読売新聞「論点」 2005/12/22 掲載

  
      日本の原子力政策〜
  
      平和利用 世界の推進役に

                             金子熊夫(外交評論家、エネルギー戦略研究会会長)

 

原油高騰や地球温暖化対策の観点から、国際的に原子力の再活性化の動きがみられるが、そうした状況の中で、一つ気がかりな問題点が顕在化している。「原子力平和利用」とは何か、という基本的な問題である。  

確かに核不拡散条約(NPT)では原子力平和利用は締約国の「権利」として明記されている。イラン等はこれを援用して、自国によるウラン濃縮の正当性を主張している。NPTから脱退したはずの北朝鮮も同様な考えのようだ。

他方米国は、核兵器製造に繋がりやすい再処理と濃縮は、既にそうした技術を持つ一部の先進国以外には認めない方針で、その代わり、再処理と濃縮を断念した国に対しては核燃料の供給保障を与えると提案している(ブッシュ構想)。最近ノーベル平和賞を受賞した国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長も、再処理、濃縮活動を一国単位ではなく、多国間管理下におくという構想を提唱している。

しかし、元々NPTが、核の軍事利用を米露英仏中の5カ国に限定するという不平等性を持つ上に、さらに原子力平和利用についても再処理・濃縮を一部の国(上記5カ国のほかは日本だけ)に認めるのは二重の不平等だという声が多い。

問題の根源は、40年近く前に作成されたNPTでは「平和利用」の中身をあまり詳細に規定しなかったことにある。その後インドの核実験(1974)を契機に、再処理と濃縮が禁止の対象とされるに至ったものである。

実は日本も、30年近く前、カーター政権時代に東海再処理工場の運転に待ったをかけられたが、難交渉の末に米国の了解を取り付けたという経緯がある。筆者はその外交交渉に関与したが、日本が認められた最大の理由は、被爆国として終始平和利用に徹し、国内のあらゆる原子力活動にIAEAの厳格な査察(保障措置)を受け入れ、透明性の確保に最善を尽くしているという実績が高く評価されたためである。日本の透明性の高さは、昨年IAEAが日本を特に「統合保障措置」の対象国に指定したことでも証明されている。

 このような事実を知らない一部の人々は、日本が青森県六ヶ所村に建設し、目下試験運転中の再処理工場は「核不拡散上望ましくないので、運転を中止すべき」と主張しているが、それは筋違いだ。

 しかし、だからといって、日本は自らの既得権さえ守られればよいという態度ではなく、エネルギー安全保障のために原子力を導入したいと願い、真面目に努力している国々、とりわけアジアの国々のために、相応の貢献をなすべきである。

従来、原子力最先進国でありながら日本は、「君子危うきに近寄らず」式に途上国との原子力協力には消極的であったが、今や原子力の分野でも一国平和主義、安全主義は通用しなくなっている。

ブッシュ構想やエルバラダイ構想の実現に積極的に協力することによって、日本は自らの原子力活動を一層確固たるものとすると同時に、原子力平和利用の推進を通じて世界の平和と繁栄のために汗を流すべき時である。

 

◇ 

元外交官、東海大教授。著書は「日本の核・アジアの核」など。68歳