸国ではエネルギー安全保障は懸念されていない。特に欧州においてはエネルギーミックスにおける石油のシェアは低下し、石油よりも天然ガスに関心高まっている。北海の石油が枯渇しロシアの天然ガスに対する依存度が高まっているからである。同時多発テロによって、電力システムの物理的なセキュリティの問題が最優先課題として浮上した。電力市場の自由化によってはたして十分な投資が行われるかということも今後議論されるであろう。

 結論を述べる。東アジアは今後10年間にわたって新規の原発建設の中心である。他の地域では経済性、エネルギー政策、政治的反対によって原発の建設は進まないであろう。その後は回復の可能性はある。経済性に対する評価は高まっており、廃棄物処理の進展がみられればPAに貢献するであろう。IEA諸国のエネルギー政策での気候変動とエネルギー安全保障の優先度があがっている。原子力は将来のエネルギー供給の検討には含めるべきものである。

 

伊藤憲一(議長)  アペール氏の報告では、欧州はエネルギー安全保障の懸念が小さい。一次エネルギーに占める石油のシェアが小さく、天然ガスへの依存度が高く、ロシアという信頼すべき安定的供給源が登場しつつある。むしろ東アジアこそ原子力が注目されているということであった。それでは、世界全体としてエネルギー安全保障の問題あるのか。仮にないのなら東アジアでも問題がないのか、後ほどパネリストで議論頂きたい。

 

<コメント2>  ヨンフン・ジュン(APECアジア太平洋エネルギー研究所副所長) 

 

ヨンフン・ジュン  まず安全性ということについて一つの例を提示する。100%の安全性を確保できる自動車の最高速度はいくらか、実は時速24キロであり、それを超えれば100%の安全性の保障は無いといわれている。我々の人生の中で完璧な世界というものはなかなか無い。確かに危険、事故の可能性はあるかもしれないが、自分に起こる可能性は非常に限られたものである。したがって安全の問題は誇張されすぎている。

主要な論点を最初に述べる。第一に、ある発電システムが他のシステムよりもすぐれているという議論は間違いである。原発が技術として劣っているから放棄すべきであるという議論は間違っている。単に原発がいいとか悪いとかではなく、事実に基づいて適切な技術かどうか考えるべきである。第二に、発電の適切な技術の選択にあたって単に技術の経済的価値を比較するだけではなく、社会的、環境的な費用と便益を考えるべきである。特に北東アジアではエネルギー安全保障、環境を考えるべき。

まず現在世界で見られる潮流について話す。三つの言葉に要約される。需要の伸び、規制緩和、環境に対する対処である。環境問題はグローバルな気候変動のみならず中国の大気汚染に見られるようにローカルな意味でも重要になっている。金融セクターの影響力が強まっている。規制緩和後によって更に強まると思われる。金融セクターがエネルギー分野の投資に発言力を持つようになる。

二番目に、民間の短期利益と公的部門の長期的な目的に大きなギャップが生まれつつある。民間は短期の業績評価を重視せざるをえないが、政府は長期的、社会的目標を持っている。その一つがエネルギー安全保障であり、グローバル社会における政府の役割がますます重要になってくる

次のポイントとして電力需要の伸びがある。所得の伸び、都市化・高齢化の進展は電力需要の伸びにつながっていく。輸送部門がエネルギー需要の伸びを引っ張っている面もある。APECの需要は中長期で伸びつづける。それに対して原発の能力は1990年代までは伸びつづけてきたが、米国ではその後横ばいになっている。その理由は、環境運動の活発化と規制緩和である。しかし日本、韓国は伸びている。

原子力産業の社会経済環境はどうか。投資環境は、建設に長期リードタイムを要する原発には不利になっている。市場には不確実要因があり、5〜7年先を見通して投資しづらくなっている。さらに初期投資ガ高く、石炭の3倍もかかる。保険コストも高い。米国では1957年のプライスアンダーセン法で政府が保険を引き受けることになっているが、このトレンドは続かない。原発が民営化されると民間がはたして保険コストを負担するだろうか。資金調達も難しくなりつつある。規制緩和によって短期収益重視になっている。人材面でも問題がある。原子力産業における人材が減ってきている。学生が希望しなくなっている。政府の積極的サポートが必要である。

 OECD各国の電力コストを比較すると、一見したところ原発は経済性が高いように見えない。しかし石油価格の高騰があれば順位は入れ替わる。誤解を招きやすいので包括的なコスト比較が必要である。APEC地域では、中国、台湾、韓国、日本の原子力のシェアが高い。エネルギーの供給構造の硬直化を避けることも重要である。韓国、日本がドバイ原油を米国よりもバレル当たり1~2ドル高く買っているというアジアプレミアムの問題は、他に選択肢が無いから起きているわけである。日本がもし原子力を放棄すれば京都議定書の二酸化炭素排出削減目標の達成は不可能である。韓国には排出目標がないが、自由に行動できるわけではない。国際社会が長きに亘って寛容であるとは思わない。

