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<プログラム>

 

                    総合司会: 柴山 哲男 (EEE会議 特別会員) 

 

 (1) 開会挨拶(13:0013:05

           金子 熊夫    主催者代表

 

 (2) 来賓挨拶 (13:05:〜13:15

         佐々木郁夫    青森県エネルギー総合対策局長

  宮下 順一郎   むつ市長

 

(3) 基調講演(13:15:〜14:45

  (a)「資源小国の生き残り戦略:エネルギー自給率を50%に高めよ、そのために原子力を拡大せよ」

         金子 熊夫(エネルギー戦略研究会代表、EEE会議代表)

  (b)「原子力の安全性の本質」

         松浦 祥次郎(原子力安全研究協会理事長)

  (c)「核燃料サイクルの開発状況と下北」

     岸本 洋一郎(日本原子力研究開発機構 研究フェロー)


(4) パネル討論「原子力開発と下北地区〜地域振興と発展を目指して」15:0017:25

   司会     葛西 賀子 (フリージャーナリスト、元青森放送アナウンサー)

  パネリスト  佐々木郁夫(青森県エネルギー総合対策局長)
 
               末永 洋一 (青森大学教授、原子力産業と地域・産業振興を考える会会長

         松浦祥次郎(原子力安全研究協会理事長)     

  岸本洋一郎(日本原子力研究開発機構研究フェロー)

 金子 熊夫 (エネルギー戦略研究会代表、EEE会議代表)

 

(5) 閉会挨拶   種市 治雄(原子力開発と地域・産業振興を考える会副会長)


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1.開会

  総合司会 EEE会議 柴山哲男

 

 只今より下北エネルギー・セミナーを開催いたします。

私は今日の総合司会ということで務めさせていただきますEEE会議の柴山と申します。よろしくお願いいたします。

皆さまご承知の通り下北には、六ヶ所村、東通村、むつ市、大間町とそれぞれに原子力施設があります。これらの一つ一つはもちろん重要な施設でありますが、これらを一つの施設群という形で見直してみたらどうかということで、今日はむつ市でこういうセミナーを企画いたしました。

 まず最初に、主催者を代表して金子熊夫よりご挨拶申し上げます。

 

2.開会挨拶  

 主催者代表 金子熊夫

 

 私自身も下北の住民で――と申しましても私の下北は、東京・世田谷の下北沢でございまして、住んでいる近くに小劇場がいくつかあるんです。20数年前のある日フラッと行って偶然観たのが、ドキュメンタリー映画「核まいね」(注:「まいね」とは津軽弁で「だめだ」)というのですね、何と六ヶ所村の再処理工場のことをテーマにした映画で、当時の青森県知事さんや六ヶ所の村長さんらが反対派に囲まれて大変苦労をされている。私はその時直感的に「これはえらいことになっているな」と思ったんですね。その辺の事情を少し詳しくご説明しますと----

実は私は31年前1977年、当時外務省におりましたが、その年の1月カーターという人が米国の大統領になりまして、従来とは全く違った原子力・核不拡散政策を発表し、その最初の適用ケースとして、日本の原子力政策にびっくりするような注文をつけてきた。特に、当時東海村の再処理工場は完成していて今にも運転開始状態にあったのですが、運転してはならんということを言ってきた。ついでに、将来大型の商業ベースの再処理工場を建設するという話があるらしいが、それも困る。プルサーマルも核不拡散上良くないから止めてくれ、などということを言ってきた。当時の日米原子力協定では、米国の同意が無いと使用済み核燃料を再処理できない仕組みになっていたのです。

私どもは「いくらなんでも、それは無茶な話だ!」というわけで米国政府と激しく対決しました。当時マスコミが「日米原子力戦争」と表現したくらい激しい外交交渉でした。我々の主張は、原子力はエネルギー資源のない日本にとっては絶対に欠かせない、そして原子力をやる以上、再処理もしなければならない。だから是非とも計画通りやらせてくれと、強く主張しまして、1年がかりの交渉の末に、辛うじてアメリカを説得した。その後さらに10年かけて日米原子力協定改正交渉もやりました。(この協定は1988年に発効)。

こうした努力があったからこそ、今日の日本の原子力政策、とりわけ核燃料リサイクル政策があるんだと思います。ですから、そういう意味で私も個人的に非常に苦労したわけでございますが、その後外務省を退官して、このことを半分忘れかけていた訳ですが、ある日偶然「核まいね」という映画を見て、これは地元の青森ではえらいことになっていると気づいたわけです。私も若干の責任を感じたと言いますか、国内的にフォロー・アップしなければいかんな、地元の方々のために何かしないといけないな、ということを思ったわけであります。

時が過ぎまして、3年前に私が浅虫温泉で講演をした際に、出席しておられた三村知事にお会いする機会がありまして、その時、そういうお話をしまして、何か青森県の方々のためにお役に立つことをしたいと、じゃあ、それでは、市民レベルの情報交換会といいますか、勉強会をやりましょうかということになり、それがきっかけとなって、2年前のちょうど今頃に六ヶ所村で第1回の「エネルギー・セミナー」をやったわけでございます。県から蝦名副知事なども出席してくださって、大変盛会でした。

そういうわけで、本日は第2回目の「エネルギー・セミナー」でありまして、この下北半島のど真ん中、まさに原子力・エネルギー活動の中心と言いますか、先ほど総合司会の柴山さんが言われた通り、大間町・東通村・六ヶ所村というところから見てまさに下北半島の中心にあるむつ市で----むつ市自体にも『リサイクル燃料備蓄センター』という重要な施設が建設中ですが-----、こういうセミナーをやらせて頂くことになったものでございます。

そういう意味で、本日の会合は、あくまで市民レベルでの自由な立場での意見の交換、情報交換でございまして、私どもは政府とか、原子力委員会とか、電力会社といったところの代理人ではございません、まったくの自由な立場でやっているわけでございます。ですから、このセミナーも外部から財政面の援助をもらってやっているわけではなく、いわば私たちが手弁当で、ボランティア活動としてやっているものでして、従って予算もギリギリのところでやっておりますので、会議の運営上いろいろと不備な点もあろうかと思いますが、そこはひとつご了承をいただきたいと思います。

そういうわけで、私どもは地道に一生懸命やっておりますが、実は反原発グループはご承知の通りだいぶ盛大にやっているようであります。たとえば、ご存知のように、去年の暮れに、講談社から「ロッカショ」という、けたたましい反原発の本が出まして、書いたのは坂本龍一という有名な作曲家でございますが、それに衆議院議員(自民党)の河野太郎さんなどが、いろいろ勝手な原子力批判や再処理反対を言っているわけでありますけれど、私どももこの本を読んでびっくりしました。こんな無茶苦茶なことを言って一般市民をミスリードするのは良くない、放ってはおけない、ということで、講談社に抗議文を送り、河野太郎さんにも直接反論文を送りました。

