050401  「国家不拡散センター」を設立せよ : 米国・独立調査委が最終報告書で提言

 
米国では、イラク戦争開始前に大量破壊兵器の有無をなぜ見誤ったかの分析に加え、さらにイラン、リビア、北朝鮮等の核開発状況についても果たして政府の情報(intelligence)機関が十分な情報収集・分析能力を有していたかが厳しく問われておりますが、これらの点を徹底的に洗い出すために昨年初めブッシュ大統領が設置した特別調査委員会(Commission on the Intelligence Capabilities of the United States Regarding Weapons of Mass Destruction)が本日、1年余にわたる調査結果を公表した模様です。この報告書は全部で13章からなり601ページの大作ですが、結論として、現状では大量破壊兵器の拡散に関する米国の調査分析能力は極めて不十分である、その最大の原因はCIA,FBIのほか、国防総省、国務省、ホワイトハウス等が独自の情報機関を持ち、これらがバラバラに活動をしていて互いの足を引っ張り合っているからである、よって、抜本的な組織・体制の見直しが必要不可欠であるとして、とくに、新たに「国家情報長官」(Director of National Intelligence=DNI)を設置し、さらに「国家不拡散センター」(National Counter Proliferation Center=NCPC)を設立せよ等と提言しております。
 
ちなみに、この初代DNI長官には、元国連大使で、最近まで駐イラク大使であったJohn Negroponte氏がすでにブッシュ大統領によって任命されております。余談ながら、Negroponte氏はキャリア外交官で、40年近く前、ベトナム戦争最盛期にサイゴンの米国大使館に勤務しており、同時期に日本大使館にいた小生の親友(テニス相手)で、現在でも親交が続いています。同氏はサイゴン勤務後キシンジャー氏(当時ニクソン大統領の国家安全保障特別補佐官)の下で、パリにおけるベトナム和平交渉にも参画しました。パウエル前国務長官も当時ベトナムに従軍しており、彼をイラク大使に任命したのもパウエル氏でした。ご参考まで。
 
なお、上記の特別調査委員会の報告書はhttp://www.wmd.gov/report/に載っていますので、関心のある方はご覧ください。ただし、イラン、北朝鮮等の核開発状況に関する情報等はトップシークレットであるとして不公表になっています。本件情報及び下記の新聞情報(時事通信、読売新聞)の提供者はシグナスX−1氏です。
--KK
 
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◆国家不拡散センター設立を=独立調査委が最終報告書

 【ワシントン31日時事】イラクなどでの大量破壊兵器をめぐる米当局の情報収集・分析の問題点を洗い出すためブッシュ大統領が設置した超党派の独立調査委員会は3
1日、最終報告書を大統領に提出する。
 米メディアによると、報告書は、イラクの旧フセイン政権の大量破壊兵器保有情報に関する分析の誤りを批判し、北朝鮮やイランの核計画に関しても情報不足を指摘。大
量破壊兵器をめぐる分析を統括する「国家不拡散センター」の設立を提唱している。 
(時事通信)

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◆米情報機関は非効率…調査委員会が大統領に報告へ



 【ワシントン=貞広貴志】世界各地で行われている大量破壊兵器の開発・保有計画に対し、米国の情報機関がどこまで把握能力を持つかを審査してきた米独立調査委員会は31日、1年余にわたる調査の結果をブッシュ大統領に提出する。

 関係者によると、約600ページにわたる報告は15組織にまたがる情報機関の連携のまずさや非効率を改めて指摘し、「国家拡散対策センター」の創設など情報機関の機能強化策を提唱する。

 2004年2月に大統領が設置した、「大量破壊兵器を巡る米情報機関の能力についての委員会」は、チャールズ・ロブ元上院議員(民主党)、ローレンス・シルバーマン連邦高裁判事を共同議長に、政治家や元情報機関幹部など9人で構成されている。

 イラク開戦を前に大量破壊兵器の有無をなぜ見誤ったかの分析に加え、イランや北朝鮮、リビアにも調査対象を広げて中央情報局(CIA)、国家安全保障局(NSA)などの能力を洗い直してきた。

 関係者によると、報告ではスパイが相手国の人間を介して機密を直接仕入れる「ヒューミント」と呼ばれる情報収集の能力の弱さが指摘される。特に、閉鎖社会の北朝鮮については確度の高い直接証拠や証言が欠如していることが判明し、「核開発能力に関する試算の根拠にも疑問を投げかける」(政府筋)ような厳しい評価にいたった模様だ。ただ、北朝鮮に“手の内”をさらすのを避けるため、この部分は公開版の報告書には含まれない見通しだ。

 報告はまた、複数の情報機関の間で判断に違いが出た場合、相反する見方を判断に生かすような仕組みも提唱するという。イラクの大量破壊兵器を巡り、国務省やエネルギー省から出ていた疑問が、正しく政策判断に反映されなかった反省に立つものだ。

 改善案の目玉となる「国家拡散対策センター」は、政権の優先課題である大量破壊兵器の拡散阻止に向け、すべての情報が集中する神経中枢を設け、迅速な対処を可能にする狙いと見られる。

 米情報機関については、2004年7月に報告書を発表した同時テロに関する独立調査委員会も連携のまずさや「想像力の欠如」を指摘しており、「国家情報長官」設置などの改革がすでに動き始めている。

(読売新聞) - 3月31日20時16分更新

 

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<委員会自体についての説明>

ABOUT THE COMMISSION
The Commission on the Intelligence Capabilities of the United States Regarding Weapons of Mass Destruction was established by Executive Order 13328, which was signed by the President on February 6, 2004. The Commission is charged with assessing whether the Intelligence Community is sufficiently authorized, organized, equipped, trained, and resourced to identify and warn in a timely manner of, and to support United States Government efforts to respond to, the development and transfer of knowledge, expertise, technologies, materials, and resources associated with the proliferation of Weapons of Mass Destruction, related means of delivery, and other related threats of the 21st Century and their employment by foreign powers (including terrorists, terrorist organizations, and private networks). In doing so, the Commission shall examine the capabilities and challenges of the Intelligence Community to collect, process, analyze, produce, and disseminate information concerning the capabilities, intentions, and activities of such foreign powers relating to the design, development, manufacture, acquisition, possession, proliferation, transfer, testing, potential or threatened use, or use of Weapons of Mass Destruction, related means of delivery, and other related threats of the 21st Century. The Commission will report its findings and recommendations to the President by March 31, 2005.