結論として、原子力発電は重要な選択肢であることを強調したい。選択肢が一つ減ることは非常に不利になる。エネルギー安全保障、環境問題に対する方策として原子力を排除してはならない。最後にミュルダールの表現を引用する。価値観の対立という感情的な負荷があると理由づけが必要になり、その結果幾つかの盲点が出来てしまう。これを原子力の問題に翻訳すれば、原子力の問題は事実に基づいた選択の問題で価値判断の問題ではないということである。

 

伊藤憲一(議長) ジュンさんからエネルギーの選択は事実に基づくべき、価値判断に基づくべきではない。東アジアでは原発はエネルギー安全保障、環境保全の両面から事実に基づき判断していく必要があるという大変示唆に富む指摘があった。 次は、森本さん、どうぞ。

 

<コメント3>  森本敏(拓殖大学教授) 

森本敏  三点に絞って話をする。エネルギー安全保障を国家安全保障の面から切ってみて問題提起をする。

元来エネルギーは戦略物資である。したがってエネルギー政策は国家の戦略の基本であるべきだ。しかし戦後、特に日本ではエネルギー問題というものを自由競争に基づく経済原則や技術的な問題として扱ってきたために、どうしても国家としての取り組み方という面が欠ける。それが私の非常に大きな問題意識である。

エネルギー安全保障は本来どういう意味か、日本では石油危機の影響が非常に大きく、エネルギーの安定的確保をメインに考えてきた。海外からのエネルギー供給の安定的確保の為の手段、政策あるいは選択の問題として議論されてきた。しかしもっと広い考え方がありうる。エネルギー安全保障を三つの側面から考えてみる。第一に、安定的エネルギー確保。第二に、日本に輸送するまでの中間地域の安定をいかに確保するかという問題。第三に、代替エネルギーの確保などの技術的な側面から見た場合の問題がある。

 第一の点についてであるが、世界のエネルギーは特定の地域に偏っている。厄介なことに、9.11テロ以降国際社会の秩序、米露の国家戦略はドラスティックに変わった。これから相当長期間に亘って米露が協調して対テロ政策を推進していくと思われる。その過程で、中東湾岸地域、南アジア、中央アジアの一時的緊張関係は避けられない。ロシアは米国への全面的な協調を表明した。それはロシアが3年前からテロに直面してきたからである。

米国との協調は自国の政治的、経済的発展のために不可欠であると考え、ロシアはNATO20ヶ国に準ずる国になった。サミットでもG8の正式メンバーになるという劇的な変化が起きている。結果として、中国という大国が孤立的な位置に置かれつつある。それば世界のエネルギーにどういう意味をもつか。結局米国の一極主義と多国間の協調をどうやって調和するかという問題に直面し、いまやロシアが米欧を中心とする価値観を共有する陣営にはいってきたという劇的な変化がおきていると思われる。これがエネルギーを供給する地域である中東湾岸、南アジアのパワーバランスに大きな影響を与え、今世紀の半ばにかけて、エネルギー安定供給の背景として注視しなければならない。中東の個々の国との外交関係だけでは不十分である。必ず破綻をきたす。安定供給のためには日米同盟という資産の上の国際関係構築が必要である。自由競争だけに頼らずODAなどの資産の活用も必要である。エネルギー庁、経済産業省だけに依存してエネルギー戦略を進めていく時代は既に終わっている。

 第二に、エネルギー供給源からある地域にエネルギーを輸送する場合に、(基本的には)海上輸送路と陸上のパイプラインの二通りがあるが、それぞれ安全保障上重要な意味をもっている。前者は海洋の安定という問題であり、後者はいわゆるパイプラインポリティックスという問題である。パイプラインに関するポリティックスは、アフガニスタン情勢、ロシアが苦しんできたチェチェン情勢、インド・パキスタン情勢、中央アジアの安定、すべてパイプラインの問題である。海上輸送については東アジアの海賊問題がある。

一方、東アジアでは中国のエネルギー需要の増大は周知のことであり、今世紀中ごろにはその需要は日本に匹敵する存在になり、中東湾岸だけでなくグローバルに中国と日本がエネルギーの供給を求めて海上において覇権を争うことになると思われる。最近の中国の海軍力増強は、中国・台湾関係のためだけではない。中国がロシアから多数のキロ級の潜水艦を手に入れているのは、潜水艦が外洋にでる海軍力を守るために不可欠なものであるから。潜水艦を最初に手にいれるのは訓練に数十年の年月を要するからである。エネルギーの安定的確保という問題は、外交、ODA、国際協力というだけではなく、国家の防衛力をエネルギー安全保障のためにどのように使うかということである。防衛庁は現在「在り方研究」と称して冷戦後の新しい防衛力のあり方を研究しているが、官庁の縦割り行政の弊害を排して、今までの概念と違う脅威観のなかで日本の政策を考える必要がある。