その反論文や抗議文を読んだためと思われますが、反原発グループの拠点と思われている消費者団体の一つ、東京の「カタログハウス」という会社、実はこの会社は、今ここに持ってきておりますような「通販生活」という雑誌を出しているんですね。この会社の編集部は、我々が河野太郎さんとか坂本龍一グループを叩いたので、それでは河野グループと誌上討論会をやったらどうかと持ちかけてきました。私どもは受けて立つことにし、さる7月半ば、東京の新宿でこの討論会をやりました。先方は河野太郎さんと九州大学教授の吉岡 斉さんという名だたる反原発論者、私どもの方は私と京都大学教授の山名 元さんで、夜中まで5時間くらいかけて大論争をやったわけでございます。実はその座談会の記事は、カタログハウス社の了解を得て、皆さまのお手元のパンフレットの一番後ろに載せてあります。小さい活字ですが是非読んでいただきたいと思います。

そんなわけで、反原発グループだけに一方的に批判させて、黙ってみている必要はないのでありまして、我々も声を大にして、原子力の重要性を大いに論じてみたいと思うわけでございます。繰り返しますが、今日は市民レベルの自由な意見の交換ということでございまして、議論したから何がすぐにどうなるということではございませんが、私どもの取り柄は東京から第一級の原子力の専門家をお連れして参りましたので、そうした人の意見を皆さま方に聞いて頂いて、同時に我々も皆様からいろんなことを教えていただいて、そういった中で私どもが、たとえば中央官庁なり、政府・自民党なり、あるいは電力会社なりに言うべき事や皆様のご要望があれば、それは私どもが責任を持ってお伝えしたい、つまりパイプ役を果たしたいと思うわけであります。

本日は地元青森県から佐々木エネルギー総合対策局長さん、むつ市の宮下市長さん、それから青森大学の末永先生といった錚々たる専門家もご参加いただきまして、パネル討論もございますので、どうぞ皆様方、最後までじっくりとお付き合いお願いしたいと思います。簡単でございますが、お礼を申し上げて、ご挨拶とさせていただきます。

 

 

3.来賓挨拶

1)青森県エネルギー総合対策局長 佐々木郁夫 

 セミナー開催にあたり一言ご挨拶申し上げます。エネルギー政策をめぐっては、温室効果ガスの増加による地球環境への影響という観点、さらには地球規模でのエネルギー需要の増加という観点から、原子力を再評価する動きが顕著になっており、今後とも続く世界的な傾向であろうと認識しています。

 下北半島地域では六ヶ所村の原子燃料サイクル施設や、むつ市に計画されている使用済燃料中間貯蔵施設、大間・東通原子力発電所など、核燃料サイクルを担う多様な施設の立地が進められ、日本のエネルギー政策上重要な地域として位置づけられているものと受け止めております。

青森県は様々な原子力施設の立地に際しては、安全性の確保を第一義に、地域振興に寄与することを前提として協力してきたところであり、各界各層の県民の方々からご意見を聞きながら慎重に対処してきました。原子力施設が地域社会に受け入れられる上で最も重要なことは、安全の実績を積み重ね、住民の皆さんの信頼を得ていくことであり、これが安心につながる道筋ではないかと考えているところでございます。

 県としては、原子力施設をはじめとするエネルギー産業立地のポテンシャルを生かし、我が国のエネルギー政策に貢献するとともに、本県におけるエネルギー産業の振興と、地域産業の活性化に結び付けていきたいと考えています。

 本日のセミナーにおけるご講演や意見交換を通じて、下北地域のさらなる活性化が図られることを祈念するとともに、ご参加の皆様にとって意義深いセミナーとなりますことをご期待申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。

2)むつ市長 宮下順一郎 

 開催地の市長として一言ご挨拶申し上げます。本日は下北セミナーに参加いただき有難うございます。

このむつ市を取り巻く下北半島は、今非常に大きなエネルギーの部分、食の部分で、戦略を立てられる地域に成長しつつあります。先日の東北市長会で申し上げたことですが、本州最北端のむつ市と言えばよくわかるが、場所がどこにあるかなかなか理解してもらえない。青森県のバッチで下北半島を隠すと県の姿をなさない。日本列島の姿が分からなくなる、形の上では大きな役割を果たしています。しかし形だけではなく、今はエネルギーの供給基地として、大きな役割を果たしていくのがこの下北半島であります。さらに食の部分で青森県は118%の自給率があります。エネルギーも食も県外に出す、これを封じ込めれば、日本は電気もつかず食べることもできないことになってしまう、そういう話を日頃させていただいております。

 今こそ下北半島が一丸となってこの安全な施設、そして住民に安心感を持ってもらう施策を進め、そしてエネルギーの部分、食の部分で、日本の骨格をなす地域であることを、自信と誇りを持って下北半島に住んでいることを、むつ市に住んでいることを大いにアピールする場面が出てきたのではないかと思っているところであります。

 様々な場面で核燃サイクル、中間貯蔵、原子力発電所、大きな役割を担う下北半島、私たちは自信と誇りを持ってバックアップし、安全性をチェックし、安心感を持ってもらうよう施策を求めなければいけないし、進めていく必要がある。私はこのような覚悟でございます。

 その意味からも下北半島の地の利を生かした地域作りについて、貴重な話が出るかと思います。どうかよろしくお願いいたします。私はこの下北に住んでいることに自信と誇りをもつべく施策を展開する、これが一つにはエネルギーであり、一つが食の問題であります。後は様々な場面で交付金を活用して、計画性を持って住みよい街づくりを進めていく、子孫につながる施策をやらねばならない、このような思いでございますので、本日は皆様方、勉強をし、また識見を深めていただく、そのようなセミナーであることを心からお願いいたしまして私のご挨拶とさせていただきます。

 

4.基調講演要旨

1)資源小国の生き残り戦略:エネルギー自給率を50%に高めよ、そのために原子力を一層拡大せよ

  エネルギー戦略研究会会長、外交評論家 金子熊夫

 

 このセミナーを計画していた今年の夏頃は、原油がバレル当たり150ドル近くに高騰していましたが、今日は60ドル台に下がりました。このように僅か2ヶ月で3分の1に急激に乱高下するということは前代未聞の状況であります。OPECは昨日ウイーンで緊急総会を開き、日本の1日当たりの使用量の3分の1に相当する150万バレルの生産調整、つまり減産を決定しました。

しかし、これはやはり米国発の金融危機、経済不況に起因する一時的な現象でありまして、長期的に見ると、いずれ石油は枯渇するし、その一方で需要はどんどん増えるから、石油価格が再び高騰するのは明らかです。2030年までに1バレル200ドルを越えるというIEAの予測があります。そういった状況を見越して、中東の産油国自身、金(オイルダラ−)のあるうちに自分たちも原子力発電をやろうとしています。また、石油についてみると、いずれ将来中国一国だけで中東原油の全量を購入しても足りない時代が来る。だから中国は目下ものすごい勢いで原子力発電所を建設しています。

一次エネルギーの50%近くを石油に依存する日本も安閑としておられません。石油への依存度を減らし、エネルギー安全保障を確保するためには、また、同時に温暖化対策としてCO2の排出量を大幅に削減するためにも、日本は原子力を拡大する以外に現実的な選択肢はありません。

