EEE会議(何故大都会の近くに原発を建設しないのか?).............2003.10.15

皆様

秋も大分深まって参りましたが、皆様益々ご健勝のことと拝察いたします。

さて、小生、先週末から昨日まで青森県の弘前へ行ってまいりました。弘前大学での
公開フォーラム(学生や市民対象)でエネルギー、原子力、地球環境問題について講
演するのが主目的でした。

講演会では、いつものように一渡り講演をした後で質疑応答がありいろいろな質問を
受けましたが、最後に「原子力発電が日本にとって必要であるということはよく分
かったが、安全が心配だ。本当に安全なのだろうか。そんなに安全ならなぜ大都会の
近くに建設しないのだろうか」という趣旨の質問がありました。一番素朴な基本的な
質問で、実はこれが一番答えにくい質問です。いつものことですが、回答を述べてい
ながら、本当に納得してもらえただろうか、もっとうまい説明の仕方はないだろうか
と、気になりました。

実は、先日(9月29-30日)の原子力学会主催の「Atoms for Peace50周年記念会
議」でも、伊原義徳氏(元科技庁事務次官・原子力委員長代理)が、「在任中に、原
子力政策円卓会議で『何故過疎地にばかり原発を建設するのか』と訊かれて、『東京
に立地しないのは人口密集地を避けるため』と答えたら、翌日『原子力発電所は万一
の場合に備えて過疎地に建設するのだ、だから過疎地は消費地の犠牲になれ、と原子
力委員長代理が本音を吐いた』と報道されて大問題になった」という体験談を話して
おられましたが、確かにこれは中々デリケートな問題だと思います。

こうした疑問にどう答えるべきか、どう答えたら最も説得力があるか、日頃から十分
検討しておく必要があると思います。このような場合に、皆様ならどういう答え方を
されるか、是非お聞かせ願いたいものです。

金子熊夫 

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EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか?)............2003.10.16

皆様
昨日(10/15)付けの小生のメールで、「原子力発電所がそんなに安全なら、なぜ大都
会の近くに建設しないのか」という地元市民の疑問にどう答えるのが最も良いか(地元
市民の納得を最も得られやすいか)について、皆様から”模範解答”をご教示願いまし
たところ、早速益田恭尚氏より次のようなメールをいただきました。ご参考まで。
--KK

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Q「安全ならなぜ大都会の近くに建設しないのだろうか」

勿論十分ご承知のことと思いますが、下記が実情で、その通りお答え頂けばよいと考
えます。

「発電所は消費地の近くが良いことは事実です。しかし、原子力発電所は大量の冷却
水が必要で、海または大きな川(日本では川辺の立地はない。冷却塔を使う場合もあ

が経済性の問題がある上、水蒸気の発生などに悩まされることがある)の近くに立地
する必要があります。また火力発電所に比べ、サイト周辺の放射線被ばくなどから広
大な敷地が必要です。またもし得られたとしても、都会の近くでは土地代が非常に高
価なものとなり経済的に成り立ちません。また耐震性を考えると、強固な岩盤がある
ところでないと立地できません。これらの条件を満たすサイトはどうしても人口の少
ない都会から離れた場所になってしまいます」
「将来に向けては、海上立地、地下発電所等についても検討していますが、どうして
も費用が掛かり、今のところ経済性上成り立ちません」

益田恭尚
藤沢市辻堂4-9-53
takmasudajp@ybb.ne.jp

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EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか?)...........2003.10.17

皆様
昨日(10/16)配信しました標記テーマについては、実は、当EEE会議でこれまで何
度か議論したことがあります。とくに2001年春の日本原子力産業会議年次総会等にお
ける石原慎太郎東京都知事の一連の発言(地方が原発に反対するなら東京の近くに作
ればいいじゃないかという趣旨)をきっかけに、同年8月から12月にかけて「東京に
原発を?!」というテーマで、かなり多角的かつ集中的に議論したことがあります
(HPのバックナンバーをご参照ください)。

ところで、昨日の益田恭尚氏のメールの中で、「サイト周辺の放射線被ばくなどから
広大な敷地が必要」とのご指摘がありました。もしご指摘のとおりだとすると、やは
り放射線被ばくが問題で、これがネックになっているのではないか、また地元住民の
立場からすると、まさにこの点に不安を感じているのではないかという気がします。

もっとも、この点については、「現行の法令上、原発建設に関する放射線量の設定の
仕方に問題があるのであって、この要件を緩和すれば大都会に建設することは十分可
能だ」という指摘が以前のEEE会議での議論の中であったと記憶しております。こ
の点について、素人にも理解しやすい具体的な解説を、どなたかしていただけないで
しょうか?

