EEE会議 第13回講演・研究会の議事録

 

・日時:200439日(火) 午後2時〜4

・場所:(財)原子力発電技術機構(NUPEC) 会議室

   港区虎ノ門4-1-8 虎ノ門4丁目MTビル7

・講師:田辺靖雄氏(経済産業省資源エネルギー庁国際課長)

・演題:「国際エネルギー情勢の展望と日本のエネルギー政策」

・出席者:配布リスト参照

 

[講演要旨] 配布資料参照

 

1.世界のエネルギー需給の現状と展望

@主要国の一次エネルギー供給構成比較

・欧米との比較で日本を見ると、日本は石油のシェアが50パーセントで、原子力のシェアが高い。(フランスは除く)

Aエネルギー自給率の各国比較(2001年)

・日本の自給率は20パーセント、原子力を入れないと4パーセント。

B世界のエネルギー需要の現状と見通し

・特徴:配布資料参照

C世界のエネルギー供給の現状と見通し

・特徴:配布資料参照

D世界の石油の主な移動(2002年)

E世界の天然ガスの主な移動(2002年)

・域外依存の増加→輸送距離がのびる→LNG貿易へ

⇒日本がリードしてきたLNG市場の構造の変化

2.セキュリティの点から見た諸外国におけるエネルギー政策

@全般的な動向

A米国

B欧州

・フランスは国民との対話を重視:原子力政策のため→日本と類似

C中国

・米国の政策と似ている

D韓国

・エネルギー政策に熱心、石油を減らし、原子力を増やす、ロシア・中国との連携強化

→日本と似ている状況

EASEAN

・備蓄制度の議論、天然ガスの利用、電力のグリッド問題

Fロシア

WTOOECDへの加盟申請→市場経済化を図る(民営化、外資導入等)

・エネルギーの輸出拠点化、輸出インフラの整備を進める

・アメリカ、日本、韓国との対話

G中東産油国

・石油収入に依存した国家体制からの脱却を試みるが困難

・ガス分野の開放による外資導入

・人口急増、若年層の失業問題への対処としての経済・産業の多様化とインフラ整備

3.我が国のエネルギー政策の当面の課題と対応

3EEnergy Security, Environmental Protection, Efficiency

@安定供給の確保(Energy Security

・国家備蓄制度

・国民にきちんと行き渡るような国内的なセキュリティ問題→セキュリティ概念の変化

・国際的な安定問題とともに国内的な安定問題の努力が必要

A環境への適合(Environmental Protection

・京都議定書の目標の達成のための省エネルギー政策等

B市場原理の活用(Efficiency

・石油部門の規制緩和、自由化

・相対的に高いとされる日本のエネルギー価格を下げる努力

・ガスの小売自由化の範囲の拡大

・インフラ部分にはしっかりとした規制が必要

4.原油の中東依存

@原油輸入の中東依存度比較(2002年)

A中東依存度とアジア

・石油埋蔵の三分の二が中東に集中

・ロシア等の生産の伸び悩み→中東への依存が高まる(地理的要因、欧州のガスへの移行)

・セキュリティ対策としては、備蓄がいちばんの対応

B「アジアプレミアム」について

・アジア向けの中東の原油価格が欧米に比べ、歴史的に1バレルあたり1ドル強高い

・アメリカは、ベネズエラやメキシコなどからの原油もあり、石油市場の競争が激しいため、価格を低くしないと競争できない。日本は中東に依存しているので、高く設定されている。

→中国、韓国との共同での取り組み

・中東にとっても、アジア市場への依存度は高いが、交渉の場ではなかなかうまくゆかない。

5.新たなエネルギー技術

@燃料電池

A炭素隔離

B環境に調和した石炭利用技術(CCT)の体系

6.新たな国際的フレームワーク

@ASEAN+3エネルギー大臣会合の結果概要

IEAに加盟しているアジアの国は日本と韓国のみ→アジアでの関係の強化の必要性

・備蓄問題の検討

・アジアプレミアム問題の検討

・ガスの利用の検討

A第8回国際エネルギーフォーラムの結果概要

・産油国と消費国の対話

・価格の乱高下が激しい

→石油価格の安定、中長期的に需要に見合う供給のための投資、という点についての産油国と消費国の共通認識から、対話の機運が高まり、協調の方向へ。

 

[質疑応答]