ところが、先ほど触れましたように、衆議院議員の河野太郎氏ら反原発グループは、六ヶ所再処理工場を止めてその金で風力や太陽光発電をやれと言っていますが、これは全く筋違いの議論です。原子力をやる以上、再処理は避けて通れません。ここは基本的な点で、日本のエネルギー政策の根幹であります。

 そうした認識に基づき、我々は1年前に、福田総理大臣に対し「日本の長期的なエネルギー国家戦略」について政策提言をしましたが、その骨子は次の通りであります。

 ・2050年までに化石燃料(石油・石炭・ガス)=50%、原子力=34%、自然エネルギー(水力・風力・太陽光・地熱・バイオなど)=16%、つまり原子力と自然エネルギー合計=50%に持ってゆく。(添付資料の図表=円グラフを参照)

・これで自給率は50%になり(原子力を「準国産エネルギー」として勘定)、同時に温室効果ガスの排出も大幅に削減でき、国の「クール・アース」構想も実現できる。

 

実は先週、日本原子力研究開発機構(JAEA)が「2100年のエネルギー見通し」という研究報告書を発表しましたが、その中で日本の原子力のシェアは60%になると言っております(現在は約33)。また、10日ほど前ですが、パリにあるOECDの原子力機関(OECDNEA)は、世界の原子力は2050年までに飛躍的に伸びる、最大で現在の3.8倍、1,400基必要になる(現在は全世界で約440)という見通しを発表しております。

ここで世界各国の現状をごく簡単に概観してみますと、ヨーロッパではフランスを中心に原子力を積極的に進めていますが、最近では、英国とイタリアが再び原子力を重視し、原子力発電所を新規に建設する方向で動いているのが注目されます。ドイツは、元々石炭と天然ガスに頼っており、前政権(社民党と「緑の党」の連立)時代に脱原子力政策を採択しましたが、天然ガスの供給元であるロシアの動向など不安材料があり、従来の脱原子力政策を見直そうという動きがあります。

アジアでは、中国をはじめ、従来から原子力に熱心だった韓国、台湾、インドなどが原子力を拡大中。さらにベトナム、インドネシアなども新しく原子力計画を進めようとしています。

米国でも、このところ原子力復活・ルネサンスの動きが徐々に本格化しつつあり、州によっては、NINBY(Not in my back yard)からPINBY(Please in my back yard)へ、つまり原子力歓迎という状況すらみられるようになっています。しかし米国では電力会社が比較的弱く、連邦政府の債務保証がないと建設に踏み切れないなど不安定な面もあります。また11月の大統領選挙でだれが当選するかによってもかなり変わってきます。ちなみに、大統領候補のマケインさんは原子力に大変積極的で、当面45基新設する、その先は100基の原子力が必要としておりまして、現在の104基と合計すると200基以上の原子力が動くことになる訳であります。他方オバマさんは再生可能エネルギー重視の立場で、原子力にはやや消極的な感じですが、決して反対ではないと見られています。

さて、翻って日本ですが、数年前までは国も原子力(特に再処理)に確信が持てないような時期がありましたが、3年前に「原子力政策大綱」、2年前に「原子力立国計画」を定め、原子力推進方針を明確に打ち出しました。今後は国も「ぶれない」と言っています。しかも原油高でエネルギー安全保障を確保、温暖化対策で「低炭素化」を実現しなければならないので、原子力への期待はますます大きくなっています。

私の夢ですが、世界的に見ても下北半島はユニークな存在であります。「エネルギー・フロント下北」の特徴を生かして、さらにこの地域を発展させるために、その1つの方法として、6、7年のうちに青森県で盛大な「エネルギー万博」をやったらどうかと思っています。環境と観光も一緒にすれば一層充実したものになるでしょう。将来に対して夢を持って進んで行きたいと思っております。

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2)原子力の安全性の本質

     原子力安全研究協会 理事長 松浦祥次郎

 

 1026日は原子力の日です。それは昭和381026日に原研の動力試験炉JPDRが初めて臨界を達成した日です。私はJPDRの建設に参加して、炉物理試験をするチームに入りましたが、その前の大学時代から計算すると、原子力に関係して50年になります。原子力安全のことを30分で話をしろと言われておりますが、そんなに容易なことではありません。しかし一般の人に分かってもらえるように話すことも大切だと思い、今日は分かり易い話をしたいと思っています。

 

ア.原子力安全の主目的は何か

 原子力の仕事では核燃料物質や放射線を扱うので、これに伴う危険を防止することが原子力安全の本質です。放射線被曝による障害を防止することが原子力安全の主目的です。

 放射線障害を防止するために世界の専門家が集まって国際放射線防護委員会が設けられ、防護基準が勧告されています。各国の規制当局はこの勧告を参考にして法的規制の基準を決めています。

 放射線被曝はどんなに小さくても影響があるということではありません。影響のあるのは自然放射線の数百倍から千倍以上の被曝を受けた時です。自然放射線の10倍くらいの被曝は、健康に良いという実験結果も報告されています。

イ.安全確保の責任はだれが負うか

 原子力活動は原則的に禁止事業です。安全確保の責任は一義的に事業者が負っています。国は許可・認可を行うための安全基準を定め、それを公表する責任があります。このため国際原子力機関(IAEA)が原子力安全のための基準を作成し、それを公表しております。各国はこれと矛盾しないようにそれぞれ基準を決めて、さらに基準を守っているかどうか相互に確認しあう仕組みが出来ております。これは国際原子力機関の重要な活動として次々と進められております。

ウ.安全確保の基本的な考え方と対策

 原子力安全確保の基本思想は、合理的に可能な限り不要な放射線被曝を防止することです。具体的には放射性物質を確実に閉じ込め、人体内にそれらを取り込まないこと、また放射線を必要十分な程度まで遮蔽しておくことです。とにかく閉じ込めと遮蔽というのが基本的な対策となる訳であります。こういうことを実現するためにどうするか、ここで一つは深層防護という考え方、そしてそれを支える多重障壁という考え方が出てくる訳であります。これは設計にあたっては、通常の時も非常の時も考えて、まさかの事故に対する対策と、それに対して十分であると考えられる安全余裕を持つような設計の仕方をする。また運転においても事故が起こらないように運転の仕方をするし、もし事故が起こったらその影響が拡大しないように、拡大を防止するための最大限の対策と運転上の努力をするという、これが対策として非常に重要なことであります。

 ここで一番基本的なことは、原子力発電所でいえば「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」。これはまさに放射性物質・放射線を遮蔽するという、このことを言っている訳であります。原子炉を「止める」といつたことで、それ以上の放射性物質が出来ないようにする。「冷やす」ということは、残っている熱によって燃料を入れる器が破れるということがありますので、それを冷やして、破れないようにする。そうして徹底的に放射性物質を閉じ込める。このことが十分確保されるようにする。