金子熊夫

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EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか?)...........2003.10.17

皆様
標記の件につき、松岡 強氏(特別会員、株式会社エナジス社長)からも、次のよう
なメールをいただきました。ご参考まで。
なお、海上原子力発電所のアイディアは以前からしばしば聞きますが、実際にどの程
度実現可能性があるのでしょうか。この構想が中々実現しないのはどういう理由によ
るのでしょうか。とくにメーカー関係のご意見を伺いたいものです。
--KK

*********************************

この件に関しては、本音の話しとして小生はいつも次のように話してい
ます。

「原子力発電所建設の条件は@広い土地があること、A冷却水があるこ
と、B地盤が固いことの3条件が必要で、一般には大都市は地盤がやわらかくて広い
土地がありません。しかしながら海上立地とすると日本のほとんどの都市で原子力発
電所の立地が可能です。この海上立地についてはかなり検討が進んでいて、技術的
には出来ますし、安全上も陸上炉に劣ることはありませんし、耐震上はむしろ優れて

ます。海上原子力発電は標準設計が出来、大量生産に向いています。周りが鉄板の
船ですので、最初の数基の費用は高くなりますが、それ以降は標準化・工場生産のた
めに品質も上がり安くなります。問題は大都市での反対運動がどうなるかです。国民
から支持して貰えるならば建設は十分可能です。」

以上が小生の回答ですが、以下に技術検討の補足をしておきます。

 この海上原子力発電所は、今から20年程前に米国OPS社(ウェスチングハウス
社子会社)で考案され、NRCの建造認可が取れ、8基以上の受注がなされ、大掛かり
な建造工場まで建造されました。当時は非常なブームで皆が熱狂していました。しか
しながら、サイト建設のための安全審査の最終段階で米国の原子力建設ブームが
終りキャンセルされたものです。日本でも検討されています。

この原子力発電所は、海上に防波堤を築き、その中にプラントを浮かべるもので、
100万kw1基の海上発電所の大きさは120m×120m程度で高さは60mぐら
いで、重量は15〜20万トンです(参考;大型20〜30万トンタンカーは幅90m×
長さ300m)。この特徴は、外的な要因はすべてこの防波堤で防護するもので、
プラントは水深12m〜20mのところに浮かべ、沈没しても大丈夫なように設計さ
れます。

松岡強

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EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか?)...........2003.10.17

皆様
標記の件に関し、青森県弘前市在住の品川信良氏(弘前大学名誉教授、EEE会議
特別会員)からも、次のような大変貴重なメールをいただきました。 ご参考まで。
--KK

**************************************

さて15日付けのEEE会議のご質問、すなわち、
「原発(など)を、なぜ過疎地にばかり建設するのか」のご質問に、
私なりの、特に医学畑の者の考えを、お伝えしてみます。

これには、少なくとも、四つぐらいの理由があるかと思います。
その第一は、やはり何と言っても、危険や不安を否定できないからだと思います。
広島、長崎、チェルノブイリなどを、どうしても思い起こすからです。
それに、永久に人の住めない土地になるのではないか、
近くでとれた農作物などは売れなくなるのではないか、
癌、白血病、奇形児などが増えはしまいか、
などの不安を捨てきれないからです。

第二の理由は、権力や社会の中枢に在る人々、
富裕/支配階層の方々などが、万一の場合、
自分たちはできるだけその被害を受けたくない、と考えるからです。

第三の理由は、万一の場合、社会全体や国家全体としての被害を、
最小限度に留めて置きたいからです。
実は、これが一番大切な理由かと思います。

この他、第四の理由としては、何かの施設を造るときに、
土地の獲得や買収が、比較的容易であるという
経済面の理由もあるかと思います。
ただしこの経済性については、昔から異論もあったかと思います。
例えば原発の場合ですと、遠隔地に造れば、送電線が長くなるとか、
職員や専門技術者などの通勤が困難になるなどのデメリットも、
昔から問題になってきました。

以上の事情は、原発や核関係の施設に始まったことではありません。
例えば、結核やハンセン病などが、伝染性であることが
分かったにもかかわらず、不治の病いであった時代がそうでした。
人里離れた山奥にサナトリウムを造ったり、
遠い離島にらい療養所を造ったりしました。
都会の真中には造りませんでした。
あの時代は、「空気の良い閑静なところで療養に専念する(のが良い)」
というのが、一種の殺し文句でした。