 第三の技術の問題については、プルサーマルが日本の将来にとって不可欠であると考える。日本は核とか原子力をみるときに、他国にはみられないアスペクトがある。核兵器は人類が開発した究極の兵器体系であるというのが世界の一般的な捉え方である。しかるに日本人の見方は、核兵器はこの世にあってはならないものとして倫理的なものである。原体験上止むを得ないかもしれないが、全く新しい世界のなかで頭を切り替えられない。しかも、数トンのプルトニウムを国内に持っているがゆえに周りの国に疑念を持たれるという問題もある。

 結論を述べる。国家のエネルギー安全保障というのは、エネルギー戦略というトータルな戦略が無ければならない。外交、経済、資源、防衛、ODA、環境といった総合政策がなければならない。有事法制と同様に基本法が出来ればいいというものではなく国としてトータルな戦略を考える必要がある。エネルギーの総合戦略をつくる国としての諮問会議が必要であり、まさにそういう時期がきている。あまりに経済の原則に頼りすぎて自由競争のなかでなんでもやっていけると思ってきた。このままでは今世紀半ばには日本のエネルギー政策は崩壊する時期がくるという疑念さえも持たざるをえない。

 

伊藤憲一(議長)  森本さんからは、石油などのエネルギーを市場で経済合理性によって入手すればいいという考え方は通用しなくなりつつあり、日本は戦略的な意思をもってこの問題に取り組みが必要であるという指摘があった。 次はウルフさん、どうぞ。

 

<コメント4>  バートラム・ウルフ(元GE社副社長、元米国原子力学会会長)

バートラム・ウルフ  中曽根元首相がおっしゃったように、1945年にアイゼンハワーが原子力の平和利用を始めたのは事実である。その理由は当時20カ国が核技術を兵器用に開発しようとしていたからである。アイゼンハワー元大統領は我々を見て笑みを浮かべていると思う。原発が兵器開発を促進しているという間違った意見があるが、むしろアイゼンハワーによって原発に移行したことによって核爆弾の開発にストップがかかった。唯一の懸念はインド・パキスタンである。

 原発の安全性の問題についてであるが、チェルノブイリ以外は原発によって被害を受けた人はいない。米国では事故が起きても大衆に危害が及ばないように設計されている。スリーマイルがそうであった。ロシアもそういう努力をしているところである。

ベーカー大使がおっしゃったようにクリントン前大統領が原発の新しい技術開発に貢献し、その技術で米国の原発オペレーションの改善が可能になったのは事実である。実はクリントン前大統領は京都議定書にサインするまでは原子力反対派であった。しかしゴア元副大統領が京都議定書の目標を達成する為には原発の操業を継続することが必要であると述べ、それにしたがって原子力規制委員会(NRC)に改善措置を要請したわけである。その結果米国の原発稼働率は50〜60%であったものが90%まで上昇した。原発の抱えていた問題は技術ではなく社会的問題であったわけである。

地球温暖化、化石燃料の枯渇に対する唯一の解決策は原子力である。米国には(原発の)事業認可の問題がある。日本や韓国並みへの見直しを期待している。

 9.11以降、米国の原発は安全か、という問題提起がある。様々な調査結果があり継続して設計改良に取り組む必要があるが、大きな問題ではないようである。むしろ、化学工場への飛行機テロがあった場合のほうが影響は大きい。

 今後50年で世界の人口は60億が100億に増加する。世界のエネルギー需要は3倍になる。(エネルギーをめぐる)国家間の紛争になるまえに食い止める努力が必要である。そのための解決策が原子力を伸ばすことである。

 

伊藤憲一(議長)  ウルフさんからは、原発の問題は技術ではなく社会的な問題である。環境問題、二酸化炭素排出問題を解決する手段は原子力しかなくクリントン前大統領も態度を変えざるをえなかったという指摘があった。

 

バートラム・ウルフ  原発への対応の違いは必要性から生まれた面もある。米国は’73年以降も原発の能力問題が顕在化しなかった。反対に日本、フランスは石油確保への懸念のために原発の能力を拡大していった。

 

<コメント5>  袴田茂樹(青山学院大学教授)  

 

袴田茂樹  ロシアのエネルギーは東アジア、日本にとってどういう意味をもつか考えてみる。中国を含むアジアのエネルギー需要の急増。インドネシア、マレーシアが輸出国から輸入国になる。日本は石油の9割、韓国は8割を中東の石油に依存している。国家の安全保障、危機管理という観点のみならず、経済的にみても日本交渉カードがないというゆゆしき事態である。

