EEE会議 第9回講演・研究会 議事録 (最終確定版)

日時:2004年1月19日 14:00〜16:00

場所:(財)原子力発電技術機構会議室(港区虎ノ門4−1−8虎ノ門MTビル7F

講師 後藤茂敏氏(福島県企画調整部エネルギーグループ参事)

   佐々恵一氏(同グループ主任主査)

演題 「福島県から見た日本のエネルギー政策」


[講演]

(後藤茂敏氏)

福島県の後藤と申します。企画調整部のエネルギーグループの責任者を仰せつかっています。福島県庁では機動的な組織づくりをするため、課をなくしてグループにしました。エネルギーグループでは、主にエネルギー政策の検討と電源三法交付金の総合調整を行っています。当グループのうち、エネルギー政策検討のスタッフは3名です。原子力安全規制関連については、原子力安全グループという別の組織で担当しております。本日は、専門家の皆様の前で大変僭越でございますが、電源立地地域の立場からお話させていただきたいと思います。

 

 お手元に「あなたはどう考えますか?〜日本のエネルギー政策〜」というパンフレットをお配りしました。これは、福島県エネルギー政策検討会での議論をまとめた「中間とりまとめ」(平成149月)の論点を要約したものです。本日はこれに沿ってお話したいと思います。

 はじめに県の概況ですが、福島県は明治以来、首都圏をはじめ各地に電力を供給してきました。発電量は全国の約1割、東京電力の約4分の1を占めています。東京電力が県内で発電量している約9割は原子力によるものです。

 福島県の広さは一都三県(埼玉、千葉、神奈川)と同程度で、会津地方には主に水力発電所、浜通り地方には火力発電所と原子力発電所があります。原子力発電は福島第一と第二あわせて10基、909kWとなっています。原子力発電だけですと福井県が970kWで全国一ですが、福島県には水力、火力、地熱もあり、わが国最大の発電県となっています。

ところが、福島県は県内で作っている電力の約1割しか自ら使っていません。一部は東北地方へ送られますが、多くは首都圏に送られています。発電しているのは、自ら使う電力ではなく、主として首都圏向けの電力であるという特色があります。

 

福島県がエネルギー政策の検討に至った経緯を振り返りますと、佐藤知事が知事に初当選してまもなくの昭和641月、福島第二原子力発電所で再循環ポンプの事故がありました。だいぶ県議会でも問題になり、地域住民と事業者の安全に対する認識の違いが浮き彫りになりました。知事は、事故の教訓を事業者間で共有する水平展開を訴えるとともに、権限のなさ、安全管理体制に関して国に頼らざるを得ないことを痛感し、隔靴掻痒の思いだったとよく申しております。

 平成5年には、事業者から福島第一原子力発電所に使用済み燃料を一時貯蔵するための共用プール設置をしたい旨の申し出があり、知事は当時の通産省の担当課長から2010年には使用済み燃料は減っていくという説明を受け、設置を了承しました。ところが、その後、原子力長期計画が改定され、この国との約束が反故にされました。

また、平成7年末にはもんじゅの事故があり、これをうけて翌年1月には新潟県、福井県とともに総理大臣に対し「三県知事提言」を行い、「国の責任において国民の合意形成を図ってほしい」等の提言をいたしました。

 その後、橋本総理よりプルサーマルを実施してほしいとの要請があり、約1年かけて検討を行い、平成10年に全国で初めて「プルサーマルの事前了解」をいたしました。その際、「核燃料サイクルに対する国民理解の促進」、「MOX燃料の品質管理」、「作業者の被ばく低減」、「使用済みMOX燃料の長期展望の明確化」という4項目の要請を付しました。また、 平成11年のJCO事故の際には、知事は茨城県に接する本県の保健所に駆けつけましたが、いつもなら親しげに話しかけてくる県民が、青ざめた表情で被ばく検査を待っている姿を見て、大変ショックを受けたようです。

 平成131月、MOX燃料のデータ改ざん等で国民の理解が後退しているなかでプルサーマルを本県で強行しようとする動きが報道され、さらには、翌2月、東京電力が新規電源開発を原則3から5年凍結すると一方的に発表しました。発電所の建設は、地域にとって大変大きな影響を与えるものであり、このままでは地域がだめにされかねないことから、電源立地県の立場でエネルギー政策を検討するため、平成135月にエネルギー政策検討会を設置いたしました。検討会は会長が知事、副会長が副知事と出納長、構成員は各部局長となっており、審議会的なものではありません。

