EEE会議 第10回講演・研究会 議事録 


日時: 2004210日(火曜日) 14:0016:00

場所: () 原子力発電技術機構会議室

講師: 片山和之氏(外務省経済局国際エネルギー課長)

演題: 「日本のエネルギー外交:現状と課題」

 

【講演要旨】

 

石油によって左右されてきた日本の歴史            (配布資料p.3-4

    石油のほぼ100%を輸入に依存している日本、エネルギー安全保障の脆弱性
  

今後の世界のエネルギー需給見通しと政策

@IEAエネルギー需給見通し                     

       世界全体のエネルギー源は、経済成長による需要増大が見込まれるものの、2030年までのエネ
      ルギー需要を満たすのに十分な量が存在 (
p.5

 A中東・・・世界の原油生産に占める割合 約1/3     
      世界の確認埋蔵量に占める割合 約
2/3 (p.6-8

  B日本・・・一次エネルギーに占める石油依存度は、2002年石油ショック後初めて50%を割ったが、中東
      依存度については、第一次オイルショック当時よりも上昇し、現在
90%弱。 p.9

 C米国・・・世界最大の石油消費・輸入国、世界第3位の石油生産国
         中東依存度は25%程度で日本よりも低いが、さらなる多元化を図っている(南米、ロシア・西ア
      フリカ等に)。また水素エネルギー開発も重視 (
p.10)                
      (私見)イラク攻撃の主目的は、石油利権ではなく、やはり安全保障上の政策とみる。

 Dロシア・・・世界最大の天然ガス生産国、世界第2位の石油生産国
      主な輸出先は欧州                      p.11

 E中国・・・世界第2位の1次エネルギー消費国
         明確なエネルギー国家戦略を持っているとの印象     
         原子力は補完的な位置付け、主要エネルギーは現在も将来も石炭。(p.12-13)   

 F中央アジア・・・「第2の北海油田」地政学的に重要な位置を占める。   (p.14

 Gエネルギーを巡る各種国際主要アクター              (p.15-20

      OPEC / IEA / IEF / エネルギー憲章会議 / 石油メジャー /その他

 

国際紛争と石油価格動向 

1次オイルショック (p.21

2次石油ショック  (p.22

湾岸危機       (p.23

米同時多発テロ    (p.24

イラク情勢      (p.25

 

今後の日本エネルギー外交の主要関心 

 目標 @中東との関係強化 Aアジアのエネルギー安全保障強化       (p.26

 日露協力・・・20031月の小泉総理訪露 ・日露行動計画発表

極東・シベリア資源開発協力加速 (p.27

サハリン・プロジェクトp.28

石油…サハリンT 生産は今後の計画

サハリンU 生産・輸出開始されている

天然ガス…サハリンT パイプラインによって日本に運ぶ計画

サハリンU LNGで日本に運ぶ計画

   天然ガスについてはサハリンU計画の方が順調に進んでいる。

理由:現在日本は天然ガスをLNGで入れている。
                     東京電力、東京ガスがサハリンUからの購入を決定。
                     日本国内で幹線パイプラインが出来ていない。

  アンガルスク・ナホトカ石油パイプライン建設プロジェクトp.29

        日本推進
            ロシアの関心・戦略観点        
        短期的には中国パイプライン
2400q(コスト・建設期間から)
         長期的には日本パイプライン4000q(極東都市開発・供給先の多元化から)
        中国推進

アンガルスク・大慶石油パイプライン建設プロジェクトp.30

     ただし、地域全体のエネルギー安全保障という共通目的から、日中露のより協力的解決策の可能性
     を模索することは意義ありと思料。

 日米協力 p.31

     近年の中東、イラン、ロシア、中国等の情勢を踏まえ、日米エネルギー政策協議の必要性が認識さ
  れてきている。

 米露協力 (p.32

     近年、米露のエネルギーの対話活発化。

 北東アジア・ガス・パイプライン構想 (p.33

     天然ガスのパイプライン建設を通じて、極東(ロシア・中国・朝鮮半島・日本)エネルギー共同体的
     なものを構築していこうという構想もある。

 ASEAN+3での日本の協力 (p.34

中央アジアと日本のエネルギー協力p.35

     地理的理由もあり、日本への直接的利益は少ないが、エネルギー市場の安定化という意義では間接
  的利害を持つ。

 

【質疑応答】

 

池亀亮氏(元東京電力副社長)

石油確認埋蔵量については様々な見方があるが、なかには石油の生産はここ数年がピークであるとする見方がある。この点について外務省の認識は?

