我が国の高速増殖炉開発に関する緊急提言(2005/1/19)

 

  〜日本のエネルギー自立と科学技術立国のため高速増殖炉の実用化が

    必要であり、そのための国内体制の改革、強化が急務である〜

 

<序言>

わが国の原子力開発は、その黎明期より、エネルギー安全保障の確保とウラン資源の有効利用を図る目的で、使用済み燃料の再処理とプルトニウムを用いた高速増殖炉の導入による核燃料サイクルの確立を目指して進められてきた。この基本路線に沿って高速増殖炉実験炉「常陽」の建設、運転を実施するとともに、引き続き原型炉「もんじゅ」の建設を進め、試運転も順調に進捗していたが、1995年12月に発生した二次冷却系のナトリウム漏洩事故により中断され、開発スケジュールは大きく遅れることとなった。

この間、世界各国の状況をみると、1970年代後半からの米国の核不拡散重視による原子力政策の転換(米国自身の高速増殖炉開発計画の中止を含む)、ドイツ等一部ヨーロッパ諸国の類似の動き、さらにはフランスの「スーパーフェニックス」炉の運転停止などもあり、世界的に高速増殖炉の開発は停滞傾向にある。しかし他方で、ロシア、中国、インドなどにおいては引き続き独自の高速増殖炉の開発活動が活発に進められている。

現在はウラン資源需給の緩和により開発の緊急性が比較的薄れてきた感はあるものの、アジアを中心とする原子力発電拡大の趨勢を考えると、将来のエネルギー資源状況は決して楽観を許さない。加えて、石油についてはすでにピークを過ぎつつあるとの見方も有力になっており、減耗する石油への対応はゆるがせに出来ない。とりわけ資源小国たる我が国の場合、エネルギー自立と科学技術立国の観点からも、ウラン燃料の最も効率的な利用を可能にする高速増殖炉の重要性は極めて大きいと考えられる。また、高速増殖炉の開発には、経済性の向上をはじめ、今なお幾多の技術的革新の必要性があり、将来のためにこれらの課題をできるだけ早期に解決しておくことが望まれる。

他方わが国の最近の状況をみると、電力市場の自由化が進み、電力会社は新規参入会社との競合状態に突入している。その結果、電力会社は高速増殖炉のようにリスクを含んだ将来技術を自ら開発する余力が乏しくなってきており、技術開発の進め方や開発体制、組織などにも抜本的な改善、改革が必要となっていると考えられる。

我々一同は昨年6月に「我が国の核燃料サイクル政策に関する提言」を公表し、その中で高速増殖炉の必要性についても包括的な提言を行った。前回の提言に引き続き今回は、以上のような国内外の状況変化を踏まえ、かつ将来のウラン資源有効活用、高レベル放射性廃棄物の環境負荷低減等々の観点をも勘案して、我が国の高速増殖炉技術開発の今後の進め方等について以下の通り提言する。現行の原子力開発利用長期計画においても高速増殖炉技術は「選択肢の中でも潜在的可能性が最も大きいものの一つ」と位置づけられているが、実用化の目標に向けてさらに一歩前進を図るために、次期長期計画の策定に当っては、これらの提言について十分な検討が行われ、出来る限り新計画に反映されるよう要望するものである。

なお、本提言は主として原子力の専門機関向きに作成したものであるが、一般市民の方々の間では高速増殖炉の必要性などに関して未だに十分な理解が得られているとは言い難いのが実情である。我々としても、今後更に一般市民の理解と支持を得るための適切な活動を継続して行きたいと考えているが、関係機関におかれても世論の理解を得ることこそが最大の推進策であるとの認識の下に、一層積極的かつ効果的な活動を進められるよう特に要望する。 

 

<提言1>「もんじゅ」の早期運転再開を図れ

 

 高速増殖原型炉「もんじゅ」は、高速増殖炉開発の一環として、実用化に向けた発電プラントとしての信頼性実証に関わる技術データを得る等の目的で建設された重要な施設であるが、不幸にして1995年12月の二次冷却系におけるナトリウム漏洩事故以来試験運転を停止し、既に9年余を経過している。