・敬称略

・所属・肩書きは配布資料参照。

 

○豊田正敏氏

中東依存度が近年、あまりにも高くなってきているのは、エネルギーセキュリティの観点から望ましくない。他の供給源としてロシアからの輸入はどうなっているのか。また、東シナ海の海底油田を中国と共同開発することについてどのように考えておられるか。

 

○田辺靖雄氏(講師)

エネルギーセキュリティの観点から低い方が好ましいが、どうやってということになると、物理的に日本のマーケットに供給される量、輸送コストを考えると、中東依存を下げるのは実行するのは難しい。韓国では、中東以外からのものには補助を出すことにしているが、WTO上問題になるのではないかということで、難しい。日本については、ロシア、アフリカ、カスピ海など中東以外のところでの増産のための投資の増加を努力するということになるが、それも難しいので、外交的にも親中東という政策をとっていく必要がある。

 ロシアについては、重要なのはサハリンである。サハリンは極東アジアであるので、距離的に近いエネルギーということで日本にとって喜ばしいことである。天然ガス開発も進んでおり、日本でもこれを引き取るという会社がある。有力なエネルギー輸出になる。サハリンTからはパイプラインで日本に天然ガスを運ぶ計画があり、近いところから石油、天然ガス(LNG、パイプライン)が供給されるということは重要なことである東シベリアでの石油開発の調査、パイプラインでの輸送という議論もある。

 日本、アジアでのエネルギーの需給構造が変化しているという状況にある。

 

○石井亨氏

 最近の石炭価格の急騰の要因、今後の見通し、国内外への影響についてと、ASEAN3で原子力が議論をされなかった理由について

 

○田辺氏

 石炭に限らず資材価格は最近全て高騰気味である。要因は二つあり、一つは、中国の需要が強いということである。石炭は、中国から輸出されていたものが輸出できなくなっている。石油についても同じである。二つ目は、為替レートとの関係もあるが、ファンドの動きが為替から商品に流れるという動きがあることである。これも中国の需要の強さを背景にしている面がある。

 製造業の方たちは、資材価格高騰を収益圧迫要因として挙げられるが、一方で中国の需要の強さに支えられて、中国向けの輸出が伸びており、鉄鋼、石油化学、自動車産業では収益の好転要因になっている。原材料価格、資材価格という意味では、マイナスの影響というように見えるが、中国市場の拡大という意味では、利益にあずかっている業界も多い。石油がコスト上昇を転嫁できていなくて、いちばんきついのではないか。影響の業種による跛行性はある。

 ASEAN+3は共通の関心事から議論をするという段階で、原子力はまだ将来の課題である。APECのエネルギー・ワーキンググループで、韓国とメキシコがイニシアティヴをとって原子力の議論をしようという意見がある。

 

○辻萬亀雄氏

 日本の将来のエネルギーの見通しとして、10年は出ているが、20年、30年、50年というスパンで話し合われているのか、話し合う場はあるのか。

 

○田辺氏

 まさに現在、総合資源エネルギー調査会で議論をしているところである。2030年をタイムスパンとしてみるという議論をしている。いつまとまるか、いつ発表になるのかは分からない。エネルギー、特に投資(発電所、石油開発等)は、10年、20年タームで取り組まなくてはならない課題であるので、長いスパンで取り組まなくてはならないと認識している。しかし、その間には、不確実性要素があるので、様々なシナリオを立てて、不確実性に対応していかなければならない。個人的には、日本はゴールを定めると、その目標達成のために各論をつめてボトムアップで、完璧を求める傾向があるので、そうではなく、欧米のように、いくつかのケースを想定してやっていく方法を導入する必要があるのではないかと考えている。

 

○金子熊夫氏(司会)

 思うに、スウェーデンが脱原発を比較的簡単に決めたのは、チェルノブイリ事件の影響もあるが、国民性による面も少なくないと思う。1980年の国民投票後も辛抱強く議論を重ねており、いまでは2010年までの原発全廃計画は白紙に戻っている。他方日本では、一度国として脱原発を決めてしまうと、日本人の気質からして、みんな一斉に御神輿を放り投げてしまうだろう。だから、試しに一度原子力を止めてみるなどということは日本では成り立たない、危険だと思う。