ロシアの資源をどう考えるか。日本が直接ロシアから輸入するだけでなく、中国・韓国がロシアから輸入することも日本にとって意味がある。エネルギー市場の需給緩和につながるからである。日本自身がロシアのエネルギーにどう対応するのかという問題も考えざるをえない。ロシアの石油、天然ガス、サハリン、極東地方、カスピ海のエネルギーの利用について今の日本の実業界は消極的である。理由は、@日本の電力ガス会社が数年先の必要量まで契約済みである。A日本の電力ガス会社はすでにLNG設備を保有しており新たにパイプラインを建設するニーズがない。B新規開発によってロシアのガスが日本に入ってきた場合には電力の自由化が一層促進され、電力会社にとっては必ずしもプラスにならない。結局政府がイニシアティブをとって税金を使って後押しするしかない。しかしロシアが領土問題で今の態度をとっている限り国民は巨額の税金を使うことに納得しないであろう。そういう難しい問題はあるが、アジア諸国も日本も相当前向きに対応しなければならないのは事実である。対応の仕方としては、例えばカザフスタンとの間で、発電所への協力によって6万トンの二酸化炭素排出を減らし、その減らした分を日本が購入する契約が締結された。こういうアプローチは評価されるべきである。

しかし、京都議定書の目標1,900万トンに比べると極めて小さい数字ではあり、二酸化炭素排出権の購入は地球温暖化対策としては意味がない。二酸化炭素の総量は減らない。(そうすると)選択肢として原子力発電を考えざるを得ない。もちろん風力、太陽熱、地熱の最大限の使用、省エネ努力は最大限する必要がある。八丈島の地熱発電、東北の風力発電、もんじゅ、六ヶ所村、揚水発電など見学した。専門家によれがそれらの再生可能エネルギーで賄えるのは3%程度である。省エネも実際の生活を考えると限界がある。イデオロギーの問題ではなく純粋に事実関係の問題として、原子力を選択肢として考えざるを得ない。

 

伊藤憲一(議長) この会議のプロモーターである金子さんには、会場の皆さんにかわって私から敢えて質問する。これまでの議論は第一次、第二次の石油危機のようなものが発生するという前提で進めているが、エネルギー危機は本当に起きるのか。石油はもはや戦略商品ではなく一般商品なのではないか。その理由として、石油を政治的武器として使おうとしてきたOPECの結束が乱れている。サウジアラビアの指導力もかつてのようなものではない。ロシアが台頭しているなかでOPECの石油市場への支配力崩れている。彼らが1973年のような石油戦略を発動する能力はもう無いのではないか。日本も石油依存度は石油危機のころの80%から現在では50%まで下がった。発電用としては13%にすぎない。日本には160日分の潤沢な石油備蓄がある。オイルショック再来を唱え、それを前提にエネルギー安全保障のために原子力云々というのは前提として間違っているのではないかという議論がありうる。こうした疑問に応えていただきたい。

 

<コメント6>  金子熊夫(エネルギー環境外交研究会会長)

金子熊夫  そもそも「安全保障」(security)という概念自体、「安全」(safety)と較べて分かりにくく、日本では一般になじみが薄い。一方は比較的身近で、肌で感じやすいが、他方は抽象的で、日常生活には直ちに響かないからである。しかもエネルギー「安全保障」の中身は時代によっても大きく変わる。

私が最近発表したいくつかの論文で、「油断」という言葉を多用したためか、堺屋太一氏の同名小説からの連想で、1970年代の石油危機を想定し、同じような危機が再来するとか、いや再来しないという議論をする向きがあるが、私は、「油断」という言葉をごく普通の日本語の意味で使っているのであって、「油が断たれる」、すなわち、石油の供給がある日突然途絶するというような緊急事態だけを想定しているのではない。

 私は、エネルギー危機には大きく分けて二種類あると考えている。分かりやすく病気に譬えれば、一つは「心臓麻痺」のようなもので、ある日突然石油供給がストップするというケースで、それがまさに30年前の石油危機であった。もう一つは「肝臓ガン」のようなもので、知らないうちにじわじわ進行して気が付いたときは手遅れというような種類の危機である。

私は、前者のような危機は、確かに今伊藤議長が指摘されたような理由で、再発の確率はかなり低くなっていると思うが、しかし、全く起こりえないとは考えていない。中東地域の政治情勢は、9.11テロ事件以後一段と不安定化しており、米国の対テロ戦争の進展いかんによって、例えばサウジアラビア等で大きな政変が起こる可能性も排除されていない。