 そして、検討を進めている中、平成148月に東京電力の自主点検作業記録に係る不正問題が発覚したわけです。ご留意いただきたいことは、当検討会は、この不正問題発覚以前より活動を開始していたということです。以上が当検討会発足に至る経緯です。

 エネルギー政策検討会では、県民の皆様からいただいた216項目もの意見をもとに4つのテーマ、「21世紀における科学技術と人間社会のあり方」「エネルギー政策について」「原子力政策について」「地域振興について」を設け、それぞれについて有識者との意見交換を行いながら議論を重ねてきました。平成148月には原子力委員会とも意見交換をしました。そして、検討会の「中間とりまとめ」を行っている最中に、東京電力の不正問題が発覚した訳です。

 翌月の9月に「中間とりまとめ」を出しました。これに対するパブリックコメントを募集し、全国から240件もの意見が寄せられました。たくさんの応援メッセージもいただきましたが、エネルギーセキュリティを考えて欲しいという意見なども寄せられました。

私たちは今の原子力発電所を否定しているわけではありません。原子力には良いところもあるし悪いところもある。良い情報ばかりでなく、悪い情報も出していかないと国民の理解や支持を得られないのではないか。情報公開を徹底して国民に納得してもらうことが重要だと考えています。

私たちは住民の立場、電源立地地域の立場から見ております。エネルギーのプロである皆様が全体の鳥瞰図を見るのに対し、私たちはいわば虫瞰図というわけです。井の中の蛙といったほうがよいかもしれません。しかし、このようなミクロな考えをご理解いただいた上で大局的な事柄を議論していただきたいと思います。

 東京電力の不正問題は、福島県と新潟県の原子力発電所のものでありますが、そのほとんどは福島県の原子力発電所にかかるものです。この発表があったとき、一番ショックを受けたのは、原子力を推進してきた人々、地元の首長さん、議員の方々ではなかったでしょうか。東京電力に対してだけでなく、国に対してもなぜ不正を見抜けなかったのかと強い怒りを覚えました。国は申告を受けながら2年間も立地地域に知らせず、その間、原子力発電所の安全のPRを大々的に行っていたわけです。不正問題公表前に、ファックスで連絡が来ただけでした。その時、知事が不在で副知事が記者会見をいたしましたが、「今後、一切、国の原子力政策には協力できない」とまで言い切ったのです。

国がやってくれている、世界有数の企業である東京電力がやってくれているという信頼があるからこそ、原子力発電所の隣に枕をおいて寝てられる。でもその信頼が崩れた。シュラウドぐらいたいしたことないという話もあるが、信頼を裏切られたショックは非常に大きかった。

少し話がそれますが、原子力発電所に対する信頼が損なわれている今の時期に、維持基準を導入することに対しては多くの県民が疑問を持っています。また、不正事件発覚以来、東京電力は一生懸命体質改善に努めていますが、その後、工具を含む約1000個の異物が圧力抑制室から見つかるということも起こりました。再開に向けて動き出そうとすると何か起こる。東京電力の下請けが多層構造となっており、なかなか全体に浸透しないのではないでしょうか。東京電力の社長さんが「最近、社員が下請けの社員とお互いに挨拶するようになった。」とおっしゃっていましたが、それまで挨拶を交わしていなかったとすれば驚きです。

一方、原子力安全・保安院は、十分に安全管理の役割を果たしているのでしょうか。保安院が不正を発見したということがあるのでしょうか。福島県がいろいろ言って事業者が自主点検をしてみた結果、いろいろと問題が出てきているのではないでしょうか。また、昨年発足した原子力安全基盤機構には電力会社からの出向者が多く、推進と安全規制の分離の観点からは疑問です。さらに福島県は保安院が電力供給責任を持つ経済産業省の中にあるのはおかしいというのが基本的立場であります。推進と規制は分けるべきであると考えております。

 

