EEE会議 第11回講演・研究会議事録

日時:2004217日 14:0016:00

場所:(財)原子力発電技術機構会議室

講師:魚谷正樹氏(電力中央研究所研究企画グループ部長)

演題:海水ウランの捕集について

 

[講演要旨]

 

1.研究開発の現状

 

原研高崎研究所では、1980年頃から海水ウラン捕集材の作成に用いる放射線グラフト重合法の研究を開始している。電力中央研究所は、1998年から原子力政策室で原子力政策について様々な観点から検討してきた。その中で着目した技術の一つが海水ウラン捕集であり、現在、原研と共同研究を実施している。原研高崎研究所では、1980年頃から海水ウラン捕集材の作成に用いる放射線グラフト重合法の研究を開始している。

 

海水ウランの資源量 (配付資料p.2)

海水中には約45億トンのウランが存在する(鉱山ウランの1000倍)。黒潮が日本に運んでくる海水ウランは年間約520万トンであり、この0.2%を捕集できれば、日本の年間需要量(800トン)を賄えることになる。

 

ウランの吸着機構 (p.3)

海水中のウランは三酸化ウラニルの形で溶存している。これを、ポリエチレン基材上に放射線グラフト重合法により生成したアミドキシム基に吸着させて回収する。

 

海水ウラン捕集研究開発の経緯 (p.4)

海水ウラン捕集の研究に関してはチタンを用いた方法が1960年代以降研究されてきたが、海水の汲み上げ動力が必要で高コストであった。

現在、原研と開発しているアミドキシム捕集材を用いた方法では、海水汲み上げ動力が不要である。

 

捕集システムと実海域試験 (p.5-13)

むつ市の関根浜で3年間、布状ウラン捕集材の性能評価試験を実施した。この布状捕集システムは125キログラムの捕集材に対して総重量が1161キログラムもあった。このため軽量化のためにモール状捕集材を開発し、沖縄の恩納村で実海域試験を実施した。

 関根浜沖合における試験では(布状ウラン捕集材使用)、捕集性能は浸漬日数約40日で0.5[g-U/kg-捕集材]であった。恩納村沖合では海水温が高いため、むつ関根浜に比べて捕集量が向上し、浸漬日数約30日で不織布試験片で3[g-U/kg-捕集材]、長尺モールで1.5[g-U/kg-捕集材]のデータが得られた。

なお、実験室規模では8[g-U/kg-捕集材]程度の結果が得られている。この実海域データと実験室データの差は、海水中に溶解している他の元素の影響と考えている。また、塩濃度が高くなると捕集材の性能が低下することも考えられる。

以下のコスト評価試算においては捕集性能を6[g-U/kg-捕集材]としている。

 

2.捕集コストの試算

 

前提条件 (p.14-15)

・ウラン捕集量 1200トン/

・捕集材の性能 6g-U/kg-捕集材

・捕集期間 60/

・捕集材の利用回数 20

・対象とした海水ウラン捕集システム ブイ方式、浮体方式、延縄方式の3方式

 

試算結果 (p.16-19)

・捕集材製造費  4.1千円/kg-U(捕集材の単価493万円/t)

・捕集材係留費(延縄方式) 22.1千円/kg-U

・溶離・精製費 2.9千円/kg-U

・合計 30千円/kg-U(延縄方式)、56千円/kg-U(ブイ方式)、53千円/kg-U(浮体方式)

 

係留経費が捕集コストの70-85%を占め、海水ウラン利用の実用化にはこのコスト低減が不可欠である。

 

捕集コストの低減 (p.20-24)

 

 捕集コストの目標値は80-130$/kgUとしている。係留システムの物量が総コストに大きく影響するため、係留システムの軽量化が課題である。

モール状捕集材は布状捕集材に比べてシステム部材重量が約1/7になる。今後はモール状捕集材の特徴を活かした捕集システムの概念設計を行う必要がある。また、捕集性能の向上や捕集材利用回数の向上も重要である。モール状捕集方式にした場合、捕集性能を6[g-U/kg-捕集材]、捕集材利用回数を20回にできれば、捕集コストの目標値を達成できる。

この内、モール状捕集システムの構築と捕集性能の向上については、今後の海洋試験が必要であるが、達成の目途が立っている可能性が高いが、最後の捕集材の性能向上と耐久性に関しては、方策を検討している段階である。耐久性については、現時点では利用回数は5回が限界。溶離に用いる酸がアミドキシム基には少しきつい。溶離材の検討など別の溶離方法を開発する必要がある。

 

3.今後の課題 (p.25)

 

・高性能捕集材開発(捕集性能、耐久性)

・係留システムのコストダウン(モール状捕集材システムの具体化)

・使用済み捕集材(0.5Bq/g以下)の処分法

・水深の深い部分の利用による漁業権の問題

・海水ウランの取り扱いに関する法整備

 

[質疑応答]

 

豊田正敏氏(元東京電力副社長、元日本原燃社長)

今までは海水ウランはものにならないという先入観があった。二酸化チタン捕集材による動力を使った試験が香川県で実施されたが、結果が芳しくなく、これで海水ウランは無理という考えが染み付いた。二酸化チタンでは捕集性能が低い。しかし、今回の技術によって、海水ウラン捕集実用化の可能性が出てきたのではないかと考えている。

ただし、ブイ方式などでは係留費が大きくなる。支柱の2箇所を陸上に設置するなどの工夫が必要。土木工学の専門家に協力してもらえば、良い知恵が出てくるのではないか。また、例えばインドネシアなどでは、温度も高いし、漁業権の問題もなく良いのではないか。

 

魚谷正樹氏(講師)

