(電気新聞  2004.6.23)

              現実的なロードマップの再構築を

                                    金子

 青森県六ヶ所村の再処理工場のウラン試験開始を目前にして、このところ核燃料サイクルをめぐる論議が盛り上がっている。先月は霞ヶ関や大手町界隈に「19兆円の請求書」と題する取扱注意の“怪文書”が出現したりして物議を醸した。議論は結構だが、日本には言論の自由があるのだから、責任の所在を明かにして正々堂々とやるべきだろう。

 実は、筆者が主宰する「エネルギー環境Eメール会議」(EEE会議)でも、これまでの議論と研究の成果を踏まえて、つい最近「我が国の核燃料サイクル政策に関する提言」をまとめ、公表した。当会議の会員は全国で約350名だが、今回の提言に賛同し署名したのは47名の有志会員で、関係企業、団体等の現・元幹部や大学教授、研究者等が主体である。もちろん、会員の中にはこの提言に全面的に賛成でない人もおり、EEE会議として一本にまとまった意見という訳ではない。

 提言では、核燃料サイクルに絡む主要な論点を7項目に分けて論じている。具体的な内容は、一部の新聞や月刊誌(7月号)のほか、当会議のホームページ(www.eeecom.jp/)にも掲載されているので、それをご覧願うとして、主要点だけを簡単にご披露しておきたい。

  まず、我々の基本認識として、日本の核燃料サイクル計画は現在、技術的、経済的、社会的に多くの困難な問題を抱えているものの、再処理と高速増殖炉を中心とする原子力開発の基本的理念を変更すべき理由はない。しかし、原子力を取り巻く厳しい国内状況に鑑み、現実の時間と費用の制約の中で、従来路線の徹底的な再評価とロードマップの再構築は避けられない状況にある。

従って、次期原子力長計の策定に当っては、現実を直視した新しいロードマップに基づき、長計の期間内に達成すべき目標を明示し、その実現を図る着実なステップが求められる。とくに高速増殖炉開発については、技術的ブレーク・スルーの必要性と共に、開発の推進に関わる国、民間、実施機関の基本的進め方、体制、組織、手法等に改革の必要性がある。

また、従来の実験炉、原型炉、実証炉、実用炉という手法に拘らず、現在実施中の「実用化戦略調査研究」等の成果と次世代システムの研究開発に関わる国際協力の活用及び位置づけについての検討を行った上で、高速増殖炉技術開発の中核としての「もんじゅ」の位置づけを含む高速増殖炉実用化に向けた開発の目標、体制、スケジュール、戦略をその燃料サイクルの開発を含めて明確にすることを提案する。

次に再処理については、現行の長計は使用済み燃料の「全量再処理」を基本としているが、過去の経緯に照らしても、その意味するところは、一部たりとも再処理せずに処分してはならないかのように硬直的に解すべきではない。次期長計においては「全量」の文言の有無に関わらず、「再処理を基本とする」ことを明確にするよう提案する。

六ヶ所工場については、これを稼動するか否かを判断する要素はプルトニウムの需要に限らない。同工場はプルトニウム生産のほか、蓄積された使用済み燃料の処理、高レベル放射性廃棄物の減容、再処理技術の習得等々も目的としており、そのためにも同工場の早期稼動は必要不可欠である。

このほか、提言では、使用済み燃料の中間貯蔵、直接処分、余剰プルトニウム問題等についてもいくつかの具体的な提言を行っている。EEE会議としては、今回の提言を皮切りに、引き続き会員同士の議論を集約して、第2、第3の政策提言を発出して行きたいと考えている。