さらに、中東地域以外でも、日本向けタンカールート上には、インド洋、マラッカ海峡、南・東シナ海など多くの“チョークポイント”が横たわっている。とくに南シナ海では、第1セッションでシアゾン大使も指摘したように、南沙諸島、西沙諸島の海底石油や天然ガスに各国の関心が集中しており、トラブルが発生する可能性がある。中国が遠洋航海可能な海軍力、いわゆるblue-water navyを強化していることもあり、南・東シナ海の波は高くなる惧れがある。日本としては、そのような緊急事態に対する備えを怠るべきではないだろう。  

もう一つ注意しなければいけない点は、確かに日本の石油依存度は30年前に較べて大幅に低下したが、実際の消費量(輸入量)は最近20年間、450〜500万バレル(日量)前後で横這いで、石油が日本にとって最も重要なエネルギー源であることに変わりはない。石油備蓄が国家・民間合わせて160日分あるから心配無用とは言い切れない。もし仮に近い将来石油危機が勃発すれば、当面原子力に頼る以外にない。そもそも発電における石油の比率が第1次、第2次石油危機以後大幅に下がったのは原子力を拡大したからであって、もし原子力を拡大していなければ当然石油の比率は現在より遥かに高いものになっていただろう。

 他方、「肝臓ガン」型の、じわじわ進行するエネルギー危機の確率は非常に高いと私はみている。最大の原因は、アジア諸国の石油需要の急激な伸びだ。とくに中国は、従来石炭中心であったが近年急ピッチで石油へシフトしつつある。その結果、中国は世界で第7番目の石油生産国であるにもかかわらず中東からの原油輸入を拡大している。インドネシアも数年内に純輸入国になると見られている。このまま行くと将来必ず、アジア諸国間で中東原油やカスピ海などの石油、天然ガスをめぐって熾烈な争奪戦が起こる可能性が高い。30年前のエネルギー危機はアジアでは日本のみが被害を受けたが、これから起こりうる危機はアジアが中心になる。日本は円高以降生産の拠点をアジアにシフトしているが、そういった出先でのエネルギー危機による経済危機は、3〜4年前の金融危機の時よりも深刻なものになるだろう。

 石油やガスの価格が暴騰しても日本のような金持ち国は何とか切り抜けられるかもしれないが、開発途上国はどうなるのか。30年前は我々は自分のことを心配するだけでよかったが、経済的相互依存度が飛躍的に高まった今日は、それでは到底済まないだろう。

そうした事態を未然に回避するためには、アジア諸国の石油備蓄能力の整備や石油代替エネルギー(再生可能エネルギーなど)の開発が急務であり、日本はこの分野でできる限りの支援を行なうべきである。と同時に、石油代替エネルギーの1つとして原子力を引き続き重視すべきである。もし北東アジアで日本、韓国、台湾のような大規模エネルギー消費国が原発を止め、その代わりに石油や天然ガスの消費を大幅に増やせば、アジア全体で石油やガスの需給が逼迫するのは火を見るよりも明らかである。逆に日本や韓国が原子力により石油等の消費を減らせば、それだけアジアの石油等の需給逼迫を緩和する。そのように考えれば、日韓等が原子力を継続することは、単に自国のエネルギー安全保障だけでなく、アジアのエネルギー安全保障にとっても必要なことであって、それは国際的責務でもあると言えるのではないか。

 もちろん、だからと言って、日本の場合、際限も無く原子力をどんどん拡大すべきだというわけではない。原子力にも自ずから限界がある。今年3月に政府が発表した「地球温暖化対策推進大綱」では今後10年間に原子力を約3割増加することが必要としているが、私見では、エネルギー・ベスト・ミックスということから言って、現在の35%くらいが妥当なところで、今後伸びても精々40%くらいまでだろう。しかし、現在のような国内状況が今後も続けば、原発の新増設は無くなり、将来35%を維持することも不可能になるだろう。世間には、しばらく原発を止めて、将来必要になったときに再開すればいいという意見もあるが、原子力の性質上そうは行かない。技術、人材が維持できないからだ。

ところで、これまで東アジアの原子力開発は北東アジアが中心だったが、東南アジアでも今後20〜30年のスパンで原子力を始める国が出てくる。ヴェトナムもその1つで、同国は2017年頃の運転開始を目途に原発導入計画を立てている。こうした国々からの協力要請に対し日本は技術先進国としてできるだけ援助すべきだ。もちろん、この地域における原子力活動が間違っても核拡散につながることのないように十分な手立てを講ずるべきである。午前中のセッションでフィリピンのシアゾン大使が言及したASIATOM設立構想はその1つだ。いずれにしても、アジアの経済成長がエネルギー問題がネックになって止まるのは避けなければならない。

 結論として、日本は、アジアを起因として、じわじわやって来るエネルギー危機に十分備えるべきで、原子力はそのための有力な選択肢の1つである。それが同時に地球環境保全、温暖化防止にも役立つことは言うまでもない。我々日本人は、これからのエネルギーや環境問題を考えるとき、ただ単に国内的な事情だけでなく、こうした国際的な状況をも十分視野に入れて判断するべきである。