囚人や凶悪犯の場合も同じようなことでした。
街の中に刑務所があると言うことは、昔から例外でした。
例外的に懲らしめや、教育効果を狙って、わざと造ることは、
ごく稀にはあったらしいですが。
また、建設当初は田舎であったが、その後街が大きくなったために、
今は街中にあるという、例外的なこともありました。

イギリスが囚人をオーストラリアに、ロシアがシベリアやサハリンに流刑に処し、
ついでに開拓に当たらせたことは有名な話です。
日本でも、江戸時代には佐渡などに、明治以後は網走などに、
政治犯などを収容しました。それによって、権力者や支配層は、
それこそ枕を高くして寝ることができると、考えたからです。

しかし、無人島、人跡稀な、かつてのオーストラリア、シベリア、
佐渡、網走のような恰好の土地は、段々無くなってきました。
どこに行っても、誰かが住んでいるようになりました。
人だけでなく、貴重な生物の生息が、問題になるようにもなりました。

                                     *  *  *

そこで、これからさき大切なことは、そこに住んできた人々と、
為政者、権力者、資本家などとが、第三者を中にたてて、
もっと十分に話し合うこと。その際、話し合いの鍵を握るのは、
「リスク(risks)とベネフィット(benefits)のバランスや兼ね合い」です。
「国益」を振りかざした時代もありましたが、そう簡単には行かなくなりました。
情報の提供や、自己決定(権)や(地方)自治ということも、
ますます大切になってきました。

そんなわけで、相手の無知や貧困につけこんだり、
政治家や選挙民を買収したり、新幹線や企業の誘致をほのめかしたりして、
「ごりおし」する時代は終わったと思います。

はっきり、「これこれしかじかの危険はある。
しかし、現段階において最善の安全対策は立てる。
またその代わりに、これこれしかじかの利便や利益を与える。
また万一、何かがあったときは、これこれしかじかの補償が与えられる」
などの点を十分に説明し、保証し、更には「第三者」を間にたてて、
契約を結ぶべきものだと思います。

ところが、これまでの現実は、余りにも以上のことからは、かけ離れていました。
「第三者」とは名ばかりで、一皮むけば、同じグル仲間が保証人であることが、
大部分でした。また「よらしむべし、知らしむべからず」の傾向も、
依然、強かったと思います。

私は地方大学に長年勤めた医者ですが、医療では
インフォームド・コンセントとか、患者の自己決定権と言うことが、
これだけうるさく、あれだけ盛んに言われています。
原発などの場合も、同じことだと思います。
経済最優先、大都市優先、国益優先、地方軽視などの論理や哲学にも、
この辺でメスを入れる必要があるかとも思います。

品川 信良
青森県弘前市富士見町32−3
Tel & Fax: 0172-32-3921, 0172-32-8053
E-mail: shinryo@smile.ocn.ne.jp

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EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか?)...........2003.10.17

皆様
標記テーマに関する各氏のコメント及び小生の質問(10/17)に対し、豊田正敏氏から
次のようなメールをいただきました。ご参考まで。
--KK
*********************************

ご質問にお答えします。

原子力発電所の立地は、現在の所、@広大な敷地が必要A耐震設計上強固な岩盤B大
量の冷却水が必要。
益田氏の「サイト周辺の放射線被ばくなどから広大な敷地が必要」という説明は、必
ずしも正確ではなく、軽水炉の場合、万一の事故の場合にも格納容器により、敷地外
に放射能の放出を抑制しているが、多重防護の観点から、さらに、原子炉から敷地境界
まで500m程度の離隔距離をとることにしているため、広大な敷地が必要である。

「現行の法令上、原発建設に関する放射線量の設定の仕方に問題があるのであって、
この要件を緩和すれば大都会に建設することは十分可能だ」との考えは、「放射線量の
設定の仕方に問題がある」のでもなく、また、原子力安全の基本である多重防護の考え
を無視するものであり、将来もとるべきではないと考える。この点、核燃料施設とはいえ、
JCOの場合、人的管理のみに頼り、離隔距離も無く、敷地周辺に十分な遮蔽も無いこと
は安全審査上問題であると考える。