 先般の中越沖地震で柏崎刈羽発電所の機器が影響を受けましたが、柏崎刈羽のすべての原子炉で、この「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」ということが、完全に行われたことが確認されておりまして、安全の基本的なところが十分に守られていると言ってよいと思います。

 それからもう一つは、大事故が起こった時、かりに放射性物質が大量に漏れたというような時にはどうしたらよいかということで、一般の人々の避難を含めて、影響を最小限にするような対策をちゃんと準備しておく、このことが安全対策の基本的な考え方であります。

エ.安全性をどのように評価するか

 原子力施設の安全性を評価するのには、「決定論的評価の手法」が使われます。これは「現在の知識と経験によれば、この原子炉の重要機器は十分な安全裕度を有しており、この炉が崩壊する事故にあうことは工学的に考えられない」という評価の手法です。

また確率論的リスク評価の手法が補足的に使われることもあります。これは「この原子炉が通常運転のもとで崩壊するような事故にあう確率は、10万年の運転期間あたり1回程度である」というような表し方の評価手法です。

 

オ.安全と安心

 安全は科学的知識と経験に基づいて確保されます。安心は「安全であるらしい」との感性・情緒による心的状況です。安全と安心をつなぐのは信頼でしょう。信頼構築に欠かせないのは、事業者・規制当局の公正さ、透明さ、対処能力と一般公衆の建設的批判であると考えられます。

 

Q) A:三点について質問します。原子力不祥事について事業者の責任があいまいであったと思います。またその時の対応がはっきりしません。 次に刈羽の放射能漏れは安全と言えるのでしょうか。三つ目として下北でも活断層の存在が言われています。一部については昔から言われているのに国は許可しています。国の指導が弱かったのかという気がします。

A:松浦:地震については後ほどパネル討論でお答えしたいと思います。

事業者及び行政の責任については、私が原子力安全委員会にいた経験を踏まえて申し上げますと、法令に基づく点は間違いなく対応しています。法令に基づかなくても、事業者の責任ある方々が、私どもから見てその必要性について首をかしげるような状況でも、事業者は責任を取って職を辞することがありました。事業者の立場としてそういうふうに責任を取るべきだとお考えで、そのようになさっているものと私は判断いたしました。

柏崎刈羽の問題ですが確実にということですが、そのレベルについては、科学技術的に妥当かどうか判断してもよいこと考えます。海に漏れたというものも、天然のものよりはるかに低いくらいのレベルで漏れたと理解しておりますし、外へ漏れたのも、数値はいま覚えておりませんが、人間の活動に影響するレベルよりもはるかに低い、無視出来るレベルのものであった理解しております。これは「閉じ込める」という主旨、すなわち公衆及び作業者に障害を与えないということが、十分に果たされたと考えております。

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3)核燃料サイクルの開発状況と下北

日本原子力研究開発機構 研究フェロー 岸本洋一郎

 

915日 リーマンブラザースが破たんして40日以上たち、騒ぎがどこまで広がるのか、見通しが誰も持てない状況でございますが、これが原子力にどう影響するのか、デリバティブの残高は20076月時点で500兆ドルとも言われており、世界のGDP合計の10倍くらいのものが回っていた、それがバブルの崩壊により資産価値が縮小していくプロセスが続くとみられています。信用収縮、金融収縮がどこまで続くか知りませんが、私が懸念しているのは、原子力のように大型の長期にわたる投資が必要な事業に対して、投資意欲が減退しやせんかというのが気になるわけであります。一方で、直前まで原子力ルネッサンスと言われ、各国の熱気が充満していた状況でございますので、具体的にルネッサンスと言われているものが、実際としてどのような状況かを概観していただいて、その中で日本もありますし、日本の中で下北を俯瞰するのにお役に立てればと思っています。

・我が国の原子力発電の規模

我が国の原子力は現在4900万kWに対し、今現在建設中が大間、泊3号、島根3号の3基、さらに計画中が10基あり、計画がもっとも早く実現すれば2020年には約6800万kWになると想定されています(添付図参照)。現状では、電力が全体のエネルギーの40%であり、原子力が電力の30%でありますかから、40%の30%で、原子力は全エネルギーの12%に相当します。

県別にみると福井県が最も多く、青森県は現在まだ1基しかありませんが、計画が多いのが青森県で、計画の全部が完成すれば4基となり、全国4位の重要な原子力県になります。(添付図参照)

・現在の原子力発電の課題

今年の1月に決められました政府の計画では、環境改善のために石油・石炭などの化石燃料の発電を50%以下にする目標が掲げられております。そのためには省エネルギーなどもやらなければなりませんが、原子力としては、次のようなことがあげられます。

@稼働率向上:現在地震による影響などがあり、稼働率が低いので、これを向上する。

A新増設推進:先にあげた全計画の完成のほかに、さらに新規計画が必要であります。

B出力アップ:全国の既設原子力発電所の2%アップでも100万kWとなり、1基増えたと同じ効果があります。アメリカでは原子力発電所の新設はないけれど、大きな出力増を果たしています。現在東海第2発電所は2年ぐらいかけて5%の出力アップをしようと頑張っています。

・核燃料サイクルのバックエンド−日本

大間の発電所ができますと、リサイクルした燃料だけで動かすことができる、これは世界初の、最先端の発電所となります。(添付図参照)

問題は高レベル廃棄物の処分場です。処分場の場所を見つけることから取り組まなければならんという状況です。それと当面やらなければならないのは、六ヶ所再処理工場を動かし、プルサーマルを立ち上げるということで、発電所のプルサーマルは少しずつ進んで、実現を始めようとしています。六ヶ所が立ち上がりさえすれば、間違いなくやっていけるということになります。六ヶ所の立ち上げとともに、新しいリサイクル燃料プラントを建てなければいかんということで、MOX燃料加工工場の準備が始まっており、2012年に立ち上がる予定です。この工場の完成により、国内での燃料リサイクルが始まる、あと数年のうちに、これが、国内サイクルとして動き始めるということが期待されます。

・核燃料サイクルのバックエンド−世界

 英国の再処理の歴史は長く、フランスともども世界の原子力を相手に商業活動を行っています。

六ケ所工場は世界では6番目の大型再処理工場で、当面日本国内だけを対象としていますが、六ヶ所が国内で実績を積み上げていく暁には、世界を相手にした下北の議論が起きてくるのではないかと思っております。(添付図参照)

・核燃料サイクルのフロントエンド

 世界的にみるとフロントエンドが活発であり、原子力ルネッサンスでウランの需要が伸びる中で各国ともウラン鉱山開発に乗り出しています。(添付図参照)

・世界の原子力の成長予測

それでは原子力がどれだけ伸びるかと言いますと、先月のIAEAの予測では2030年の高ケースで、現在の約2倍と想定しています(添付図参照)。調査はいろいろありますが、世界原子力協会では、IAEAの高ケースとほぼ同じレベル、米国エネルギー省では1.4倍の数字を挙げています。

・世界の原子力希望国(添付図参照)

