『世界週報』(2004. 7. 6) 掲載

北朝鮮の核問題解決に発想の転換を!

                                    金子 熊夫

日本中が相変わらず拉致問題に目を奪われている間に、北朝鮮の核兵器開発問題は静かに、しかし確実に深刻化している。プルトニウム爆弾に加えて、高濃縮ウラン爆弾の開発も着々と進行していると見られる。北は否定しているが、パキスタンのアブドル・カディール・カーン博士(パキスタンの「核開発の父」といわれる人物)を通じてウラン濃縮技術が北に流れたという事実が暴露された。核弾頭はすでに10発程度に達し、その小型化もかなり進んでいるとの観測がある。一方ミサイルについても、発射実験こそ控えているが、ノドンやテポドン用の燃料燃焼実験がつい最近も行われたと伝えられている。

こうした状況の中で、日本政府は、対北朝鮮外交は二年前の「ピョンヤン宣言」が基本だというだけで、当面拉致問題の解決を最優先する方針を変えておらず、核問題解決のためにどのような具体策を考えているのか、一向にはっきりしない。盧政権下の韓国の対北融和政策は相変わらずで、これに業を煮やした米国は在韓米軍の一部のイラク派遣方針を明らかにしており、いずれ朝鮮半島からの全面的撤収も検討中と見られる。

一方、イラク戦争の後遺症に苦しむ米国のブッシュ政権は、終始一貫、「完全で、検証可能かつ非可逆的な核放棄」(CVID)が大前提であり、これを北が確約しなければ一切の妥協に応じられないとの固い姿勢を崩していない。

 これに対し北朝鮮は従来通り、核問題は朝米交渉マターであるとし、「核カード」を対米交渉の切り札として最後まで温存する腹だ。いずれにしても北は、今秋の大統領選挙の結果如何により米国の政策が変わる可能性ありと見て、少なくとも一一月までは自分の方から大きく動くつもりはなさそうだ。一方中国は六者協議のホストとして色々北を説得して局面打開を狙っているようだが、決定打に欠ける。そもそも中国が本気になって北に圧力をかけているかどうかかなり疑わしい。このような状況下では六者協議を重ねてもほとんど無駄という気がする。

こうしてみると、北朝鮮の核問題はにっちもさっちも行かない袋小路に入ったようだ。しかし、昔から「押して駄目なら引いてみな!」というように、この辺で思い切って発想の転換を図り、中長期的視点から考え直してみるのも無意味ではあるまい。つまり、一方的に北に核放棄を迫るだけでなく、北東アジア全体の安全保障体制とか原子力平和利用協力という新しい座標軸で考えてみることである。

ここで注目されるのは、四月初め金正日総書記が北京で温家宝中国首相と会談した際、両者は朝鮮半島の「非核化」について再確認したが、それは「非核兵器化」ということであって、核の平和利用の放棄を意味しないという点で合意したと伝えられたことである。この北の言い分をどう受け止めるべきだろうか。

ブッシュ政権は、北の核は、軍事利用も平和利用も含めて一切認めないという立場だ。十年前のカーター元大統領と故金日成主席の直談判に基き、北が核計画を凍結する代わりに米韓日等で原子力発電用の軽水炉2基を供与するという米朝枠組み合意(1994)がまんまと失敗に終わったという苦い反省が米側にはある。

 確かに、核不拡散条約(NPT)からの脱退を勝手に宣言し、国際原子力機関(IAEA)による査察を拒否している現状では、いくら北が電力不足を理由に原子力発電の必要性を強調しても額面通りには受け入れられない。しかし、だからと言って北朝鮮の主張に全く耳を貸さないで済むだろうか。

 実は、四月末ニューヨークの国連本部で、来春のNPT再検討会議のための最終準備委員会が開催された際、NGO主催の「北東アジア非核兵器地帯条約(モデル条約案)」会議が開かれ、私も長年の同構想の提唱者として招かれ講演を行った。北朝鮮核問題の解決を六ヶ国(モンゴルを加えれば七ヶ国)による北東アジア地域安全保障体制構築という戦略的な文脈で考えようという狙いだったが、その場でも、北朝鮮に、核兵器開発を断念させる代わりに、原子力発電の権利を認めるかどうかで意見が分かれた。

私は個人的な意見として、もし将来北朝鮮が「完全で検証可能かつ非可逆的な核放棄」に同意するならーそのためには北がNPTに完全に復帰し、IAEAの包括的査察(追加議定書によるものを含む)を受け入れることが必要不可欠であるが―北にも一定の範囲で原子力発電を認めてもいいのではないか、但し、ウラン濃縮と使用済み核燃料の再処理は、これが核拡散に最も繋がりやすいこと、小規模の原発国が単独で濃縮・再処理工場を運営するのは経済的にも負担が多すぎること等を考慮して、「アジアトム」(仮称)のような地域協力組織の下でカバーする方法を考えるべきだとの持論を展開した。これは最近のエルバラダイIAEA事務局長の構想にも合致するもので、北東アジア非核兵器地帯条約案と表裏一体で実現を図るべきだというのが私の構想のポイントである。

前回の本欄(4 20日号)でも触れたように、ブッシュ大統領はさる二月一一日の国防大学演説で、「まだフルスケールの濃縮、再処理工場を有しない国には関連技術や機器を輸出すべきでない」と先進原子力供給国グループ(NSG)に呼びかけたが、これだけでは片手落ちで、かえって途上国側の反発を招く。NPT上の核兵器国と非核兵器国の差別に加えて、原子力平和利用面でも差別を強いるものだという反発だ。例えば韓国は、「日本は米国公認で、核燃料サイクル(濃縮、再処理、プルトニウム利用)を含めあらゆる原子力活動を自由にやっているのに、両朝鮮がそうした権利を認められないのは不公平だ」との強い不満を事あるごとに訴えている。

日本は、自分の利益だけ守られれば良しとせずに、将来インドネシア、ベトナム、北朝鮮等が原子力発電を始めたときのことも想定して今から新しい地域協力レジームを考えておくべきだ。原子力先進国日本には今こそそうした積極的な構想を打ち出す責任があるのではないか。