 地球温暖化と原子力のことでいえば、京都議定書のCDMでは、原子力はカウントしないことになっている。これは非常に重要なシンボリックな意味があるのではないか。現在アジアでは、ベトナムやインドネシアで原発をやろうとしている。ベトナムは貧しい国なので、CDMで日本からの協力があればその分だけでも助かるだろう。第2約束期間の交渉においては、そうした点も考えていく必要がある。

 ブッシュ政権はエネルギーに大きな重点をおいているが、とくにイラク戦争開戦前にはメキシコ、ベネズエラ、西アフリカにまで供給源を広げて万端整えて戦争を始めている。それに比して日本は極めて無防備である。

日本のエネルギー安全保障という視点から見た場合、重要なのは石油市場の問題だけではない。中東と日本の間には13,000キロのシーレーンがある。ペルシャ湾、インド洋、マラッカ海峡などを航行するオイルタンカーのほとんどは日本向け(その他韓国・台湾も)かであるが、この地域は海賊などの多発する危険地域だ。現在シーレーン防衛は1,000海里までということで、南シナ海の手前までしか海上自衛隊はエスコートしていないが、マラッカ海峡以遠へも常時海上自衛隊を派遣するべきではないか。中東依存度が下がらないのであれば、長距離輸送の安全保障についてももっと真剣に考えなければならない。

 

○田辺氏

 京都議定書のCDMで原子力が対象にならない実態があることについては、交渉の最後までねばったが、関係者の多い交渉で、とりわけヨーロピアン・イニシアティヴの強い交渉だったので、そのようになった。しかし、多くの人は京都議定書はもしかしたら発効しないかもしれないと考えている。もちろん、京都議定書が発効してもしなくても、第2約束期間のルールが重要であるので、その際には、IEAやエネルギー政策当局者がより強い関与をしなければならない。ヨーロッパのグリーンパーティ主導の政治的・情緒的議論ではなく、冷静なエネルギー、経済からの議論をするべきである。そのための心ある世界の有志の議論が少しずつ動いている。その議論が広まることを期待し、努力している。そこでCDMと原子力の問題も話し合われていくであろうと思われる。

 シーレーン防衛の問題はその通りで、今日では中東での供給が突然途絶する可能性より、輸送段階での問題で止まる危険の方が大きいと思われる。これらは様々な政府機関で充分議論して行かなければならない。

 

○黒田眞氏

 京都議定書が発効するかどうかは別として、日本は京都議定書の目標は達成できるのか。

 

○田辺氏

 達成は難しいと思う。日本の重工業が相当数海外に移転するというようなことがない限り難しい。

 

○豊田氏

 今後、新設の原子力発電所が必要となるが、需要地から距離が離れるため、送変電費が高くなり、電力自由化をあまりやると電力会社は、原子力発電所の新設に意欲をなくするのではないか。これについてどうお考えか。

 

○田辺氏

 今まさに審議会で議論しているところである。歴史的に電力会社も資源エネルギー庁も、電力はコストが安く、有利であると言ってきている。そういうポジションとの関係を説明する必要がある。時代環境の変化もあるが、環境の分野でも生産者はライフサイクルの全てにわたって責任があるとされている。原子力は安いので電力会社がやってきたのを、実は高いので政府がやる、という説明が国民に通るのかという問題がある。もちろん、政府に責任がないわけではない。自由化してマーケットを整えるということもあるが、セキュリティーなどどうしても政府の介入が必要になる分野もある。その線引きは難しく、これまでの議論を総点検して、国民的コンセンサスを得る必要がある。いずれにしても、日本が原子力を持つことには意味はあり、それは必要で、これからも持ち続けるべきであると考えている。

 

○池亀亮氏

 豊田氏のご意見は、電力はいずれにしても必要であるが、それをどこから持ってくるか、原子力ならば遠くから持ってこなくてはならないが、火力なら近くでできるし、またもっと安くできるものもある、ということであろう。

 

○豊田氏

 しかし、火力は二酸化炭素が出るので、地球環境への影響も考える必要があり、また、エネルギーセキュリティの観点からは、一つの電源に偏りすぎることは問題で、電源の多様化が必要と考える。

 

○池亀氏

 役所は縦割りだが、国家の安全保障やエネルギー・セキュリティーというものは、総合してやらなければならない。

 

○石井氏

 原子力は本当は高いものだから、国民(国)に負担してほしい、ということではないのではないか。

 

