040118  Re:核燃料サイクルの経済性に関する問題点: 永崎氏への豊田氏の反論


標記の件に関する永崎隆雄氏のコメント(1/16)に対し、再び豊田正敏氏から次のよ
うな解明(反論)
が寄せられました。ご参考まで。
--KK

************************************************

永崎氏のコメントはいつもながら私の説明を十分理解できないためのものが多く一々
解明するつもりはない
が、重要なものについて簡単に解明する。私の論文、ハーバード大学報告書及び会計
学をもっと勉強されるこ
とをお勧めする。なお、この問題の本質的な部分については、明日の講演・研究会と
も関連があるので、
短時間で結構ですから説明の機会を与えていただきたい。

1. 償却 
(永崎氏のコメント)
減価償却は法律で定められ、課税所得から引いてくれる大変ありがたい節税源で,実
際の支出額ではありませ
ん。減価償却は利益であると経済界は理解しているのではありませんか。

(解明) 償却費は会計上明らかに経費であり、利益ではない。
  私は原子力発電所の実際の償却期間を現在行われている16年、定額償却を40年に
延長しろといっているの
ではない。電力経営者が他の施設との間の選択にあたって、40年で計算したコストに
基づく考えを採用できな
いかと提案しているのである。

(永崎氏のコメント)
チャレンジャーで拡張主義者は長期返済を選択すると思います。
 返済を長期にする事で年々の支出を少なくし、現在の利益をあげ、それを高利益率
の物に再投資し,更に利
益を挙げ、高度成長を早めます。

(解明) 逆で、例えば、ハイテク産業などでは出来るだけ償却期間を短くして資金を
早期に回収して再投資に
回すことによって競争力の確保を図っている。このことは経常利益が減ることにな
る。

(永崎氏のコメント)
 フランスやイギリスの再処理工場でも30年はもっています。

(解明)このような考えの人がいるので私の論文で物理的耐用年数と償却期間の違いを
丁寧に説明したつもりな
のでもう一度読み直していただきたい。これは会計学の基本である。
 なお、再処理工場の耐用年数については、東海再処理工場やUP2-400は、出力が定
格通り出ない(東海再処理
工場は定格出力210T/年に対し70T程度である。)とか、稼働率が低いとかで、商業用
とはいえない。また、設
計燃焼度も低い。設計燃焼度45000MWD/Tでの商業再処理工場といえるのは、UP3、
UP2-800及びThorpであるが
何れも10年程度の実績しかなく、Thorpは定格1200Tに対してトラブル続きで800T程度
しか期待できない。ま
た、将来トラブルで長期間停止し、多額の補修費が必要になる可能性もないとはいえ
ない。また、東海再処理
工場で経験したように、再処理量を制限せざるを得ない事態もありうる。このように
リスクを考えると償却期
間は15年程度にすべきである。

(永崎氏のコメント)
この珠洲原子力発電所のケースがあるにしても、これにより原子力計画が大幅に縮小
とは事実誤認ではないで
しょうか。

(解明) 珠洲原子力発電所のケースについては別途討議することになっているのでそ
の際、議論したい。

(永崎氏のコメント)
単なる統合は成功しないと思います。海外の例で見ますとフランスのフラマトムとド
イツのシーメンスはうま
くいくと思います。お互いにない物を補いあって、競争力を強化したからです。
 日本の場合は日立・東芝・三菱を統合して競争力を強化できますか?似たもの同志
の統合ではできないで
しょう。

(解明)ドイツでは、もともとPWRメーカーとBWRメーカー2社あったものをシーメンス
に統合し、それでも受注
が減ってきたのでフラマトムとの統合を考えたということである。
日本の場合と何処が違うのかお聞きしたい。国際的な競争力強化のためには1社への
統合が必要と考える。今
後、3社でそれぞれが十分な人材を維持することは経営的に成り立たないのではない
か。
なお、これに関連して、台湾の電力会社へのA-BWRの受注にあたって、主契約者が何
故GE社なのか、日本の
メーカーは下請けとして価格を低くたたかれていと聞くがどうなのか。何故一社に統
合して国際的に主契約者
になろうとしないのか。もともとA-BWRは東電が独自に技術開発資金を出してメー
カーの協力によって完成し
たものであるので、日本のメーカーが主契約者になるのは当然である。また、東電以
外から受注する場合に
は、東電が使った技術開発費の一部を返還することを考えるべきである。(これに対
する回答は益田氏から聞
きたい。)

(永崎氏のコメント)
 固定資産税や燃料税は地方自治体が産業立地の促進のため安くできる余地あると思
います。

(解明)地方自治体の税金は、地元住民の啓蒙な福祉増進のために必要で、固定資産税
は、償却により簿価が減
るとともに減ることにより、地元の原子力施設誘致のインセンティブが減るとして問
題になっている。これを
減らすことには地方自治体が受け入れるのは難しいと考えられる。従って、これに対
する見返りの何らかの財
源を考える必要がある。