以下、検討会の「中間とりまとめ」の主な論点についてご説明したいと思います。

はじめに需給構造の変化についてですが、エネルギー需要はこれからも伸び続けていくのでしょうか。新たな電源立地は必要なのでしょうか。消費地から離れたところに大規模電源を持ってくるパターンが続くのでしょうか。待機電力の低減化、ライフサイクルの変化、コージェネや燃料電池など分散型電源の普及などにより、情勢が変わっていくのではないでしょうか。

また、新エネルギーの割合が日本はEUに比べて非常に低い水準にとどまっています。新エネルギーにはエネルギー密度が低いとか不安定であるとか、いろいろ課題はあるでしょうが、いかにも低いと思います。もう少し導入政策をとるべきだと思います。RPSなどもありますが、新エネルギーを育成するため、高く買うような制度をもっているドイツなどと比べるとかなり見劣りがするのではないでしょうか。過日、電力中央研究所の論文発表で、日本のエネルギーの研究開発は、米国に比べ、原子力に偏っているという報告がありました。かなり原子力に肩入れしている状況であり、見直しの必要があるのではないでしょうか。

 次に原子力政策の決定プロセスについて移りたいと思います。まず十分な情報公開が必要です。現在行われている情報公開は、情報が専門的で難しく、もっと情報をわかりやすく発信していただく必要があります。また、情報も小出しで全体像がつかみづらくなっています。さらに、反対論が十分に出ていないと思います。これらの点については検討会の講師をしていただいた村上陽一郎先生や西澤潤一先生からも指摘されている点です。

 また、政策に国民の声が十分に反映されているのでしょうか。まず仕組みづくりが大切であると考えます。確かにこれまで原子力政策円卓会議、市民参加懇談会などいろいろな会議が開催され、多くの意見が出されますが、結局は、ほとんど聞いただけで、政策の中心的な部分は動かない状況にあると思います。国は複数の選択肢を国民に提示した上で、国民が選ぶ仕組みづくりをおこなっていく必要があるのではないでしょうか。デンマークのコンセンサス会議などが参考になると思います。

 さらに、原子力政策の評価はきちんとなされているのでしょうか。原子力に要する費用は極めて大きく、ここまで投資したのだから既定の路線を堅持するということになりがちです。適切に政策評価を行うことが重要と考えます。たとえば、全量再処理路線は30年以上も前に長期計画に位置づけられて以来変わっていません。しかし、ウランの需給など環境は変化しているのではないでしょうか。

 また、どこで原子力政策が決定され、だれが責任をとるのでしょうか。原子力委員会、原子力安全委員会、経済産業省(資源エネルギー庁、原子力安全・保安院)とありますが、どこに真の権限・責任があるのか国民の側から見て不明確です。

 さらに、原子力を推進する理由として、地球環境、地球環境と言いすぎではないでしょうか。確かに、二酸化炭素は運転時に出しませんが、地球環境に多大な影響を与えかねない放射性廃棄物を出すことにもっと言及すべきではないでしょうか。

 コストに関しても、原子力発電は5.9/kWhさらには、それ以下という数字がありますが、これは事業者が負担する金額で、これ以外に社会が負担しているコストがあります。原子力には安全規制に関する経費、研究開発費など毎年5千億円ほどの税金が投入されています。これを全部コストに算入するかどうかは検討が必要でしょうが、原子力の発電量は年間3千億 kWhぐらいですから、単純に計算すれば、kWh あたり17円の税金が投入されていることになります。

また、電力自由化と原子力は相容れない面が多く、この辺の話を整理しなければならないと思います。自由化の下でも、きちんと安全に配慮してくれるのか。引当金制度があるといっても事業者の体力が落ちれば、廃炉は適切になされるのか、立地県としては不安が残ります。戦後、傾斜生産ということで石炭がもてはやされましたが、エネルギー革命で多くの産炭地域は衰退に追い込まれてしまいました。本県の原子力も稼働以来30年を超えているものもあり、廃炉も視野に入れて地域振興を考える必要があります。

次に核燃料サイクルについてです。核燃料サイクルは必要なのでしょうか。本当にウランは無くなるのでしょうか。可採年数が60年というがこれはあくまで経済的な見合いの話で現実的にはもっとあるのではないでしょうか。また、海水からのウラン採取をなぜまともに取り上げないのでしょうか。