上記の原子力増加の内訳が問題で、今までは原子力をやっている国は30カ国で、ここしばらくその数は変わらなかったのですが、今は多くの国が原子力をやりたいと言っています。例えば地中海の南側の北部アフリカの国5つが全部原子力をやりたいと言い出しています。またアメリカの原子力協力提案(GNEP)に中東の国がたくさん手を挙げています。産油国のほとんど全部が自分たちも持ちたいと言い出している。バルト3国の一つリトアニアは、ソ連時代の原子力を1基運転していますが、それで国の70%を賄っています。EU加盟の条件としてそれを来年末までに停止する約束をしているので、バルト3国とポーランドを入れた4か国で大きい発電所2基を作ろうとしていますが、障害が多く難航しています。リトアニアのエネルギー大臣は、原子力を持つことが自分たちのエネルギー独立とセキュリティに重要であると言っています。

コーカサス地方の三つの国、グルジア・アルメニア・アゼルバイジャンですが、アルメニアはソ連時代の発電所を使っている。アゼルバイジャンは産油国で石油も天然ガスも持っている。グルジアは資源がなく原子力を欲しいと言っている。石油の地政学と原子力の地政学がうまく補っている状況です。それぞれの地域で状況は異なりますが、やはり解決策は原子力であるというのが最近の動きであります。

アジアは、当然エネルギー需要増大に対応するため原子力を必要としており、ベトナム・タイ・インドネシアといずれも200万kWくらいを、まずやりたいとしています。

新興国BRICsの発展計画を図に示しておりますが、2020年で中国は40W、日本は67W,一気にやればそれぞれが何十兆円という数字になるわけであります。このような状態は3年前にはなかったわけで、世界中が火のついたように原子力が広がっていく、ということだと思います。長い目で見るとこの投資は確実に収益を上げるということだと思います。

・ウランの需給

 これだけ原子力が広がってウランは大丈夫かというのですが、全部合計すると65千トンくらいで、アメリカが最大、フランス、日本の順位で、この3か国で60%くらいウランを使っています。年間生産量が4万トン前後というのがここ数年の状況で、2万トンのギャップがありますが、情報が透明でないのがこの部分です。今までの軍事用ウランのストックがかなりある、それから米ソの核軍縮による解体高濃縮ウランの転用、回収ウランの再利用などで2万トンぐらいになります。これらの余裕は早ければ2013年には無くなるとみられています。したがって34年前からウラン鉱山開発は活発化しています。

 今現在日本は7〜8千トンのウランを必要としており、2030年後には1万トンが必要になります。これを世界のマーケットの中でどうやって確保していくかが重要な問題で、政府も一生懸命やっており、カザフスタンと手を組んで電力が開発できるようにしている最中であります。

 世界のウランの見通しで最近のものは、アメリカのエネルギー省の見通しですが、生産コストが40ドル未満のものが270万トンくらいある、としております。先ほどの見通しの発電所計画で、2030年までで200万トンくらいの需要なので当面十分あります、というのが大方の見解であります。

・ウラン濃縮

 濃縮は今世界の中で大競争が起きており、アメリカでは2か所で大工場が建設中であります。フランスは新しい工場をがんがん建設中でありますし、オランダ・英・独は米国内で工場を建設しています。六ヶ所は新型遠心機のテスト中であります。

 そういう中でロシアは三つの大きな工場を持っていますが、その他にもう1か所バイカル湖の南に工場があり、そこに国際的な濃縮サービスを提供する核センターを作ろうとしています。これは2年前の1月に言い出したことで、カザフが協力すると申し出ています。

 中国はロシアの技術を導入して4期目の工場を造っているところですが、あれだけの発電所を作って行くのですから足りないと思われます。インドはおそらく外国から調達することになるでしょう。

世界的に見て拠点の数が足りないという中で、どうやっていくかということになる。したがってそういう目で、六ヶ所の今後も位置づけられるのではないか、事業の将来展望をみるのにそういう目が必要であると考えられます。

・転換・再転換

 再転換は普通燃料工場で一緒に行いますが、JCOの事故で再転換事業をやめてしまったので、日本では必要容量の半分ぐらいしかできない状態です。したがって再転換の一部を海外に頼んでいる状況にありますが、いずれ再検討する必要があります。

 ということで下北で芽が出ているけれどもまだスムースに、マーケットができている状況ではない、というのが現状であります。

 ということで世界の状況を駆け足で見てまいりましたけれど、原子力は安全の面で一番気を使ってやらなければならない、一方の面で核の軍事利用をいかに排除しながら、平和利用を進めるかが大命題であります。日本のことだけを考えていればよいということではなく、近隣の国のことまで考えないといけなくなってくるんではないか、今再処理に関する世界の議論のポイントは、ウラン濃縮と同じように、再処理ができるセンターは数を限ってきっちりと管理していく、ある国が再処理を必要とする場合にはそれを引き取りますという考え方であります。使用済み燃料を引き取れる状態を国際協力の中で、どうやって責任体制を組んでいくかということが、今のバックエンドの中では処分の問題以外で一番重要なことであります。これは政治的であると同時に、国民的コンセンサスがないと出来ない、あるいは国際間の合意がないと出来ない話でありますが、核不拡散のためには整備しなければならないことであります。

 廃棄物の方は、それぞれの国が処分場を造ってやるということですが、リサイクルに関してはそうではなくて、ある拠点に集めてやるというのが、今の中心課題であります。

 国内には55基、世界中で439基の原子力が、ひょっとすると倍ぐらいになる、世界で290あるいは300基出来るということになりますが、いずれにしろ六ヶ所は世界の中で非常にすぐれたモデルの一つであるし、それとともに発展していく可能性があるという具合に思われます。以上で終わります

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5.パネル討論

  原子力開発と下北地区〜地域振興と発展を目指して

司会:葛西賀子

パネリスト:佐々木邦夫、末永洋一、松浦祥次郎、岸本洋一郎、金子熊夫

 

葛西賀子:パネル討論に移ります。まずパネリストの皆様をご紹介させていただきます。(紹介略)

私はフリーアナウンサーの葛西でございます。私は故郷青森のことは若干知っているのでございますが、エネルギーのことは素人でございます。皆さまの御助けを借りましてこの専門家の方々とディスカッションを進めていくという形にしたいと思います。皆さん方疑問・質問などあろうかと思います。このような錚々たる方々に直接聞くチャンスはあまりないでしょうから、後半に時間をとりますので、会場の皆さんも忌憚のないご意見・ご質問をお聞かせいただきたいと思います。

東京からの3人の先生からはすでにお話を伺っておりますので、まず青森の方に短いですが、5分で発言していただきたいと思います。

・佐々木邦夫金子先生のお話にあった国際的評価という点では、今年4月フランスのフィヨン首相が六ヶ所村を視察されて、三村知事に対して「この地域には地球温暖化に対して必要なテクノロジーが共存していることを誇りに思ってほしい」というお言葉をいただいたわけであります。こういった国際的な評価は、確かに青森県・六ヶ所・下北半島地域といった、名前も徐々に浸透しつつあると思うのですが、一方国内的には、今年7月に行われた内閣府の世論調査の結果を見ますと、環境対策として原子力の評価が低く、国民全般から原子力発電の必要性が十分理解されていないのではないかと受け止めております。特に電力大消費地の住民を対象とした理解活動が不足していたのではないかと懸念しております。県民を対象とした広聴広報活動は県としても行っていますが、国や事業者による国民全体への理解活動の促進をお願いしたいと思っています。