閉会挨拶

 

<議論のまとめ>  黒田眞 (企画実行委員会副委員長)

 

黒田 眞  閉会に先立ち、本日の会議の「まとめ」をしてみたいと思います。大変に盛り沢山で、密度の濃い議論を簡単にまとめることは、いささか無謀ではありますが、今後議論を深めてゆくために、敢えて試みました。

 

「まとめ」

1. 世界的に、エネルギー安全保障の問題が、あらためて注目されつつある。その一つのきっかけは、中東情勢の緊迫化に伴う、国際石油市場の不安定化への懸念である。中東原油への依存度の高い日本その他諸国にとって、油断できない状況であり、エネルギー安全保障問題への国民的な関心と認識を高める必要がある。

  日本の一次エネルギー消費における石油の割合は、過去30年間に大幅に低下したが、原油の消費量自体は横ばいであり、中東への依存度は90%である。

  石油の代替として、石炭、天然ガスが重要だが、石炭にはCO2の排出、天然ガスには輸送の問題がある。

 

2. また、地球規模での環境問題への関心の高まりがある。地球温暖化対策として、世界の国々が、二酸化炭素等の排出抑制のために取り組む必要がある。

「京都議定書」を批准して、削減義務を約束した日本としては、可能なあらゆる措置をとる必要があり、それは国民のライフ・スタイルの変更さえ求めるものである。

なお、政府の削減計画において、原子力発電の推進が大きなウエイトを占めていることに注意すべきである。

 

3. 上記二つの観点から、二酸化炭素等を排出せず、かつ準国産エネルギーとして考え得る原子力は、「資源小国」たるに日本等特定の国において、「エネルギー・ベスト・ミックス」の一つとして、今後とも重要な役割を果たすべきである。

その際、自前の資源を持つことが、輸入エネルギー確保にあたって、有効な交渉力となることに留意すべきである。

ただし、国民の間にある根強い不安感を考えると、すべての科学技術の専門家が安全確保を最優先とした万全の体制で、原子力発電の効率的運営に取り組むことが不可欠である。この関連で、リスク・コミュニケーションを強化すべしとの提言があった。

 

4. 日本を除くアジア地域では、目覚ましい経済発展と、生活水準の向上によりエネルギー、就中、電力の消費が急速に増大しつつある。

いくつかの国々では、発電において原子力が、すでに一定の役割を果たしており、また将来果たすことを期待されている。

他方、中東原油への依存度が着実に高まりつつあることも、要注意である。アジア各国が、そのエネルギー構造を健全なものとするため、石油代替エネルギーの開発拡大に努めるべきは当然であるが、日本としてもかかる努力を支援すると共に、なんらかの地域協力の仕組みも検討すべきであろう。

 

5. 原子力の推進が、核拡散に繋がる危険を防止するために、「原子力平和利用」を国是とするわが国が積極的な役割を果たす必要があり、日本としてはエネルギー安全保障と核拡散防止の目的に合致した地域協力体制作りを主導すべきである。

なお、テロとの関連にも留意すべしとの指摘があった。

 

6. 現在進展しつつある電力市場の規制緩和、自由化の動きの中で、大きな初期投資、長いリードタイム、不確定性の高いバックエンドなどの問題を抱える原子力について、長期的な観点からの適切な措置が求められる。

 

7. 原子力を含めたエネルギー安全保障を確立し、また環境問題に対処するためには、国民レベルでのコンセンサスを得る必要があり、国民の理解と協力が不可欠である。このため、教育、啓蒙、広報活動を、更に積極的に進める必要がある。その際、技術的観点や国民的視点のみならず、国際的な視野に立った総合的な判断力の涵養が重要である。なお、この関連で特に政治の役割が強調されたことは印象的であった。

 

8. 本年8月末のヨハネスブルグの「持続可能な開発に関する世界首脳会議」において以上の視点が重視されることを強く期待する。

また「京都議定書」の中の原子力に対する消極的な表現は、将来見直されるべきである。

 

以上が本日の会議のまとめです。会議で表明された意見や提案を集約したものは、近く日本国際フォーラムのHPに掲載いたします。皆様のご意見・ご感想を是非お寄せください。

 

本日の会議をきっかけに、エネルギー安全保障と地球温暖化に代表される環境保全という、われわれが直面している二つの大きな課題への取り組みに当たり、原子力の役割を正当に位置付けるべきであるとの主張に、新しい活力が吹き込まれ、国民的規模で議論が深められることを期待したいと思います。 以上をもって閉会のご挨拶と致します。






6.報告者・パネリストの横顔

(@現職、A主な経歴、B最終学歴、C主要著作など)