仰る通りである。支柱の2箇所を陸上に設置することによって、コストダウンが期待できる。また、フィリピンなどでは一定した海水の流れが見込める。ただし、現時点の研究開発将来そのようなことをやろうとする人、すなわち事業者が使える材料、システムを開発している段階である。

 

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

海は深いところほどミネラル分が多いとのことである。日本の排他的経済水域は非常に広く、その中には日本海溝のように水深1万メートル以上の所も多い。とすれば、例えば、海溝で流れのある場所を探せばもっと効率が良くなるのではないか。政府も大陸棚の地形調査に大々的に乗り出すようだから、そうした動きと連動することはできないだろうか。

 

魚谷正樹氏(講師)

水深が深くなると海水温が下がり、活性が下がる。また、実験している深さ範囲ではウランの濃度分布はない。つまり、深さより流速、そして温度が重要ということである。

 

池亀亮氏(元東京電力副社長)

海水の流速が小さいと捕集性能が落ちるのは何故か。捕集材は周りの海水からウランをどの程度の効率で吸着しているのか。

 

魚谷正樹氏(講師)

 実験室のデータを見ると、捕集効率はかなり良い。常に新しい海水が、捕集材まで流入してくることが必要である。

 

池亀亮氏(元東京電力副社長)

アミドキシム基以外の捕集材を用いる可能性はどうか。捕集材にはどのような条件が必要なのか。

 

魚谷正樹氏(講師)

アミドキシム基捕集材以外にも有望捕集可能な材料はある。ただし、グラフト重合で作成した中ではアミドキシム基が強度と選択性が良好で最適だった。現在はアミドキシム基捕集材の使用を前提としている。他の捕集材についての研究は、予算の問題もあり具体化していない実施していない

 

益田恭尚氏(エネルギー問題に発言する会会員、元東芝)

60日間、捕集システムを海中に入れておくことはコストの面から不利なのではないか。

考えられる多数の対象材により時間・流速等の基礎的データを採り、補集効率の向上
を図るべきではないか。

 

魚谷正樹氏(講師)

 あまりに長期間の浸漬では、捕集量が飽和になってコスト面から不利になるが、これまでの実験室データからの推定では、60日間が最適と考えている。

 

辻萬亀雄氏(元兼松エネルギー本部)

ウラン以外の金属も捕集されるのか。

 

魚谷正樹氏(講師)

バナジウムやコバルトなどいろいろな金属も吸着する。当初はこれらの希少金属も売れるのではと考えたが、試算してみるとあまりメリットがなかった。

 

堀雅夫氏(原子力システム懇話会)

表面の拡散が律速になっているのではないか。まだ工夫の余地はいろいろとあると思う。コスト試算に用いた捕集性能の6g-U/kgという数字の根拠について聞きたい。カラム実験では8g-U/kgというデータが出ているが、これは海水を用いたものか。また実海域では、浸漬期間が60日の試験は実施していないのか。

 

魚谷正樹氏(講師)

 試算に用いた捕集性能の6g-U/kgという数字は、実験室での結果に基づいて設定した。カラム実験では実験上の都合で海水を用いていない。実海域では実験のタイミング等の問題から、60日の試験はまだ実施していない。

 

池亀亮氏(元東京電力副社長)

捕集性能の流速依存性についてのデータは取っているか。

 

魚谷正樹氏(講師)

流速、温度などの依存性についてのデータはカラム実験で取っている。また、実海域試験において、流速、温度のデータを取得している。

 

林勉氏(エネルギー問題に発言する会幹事)

 研究の初期段階であるにもかかわらず、コストが目標値の4〜5倍程度に納まっており、非常に有望な技術であると思う。諸外国の研究動向はいかがか。

 

魚谷正樹氏(講師)

 現在のところ、外国では研究は実施されていない。目標値の4〜5倍であるが、現在の市場価格と比較するとまだ高い。

 

豊田正敏氏(元東京電力副社長、元日本原燃社長)

現在のウラン市場価格が、25-30$/kgUである現状では、海水ウランコストが目標値である80-130$/kgUとしても、民間企業としては当面魅力がない。しかし、国として、この目標値が達成可能かどうかの実現可能性の検討はしておくべきであると思う。

 

魚谷正樹氏(講師)

仮に海水ウランコストが100$/kgUドルであっても、発電コストの上昇分は約0.4/kWhにすぎず、原油価格の変動による火力発電コストの変動分より小さいない。政府はエネルギーセキュリティ確保のための研究開発に数千億円を投資している。この1%以下でもこの海水ウランのようなセキュリティ確保の選択肢を拡げる技術に出してもらえれば良いと思う。

 

名康裕氏(月刊エネルギー編集長)

予算配分については他の技術との比較が必要である。例えば、石炭ガス化技術などにも数十億円が投資されている。海水ウランにもこれと同等程度の公的投資がなされてもよいのではないか。

 

益田恭尚氏(エネルギー問題に発言する会会員、元東芝)

天然のウランといえども放射性物質は管理しなければいけないが、現在クリアランスレベルに関する法律ができかかっている。そのような動きにも意見を述べておく必要があるのではないか。

 

ここで、神山弘章氏(エネルギー環境研究所、電力中央研究所名誉研究顧問)より、わが国で実施されてきた海水ウラン回収プロジェクトの説明があった。

 

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

原子力委員会は海水ウランをどのように位置づけてきたのか。

 

魚谷正樹氏(講師)

長計などで海水ウランの捕集研究が真正面から取り上げられたことはない。

 

金子熊夫氏(司会、EEE会議代表)

 われわれの研究会は長期的視野に立って日本のエネルギー問題について考えている。本日のお話は大変興味深く、今後のさらなる研究の進展を期待しています。どうも有り難うございました。

 

以上