「もんじゅ」の今後の対策工事については、既に国の認可が得られているので、核燃料サイクル開発機構(JNC)はその工事の実施と運転再開に向けて地元自治体の理解と協力が得られるよう更に全力を傾注するよう要望する。とくに地元自治体の市民に対しては、リスクコミュニケーションに重点をおいた率直かつ双方向的な対話と幅広い広報活動を行うことにより、早期運転再開の重要性についての十分な理解を得、その上で、早急に必要な処置がとられるよう強く期待する。

また、地元自治体関係者及び市民各位におかれては、「もんじゅ」がわが国の原子力政策、ひいてはエネルギー政策全体の中で占める特別の重要性とその早期運転再開の必要性を十分理解された上で、適切かつ速やかな対応をされるよう切に希望する。

なお、一昨年1月の名古屋高等裁判所金沢支部による「もんじゅ」設置許可無効判決については、現在、国は最高裁判所に上告し、係争中である。高裁の判決は、確率が極めて小さく実際に起こりえないような事象を取り上げて判断を行っているところに根本的な問題があったと考えられる。よって、最高裁の審理においては、このような点を踏まえ、大所高所からの適切な判断ができるだけ早期に下されることを強く期待する。

 

<提言2> 実証炉の技術開発及び建設体制を確立せよ

       そのためには先ず国の責任体制の一元化を図れ

           原子力委員会の下に特別の検討委員会を設けよ

 

高速増殖炉の実用化のためには、本格的商用炉に先立ち、実用規模の実証炉を少なくとも1基建設し、新規技術の信頼性と経済性を含めた実証を行っておく必要がある。実証炉の開発及び設計、建設、運転については、これが将来のわが国のエネルギー安全保障の根幹であるとの観点より、基本的に国の責任の下で実施することを明確にすべきである。もとより民間としても、最大限の協力を行い、相応の役割を分担することが必要である。

 

() 実証炉の目標

高速増殖炉の商用化に当たっては、安全性、信頼性(稼働率)と経済性について軽水炉に比肩しうるものでなくてはならない。ここで経済性とは単に建設費のみでなく、運転維持費及び核燃料サイクルを含めた発電コストを意味する。発電コストの目標設定に際しては、今後のウラン価格等の動向を適切に配慮したものとする。

実証炉は、商用高速増殖炉の実現に必要な技術的諸特性を実証するに十分な容量と核熱特性を具備する必要がある。また、実証炉は開発要素を含んでおり、初号機であること、また商用炉に比し小容量機になる可能性があることから、建設コストおよび発電コストは割高になると予想されるが、実証炉から商用機に至る間にコスト低減の見通しが得られるものでなくてはならない。

 

() 実証炉の基本仕様

実証炉の基本設計については、現在核燃料サイクル開発機構(JNC)がプラントのコンパクト化による建設費低減を図るための技術開発を進めており、この研究成果をも踏まえ最も有望な設計を選択することが現実的である。軽水炉に比肩しうる経済性を得るためには更なるブレークスルーが必要となる可能性もある。設計の推進に当っては十分な設計レビューと実証試験等による確認が必須である。

この基本設計及びこれに基づく詳細設計を行った後、国が中心となり、電力会社、原子力機器メーカー等の協力を得て、本格的な安全性、経済性、信頼性、技術成立性のレビューを行い、実証炉の建設に着手するかどうかを最終的に決定すべきである。この際、経済性については、電力会社、メーカーが十分な検討を行うこととし、特に建設費については、メーカーの見積を含めて予め確認しておく必要がある。

 

(3) 実証炉の開発及び建設体制

実証炉に向けての研究開発主体は当面の間、核燃料サイクル開発機構(2法人統合後は独立行政法人日本原子力研究開発機構)が国の資金により引き続き担当することになるが、サイクル機構は基礎基盤技術に偏ることなく、実用化に向けた技術開発に取り組む必要がある。その際、研究開発は文部科学省、実証炉建設は経済産業省という現状の行政体制では首尾一貫した方針は望み難い。実用化を見据えた国の体制一元化を図ることが是非とも必要である。

