2003年8月  日

 
 
 北朝鮮核問題: 
北東アジア安全保障条約こそ鍵        

                                           金子 熊夫

                             外交評論家・初代外務省原子力課長

北朝鮮問題は、今回の六カ国協議でも結局解決のシナリオが描けないままに終わった。北朝鮮が喉から手が出るほど欲しがっている米国による「体制保証」、「不可侵約束」と、日米韓等が強く求める北による「検証可能で確実な核兵器計画放棄」をセットで解決する方策を見つけ出せなかったからだ。

日本としても、拉致問題が未解決のままでは、「経済援助」のカードを切るわけに行かず、またそのカードだけで北の核放棄を強要することもできない。しかも日本政府は、米国が不可侵約束の一環として北に対する核兵器使用の自由を放棄すれば、「核の傘」の有効性、ひいては日米同盟の信頼性を損なう惧れがあり、そうなれば日本独自の核武装という不本意な方向に進まざるを得ないとの不可解な理由で、現時点での「不可侵約束」には反対の立場をとっている。

要するに、銃を持って建物に立て篭もっている誘拐犯に、銃を捨てて出て来いと言っているのに対して、先に命を保証してくれなければ銃を捨てて出て行くわけにはいかぬと抵抗しているようなものだ。これではいくら交渉しても前に進まない。

私は、北朝鮮の核問題を最も古くから注意深く見守ってきた専門家として、このような状況は以前から予測しており、打開のための処方箋もいくつか提示してきた。簡単に要点を述べれば次のとおりである。

先ず第一に、日米韓が要求している「検証可能で確実な核兵器計画放棄」を仮に北に無理矢理認めさせたとしても、それを国際査察によって担保することは事実上不可能ということをはっきり認識する必要がある。このことは、現実の国際査察制度をみれば明白で、実は、五八年前の広島、長崎原爆投下直後から、マンハッタン計画の中心人物たちが予見していたことだ。国家が国家ぐるみで必死になって核転用を図ったら、外部の力では阻止できるものではない(もちろん、当該国家や政権を完全に抹殺するなら別であるが)。結局、北が自らの意思で核廃棄を選択するように持ってゆく以外にない。そのためには、「体制保証」(昔の日本流に言えば「国体護持」)を認めざるをえない。

次に、北の立場から見て、「体制保証」、「不可侵約束」は米朝二国間条約の形が最善と考えているらしいが、果たしてそうか。クリントン政権からブッシュ政権への移行をみれば明らかなように、米国の外交政策は大きくぶれる場合が多い。一九九四年の枠組み合意が好例だ。むしろ日韓中露を加えた六者による連帯保証という形で条約化した方が確実のはずだ。もちろん、日韓にも当事者として関与できるというメリットがある。

さらに、もしこのような六カ国条約ができれば、単に核兵器だけでなく、生物・化学兵器やミサイルも禁止の対象に含めるべきで、それは即ち北東アジア非核化条約、あるいは北東アジア相互不可侵条約と呼ぶべきものになる。もし北が将来この条約に違反して核兵器等を製造、使用すれば、制裁の対象になり、当然武力攻撃を受ける。これこそが集団的安全保障体制だ。日本政府は時期をみてこのような構想を提案し、関係国を説得すべきだ。