片山和之氏(講師)

外務省の独自調査はしていないが、確かに石油埋蔵量というのは常に3040年と昔から言われ続けており、議論のあるところだろう。ただし、外務省でも、輸送部門での石油消費が増えることや、中国のエネルギー消費の動向等、様々な要因を考慮して真剣に検討している。

池亀亮氏(元東京電力副社長)

日本の石油中東依存度が、第1次オイルショック当時よりも増えた理由について9頁の左下に「わが国上流政策の不振等が背景」との記述が見える。中東依存度が増えたことについて、外務省は政策の失敗との認識があるのか?

片山和之氏(講師)

市場の論理が働いたからであろう。市場の原理とエネルギー安全保障の双方の調和を図らなければならない。

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

米国は中東依存度が低く、輸入先や経路も多元化しているが、日本はシーレーン(ペルシャ湾、インド洋、マラッカ海峡、南シナ海など)についても、石油の中東依存度の高さという点でも非常にエネルギー脆弱性が大きい。外務省はどのような対応策を考えているのか?

片山和之氏(講師) 

確かに日本は補完的供給先がなく、脆弱性を高めているので、極東アジアの石油開発や、パイプライン建設、石油備蓄整備を進める構想などが1つの解決策になるだろう。

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

かつて中東相手の石油取引実務を経験した寺島実郎氏(三井物産)が盛んに言っているように、日本の原子力推進が、石油外交/ビジネスにおけるカードになるとの見方もあるが。

片山和之氏(講師)

確かに日本の原子力開発に対する、欧州・石油産油諸国からの関心は高いと感じられる。
欧州の置かれた環境と日本の環境とは違うが、日本として原子力のオプションは必要である。

池亀亮氏(元東京電力副社長)

ナホトカパイプラインについて、日露平和条約が無いことの影響は?

片山和之氏(講師)

エネルギー協力が日露の全体的な政治・経済における良好な環境を形成していく1つのステップとなることを期待している。

質問者(氏名不詳)

太平洋パイプラインについては、日露だけの問題ではなく、中国、米国がやはり重要な役割を果たすのでは?また、東シベリア探鉱問題の解決が求められると思う。外国企業の参加を認めるべきではないか。

片山和之氏(講師)

太平洋パイプラインについてはまだ最終的な計画が作成されているわけではない。今後の問題として米欧メジャーの具体的関与を排除するものではないと思う。

辻萬亀雄氏(元兼松エネルギー本部) 


パイプライン構想に、経済的メリットがあるのか?対ロ協力や政治的メリットが主目的なのか?

片山和之氏(講師)

ODAではないため、やはり経済的メリットを念頭に置いている。また中東依存度を下げるためにも重要である。

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

南シナ海の南沙諸島周辺での石油開発の可能性は?東南アジア諸国の原子力開発計画に与える影響は?大陸棚調査の目的は石油にもあるのか?

片山和之氏(講師)

南沙諸島周辺の石油開発に関しては十分勉強していないが、東シナ海に関しては大陸棚境界画定や尖閣諸島の問題が絡みその領域では直ちに開発に着手するのは難しい状況である。

中神靖雄氏(三菱重工特別顧問、核燃料サイクル開発機構特別参与)

京都議定書の排出ガス削減目標は有名無実化しているのか? 環境という観点からの今後の日本のエネルギー政策について、京都議定書に代わる新たな枠組みを模索しているのか?

片山和之氏(講師)

管轄外のため詳しくはフォローしていないが、責任を持って署名し国会の承認を得た京都議定書に関する日本の基本的立場は変わっていない。

神山弘章氏(エネルギー環境研究所、電力中央研名誉研究顧問)

ITER誘致問題について、外交という観点からどうみているのか?

片山和之氏(講師)

管轄外で詳細にはフォローしていないが、我が国は、米国、韓国の支持を受けている。ロシア、中国等への外務省の働きかけは積極的に行っている。

片山和之氏(講師)

折角の機会だから、私からも、原子力問題について皆さんに質問させていただきたい。日中の原子力協力がどの程度意味のある形で可能なのか? 核兵器国である中国に対して、日本が行なう原子力協力とは限定的なものに留まるのか、それとも今後の協力可能性は大きいのか?

