高速増殖炉の実用化を急げ                      (電気新聞   2004/12/15)

                             金子 熊夫

 

日本の原子力政策で最も議論の多かった核燃料サイクル路線については、次期原子力長期計画策定会議が一一月半ば、現行の全量再処理路線の継続を確認したことで決着したので、次の重要課題は高速増殖炉(FBR)をどうするかであると思われる。

私は、核燃料サイクルはFBRの実用化によって初めて完成するものであって、日本は今後ともその目標に向かって挑戦を続けるべきであると考えるが、そのためには当面まず、ナトリウム漏れ事故で丸9年間も停止中の原型炉「もんじゅ」の早期運転再開が是非とも必要である。

  ところが、かつて「夢の原子炉」と称されたFBRに対する世間の関心は大分薄れており、関係業界や関係官庁の担当者の中にさえ、その必要性について懐疑的な意見を持つ者も少なくないように見える。

  確かに、再処理(六ヶ所工場の運転)については、それをしなければ早晩原子力発電所のシャットダウンが不可避というプレッシャーがあり、そのことが現行路線維持の大きな要因になっていたが、FBR計画については、近年ウラン資源の供給が安定している等の事情もあり、それほどの切迫感がない。電力自由化により産業界に余力がないことも一因だろう。

一方、「もんじゅ」については、昨年一月の名古屋高裁金沢支部の判決を受けた上告審が最高裁で係属中で(第1回弁論は明年3月の予定)、地元自治体サイドでも色々な思惑が錯綜しているようである。

このような状況においては、「初めに高速増殖炉計画ありき」ではなく、原点に戻って、何故日本はFBRの開発を続けるべきかについて、改めて徹底的な検討を行い、その上で、納得できる説明を内外に対して、とりわけ日本国民に対して行なわなければならない。

  そこで、非専門家の筆者には若干荷が重いが、敢えて私見を簡単に申し述べ、大方の批判を仰ぎたい。 

1.日本は長期的なエネルギー安全保障及び資源の有効利用の観点から、再処理・プルトニウム路線を選択しているが、それにはプルサーマルだけでは不十分で、FBRが必要不可欠。FBRの実用化で初めて核燃料サイクル路線の効果が最大限となり、我が国の「エネルギー自立」に資する。

 2.FBRでプルトニウムを燃焼すれば高レベル廃棄物を減容し、かつ半減期を大幅に短縮でき(数万年から数百年単位に)、環境負荷を軽減できるという点において、FBRは環境政策上もプラスである。

 3.核拡散防止上も、プルトニウムを一定の場所で確実に利用(燃焼)できるのでプラス。「余剰プルトニウムを持たない」という我が国の国際公約にも合致する。 

4.日本だけが突出しているというのは誤り。米露英仏中などの核兵器国はFBR計画を仮に止めても軍事利用の形で必要な研究を継続でき、技術や人材の温存ができるが、日本はそうは行かない。原子力の軍事利用を放棄した日本こそ、民生技術としてFBR技術を完成させる責務がある。

5.勿論、いくらFBRが必要だと言っても、その実用化が比較的近い将来に技術的、経済的に可能ということをはっきり実証せねばならない。核燃料サイクル開発機構(JNC)を初め関係機関・研究者・技術者の今後一層の奮励努力を期待する。 

6.「もんじゅ」については、早期に運転を再開し、これを「国際共同研究センター」として積極的に位置づければ、日本がFBR技術開発で世界をリードするチャンスが広がるし、地元にとってのメリットも一層大きくなるだろう。

 

 

     (電気新聞2004.12.15