 

【日本人参加者】                      (アルファベット順)

 

秋元 勇巳 

@三菱マテリアル株式会社取締役会長、日本経済団体連合会資源エネルギー対策委員会委員長、内閣府原子力委員会参与、経済産業省鉱業分科会会長、日本原子力文化振興財団理事長、科学技術団体連合会長

A三菱マテリアル株式会社取締役社長、セメント協会会長等

B東京文理科大学(現筑波大学)化学科卒業、理学博士(1957年)

C『ガイアの思想』(共著)、『しなやかな世紀』、『インテルメッツォ』

 

袴田 茂樹

@青山学院大学国際政治経済学部学部長、同教授(現代ロシア論)

Aプリンストン大学客員研究員、モスクワ大学客員教授、東京大学大学院客員教授

B東京大学文学部哲学科卒業、モスクワ大学大学院修了、東京大学大学院国際関係論博士課程満期退学(1977年)

C『深層の社会主義』(サントリー学芸賞受賞)、『ソ連−誤解をとく25の視角』、『ロシアのジレンマ』、『沈みゆく大国 日本とロシアの世紀末か』、「現代ロシアを読み解く」ほか多数

 

今井 隆吉
@世界平和研究所理事・首席研究員、日本原子力産業会議顧問、杏林大学講師
A駐クウェイト大使、国連ジュネーブ軍縮会議大使、駐メキシコ大使、杏林大学院教授、
 上智大学客員教授、(株)日本原子力発電技術部長
B東京大学(理学士、工学博士)、フレッチャー法律外交大学院(修士)、ハーバード大学院(修士)
C『科学と国家』、『科学と外交』、『核エネルギーと核拡散』(英文)など多数

 

伊藤 憲一

@日本国際フォーラム理事長、日本紛争予防センター理事長、青山学院大学教授(国際政治学)。

A外務省入省後、在ソ、在比、在米各大使館書記官、アジア局南東アジア第一課長を歴任後退官。1982年より現職

B一橋大学法学部卒業、ハーバード大学大学院中退。

C『国家と戦略』、『大国と戦略』、『二つの衝撃と日本』、『地平線を超えて』、『超近代の衝撃』、ほか

 

 

金子 熊夫

@日本国際フォーラム理事、エネルギー環境外交研究会会長、(財)地球環境センター評議員

A外務省入省後、国連局科学課首席事務官、国連環境(UNEP)上級企画官、UNEPアジア太平洋地域代表、外務省初代原子力課長、外務参事官、日本国際問題研究所研究局長、太平洋協力日本委員会事務局長等を歴任。1989年退官後東海大学教授(国際政治学)

Bハーバード大学法科大学院卒業(LLM、1966年)

C『日本の核・アジアの核』、『かけがえのない地球:世界各国の環境問題I-VI』、『アジアの原子力の再生のために』ほか

 

近藤 駿介

@東京大学大学院工学系研究科システム量子工学専攻教授、原子力委員会参与、原子力安全委員会専門委員、経済産業省総合資源エネルギー調査会委員(原子力部会長、原子力安全・保安部会長)

A1972年東京大学工学部助教授、1984年教授に昇任して現在に至る。1999年よりは東京大学原子力研究総合センター長を併任

B1970年東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻博士課程修了

C『なぜ失敗するのか』、『原子力発電所で働く人々』、『私はなぜ原子力を選択するのか』ほか多数

 

黒田 眞

@(財)世界経済情報サービス・理事長、(財)安全保障貿易情報センター・理事長ほか

A1955--1988年通商産業省勤務、1986--88年通商産業審議官、1990--2000年(財)2005年日本国際博覧会協会事務総長、三菱商事(株)副社長などを歴任。

B東京大学法学部卒業

 

松田 英三

@読売新聞社論説委員、総合資源エネルギー調査会都市熱エネルギー部会委員

A読売新聞経済部記者

B東京大学文学部心理学科卒

 

宮崎 緑

@千葉商科大学政策情報学部助教授、日本計画行政学会理事、日本社会情報学会理事

ANHKニュースセンター9時初の女性ニュースキャスター。ジャーナリスト活動の後、東京工業大学社会工学科講師を経て現職

B慶應義塾大学大学院法学研究科修了

 

 

 

森本 敏

@拓殖大学国際開発学部教授、PHP総合研究所主席研究員

A防衛庁、外務省で勤務。在米日本国大使館一等書記官、外務省情報調査局安全保障政策室長を歴任。

退官後野村総研主席研究員、慶應大学大学院非常勤講師、中央大学大学院客員教授など

B防衛大学理工学部卒業(1965年)

C『安全保障論』、『ミサイル防衛 新しい国家安全保障の構図』、『国のこころ国のかたち』(共著)、

『極東有事』で日本は何ができるのか−ガイドラインと有事法制』 ほか多数

 