送変電費や送電損失を考えれば、需要地の近くに立地するのが望ましいが、都会地の
近くでは岩盤が強固でかつ、広大な敷地を確保することは難しく、多数の住民の立ち退き
を必要とし、不可能である。首都圏の場合、出来るだけ需要地に近いところで原子力発
電所を立地できないかと検討したことがあるが、湘南海岸は、十分な広さの敷地は確保
できず、九十九里浜は軟弱地盤で難しく、静岡県の御前崎以東を歩いて回ったが、
適地は見つからず、結局、関東以北に立地を求めざるを得ないと考えている。しかし、
軟弱地盤の耐震設計の技術開発を行い、将来法令上も認められるようになれば、九十
九里浜の立地が可能になることを期待している。なお、「東京に地下発電所を建設すべ
きである。」との考えについては、技術的には可能であるが、軟弱地盤である上に、地下
発電所といえども原子炉からの離隔距離を考えないで、付近住民の理解が得られると
は考えられない。

また、品川氏のご意見は、傾聴すべき点が多々ありますが、地域の偏見と考えられる
点もかなりあるように考えます。2、3コメントしますと、
@「癌、白血病、奇形児などが増えはしまいか」
 原子力施設の周辺の放射線レベルは、年間0.05mSv(実際はその一桁低い)以下に抑
えており、人体に対する影響は無視しうる。
A「社会全体や国家全体としての被害を、最小限度に止めておきたいからです。」
 上述の説明でもお判りのように、出来るだけ需要地の近くに造りたいが、広い敷地
の確保が不可能である。
B「土地の獲得や買収が、比較的容易であるという経済面の理由もあるかと思いま
す。」
 勿論、経済性も検討項目の一つではあるが、送変電費や送電損失を考えれば、出来
るならば、需要地の近くに立地する方が望ましい。しかし、首都圏では、上述の説明の
ように、立地確保は不可能である。
C「経済最優先、大都市優先、国益優先、地方軽視などの論理や哲学にも、この辺で
メスを入れる必要があるかとも思います。」

 上述の説明のように、そのような考えはもっていないと考えております。原子力を
進めるにあたっては、安全性を最優先に、信頼性(地域住民との信頼確保を含む)及び
経済性を重点としている。しかし、「地方軽視」のご指摘については、都市に住むものが、
立地していただいている地域の方々に対して感謝の気持ちが少ないことも事実である
ので、この点について改善を図るべきである。また、原子力関係者特に、原子力委員
会は、双方向対話により、地域住民の方々の考えを十分聞いた上で政策に反映すべ
きであると考えます。以上

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EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか?)...........2003.10.17

皆様
標記の件に関し、ある海外特別会員(匿名希望)からも、次のような注目すべきコメ
ントをいただきました。ご参考まで。 皆様のさらなるご議論を期待します。
--KK
************************************

大都市近くへの原子力発電所の立地についての議論が行われていますが、すでに指摘
されているように、原子力発電所立地のためには、@堅固な岩盤が必要なこと、A大
量の冷却水が必要なこと、B広い敷地の確保が必要なことから、このような条件を満
たす適地を大都市に見出すことは難しい、ということが基本的な考え方であることに
ついては、もっともだと思います。

他方、具体的な発電所の設置時の審査は、原子力安全委員会の安全審査指針に則って
行われますから、その指針の適切性が議論されるべきと思います。

Bについては、立地審査指針が関係します。同指針では、以下の3つの指針が掲げら
れています。
ア)原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること
イ)原子炉からある距離の範囲内(かつ非居住区域の外側)は低人口地域で
あること
ウ)人口密集地帯からある距離だけ離れていること

これらの「ある距離」を判断するために、その目安となる線量が示されていますが、
実際に、これらを現実の発電所に適用して導き出される結論は、建屋のすぐ周りに人
が住むことが可能ということであり、広い敷地が必要という指摘は、少なくともこの
指針上からは導き出されないものと記憶しています。

もっと重要なのは、@ABの条件に係わらず、立地指針のウ)の規定によって、大都
市には発電所を作ることはできないということです。ウ)の規定は、実際には集団線
量(人Sv)を用いて評価されますが、大都市では、「人」の部分が圧倒的に大きい
ことから、この規定をクリアすることが出来ません。

したがって、大都市に発電所の立地が出来ないことについて、当面@ABを言うとし
ても、本質的には、立地指針のウ)の規定が意味すること、またその規定の適切性に
ついて議論しない限り、原子力発電所の大都市立地の議論は完結しないと思います。

