EEE会議 第2回講演・研究会の概要

日時/場所:200382614:00-16:00 東海大学校友会館=霞ヶ関ビ33階)

 

演題:「日本の核燃料サイクル政策の課題」

講師: 遠藤 哲也 原子力委員長代理(元IAEA日本政府代表、元駐ニュージーランド大使)

特別ゲスト:竹内 哲夫 原子力委員(元東電副社長)

 

I.  遠藤委員講演メモ(要旨のみ)

1.原子力委員会が公表した2件のレポート「核燃料サイクルについて」(2003.8.5および「日本のプルトニウム政策について」(同日)の概要などを説明する。

 〇1950年代から一貫して原子力委員会の基本政策として核燃料サイクルの輪を閉じることを  追求してきた。今次のレポートはその再確認と、readers-friendlyな様式をもって一般の人々に  そのことを訴えることにある。

 〇諸般の事情によりここ10年サイクルは前進していないが、この実状を見直して、尚推進の   必要有りということを一般に向けて広く訴える必要がある。

2.持続的発展と原子力との関係をグローバルな視点ならびに日本の国情特有の要素を総合的に  考えることが重要
  
  〇エネルギーの自給率や石油輸入の中東への過度な依存という現状に鑑み、今後将来エネルギ  ー・セキュリティーを如何に確保していくかを具体的に示す必要がある。そうなれば、短中期  (供給安定確保)および長期(エネルギー資源の枯渇対策)の両面から原子力が有利である。
  〇地球温暖化対策の観点からも原子力の必要性、優位性は明らか。

3.日本の核燃料サイクルの歴史を振り返ると、まず軽水炉が導入され、中継ぎ炉としてかつては新型転換炉・ふげんが、現在ではプルサーマルがあって、最終目標は高速増殖炉に移行していくという絵図は変わっていない。

〇高速増殖炉については、JNCが中心になってオールジャパン体制でやっている実用化戦略調査研究によれば、2015年には大体のアイデアを示せることになっている。そうなれば、2030年代にはFBRを何とか導入したい。

〇つまり、この(2030年代という)節目に於いて、主に1980年代に導入された軽水炉の寿命を迎えることになるので、それらはFBRで置換したい。

〇ここで指摘があるのは「ではなぜそのことがこれまでの原子力長期計画に書いてないのか?」ということだが、今回の紙の本文には書かれてはいないが、参考資料の質疑応答には書かれてある。私個人としては、将来の原子力長計には明示的に書かれるべしと考えている。

〇現在の急務は六ヶ所再処理施設の2005年稼働と“核燃料サイクル”の実態とを整合させることである。2008年には六ヶ所がフル稼働し5トン/年のPuが出てくる。これと海外再処理委託分の30トンが返却待ち状態である。これらに整合させるために、遅れ気味のプルサーマルを何とかせねばならない。

4.プルサーマルの課題は、1)経済性(高いのではないか?)、2)サイクル政策内での位置づけ、3)不拡散性への対応、4)世界の動向(サイクル止める趨勢)に逆行するのではないか、ということにある。

【経済性】電力自由化の波の中で、プルサーマルは高くつくのではないかとの疑問がある。再処理にコストが掛かるので、確かに否定はできないが、どれくらい高いかということになれば、OECD/NEAの試算があり、総発電コストの23%となっている。燃料費に吸収できるようなコストではないかも知れないが、エネルギー・セキュリティーの観点からすれば、プルサーマルの必要性は値段だけで判断できるものではなかろう。

【自由化と原子力】今回のレポートの準備にあたっては、この問題にはあまり深く突っ込んだ検討を行っていない。来年末を目処に経産省が自由化コストの評価をする情勢にあるので(それを睨んでいる)・・・

エネルギー・セキュリティーと地球環境保全は、最後のギリギリのところでは国家の視点であるので、自由化の問題には深く立ち入らなかった。

【核燃サイクル】ウラン燃料利用効率からいえば10%程度である。これを高いと見るか低いと見るかはいろんな意見があろうが、それとは別に、いずれくる(FBRによる)プルトニウム利用の地均しの役割をプルサーマルが果たすと考える。

【拡散抵抗性】ユッカマウンテンであっても、100〜200年もすれば発熱が減って宝の山として発掘できるという議論もある(私はかならずしもこの論に組みしないが)。核不拡散性の観点から、INFCEは直接処分と再処理は優劣なしと結論している。ただし、その前提は、IAEAの保障措置がしっかりしていればということである。

【世界の情勢】カーターは止めたが、ここブッシュに至って核燃サイクルに立ち返ってきている。仏はイケイケドンドンの状態である。もんじゅが復帰すれば是非使わせてもらいたいと言ってきている。露・印・中各国でもFBR路線は再び活性化しつつある。仮にたとえそうでなくとも、ひとが止めるからと言って止めるべきようなものではなかろう。シナトラのようにgoing my wayである。