(永崎氏のコメント)
 再処理費及びプルサーマル費用は高くなっていません。

(解明)私の論文の表に試算結果を示しているように、再処理費及び燃料加工費の高騰
により、プルサーマル
は、極めて割高となっており、ウラン価格が100ドル/kgUの場合、MOX燃料加工費
1000~1500ドル/kgHM、再処理
費573~656ドル/kgU以下にならなければプルサーマルは経済的でない。また、ウラン
価格が150ドル/kgUの場合
にも、MOX燃料加工費1000~1500ドル/kgHM、再処理費679~762ドル/kgU以下にならなけ
ればプルサーマルは経済
的でないという結論になっている。これは今後40~50年間は実現できないのではない
か。以上




----- Original Message -----
From: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>
To: <Undisclosed-Recipient:;>
Sent: Friday, January 16, 2004 11:13 PM
Subject: EEE会議(Re:核燃料サイクルの経済性に関する問題点)  


> 皆様
>
> 標記メール(1/16)の添付ファイル(「核燃料サイクルの経済性に関する問題
点」)
> において豊田正敏氏が提起されたいくつかの問題点に関し、永崎隆雄氏から
> 次のようなコメントが寄せられました。ご参考まで。
> --KK
>
> ******************************************
>
> 益田(恭尚)氏のご提案により豊田氏の考えに愚考を提出致します。
>                    永崎
>
>  T 豊田氏
>  原子力発電所の償却期間を40年としているが、電力自由化を控え、企業経営上
> は、運転開始後当初の数年間のコストが問題である。
>  再処理、MOX加工費についても同様であり、不確定さ、陳腐化を考えれば、償
> 却期間は15~20年程度とすべきである。
>  原子力発電プラントの減価償却の耐用年数を16年から40年に延長するとともに
> 定率償却から定格償却に変更する。
>           
>   私の見解
> 1.豊田氏の会計上の減価償却に対する誤解
>   減価償却は法律で定められ、課税所得から引いてくれる大変ありがたい節税
> 源で,実際の支出額ではありません。設備は15年、コンクリート建物は50年など
> と定められています。
>   減価償却は利益であると経済界は理解しているのではありませんか。だから
> 減価償却を40年にせよとは経済界の考えに逆行しませんか?新しい会計法では
> 定額法になっていませんか?
>
> 2.実際にかかる資本費は借入金の返済(償却期間)
>   これは15年で返済するか、40年で返済するか経営者の経営姿勢によります。
>   
>   チャレンジャーで拡張主義者は長期返済を選択すると思います。
>   返済を長期にする事で年々の支出を少なくし、現在の利益をあげ、それを
> 高利益率の物に再投資し,更に利益を挙げ、高度成長を早めます。
>    
>    中国の現在の高度成長政策やかっての日本の傾斜生産方式がこれに相当致
> します。      
>
> 3.実際の設備の寿命
>   アメリカの原子炉は元40年といっていたのが60年に延長申請しています。
>   これによって利益が上がり、再投資資金が貯まります。
>   フランスやイギリスの再処理工場でも30年はもっています。
>   メーカの人に言わせれば、原子炉の設備は取り替えができるため、寿命はコ
> ンクリート建屋が朽ち果てるまでの100年と言っています。この建屋も補修で寿
> 命延長できればもっと寿命が延びます。
>
> 4.設備の寿命を15年と見る見方の裏にあるもの
>   高い電力料を国民や国家に負担してもらう時のいい訳と思います。
>   アメリカの電力業者は寿命延長を考えます。
>
>  U 豊田氏
>  新規地点の原子力発電所の建設費には、用地費、整地費、進入道路費、立地対
> 策費、漁業補償費などが必要となり、かなり割高となる。原子力発電所は需要地
> から遠く離れているため、送変電費がかさむ。
>  
>  永崎見解
>  既立地を大切にする事が経済上も信義上も大切だと思いますが、地域の物価が
> 上がったり、敷地が狭く、プラント集積による経済性向上などの発展余地がなく
> なったりする場合は六ヶ所のような新天地に展開する必要があると思います。送
> 電コストも含めて、大規模化によってKW当たりの単価を下げれると思います。
>  
>  V 豊田氏
>  原子力発電所の場合、設備利用率は80%を前提としているが、深夜電力は割安で
> しか売れないし、それでも利用出来ない深夜電力は、揚水式水力発電所により、
> ピーク電力に変えるための加工費が必要となる。ということから、余分の送変電
> 費及び揚水式水力発電所のコストを加算する必要がある。
>
>  永崎見解
>  この発想には賛成致します。
>  如何に安く発電するかと同時に如何に高く売るかと言う観点が電力会社を発展
> させる新天地です。
>  電力は深夜電力を使って、水素を作ったり、アルミを作ったりしたら如何でし