池亀亮氏(元東京電力副社長)

中国は政権交代による政策のブレが大きい。李鵬元首相は電力問題の専門家で、原子力も非常に重視していたが、政権交代により、エネルギー政策の中での原子力の位置付けは、やはり副次的オプションとなっているだろう。代わって天然ガスのパイプライン計画が台頭してきている。

水町渉氏(JNES安全情報部長、IAEA/ISOEアジア技術センター所長)

日中原子力は、安全とビジネスの2つの側面があるが、フランスやカナダとは違い、日本は中国における原子力安全の教育基盤支援が主であり、ビジネスといった関与は少ない。

中神靖雄氏(三菱重工特別顧問、核燃料サイクル開発機構特別参与)

中国と日本との原子力協力関係のポイントは、軽水炉については、中国の国産化に向けての技術移転にあるだろう。他にも日中共通の課題として、廃棄物処理、高速増殖炉研究が挙げられるだろう。

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

ITER誘致に関して、中国はフランス支持だが、本当のハラはどうなのだろうか。

豊田正敏氏(元東京電力副社長、元日本原燃社長)

日本は政府による原子力の売り込みが他国に比べて非常に弱い。

片山和之氏(講師)

ITERについて中国が表向きに挙げているのは、六ヶ所村周辺の地震の問題であり、政治的決定ではないとしている。

なお、以下は、全くの仮定の質問であるが、研究者の心理について質問したい。北朝鮮問題にからみ、日本の核武装について内外で取りざたされているが、日本の核武装のオプションは国内的にも国際環境の観点からも可能性は限りなくゼロに近いと考えるが、全くの頭の体操として仮にそうした決定がなされる場合、核の平和利用にこれまで携わってきた研究者は研究者のモラルの問題としてそれに従うものなのか?

永田敬氏(核燃料サイクル開発機構 大洗工学センター所長)

仮定ではあるが、政府の決定に個人で抵抗するという意見もあるだろうし、組織としては決定に従うとの意見もあるだろう。しかし、軍事利用は法改正をしない限りできないはず。

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

法治国家である限りそれなりの手続きをとらないと、あり得ない選択ではあるが、仮に将来日本が核武装を余儀なくされることがあるとすれば、それはまさにギリギリの事態で、そのときの国内外の状況がどのようなものであるかによって国民の判断も変わるだろう。しかし、その議論をする前に、外務省OBの岡崎久彦氏(外交評論家、元タイ大使)も言っているように、まず日本の核武装の可能性、つまり技術的能力についての具体的検証が必要だろう。プルトニウムが何トンあるから直ちに何発核爆弾ができるという単純な話ではあるまい。NPT加盟以前、つまり1960年代末に内閣や外務省で、日本の核兵器開発のコスト、マンパワー問題や核武装の是非、メリット、ディメリットについて技術的調査をしたが、いずれもあり得ない選択だという結論だった。しかし、だからといって核武装問題をタブー視して思考停止状況になるのも良くない。

豊田正敏氏(元東京電力副社長、元日本原燃社長)

インドやパキスタンのように、核兵器を保有するまでは大変だが、既得権益としている今の状況が問題だ。日本の 核武装は、世論や米国の動向にもよるが、まずありえないだろう。
核兵器製造についての現実的、具体的技術調査は、かえって危険な情報となり、悪用されうる。外交上のカードと しても、グレーにしておいた方が有効だろう。

笛木謙右氏(日本原子力防護システム代表取締役社長)

世代によって核に対する受け止め方が異なっているだろうから、日本核武装が将来あり得ないことだとは言えない。

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

こうした議論がオープンに出来るようなっただけでも、大きな変化というべきだろう。
本日は、世界のエネルギー情勢と、その中での日本のエネルギー外交のあり方等について貴重なご意見を伺い、大変良い勉強になった。感謝申し上げる。今後益々日本のエネルギー外交のために健闘されるようお祈りする。

 


                                     
  議事録作成:伊藤 菜穂子

-                         (早稲田大学大学院博士課程=国際政治学専攻)