松浦先生のお話で安全について頭の中が整理できたかなと思います。お話にもあったように原子力の安全は、第一義的に事業者が責任を持って取り組むとともに、法令に基づいて一元的に安全規制を行っている国が、その役割を果たすことが基本です。もう一つ重要なことは、情報公開の姿勢を堅持すること、些細なことでも公開するという積み重ねが大事だと思っております。

岸本先生のお話で、国家戦略における下北の位置づけを勉強させていただきました。今後大事なのは研究開発と人材育成だと受け止めています。県としても原子力技術を支える人材育成に向けた構想を進めているところです。また研究開発という点では、ITER計画と並行して取り組まれる幅広いアプローチという核融合技術の研究開発プロジェクトの立地点として関わることは、本県としても誇りに思っています。

・末永洋一:原子力産業と地域・産業振興を考える会の会長として、今日ここに呼ばれたのだと思っております。後で機会があれば、少し考える会のことを紹介させていただきたいと思います。

最近原子力ルネッサンスと言われるが、私はこのルネッサンスという言葉に非常にこだわりを持つんですね。ルネッサンスとは単なる再生ではない。新たなトレンドの中で、世界の新しい形、社会が求めている中で、昔を振り返りながら新しい状況を作っていくのが、それがルネッサンスであります。原子力のルネッサンスはまさにそれであります。当初原子力は、単なるエネルギー問題でしかなかった。しかし今考えてみるといろいろな問題が出てきた。今はCO2に始まる環境問題、あるいは単にエネルギーでなく、準国産エネルギーとして国の重要な政策の一つになってきた。自立する国家として発展するには、食糧・エネルギー・国防などの中で最も重大なものの一つがエネルギー問題。そのための資源をいかにして確保するかが重大だと思うんですね。原油は明らかに枯渇してゆく。ウランも次第に少なくなる、あるいは無くなっていくかもしれません。その時、もう一度使えるようにするという戦略を持つことが、日本のエネルギーを長期的に考えるのに極めて重要であります。原子力の問題を、環境と資源の問題の二つを中心に、これから自立可能な社会を作っていく基本的な基盤としてやはり必要になってくるかな、という形で考えているということです。

3年前考える会を作ったが何故こんな運動をやっているのか。青森県の厳しい産業経済状況、その中において、地域をいかに活性化するか、ということのためにやっているということです。今会員としては360、個人・団体を含めてありますが、その中で何を考えているか。青森県は何としても産業を高度化しなければならん。そのために地域の資源をどのように活用していくか、ということであったんですね。そのための一つがリンゴ産業クラスター。またクリスタルバレー構想などがあります。いろんな事をやった、しかし一つ忘れていることがあるではないか、と思ったんですね。それは原子力だ。原子力を産業としてとらえて、ある意味で資源として、どうかして活かすことが出来ないかと考えて、実はこの考える会を作ったということです。  

今年高校を卒業した人が55%県外に出ていくんですよ。これは青森県は付加価値生産が低い。それを何とか変えていく、そのために原子力を資源としていかに利活用するか。もちろん大前提は、安全です。知事は「安全性なくして原子力なし」と言いますが、私も全くその通りであると思う。安全をしっかりして、原子力産業と一体になって、知事と一体になって、あるいは行政も巻き込んでやっていく、これが考える会であるということです。

 

討論

(下北への集中)

・葛西:それでは討論に入っていきたいと思います。エネルギーの情勢は変革の時代であり、世界的に原子力に関心が集まっている。下北には関連施設が集まっている中、このことをどう受け止めたらよいのでしょうか。まず金子先生。

・金子:下北は世界の中でもユニークであり、そのことはむしろ外国人の方がよくわかっていると思います。アメリカはいろいろな事情で原子力を十分やってこなかった、その結果日仏に後れをとったことを悔しい思いでいると思います。下北に期待する気持は外国の研究者にも強い。日本人は技術力にもっと自信を持ち、国際的に研究開発は最先端を行っているんだ、そして下北は重要なその一翼を担っているんだ、という認識を持ってやっていただきたい。決して迷惑施設を押し付けられているというのではなく、将来性のある、夢のある原子力産業を担っているわけでありますから、発想の転換をして、原子力との共存共栄により地域の活性化を図っていただく、それが私のこのセミナーに込めた思いであります。

・葛西:下北に集中していることについて岸本さん、どうでしょうか。

・岸本:再処理工場がもたついているように見えますが、六ヶ所は新しい設備であり、それを動かすにはトラブルもあります。温かい目で見ていただきたい。放射性物質を扱うには熟練した人が必要であります。また設備を維持・補修をする人を育成し、定着してもらうことが大切です。若い人が県外に出て行くのではなく、地元に留まってもらうことが必要です。アメリカは30年間再処理をやっていないので、日本の経験を欲しがっている。ノウハウを培うことが大切であります。

(人材育成)

・葛西:若い人を育てることについて、青森の人はどう思っているのでしょうか。

・末永:我々も真剣に考えています。日本原燃で働いている人の半分以上は青森出身者です。今、考える会では、成果展開事業を要請しています。特許や技術を提供してもらい、青森県の企業が事業化を図る。八戸高専では原子力育成のためのカリキュラムを始めています。人材育成をしながら、原子力産業を発展させて、青森県の人を使ってもらう。

ただ青森の人には「甘えるな」ということも言っています。自ら努力しない人や災いをもたらすような人はいらない。原子力とリンクしながら様々な人材を育成していく。ただ残念ことに雇用の場が県内に少ない。人材はあるのだが、雇用の場を作って行くことも重要である、後数年かかるかもしれませんが。

・葛西:県としてどうお考えですか。

・佐々木:県として人づくりの構想をまとめています。青森県の人材は各企業からも評判が高いのですが、働く場の確保が長い間の課題です。原子力を、何とかしてそれにつなげたいと思って努力しています。最近では日本原燃の協力を得て、県内地元企業に働きかけて「原子力メンテナンス・マッチング・フェア」を催し、88社の参加を得ました。一部は現在も商談が続いているようです。また2006年には、エネルギー関連産業のポテンシャルを生かしながら、地域での新たな産業振興を図るため、「青森県エネルギー産業振興戦略」を策定し、取り組んでいます。

(地震)

・葛西:下北に施設が集中しています。先ほど地震の問題が質問に出ましたが、下北地区で地震は問題ないのでしょうか。

・松浦:地震の話の前に安全問題に一番重要な放射線の影響については、下北には環境科学技術研究所があります。ちょうど大桃先生が来られておりますが、低レベルの放射線について研究をされております。その成果を皆さんにご承知いただければよいと思います。