実証炉の実施主体については、電力会社主体の新法人または日本原子力発電株式会社、国が主体となった新法人の設立(電力、メーカーも出資)、民間が主体となり国と民間の適切な役割分担の新法人を設立する等々の選択肢が考えられるが、何れの場合においても、責任が一本化され当事者能力の高い体制作りが肝要である。

我々としても引き続き具体的な提案を行っていきたいと考えているが、原子力委員会の下に特別の「高速増殖炉実用化検討委員会」(仮称)を設け早急に合理的な体制の構築を図ることを特に提案する。

 

(4) 実証炉の建設スケジュール

実証炉の開発及び建設計画策定に際しては、予め建設スケジュールを策定して、それに沿って進めることが望ましい。建設スケジュールには基本仕様決定及び詳細設計、実施主体設立、立地要請及び受入、設置許可申請、着工、運開などの目標時期を示す必要がある。2025年頃に実証炉を運開すると仮定した場合、相当に厳しいスケジュールになることを認識しておかなければならない。

 

<提言3> 国際協力を有効に活用せよ

 

高速増殖炉の開発においては、国際的な視点でのアプローチがとくに重要であり、開発計画の策定に際しては、国際協力に関する基本理念と具体的な方策について予め十分検討しておくべきである。国際協力の態様としては、現在進行中の「第4世代原子力システム国際フォーラム」などの多国間研究開発計画への積極的参画、米、仏、露等との二国間協力計画の有効活用を図るとともに、当面は「もんじゅ」の運転、保守を通して、核燃料サイクルを含めた安全性、信頼性、経済性、環境適応性、核拡散抵抗性等に関する国際共同研究を積極的に進め、高速増殖炉の開発に資すると共に国際貢献としても有効にすべく活動して行くことを提言する。

また、実証炉の開発・建設に当たっては、しかるべき国際協力の下に進めることをも視野に入れるべきであり、この点についての検討も出来るだけ早い段階で行う必要がある。我々としても、以上の諸点について引き続き検討を進め、今後さらに具体的な政策提言を行なう所存である。

以上

 

2005年1月19日

 

エネルギー環境Eメール(EEE)会議及びエネルギー問題に発言する会

有志会員一同 50音順)

 

饗場 洋一   秋山 元男   阿部 進   天野 治    天野 牧男  飯利 雄一   安藤 博  
池亀 亮    石井 正則   石川 迪夫   伊藤 和元   伊藤 睦    岩井 正三   遠藤 哲也  
大木 新彦    小笠原英雄   岡部 登    小川 博巳    奥出 克洋  加藤  洋明    金氏 顯  
 
金子 熊夫   可児 次郎    加納 時男  菊地 幸司    木村 正彦  工藤 和彦   小杉 久夫  
後藤 征一郎  小林 弘昌    小山 謹二   西郷 正雄   斎藤 修    斉藤 健弥   澤井 定   
塩田 哲子   柴山 哲男   下浦 一宏   白山 新平    杉 暉夫    鈴木 誠之   税所 昭南  
木 伸司    
高島 洋一   太組 健児   竹内 哲夫  竹之下正隆  田中 長年   田中 義具  
玉井  輝雄       萬亀雄   中尾 昇    長尾 博之  中神 靖雄  
中川 政樹    永崎 隆雄  
野島 陸郎  長谷川 捨登   畑 弘通    八巻 秀雄   喜茂      林 勉     笛木 謙右
藤井
 晴雄   星 璋     堀 雅夫    益田 恭尚  松岡 強     松永  一郎    松本 輝夫  
武藤 章   
武藤 正     森 雅英      森島  茂樹  山崎 吉秀   山村 修   横路 謙次郎   
吉田 康彦   
輪嶋 隆博  

以上 合計79名

 

 

 

 

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エネルギー環境Eメール(EEE)会議

代表(主宰者): 金子 熊夫

電話:03-3421-0210  又は03-4512-2557    Fax:  03-3421-0210

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