> ょうか。自由化の恩恵を最大利用すべきです。
>  アメリカの五大湖の大量の水力発電がデトロイトの自動車産業を起こしたよう
> に、余った電力を安く売ればキット新しい産業が興ります。
>
>  W.豊田氏
>  この珠洲原子力発電所のケースは今後の新規地点の建設に暗い影を投げかけて
> いる。これにより、原子力計画は大幅に縮小され、わが国の地球温暖化のための
> 国際約束が守られるかどうか危惧される。
>  しかし、電力自由化により、電力会社に国の政策を押し付けるわけにはいかな
> い。
>
>  永崎見解
>  これにより原子力計画が大幅に縮小とは事実誤認ではないでしょうか。
>
>  産業省H15年原子力新増設計画では  19基 2459.3万KW(建設中3
> 基384万KW)
>  今回 合計 3基352万KWの減少→ 16基 2107万KW
>   珠洲2基×135万KWの凍結 
>    理由:将来の電力需要減予測、反対運動による可能性調査困難化、用地買
> 収困難化
>   巻 1基  82.5万KWの中止 
>    理由:反対派町長の用地売却
>  
>  ヨーロッパやアメリカと比べてみても世界一原子力が活気のある国です。別添
> 参照
>
>  自由化によって、公平な競争社会を作り、努力する者が怠け者の独占者を放逐
> し、経済性や品質や環境等の社会経済を良くする。
>  自由化には無法者がのさばらないように政策誘導税制や公平な競争保障等で政
> 策誘導が必要と思います。
>
>  X.豊田氏
>  海外のメーカーでは、生き残りをかけて国の間での統合も考えているのに鑑
> み、わが国でも原子炉メーカー三社を他の重電機器も含めて一社に統合し、国際
> 競争力を持たせることにより、海外の原子炉プラントも受注することによって受
> 注する原子炉の数を多くしてコストダウンを図ることが必要と考える。
>
>  永崎見解
>  単なる統合は成功しないと思います。海外の例で見ますとフランスのフラマト
> ムとドイツのシーメンスはうまくいくと思います。お互いにない物を補いあっ
> て、競争力を強化したからです。
>  BNFLのWH社買収も燃料屋と発電機器屋の合体です。
>  日本の場合は日立・東芝・三菱を統合して競争力を強化できますか?似たもの
> 同志の統合ではできないでしょう。
>
>  Y 豊田氏
>  機器、装置の発注に当たっては、海外も含めて国際競争入札により、価格の低
> 減に努めるべきである。この際、我が国の安全基準を国際並に近づけるととも
> に、海外のメーカーに対する官庁検査の立会いを海外の検査機関に代行させるこ
> とも考慮すべきである。また、これらの輸入される機器、装置の関税を撤廃すべ
> きである。
>
>  永崎見解
>  賛成致します。中国の核動力運行研究設計院は検査補修を大亜湾発電所で勉強
> し、日本の市場を狙っています。
>  運転と補修を1社に統合しようという提案があります。自由化を控え、原子力
> 発電コストの3つの改革は1.サイクルコスト、2.建設コスト、3.運転コス
> トの改革です。運転コストの改革にも取り組むべきだと思います。
>  
>
>  Z.豊田氏
>  火力発電に比して資本費の比重が高い原子力発電は、運転開始後、数年間の電
> 力コストが高いので固定資産税、燃料税などの税負担を運転当初の5年間減免す
> るか、国により補填する。
>
>  永崎見解
>  税金を計算する会計帳簿上の話と実際のコストを混同されていませんか?
>  初期の減価償却額や固定資産税の高さは会計上の所得を減らし、法人税を減ら
> し、企業にとっては良い事です。
>  固定資産税や燃料税は地方自治体が産業立地の促進のため安くできる余地ある
> と思います。
>
>  [ 豊田氏
>  再処理費及びプルサーマル費用が予想外に著しく高くなっているだけでなく、
> その見通しが不確定であるので、核燃料政策の抜本的見直しを行う。
>  炭酸ガス放出施設、装置に対して炭素税を課し、それを原子力発電所の建設助
> 成金に充当する。
>
>  永崎見解
>  高くはなっていません。
>  政策見直しは、それよりも廃棄物を垂れ流しにする事がまかり通らないよう
> に、ワンススル−や炭酸ガス放出には課税したり,規制したりする必要がありま
> す。国民の安全確保上やってもらわねばなりません。
>
>  \ 豊田氏
>  これらの対策をとったとしても、電力経営者が新規地点の建設に意欲を示すか
> どうか疑問である。 
>
>  永崎見解
>  チャレンジしない経営者を淘汰するための電力自由化ではないでしょうか。
>  国内に大きい独占市場があったから日本の原子力は安易に成長できたけれど
> も、しかし今見ると日本の原子力の競争力は低い。
>  必要は発明の母は昔の計画経済の考え。今や発明は必要の母の時代。
>  自由化という発明が改善の必要を生み、日本の原子力を生き返らせると思いま
> す。
>  1/2リストイラと言う発明が合理化の必要を生み、企業を生きかえらせ、又
> 新産業創生ニーズを生んでいる中国を見習う時ではないでしょうか。まさに発想
> 豊な経営者の出番ではないでしょうか。
>
>      以上
>
>