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EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか? 放射線被ばく問題)).....2003.10.18

皆様
標記テーマに関連し、小生からとくに「サイト周辺の放射線被ばく」問題について
ご教示をお願いしておきましたところ、益田恭尚氏から次のような懇切丁寧な
補足説明をいただきました。ご参考まで。 
なお、このご説明で小生自身はよく理解できたように思いますが、科学的素養の
乏しい一般市民が合点が行くような分かりやすい(誤解を招かない)説明するた
めの工夫はまだまだ必要ではないかと感じております。
--KK

***********************************

私の文章が言葉足らずだった点は申し訳なく思っております。
書く時点から「サイト周辺の放射線被ばくなどから」という表現は注釈を付けるべき
かと思ったのですが、一応基準に準拠して立地が行われていることなので、
それについての反論を書けばまた新しい議論を呼ぶと思い書くことをためらいまし
た。
私の前回の説明はあくまでも「現行基準に基ずけば」と付記させて頂きます。


現在のサイト周辺の放射線レベルの基準はICRPが低放射線被爆について掲げ
ている、放射線はいくら低くても人体に害があり、その影響は直線近似によって
減ると仮定しようという考えに準拠しております。
直線近似のおかしいことは専門家の間ではほぼ定説になっていることは、「アトム
フォーピース50会議」で近藤先生(阪大名誉教授)がお話になった通りであります。
尚、健康リスクについての確率論適用は確固とした定説とはなっていないものと理解
しております。

それに基づいてサイト周辺に年中居続ける人間が癌になる確率を計算し、
それをAs Low As Reasonably Achievable (ALARA)なレベルに抑え、
一般の人間と有意な差が無いようにしようという考えであります。

米国NRCが、原子炉安全の立場から、この考えに基づきregulatory Guideを定め、
サイト周辺の通常時被ばくを自然放射線による被ばくの5%以下にしようという
数値目標を定めました。

わが国はこのような目標規定ができると、一時たりともそれを越えないようにさらに
厳しく管理し、通常運転の際の放出放射能レベル(これは距離とは関係ありません)
は検出限界以下に抑えられていることは同会議で私が述べた通りであります。
ALARAには発電所から出るガンマー線のスカイシャインの影響も考えなければなり
ませんから、やはりある程度の離間距離が必要となります。

事故時被曝についても同様な考え方で、確率的安全評価:PSAを行い、サイト周辺の
最悪の状態にいる人の、癌による死亡確率を10マイナス6乗程度に抑えようという
考えに基づいて被ばく評価がなされます。
尚、わが国は立地審査指針では具体的な基準は決められていないようですが、
基本はNRCの考え方に基づいた上で、決定論的安全評価が行われているものと
理解しております。

これらは現実問題としては過剰な考えであると云えないこともありません。
また米国のような広い国土の基準を、わが国のような狭い国が守らなければいけ
ないのかという議論はあると思います。

しかし、それはまた際限の無い議論を呼び起こします。
将来、低線量の害が無いことに皆が納得した暁には、都市接近も可能と思います。

ちなみに放射線の減衰は大雑把に言えば、距離の2〜3乗に反比例して減衰する
ことはご承知の通りであります。
これは、煙と同様、正確には風向きなどにも影響を受けますので、実際には風洞実
験などで正確な計算を行っております。
空間の広がりを考えれば当然のことであり、どうしても広い敷地が必要になってしま
います。

取り急ぎ大筋の考え方を述べさせて頂きました。
私は安全専門家ではありませんので、言い回しや、言葉遣いは不正確な点がある
ことはお許し下さるようお願い致します。


尚、石原慎太郎東京都知事の「地方が原発に反対するなら東京の近くに作れば
いいじゃないか」という発言については、前回も触れましたように海上立地を行え
ば対応可能と思います。
ただ海上立地のやり方にもいろいろの案があり、沖縄の米軍基地をどうするかでもめ
たことは記憶に新しいところであります。

東京近郊であれば、東京湾の地盤から考えて船のような浮上式にするのが最も良いと
思います。
当時、将来のためにも詳細検討と見積もりをオープンな形で実施することは、
都民のエネルギー問題に対する関心を呼ぶことにもなり良いことだと思いました。
但し誰が費用を出すかという問題はあります。

立地評価を現行の基準で前例に基づいた評価で行うのか、新基準案を作りそれに
基づいて行うのか大きな問題です。現状では何か補助でも無い限り、経済的な成立性は
ないのではないかと考えておりま
す。