いずれにしても、核燃路線に十分対応でき、その第一歩としてプル利用を推進していきたい。

5.プルトニウム利用に関しては、明確な利用計画もない現状と“余剰プルトニウムを持たず”という基本原則があい矛盾しているという批判がある。問題は、では「利用計画とは何か?」「余剰とは何か?」ということにある。

〇供給は先に述べたように、六ヶ所の5トン/年と海外返却分30トンである。

〇需要は、もんじゅ、軽水炉16〜18基(0.30.4トン/年・基)、そして大間のフルMOX(1.1トン/年)がある。

〇問題は、供給≠ニ需要≠いかにマッチングさせるかである。しかし、そもそもこのような方針がなぜ必要なのであるか。我が国は、IAEAの保障措置に従い(優等生)、NPTを遵守し、そして追加議定書も批准した。すべて満たしている。プル利用に疑いの余地など全くない。しかしながら、より一層の「透明性」が求められている。

〇そのためには3W&1Hがポイントだということを言っている。すなわち、責任主体は誰か(Who)、いつ(When)どこで(Where)使うのか、そして幾ら(量:How much?)である。この4項目に答えることにより、より一層の透明性を確保する。

六ヶ所の貯蔵庫はプル30トン貯蔵できる。毎年電気事業者(原燃)から年次計画を出してもらう。

誰がについては、最初のうちはハッキリしない。みなし≠ナやるしかない。

いつ&どこでについても、時が経たないとハッキリしないが、ともかくも毎年報告してもらい・・・

O          ここで会場から質問:「報告だけで良いのか?」(答)「原子力委が確認行為する。不十分が明らかになれば、委員会の権限を使う。」

もし貯蔵庫がいっぱいになってしまえば、六ヶ所の運転は停止するほかない。

以上の方針は、現在外国にある分(30トン)についても適用される。

 

II.              質疑応答

(豊田正敏氏=EEE会議特別会員)ウラン資源が、60~70倍有効活用されるとの期待の下に、FBRを政策の基本に位置付けており、もし、実用化が実現せず、プルサーマルであれば、ウラン資源は今世紀限りで枯渇する。にも拘わらず、JNCの開発速度が遅く、何時になったら実用化できるか不透明なところに核燃料サイクルが混迷している原因がある。

FBR実用化までには、今回の「もんじゅ」程度のトラブルは何回か起こる。JNCが無責任体制でただ、漫然と「柔軟」に進めていたのでは、実用化は難しいと考える。技術開発の進め方を抜本的に見直すとともに、2015年という節目の時に、中断も含めた厳正なチェック・アンド・レビューを行うべきである。JNCは原研との統合でなく、経産省の所管とすべきである。

プルサーマルについては、六ヶ所の停止の判断を電気事業者と日本原燃任せにするというのは、責任回避ではないか。委員会が国際約束も踏まえて政治判断すべきである。

(遠藤委員)FBRの開発計画は、ロードマップなどで明確にする。Puの利用計画は対外説明はあっても、交渉マターではない。おまけの論議である。また、電気事業者任せではない。

(池亀亮氏=EEE会議特別会員)原子力委は「余剰とは何か」をキチンと定義しなければいけない。
この件とは別に、自由化に関連してお尋ねしたい。再処理などバックエンド事業には先行き不確実なものが多く、しかも認可料金での投下資金回収が保証された規制時代と違って、自由市場では投下資金の回収も保証されないので、事業者のリスクは格段に大きくなる。放置すれば、バックエンド事業に投資する民間企業はない。これをどうするか、原子力委の見解を聞きたい。

(竹内委員)自由化と国家の問題である。エネルギーセキュリティーおよび環境問題は馴染まない。経産省などでは、コストの全体像が出てから議論する方向にある。次の長計からはその線でやっていく。

(池亀氏)コストを現時点で推定しても、その何倍もかかるかも知れない。過去の経験が示しているとおりです。それをどうするかと言う問題です。

(竹内委員)フレームを作って、国民に示すことが必要。

(池亀氏)アンサーティンティー(不確実なところ)を国がちゃんと保証しないといけない。

(豊田氏)1~2兆円といった国民負担を国民が納得すると考えておられるのか。

(永崎隆雄氏=EEE会議特別会員)自由化でつらい思いをするから国に援助を、なんてことではダメで、電力は自由化を意識して鍛え直さないといけない。

(池亀氏)料金を認可して、その料金でやっても良いということだった。

(永崎氏)再処理が高くなったのは,総括原価主義でやったからで,電力自由化を大大いに進めなければならない。事態は変わってきている。しかし環境対策を先送りする使用済燃料貯蔵が、安いから良いというのもおかしいので、税制などで核燃料サイクルコスト上昇部分を補うシステムを作らないといけない。