 地震の問題ですが、地震が起きても放射能が放出されて、一般の人に影響をおよぼす事態とならなければよいわけで、その観点から耐震の指針が決められており、政府の審査もこれに基づいてなされているわけであります。阪神災害の後、原子力発電所について安全性の再確認をして問題ないことが確認されましたが、耐震指針が25年前のものであり、新しい知見を反映するために見直しすることになり、2003年に作業を開始しました。5年間の審査を経て、新しい耐震指針が策定され、新しい設備はこの指針によることとなりましたが、すでに設置されている設備については、事業者が新指針に基づいて自主的に検討し、必要ならば補強することになっています。

・葛西:青森の断層はいかがですか。

・松浦:青森県には西部と南部に大きな断層があり、最近活断層に関する判断が変わったこともあり、小さな断層が発見されているようです。

・佐々木:県としても状況を認識しています。横浜断層については、事業者3社による調査結果が919日に公表され、その他日本原燃の海上音波探査結果も公表されたところであります。国では、専門家の意見を聞きながら厳格に確認するとしているところで、県としてはその対応状況を注視しているところです。

・葛西:阪神大震災以降は判断基準が変わったという話ですが、以前の判断によるものは大丈夫なのでしょうか。

・松浦:断層のありなしではなく、建物を評価し直して建物が耐えればよいし、耐えられないと評価されれば強化すればよい。現在そのような活動を行っているところです。

(下北集中と県民の対応)

・葛西:先ほど人材育成の話が出ていましたが、これからの日本のエネルギー政策の根幹を担う原子力施設が下北には集中していますが、エネルギー政策の先進地として、すごいなっ!という実感がない。誇りを持つにはどうすればよいのでしょうか。末永先生が手を挙げておられる。先生どうぞ。

・末永:立地条件も勘案しながら、日本の原子力政策論の中で、事業者が協力して立地を推進してきました。考える会では原子力施設は資源ととらえています。MOX燃料工場ができれば新しい資源として受けとめる。

それから、ちょっとだけ言わしてください、断層問題で千葉の先生が言ったことですが、最初は小さい記事だったのが、青森県にきたら突然大きな記事になった。その後事業者が調査した結果、問題はなかった。危ないといことはマスコミが大きく取り上げるが、結果は小さくしか取り上げない。このギャップは、私には大変疑問が残ります。

 3月に家内をつれて柏崎発電所の状況を見に行きました。NHK2時間にわたって黒煙を上げる変圧器の火災を報道しましたが、防火設備のことや所内の人の活動状況などは一切報道しませんでした。妻の感想だが、あの報道を見た人はどのような思いをしたのでしょうか。大変不安を煽ることになる。そのへんのことが、現場に行ってよく分かりました。また発電所内の一般建屋が大きく沈み込む中で、原子建屋はしっかりしている。この違いをみて、原子力の信頼感を増すことができました。科学者や技術者は100%安全とは言わないが、彼らが自信を持っていることを、一般に伝えていく必要があるでしょう。

 そこで元に戻りますが、原子力政策大綱の委員や原子力立国計画の委員をやって痛切に思ったことですが、なぜ地元の人が誇りに思えないのか、原子力産業が立地しているところは過疎地や産業振興がうまくいかなかった所が多い。地元の人は自分たちの町が発展して住みよい街になってもらいたいと思っているに違いありません。それならば原子力産業を利活用して新しい産業を作っていくことが必要であります。

この事は政府の計画にも書いてあることですが、いわゆる原子力と社会の共生、その最大なものであると思います。したがって、そのような形で原子力と一体となって地域を振興させていく、このことによって自分たちの地域も変わっていく、原子力産業が育っていくことは世界的に見ても、環境の問題にしろ、エネルギーの問題にしろ、大きなメリットがあります。また同時にそのことが地元の人にも潤いをもたらす、そういう関係をどのように構築していくかということが大事だと思います。各原子力事業者さんもそれぞれ地域と一緒になって、地域の活性化を図ろうと一生懸命になっている。こういうことを積み重ねていくことにより、原子力が六ヶ所にあってよかった、このことが世界のフロントランナーとして発信することができる大きな基盤になると確信しております。

葛西:岸本先生は東海とか福井とか、他のところを見ていると思いますが、ご紹介していただけますか。

・岸本:私は学校を卒業してすぐ東海村に行きそれ以来東海に住んでいるのですが、東海村は当時とは様変わりして都会的になりました。発電所・研究所・燃料関係・薬品関係などがあり、原子力の研究もうまくテーマが続いています。そのおかげで発展してきました。それから日立工場がそばにあるなど生い立ちが違いますが、東海村は人口が増えています。小学生は医療費も無料になっています。それが若い人を引き寄せているのです。

 福井県は発電所も15基あり、関西圏の60%の電力を供給しています。地元の人もそれなりに自負心を持っています。県が中心になってエネルギー拠点活性化プログラムを作って進めており、研究開発機能の強化、地場産業の育成、人材育成、安心のための医療設備などを柱にしています。来年度は福井大学を中心に、関西の大学が連携して拠点となる原子力教育センターを敦賀市に作る計画が進められています。

・葛西:研究開発について、原子力、放射線などに関連して聞かせていただけますか。

・岸本:青森にある原子力機構の研究センター副所長の野田さんが来ているので、お話をしてもらいましょう。

・野田:核融合の研究開発として日本とヨーロッパとの協定に基づいて計画を進めています。現在建物を建設中であり、再来年には加速器の建設を始める予定です。これはITERの炉と繋いで遠隔で操作できるようにします。またITERの次の原型炉に向けた研究も進めています。

・葛西:もう着々と動いているのですね。他には何か。

・松浦:高レベル廃棄物ですが、あれを熱源、放射線源に利用することが考えられます。放射線で特殊な布を処理すると、たとえばウランだけがよくくっつく布が出来る。これを海水中に吊るすと、海水からウランがとれる。これは関根浜の沖合で実験をやり1kgぐらいのウランをとった実積があります。これを利用すれば、海水中のウランは45億トンほどもありますから、将来のウラン不足は心配いらなくなる。またある種の金属の酸化物を水中に入れて、放射線を当てると水素が出来る。その放射線源に高レベル廃棄物を利用すれば、有効活用が図られることとなる。またそれらの研究拠点として下北を活用することが考えられます。

・岸本:研究開発としては、原子力で使っていることを他の分野で応用することを考えています。もう一つは、高速増殖炉の原型炉ですが、今福井県の商工会議所で高速炉を福井県に持ってくることを提案しています。下北はこれだけ集まっているのだから、有力な候補地の一つだと思います。

・金子:高速炉は大洗でも考えています。日本人は外国人が言うとよく聞く。外国人を連れてきて、国際会議やシンポジュウムをじゃんじゃんやればよい。6月にG8サミットの準備の一環としてエネ