プルサーマルは本当に資源の節約につながるのでしょうか。ウランの節約効果について、吉岡斉先生はせいぜい1割、一方、国は4割と言っています。この差は、回収ウランを利用するかどうかによると思いますが、この前提条件が説明されていません。

 また、コストについては、これまで、時々、新聞にバックエンドのコスト試算が出ますが、その都度、電事連がそれを否定するというパターンが続いていました。バックエンドコストをきちんと評価すべきです。心配なのは稼働率です。再処理工場は本当に800トン/年で操業していけるのでしょうか。操業率が下がった場合、再処理工場は固定費的費用が多く、コストが跳ね上がることになります。建設コストも当初の見通しに比べかなり膨れ上がったのではないでしょうか。また、ワンススルーについて、国はOECDの計算を引用して再処理と比較して2から3%程度しか安くないとしていますが、OECDの試算では年間再処理能力1200トンの再処理工場の建設費を5000億円と見積もっていると聞いたことがあります。六ヶ所再処理工場は800トンで214百億円です。ワンススルーについてもコスト計算をすべきではないでしょうか。

プルトニウム・バランスについてですが、海外再処理委託分が約30トンあります。これをMOXとして使い切るだけでも、かなり長期間を要します。その上、国内で再処理をすると余剰プルトニウムを生み出すことにならないでしょうか。

高速増殖炉については長期計画でもだんだん記述があいまいになってきています。再処理の意義があるかどうかは、高速増殖炉をやれるかどうかにかかっています。これをやらないで、MOXだけでは再処理の意味はないといわれています。

核燃料サイクルについてすべて否定するつもりはありませんが、良い面ばかりが言われすぎている感じがします。正しく国民に情報が伝わっているのでしょうか。

また、立地地域の将来につきましては、原子炉の寿命を設計寿命といわれる40年とすると、県内のすべての原子炉が2027年には寿命を迎えます。また、原子炉の寿命を60年としても2047年にはすべて寿命を迎えます。地域づくりには時間がかかることを考えますと、廃炉を見据えた地域の将来を考える必要があると考えております。

 

 最後のまとめですが、平成8年の「三県知事提言」以降、再三にわたり指摘してきたように原子力発電所立地地域の住民の立場を十分配慮しながら、徹底した情報公開、政策決定への国民参加など、まさに新しい体質・体制のもとで今後の原子力行政を進めていくべきであると考えています。

一昨年、欧州に調査に行ってきましたが、欧州の多くの国ではエネルギー政策が国会の議決や国民投票によって決められています。スウェーデンではバーセベック原子力発電所第1号機が廃止されました。「最近ではスウェーデンでは原子力発電所存続の雰囲気が強くなってきているという話を聞きますが」と政府の方に質問いたしましたら、「どこかで事故が起こればまた元に戻る」との答えでした。ベルギーでは使用済み燃料の最終処分ができないで原子力発電所をやめることになったという話を聞きました。一方、スイスでは原子力発電所存続の方向が国民投票で決定しました。日本のエネルギー政策決定ではこのような民主主義のプロセスが欠けているのではないでしょうか。

以上、いろいろと述べて参りましたが、立地地域の率直な気持ちとして捉えていただければと思います。「中間とりまとめ」の「おわりに」には「原子力の健全な維持・発展を図るためには」ということで提言をとりまとめております。ご静聴ありがとうございました。

 

[ディスカッション]

豊田正敏氏(元東京電力副社長、前日本原燃社長)

福島第一の一号機からずっと手がけてきた。東京電力と地元の関係は木川田さんや平岩さんの時代は良好だったが、どこかでボタンの付け違いがあった。また良好な関係になるよう希望します。

原子力発電自身は福島県さんも否定されていないのではないか。原子力は長期的に大量のエネルギーを安定的に供給できる。石油には価格高騰のリスクがある。地球温暖化の話もある。原子力だけに頼るのではないが、電源の多様化が必要だということでご理解いただきたい。

コストについては福島県のお考えとそんなに変わらない。特にバックエンドについては、当初考えられていたよりもかなり高くなっている。

ただ、福島県の方にお願いしたいのは、すでに英仏に委託した再処理でプルトニウムがたまっている。これらはプルサーマルで燃やすしかない。もし、再処理しないとなるとどうなるか。原子力発電所の使用済み燃料プールが満杯になると、原子力発電を止めなければいかなくなる。そう考えると、当分は再処理をして使用済み燃料の量を減らしていかざるを得ない。