○田辺氏

 一般にそういう風に聞こえてしまうことが、これまで言ってきたこととの関係で問題である。

 

○永崎隆雄氏

 アジア全体の発展を考えるのか、日本の発展を考えるのか。シベリア(ナホトカのパイプライン)の開発を進めれば、日本にはよくても、中国の経済発展にはよくないのではないか。シーレーンについても同じことが言えるのではないか。アジア全体の発展を見据えた政策をやるべきではないか。

 

○田辺氏

 全くそのとおりで、日本の発展なくしてアジアの発展なし、アジアの発展なくして日本の発展なしであると思う。ただ、EUの統合はエネルギー(石炭)がきっかけであったので、日本も学ぶところがあるのではないか、と思っていたが、実はエネルギー部門が今でも最も各国の主権が強いところで、ヨーロッパでも遅れているところである。エネルギーは国家の安全保障にかかわる問題なので、主権国家に最後まで権限が残っている。アジアがそこまで行くのは困難であろう。

 東シベリアからナホトカにパイプラインで運ぶ方法については、まだ調査の段階である。日本は、ロシア側の要請を受けて調査・研究をしているという受身の立場で、ロシアは中国と日本を天秤にかけている、という状況である。これも時間がかかるであろう。

 

○金子氏

 ブッシュ政権下では、原子力計画について、大いにやるといっておきながら実際にはあまり進んでいない。今後、包括的エネルギー法案はどういうことになっていくのか。大統領選挙はどうなるか?

 

○田辺氏

 アメリカの大統領選挙では、現職と対抗が争うときは、歴史的に、経済が要素となっている。景気がよいと現職が勝ち、悪いと現職が負けている。それでいくと、現在は景気がよいので、ブッシュが勝つということになろうが、今回は、経済以外の要素、例えばイラク問題などがどの程度問題になるか、ということが鍵になって勝敗が決るであろう。日本には、中東と北朝鮮政策が影響があろう。仮に政権交代があっても、実際に動くまでには1年はかかるであろうし、選挙運動中ほどの大きな動きはないであろう。日本はアメリカがどうなろうとも、我々がやるべきことを粛々とやるべきと思う。

 

○松岡強氏

 5年以内にサウジアラビアに政変のようなものが起こり、それを機に中東に混乱が広がるという話もあるが、中東情勢についてどう思われるか。

 

○田辺氏

 第一に、非常な不確実性がある。第二に、構造的にイラン型(ホメイニ革命)のようなものはないであろう。歴史的に、サウジでは王族の中で政権交替について危機が起こると、王族の中はまとまってコンセンサスで王位が継続されている。若年層、労働者、女性などに社会解放的な動きは漸進的に進むと言われているが、大きな革命的な変化はないであろう。もちろん、不確実性もあるし、そういうリスクに備えておく必要はあるかもしれない。

 

○永田敬氏

 日本のエネルギー消費量はそれほど増えないであろうが、世界では1.5倍位増える。日本は増えないにしても、世界のエネルギー消費量が増えることは心配すべきことなのか。

 

○田辺氏

 エネルギー需要は増えるが、しかしエネルギー資源(石油、天然ガス、その他)はあり、なくなることはない。従って、課題はエネルギー資源を実際の生産能力につなげるための投資が確保されるかどうかである。投資資金は競争なので、投資資金を勝ち取るだけの投資環境が産油国、産ガス国の供給ポテンシャルのところになければならない。あとは、貿易が増え、輸入依存度が高まることによるエネルギーセキュリティーの課題である。日本はもともと輸入依存度が高いのでセキュリティ問題には慣れており、課題はあるが対応可能であると思う。

 

 

○永崎氏

 CDMに原子力を入れるということは、アジアでは考えられ始めている。

 

○田辺氏

 そういう意見はあろうが、それがいかに世界のルールになって実現するかという課題がある。これは今後、ヨーロッパの国々をどうするかということにかかっている。

 

○金子氏

 気候変動条約締約国会議(COP)は、環境屋さんの独壇場になっているので、エネルギーや原子力の分野の議論が極めて少ない。そこが問題であり、その構造改革をまずしなければならない。

 

○田辺氏

 世界のエネルギー関係省庁の問題意識は高まっており、我々がしっかりしなければならないという方向に議論は進んでいる。

 

以上。

 

文責:岡松暁子(国立環境研究所)