ルギー大臣の国際会議が青森であったのですが、六ヶ所に外国の大臣を連れてきて、見せれば関心も一層高まったでしょう。青森は立場もよいのだから、自信を持ってやってほしいと思います。日本原燃も今は最後の胸突き八丁の坂を乗り越えるのに手いっぱいのようですが、これを乗り超えれば地域振興にも力を入れてくれるでしょう。反原発の人は勝手なことを言っているので、一般の人は不安に思うだろうから、マスコミも正しい情報を、丁寧に分かり易く伝えてほしいと思います。

・末永:青森県の次期基本計画の案文が出来て今審議にかかっています。その中で、今一番大事なこと、働く場を作るとして、「生業(なりわい)づくり」を掲げました。つまり産業振興と雇用場づくりです。そのための四つの施策の中に、多彩なエネルギーの利活用によるエネルギー産業クラスターの形成をあげました。その中核に原子力産業の振興を明確にうたっています。今青森県は人口が140万人を割っています。しかも若い人が減っている。これは大変な事態です。今原子力産業の利活用が極めて大きな柱であることを強調したいと思います。

・葛西:時間も迫ってきましたので、質問の時間にしたいと思います。

QB:どうしてこのように集中立地になったのか、この地域は過疎地であり、お上の言うことに逆らわないからか。今病院も減っている、道路も悪い、この地域の人は不安でいっぱいです。原子力に不安を抱いているのではなく、経済を心配しているのです。原子力が地域の振興に役立つよう是非末永先生にもよろしくお願いをしたい。要望です。

QC:昔原子力船に関係しました。原子力船ではあまり恩恵がなかったが、今回は交付金も多いので電気料金の割引をお願いします。

A佐々木:交付金は公共事業と電気料金割引の両方に利用できます。むつ市は公共事業を選んでいます。これは市町村が選択出来る制度になっています。

Q) D:中間貯蔵は予定通りに行くのかどうか心配です、予定が崩れると自治体の財源に大きく影響し、市財政が完全に破綻してしまいます。

以前金子先生にエネルギー万博を青森でやればよいというお話があった。エネルギー万博、原子力万博をむつ市でやることによって、最終処分の問題も市民の賛成を得られる雰囲気ができるのではないかと思います。

A) 末永:私は今の心配は尤もだと思います。自治体は真剣に考えています。事業者として予定を確実にしてほしい。このことは地域の信頼を勝ち取ることにもつながると思っています。しかし、安全審査も厳重にやるということで、日延べになる。県や原子力委員会にそういうことを申し上げて、ちゃんとやってくれというメッセージを上げることが大切だと思います。中間貯蔵も遅れ気味です。地元と事業者が本当にどうなっているのか議論しながら、我々としては建設に協力するのだから、あるいはそれによって地域振興を図るのだから、あるいは新しい地域産業を興すのだからということで、メッセージを送る。地元と事業者を、さらには行政を動かしてやっていく。私は痛切にそう思っています。

A) 和田:リサイクル燃料貯蔵の和田です。今リサイクル施設は安全審査中で、いつになるのか分かりません。耐震安全は大切なので今そのへんの検討を進めています。そのへんの検討が見えてくれば、地元の皆さんにお知らせしたいと思っています。

Q) A:さっき世界の流れについて話がありましたが、世界は再生エネルギーを活用する方向に行っていると思います。独・英・デンマーク、先進的原発の国はみなその方向です。脱原発に行けばよいと思います。下北は自然が豊富です。ここに住みたいと思って住んでいますが、放射線が一杯になれば駄目になります。下北は活断層の巣で、原発はだめです。国は直下型の活断層を認めていません。

A) 松浦:誤解されないようにお願いしたいのは、英国は政府が原子力をやらなければだめだとして、新しい政策を出しています。独は風力のために電気料金が高くなっており、困っています。スウェーデンは原子力をやめる方針でありましたが、原発はやめられないので、見直しがされているのが事実であります。自然エネルギーを使えるだけ使うのは良いが、自然エネルギーだけに頼るわけにはいかないというのが事実です。地震はそれなりの対応が可能であります。

大桃:環境科学技術研究所の大桃です。原子力の安全安心に二つありまして、一つは工学的安全、もう一つは放射線生物学的安全で、それが安心に結びついています。この研究所は県が六ヶ所村に再処理施設を受け入れるにあたって国に要望して作られたものです。微小線量の研究について、この研究所で世界に誇れる成果をあげています。あるレベル以下の放射線では影響が出ないということがわかってきました。また研究設備として世界で最も進んだ設備です。各国からぜひ国際協力をやってほしいと要望が出されています。また人材育成にも利用していきたいと考えています。

・葛西:元日本原燃の社長さんが来られているので、日本原燃が地元のために何ができるか聞いたらよいという話が出ています。

・竹内:私は5年この地域におりました。今原燃は最後のアタックの段階で、いずれ近いうちに最終の協定を結ぶことになると思います。今日は大変レベルの高い議論がされております。私が社長をやっている直前のころに入った人達が、今部長クラスで、現場を取り仕切っています。今後建設が終わり運用の段階に入れば、地元の人が中心になってやっていくことになります。こちらの人はこういう仕事に向いているので、若い人が県外に出てしまうのはもったいないことです。 放射線を使った産業、それから現場に仕事が増えてきている。発電所もこれだけ明確な建設計画を持っているところは他にはありません。放射線の技術は地味なものですが、これからは教育に力点を置いて進めばよいと思います。ありがとうございました。

・葛西:このパネル・ディスカッションも、何をしたらよいか人材育成で始まりましたが、最後的にも人材育成が急務だというとこに落ち着いたということだと思います。今事務局から本日105名の方にいらっしゃっていただいたということで、プログラムが不足ということでお手元に行かなかった方もいるということでお詫び申し上げます。

本日は世界のエネルギー・フロント下北ということで、様々な角度からパネル・ディスカッションを展開してまいりました。この時間が青森県、そして下北半島また日本、世界のエネルギー拠点の先進地として誇りを持てるようにつながって行けばよいなと思います。そのために本日の時間が皆様のヒントになればと思います。長時間にわたりご静聴ありがとうございました。パネル・ディスカッツションのパネラーの方にも大きな拍手をお願いいたします。どうも有難うございました。

 

6.閉会挨拶

   原子力開発と地域・産業振興を考える会副会長 種市治雄

 

 六ヶ所からまいりました種市でございます。本日は貴重な時間先生方から数々の貴重なお話をいただくことが出来ました。この下北半島、六ヶ所村におきましては、現に、すでに再処理工場あるいは原子力施設などが実施されているところでございます。そういった中におきまして、パネラーの方からいろいろなお話を伺い、そしてフロアーからもいろいろなご意見をいただき、いろいろな課題が浮き彫りになったと思います。今後ますますその本質を見極める意味でも、皆さんとともに積極的な議論を積み重ねてまいりたいと思います。私ども考える会を含めましてよろしくお願いいたします。また原子力産業をもっと固める意味で、北のまほろば、はい。そういったところを念頭に置きまして、皆さまとともに活動させていただくことをお誓いさせていただき、この会を閉めたいと思います。本日はまことに有難うございました。                    

 

7.閉会

  総合司会 柴山哲男

それではこれで閉会といたします。           以上   「記録担当:斎藤 修」