 

永崎隆雄氏(日本原子力産業会議調査役)

「中間とりまとめ」が信頼を裏切られたという点から出発し、政策を考えないと解決しないと言うことで「信」からそれを越える「義」即ち正義や政策に進まれた点を評価したい。ただし、「仁義信」という価値基準からは義を越える「仁」即ち人類愛や慈悲の観念をいれ、更に提言されるともっと良くなると思う。これまで原子力委員会の原子力長計は原爆の不幸を原子力平和利用で人類の福祉に役立てようという原子力の仁、愛が根本となっている。これが原子力を発展させてきた。この様に変えてはいけない根本がある。原子力の核燃料サイクル推進は恒久の福祉を人類にもたらす基本的な部分であり、変えてはいけない。

 

豊田正敏氏(元東京電力副社長、前日本原燃社長)

情勢が変わったら政策を見直すべきではないか。従来の政策に固執している点が問題である。

 

後藤茂敏氏(講師)

よく具体的な解決策が述べられていないという指摘を受けますが、だからといって地域から声を出してはダメだということにはならないのではないでしょうか。地域は素人だから口出すなという話はおかしいと思います。地域は森の中の1本の木として、痛いところ、痒いところを叫んでいます。国の計画の中では3,5年の延期は大きな話ではないかもしれないが、地域にとっては重大問題です。きちんと地域の意見を尊重するような仕組みづくりを行ってほしい。

 

永崎隆雄氏(日本原子力産業会議調査役)

木の気持ちもわかって欲しいということは理解できる。しかし、木だけでは解決しない問題もある。例えばバックエンドのコスト問題などそこだけでは高いかもしれないが運転費や原子炉建設費の改善で解決できる。福島県だけでは解決しないことも全体の中で解決できる。

 

後藤茂敏氏(講師)

バックエンドなどのコストの問題でも議論がすれ違いで終わっているのではないでしょうか。きちんと専門家同士が議論して整理してほしい。意見を言う人はたくさんいますが、行司役がいないのではないでしょうか。また、なぜワンススルーのコスト計算をしないのかも疑問ですし、さらに島国だからエネルギーセキュリティが重要だと言っていながら、どうして50ヘルツ系統と60ヘルツ系統の変換設備が原子力発電所一基分の90kWしかないのでしょうか。たとえばBWRが全部止まるということは危機管理として当然考えなければならないことだと思います。

スウェーデン(注 フィンランドの間違いです)では漁業補償を行っていないそうです。それだけ事業者と地元が対話を十分におこなっているのかな、との印象を受けました。日本では、ややもすると国民に余計なことを話すと変な方向に行ってしまうのではないかという風に専門家が考えているのではないでしょうか。

 

豊田正敏氏(元東京電力副社長、前日本原燃社長)

漁業補償の金額は最初はそれほどではなかったが、だんだん高くなってきた。これは問題。海水温度が上がるとむしろ魚は取れるようになるという話もある。漁業補償はスウェーデンにはないと仰るが、核燃料税も他の国では例がない。

 

中川政樹氏(丸紅ユーティリティ・サービス常務取締役本部長)

「中間取りまとめ」は問題点の整理にはなっているが、解決策が提示されていないという印象を受ける。昨年の夏はたまたま冷夏であったから停電にならなかった。しかし、東京は首根っこを福島県に押さえられてしまっている。言いたいことだけ述べて解決策は国でというのでは、県として責任転嫁である。議論の場に出てくるべきだ。

 

後藤茂敏氏(講師)

地元はリスクを背負っていることを御理解いただきたい。平成教育委員会というテレビ番組で、「今年の夏、○○が全部止まった」(答えは原子力発電所)という問題に出演者の多くが答えられなかった。首都圏ではこの程度の認識しかないのかとがっかりしました。地元では「電力供給県の義務として再開すべき」、「停電になったら高齢者や障害者の方がまず困る」、いや、「ここで首都圏にエネルギーについて考えてもらう良い機会だ」とか大変な議論がありました。