(池亀氏)TRUなど超長期の扱いをどうするのか?現状、決まっていない。

(神山弘章=EEE会議一般会員)HLWについては事業者が金を貯めている。それで実施できなかったときは、経産省が責任とることになっている。

(永崎氏)TRUは高くはつかない。

(豊田氏)高くはないが、環境閉じ込めは大変だ。

(吉田康彦氏=特別会員、大阪経済法科大教授)朝日や毎日は、見直しに疑念を表明している。問題は、一般国民がついてこれるかどうかだ。日本の原子力産業は前途多難で、今後国民の支持をどのようにしてとりつけていくのか。

(遠藤委員)これ(8月5日づけペーパー)が、絵に描いた餅ではマズイ。しかし、国民とはなにかということも見えにくい。地方議会に説得して、理解してもらうのがひとつのやり方だと考えている。

(豊田氏)福島県知事は、ウランが安い間は、ウランを使えばよいと言っているのに対して、「余分のプルトニウムは持たない」との国際約束からプルサーマルで燃やさざるを得ないという本音の説明で理解してもらおうとせず、エネルギー・セキュリティなどと主張するから、議論がかみ合わないのである。双方向対話によって理解を得るよう努めるべきである。

(金子熊夫氏=EEE会議代表)例えば朝日は、このペーパーが発表された翌日の8月6日の朝刊で、「原子力委がプルサーマル実施計画の明示を六ヶ所への持込みの条件として電力に押し付けた」という風に報じた。私が委員会事務局に確認したところ、「それは朝日の誤解であって、はっきり条件付けたわけではない」との回答だった。その辺について原子力委の真意は?  いずれにせよ、電力会社だけで3W、1Hを勝手に決められるわけではなく、地元の了解がいるが、今の時代、地方が非常に力をつけてきたことは認めざるをえない。問題は、地方を含めて一般国民をどう納得させるかということだ。8月5日の方針に従って報告を出させることが果たしてできるかどうか、原子力委の見通しは?

(遠藤委員)六ヶ所のアクティブ試験は来年7月位か。だとすれば、その前には第一次報告をしてもらう。

(豊田氏)六ヶ所の稼働率がどうなるかが問題だ。特に、プルサーマルが思うように進まず、ウランが溜まりつづける状況で再処理が続けられるか心配である。

(遠藤委員)地方に話をして歩く。地元町レベルと県庁レベルで大きな格差がある。

(永崎氏)原子力発電は周辺市町村には大きい利益があるが、県には利益にならない。県レベルの地場産業化していないことが問題である。優遇税制等制度上のメカニズムが必要だろう。例えば、BNFLやJNFLのように、電力会社なども思い切って本社を地方に移転するなど、もっと地元に溶け込む努力をすべきだろう。

(金子氏)ゴミ処理と原発の違いがある。ゴミ処理は受益者がはっきりしていて地元の問題だという意識があるが、電気の場合は受益者が大都会にいて地元は迷惑施設を受け入れているという意識がある。

(永崎氏)地元に発電事業本社を移転してはどうか。

(豊田氏)そんな出来もしないことを言うべきではない。最近、発電所長以下発電所幹部が、地元と接触する努力が足りなくて、地元の意向を的確に把握できていないのではないか。

(田中義具氏=特別会員、元軍縮大使)日本はNPTの模範生として対IAEAは極めて真面目にやっている。ところが国連総会などでニューヨークへ行くと、そこでは、侃々諤々、日本は大量のプルトニウムを抱えている、このプルトニウムはなくすべきだと、(外国のNGOからだけでなく)日本のNGOからも強い陳情を受ける。日本の原子力活動に対して国内外での温度差が大きすぎるように感じる。

(遠藤委員)日本核武装論が外国にあるのはよく知っている。数年前にヘラルドトリビューン紙に「日本核武装せず」という論文を書いた。海外の日本核武装論の背景には5種類くらいの議論がある。例えば単なる無知とか、ジャパン・バッシングとか。

(金子氏)東京の中央政府がいかに地方政府を説得できるかということではないか。数字や理屈はほぼ出尽くしている。それ以上いくら議論を重ねても、そう明らかな解はでない。残るは、政治的な判断、決断の問題である。誰が猫の首にスズを付けにいくかということである。

ところで、プルトニウム問題については、20年余前のINFCEのとき議論したIPS(国際プルトニウム貯蔵)構想は途中でポシャッてしまったが、最近また、あれにちょっと似たような国際レジームを創ったらどうかという提案がある。日本のためになるなら一肌脱いでやろうという動き(例えば、米国のベンゲルスドルフなどのグループ)もあるが、どうも日本側がその気にならないようだ。私は一考に価すると思うのだが。

さて、議論百出でなかなか収まらないところではありますが、時間も参りましたので、本日はここまでということにさせていただきます。                           

                                  
[文責在事務局]


配布資料:

原子力委員会「核燃料サイクルについて」(2003.8.5

同     「日本のプルトニウム政策について」(同日)


出席者リスト: 別掲