村田 良平 
@外務省顧問、日本財団特別顧問 

A外務事務次官、駐アメリカ合衆国大使、駐ドイツ連邦共和国大使、青山学院大学教授 

B京都大学法学部卒業(1952) 

C『中東という世界』、『OECD』、『海洋をめぐる世界と日本』

 

中曽根 康弘

@衆議院議員、(財)世界平和研究所会長、アジア太平洋議員フォーラム(APPF)会長

A1947年年初当選以来連続20回当選、59年科技庁長官、70年防衛庁長官、72年通産大臣、79年行政管理庁長官、82-87年内閣総理大臣

B1941年東京帝国大学法学部卒、内務省入省

C『政治と人生』『21世紀日本の国家戦略』ほか

 

尾身 幸次

@科学技術政策担当大臣、沖縄及び北方対策担当大臣、衆議院議員

A1956年 通商産業省入省、1970-1974年 在ニューヨーク総領事館領事、1983年 衆議院議員初当選、1990年 大蔵政務次官、1995年 衆議院大蔵委員長、1995年「科学技術基本法」の主たる提出者となり同法を成立、1997年 経済企画庁長官、2000-2001年 自民党幹事長代理、2001年 科学技術政策担当大臣、沖縄及び北方対策担当大臣

B一橋大学商学部卒業(1956年)

C『誇れる日本を創る』、(1991年)、『科学技術立国論 科学技術基本法解説』(1996年)

 

 

 

 

 

【海外参加者】                       (アルファベット順)

 

オリビエ・アペール

@国際エネルギー機関(IEA)長期協力政策分析局長

AISIS(フランス石油協会傘下)の上級副理事長、フランス工業省石油ガス部長、工業大臣官房長、ピエール・モロア内閣担当官等を歴任

B国立工科大学、鉱山大学卒業

 

ハワード H. ベーカー Jr.

@駐日米国大使(2001年7月から)

A米国連邦議会上院議員(1967-85) (1966年にテネシー州から最初の共和党員として上院議員となる。両親とも下院議員を務めた。義父の故エバレット・ダークセンは長年共和党上院院内総務を勤めた。) レーガン大統領首席補佐官(1987-88年)。1973年上院ウォーターゲイト委員会の副委員長として全国的に有名となる。 1976年共和党全国大会の基調演説者。 共和党院内総務(1977-85)。 現在も外交評議会(CFR)会員、戦略国際研究センター(CSIS)の国際顧問。

Bサウス大学、チュレーン大学、テネシー大学(法学士)

C『間違いは許されない』、『ハワード・ベーカーのワシントン』、『大いなる南部』、『スコット湾』

 

チョンウク・チュン

@亜州大学(韓国水原)教授(国際関係論)

A大統領外交・国家安全保障補佐官(1993-94)、駐中国大使(1996-98)、ソウル国立大学教授1977-93)

Bソウル国立大学、エール大学(政治学博士)

C『毛沢東主義と開発』、『列強と朝鮮の平和』ほか

 

ヨンフン・ジュン

@アジア太平洋エネルギー研究センター副所長

A韓国汎アジア天然ガス・パイプライン協会事務局長、韓国エネルギー経済研究所主任研究員、ロチェスター大学講師

Bロチェスター大学経済学部卒業(修士、博士)、西江大学(学士)

Cエネルギー、エネルギー経済、環境等の分野で論文多数

 

ドミンゴ L.シアゾン Jr.

@駐日フィリピン大使(2度目)

Aフィリピン外務大臣(1995-2001)、駐日大使(1993-95)、国連工業開発機関(UNIDO)事務局長(1985-93)

駐オーストリア大使(1980-85)、在日フィリピン大使館勤務(1964-68)

B東京教育大学卒業(理学士、物理学、1960-64)、ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士1979)

 

バートラム・ウルフ

@エネルギー・原子力問題コンサルタント

A米国ジェネラル・エレクトリック(GE)社副社長・原子力事業本部長(1992年に引退するまで約35年間同社の原子力分野で勤続)、米国原子力学会会長(1986-87)、ヒューストン工業会重役、ウレンコ社重役

Bプリンストン大学(理学士)、コーネル大学(物理学博士)

Cエネルギー・原子力関係の著作は200点以上。エネルギー・原子力分野の論客として著名。

 

テレンス・ウィン

@欧州議会議員、同予算委員会委員長、欧州社会主義者党グループ・メンバー

A1962年商船局の機関士見習、以後商船・海運関係で勤務。その後造船技師・修理工の養成所を設立、運営。1989年に英国労働党候補として欧州議会議員に初当選。以後、予算委員会を中心に各方面で活躍中。

B働きながら勉強し、ソルフォード大学から人材育成・労働関係で修士号を取得。