電源立地県として駄々をこねる気はありませんし、まして、運転再開を人質にして自らの主張を通すつもりはまったくありません。県民の理解が得られた上で運転再開できるのかどうかという話です。その心情はご理解いただきたい。

 

遠藤哲也氏(前原子力委員会委員長代理)

今日は民間人としてコメントを申し上げたい。一昨年、原子力委員会は福島県と議論して、原子力委員会の姿勢を昨年8月に明らかにした。

もんじゅについては、ご発言と同感。もんじゅがなければ核燃料サイクルは中途半端な存在。長計の中でももんじゅの位置づけがもやっとしてきている。これはよくない。FBRについてきちんとしたロードマップを作成することが重要。

プルバランスについて。プルサーマルが期待通り、1618基動くような前提でやれば、若干のタイムスパンをとれば問題はない。

自由化の問題。プルサーマルが若干高いのはその通り。プルサーマルをやる理由は、エネルギーセキュリティと地球温暖化問題。これは究極的には国の責任。食糧や軍事と同じ。国は電力会社の言いなりになることはまったくない。これは私人としての意見。

日米の予算比較については間違っていると思う。日米の原子力予算を単純に比較できない。米国の軍事予算をどう見るか。また日本では加速器などが原子力予算に入っているが、米国では入っていない。

核燃料リサイクルとワンススルーの関係。最近、MITからレポートが出た。ワンススルーが最善と書かれていたが、即座にコメントを出した。核燃料リサイクルには国民の理解が必要。ただし、比較検討のプロセスをもう少しやってもいいのではないかと思っている。

 

豊田正敏氏(元東京電力副社長、前日本原燃社長)

エネルギー・セキュリティに関して、僅か1割のウランを節約するためだけに、なぜ割高なプルサーマルをやらなければならないのか。それをいうならなぜ同じ1割の節約ができる回収ウランの利用を考えようとしないのか。

レーザー濃縮はさらに2割のウラン節約の効果がある。エネルギー・セキュリティというのであれば何故これらもやらないのか。

 

斯波正誼氏(原子力発電技術機構非常勤参与)

 福島県はリスクを背負っていると言われたが、リスクの受容度については原子力以外のリスクも考慮に入れて検討するべきだ。災害や火災などより原子力のリスクが格段に小さければリスクを背負っているということにはならない。東京都民だって色々なリスクを背負っている。福島県では、原子力発電所がなかったときに比べて、原子力発電所によってリスクが大きくなったと言えるのか。原子力のリスクは他のリスクに比べて小さく、それらのノイズの中に入ってしまうほどの大きさである。確かに信頼ギャップの問題はある。しかし、そこが解決されれば問題ないはずだ。

 

後藤茂敏氏(講師)

確かに工学的にはそうなのかもしれない。しかし、これまで安全だ安全だと言っていた人に裏切られた。いくら確率が低くても地元の安心にはつながらない。事故があったとき想定外の事故だったとかはよく聞く話です。確率が何百万分の一とかいいながらも、事故が起こらない保証は無い。地元は常にリスクを抱えて生活していることを御理解いただきたい。万が一のことがあれば、立地地域ばかりでなく、県全体がだめになりかねない。

 

山名康裕氏(月刊エネルギー編集長)

リスク論のわかる人にはリスク論で説明できるでしょうが、多くの人たちには理解しにくいと思われる。国や電力会社の人たちは、地元の人たちの目線で説明しないといけないと口ではいっているが、実際にやろうとするとなかなかできない。まずは福島県民の人たちの心をもっと知る必要がある。最近の県民は原子力をどう見ているのか、アンケート調査の結果などがあれば教えていただきたい。

 

後藤茂敏氏(講師)

解決策を提案せよおっしゃるが、われわれは地方自治体に過ぎません。だから、疑問点の提示にならざるを得ない面があります。たとえば、推進と規制を分けて欲しいと言うことはできるが、ではどうするかについては、われわれが決めることではないと思います。

県民にもいろいろな意見があります。しかし、県のやり方には理解を示している方が多いと受け止めています。今、県民意識調査を実施していて結果が、まもなくまとまる予定です。

 

豊田正敏氏(元東京電力副社長、前日本原燃社長)

一般の人と専門家での間でリスクに関してギャップがある。もんじゅの判決も突き詰めればリスクの議論。学会などで社会心理学者も加えて真正面から取り上げるべきだ。

 

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

リスクが10のマイナス何乗などと言われても素人にはピンとこない。実際に原子力には色々な人間が関わっている。日常原子炉を運転している電力会社の社員はしっかり訓練されているが、でもJCOのようなことも起こったということ。一般市民には両者の区別がつきにくい。この問題は、理系的な、定量的な話だけで済ませられることではないと思う。

福島県と言っても広いわけで、沿岸部と内陸部では原子力発電所の捉え方も相当違うだろうと思う。かつて25年程前、オーストリアのツヴェンテンドルフ原子力発電所でも国民投票をやってみたら、地元住民は大方賛成だったのに、ウィーンやザルツブルクなどの大都市住民の反対で廃止になってしまった。巻原子力発電所も似たような事情だった。福島県でも市町村によって微妙な差があるのか。

 

後藤茂敏氏(講師)

そこまで詳しい調査は行っていませんが、中通り地方の都市部では意識の高い方が多いように思います。県民の意見を聴く会では、会津地方から、むしろ首都圏に対して厳しい意見が出ています。浜通り地方では、原子力発電所に勤めている方もおり、複雑な思いがあります。

 

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

東京と福島。感情的な部分もあるだろう。ロジックだけではなかなか割り切れない。もう少し政治家にも動いていただかないといけない。大都会に住む人間と立地地域の方々のコミュニケーションに我々の会も多少なりとお役に立てればと思っている。

 

永崎隆雄氏(日本原子力産業会議調査役

「仁」ということも大切だが、「利」−県民の利益と言うことも大切だと思う。産業界では、原子力に対する注文が減っている。原子力産業が危機に面している。原子力産業を守り、伸ばすということが福島県にとっても重要なのではないかと思う。

 

柴山哲男氏(クリハラント営業本部副本部長)

本質的な問題と一時的な問題を区別する必要がある。ウラン資源もまだあるという話もあるが、日本は全面的な輸入国という構造に変わりはない。海水ウランに今の段階で全面的に賭けるわけにはいかない。

FBRにしても、もんじゅが遅れたということもあるが、これも一時的な話で、FBR自体がだめだという話にはならない。プルサーマルのトラブルについても、プルサーマルそのものについて何か問題があったわけではない。核燃料サイクルの議論でも、遅れているという一時的な点に目を奪われすぎで、その必要性は変わらない。

 

石井陽一郎氏(エネルギー発言の会会員)

国からの連絡が悪いとか、そういう点は改善すべきだが、すべての問題に県が関与すべきということではないだろう。維持基準の話などは非常に専門的で、決定までの段階すべてに県が関与しなければならないのか疑問。          

 

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

立地県町村で原子力を担当しておられる方は、よく勉強しておられるし、基本的には反原子力発電所ではないと思う。しかし、一般市民は細かな数字だけ突きつけられてもどうしようもない。情報公開といっても、大量の情報をただ出せばいいというものではない。結局依らしむべし、知らしむべからずになってしまう。根本問題はやはり、資源小国・日本のエネルギーの脆弱性を如何にして克服するかで、原子力の重要性、必要性についても日本人同士冷静に話合えば分かる問題のはず。お互いにもっと勉強して、胸襟を開いて話をしていくことが必要だ。

 

吉田康彦氏(大阪経済法科大学教授)

このパンフレットは非常によくできていて、これを作成した努力に敬意を評する。解決策を提案するべきというコメントがあったが、一地方団体に代案を出せというのは無理な話である。今後も3県でこのような検討を進めて欲しい。

 

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

反対オンリーのNGOとは違い、立地県にはリスクとインタレストがある。本日お話いただいたような県としての活動は福島県が先鞭をつけられたわけで、今後とも他県とも共同でやっていただきたい。本日のお話は我々にとっても非常にエデュケーショナルであったと思う。福島県はじめ原子力発電所立地県の問題には我々も日頃から大いに関心を持っており、今後とも情報交換などを通じてお互いに意思疎通を図って行く上で、及ばずながらできるだけ貢献してゆきたいと思う。本日はご多忙のところご足労いただき、誠に有難うございました。

                                             以上