益田恭尚 <takmasudajp@ybb.ne.jp>

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EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか? 放射線被ばく問題)...........2003.10.19

皆様
標記テーマに関連して、岩田修一氏(東京大学大学院工学系研究科システム量子工学
専攻教授、原子力委員会試験研究検討会座長、EEE会議特別会員)から、次のよう
な2通のメールをいただきました。 ご参考まで。
--KK
*********************************

低線量に関する研究のひとつとして、「低線量域放射線に特有な生体反応の多面的解
析」 を、原子力クロスオーバー研究として来年度から開始すべく検討を進めていま
す。
これは、昨年度からの検討を踏まえて原子力クロスオーバー研究(平成16年度から
3年、延長が認められればさらに2年)の新規の2テーマのひとつとして検討が進ん
でいるもので、

http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/senmon/sikenkenkyu/indexh.htmの18ページに要

http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/senmon/sikenkenkyu/indexh.htmの5ページ以降に
研究計画

に内容が提示されています。

事前評価はこれからですが、「低線量の被曝は、生体にどのような影響をもたらすの
か?」という素朴な疑問に科学的な答えを用意しようとするものです。下北での最近
のデータも踏まえての事前の検討が進められています。

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(1)世の中には、原子力に限らず地震予知、環境危機、経済危機、大量破壊兵器な
ど、人々の恐怖心をあおって事を起こそうとする傾向が多くあります。
日本では、「勉強しないと、良い大学にはいれなくて、うちのお父さんみたいに悔し
い思いをするよ。」といった品の悪い動機付けが多数派で、学問や人間そのものの
本当の良質な部分を理解させ、自然な形で子供達に目標を与えることが十分には
出来ていませんでした。
「原子力を始めないとエネルギー危機で日本が衰亡する。」、「バイオ研究は世界の
主流だから、日本も頑張らなければいけない。」という構文も、同じ思考パターンだと
思います。

現実を直視し理解すること、何が大切かを深く考えること、その結果を論理的に明快
に説明すること、共通の理解に基づいて行動規範を設定し、行動するというあたりまえ
のことを、「低線量問題」でもしっかりやってみようというのが、上記のテーマの目的です。

(2)同じことが「高線量域」でも言えて、核燃料に関しては燃焼度にスペックに応
じて3〜6万MWD/tの制限が設けられていて利用可能な核エネルギーのほんの一部
しか利用できていません。未知領域へのより挑戦的な技術の枠組みを作ろうという
のがもう一つの構想です。

追伸:環境に関しては、グローバルな意味での科学的な意見を調査中です。まとまり
ましたら、ご報告します。

岩田修一(東京大学大学院工学系研究科システム量子工学専攻)

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EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか?)...........2003.10.21

皆様
標記のテーマに関し、ある会員氏(匿名希望)からも、次のような傾聴すべき
メールをいただきました。ご参考まで。
--KK

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会員でありながら発言するほどの見識もなく、いつもは会員諸兄のご意見
に耳を傾けているような存在です。
今回のテーマについては、品川氏のご意見や匿名氏のご意見に賛同
いたしますが、少し私見を述べさせていただきます。

大都市近郊での原子力発電所の立地で、関係各位は、、@堅固な岩盤
が必要なこと、A大量の冷却水が必要なこと、B広い敷地の確保が必要
なこと、を条件とされています。

ところでわが国の原子炉の立地審査指針には、つぎのような記載があり
ます。

立地条件の適否を判断する際には、上記の基本的目標を達成するため、
少なくとも次の三条件が満たされていることを確認しなければならない。

1.原子炉の周囲は、原子炉からある距離の範囲内は非居住区域である
  こと。
  ここにいう”ある距離の範囲”としては、重大事故の場合、もし、その
  距離離れた地点に人がいつづけるならば、その人に放射線障害を
  与えるかもしれないと判断される距離までの範囲をとるものとし、”非
  居住区域”とは、公衆が原則として居住しない区域をいうものとする。

2.原子炉からある距離の範囲内であって、非居住区域の外側の地帯は、
  低人口地帯であること。
  ここにいう”ある距離の範囲”としては、仮想事故な場合、何らかの
  措置を講じなければ、範囲内にいる公衆に著しい放射線障害を与える
  かもしれないと判断される範囲をとるものとし、”低人口地帯”とは、
  著しい放射線障害を与えないために、適切な措置を講じうる環境に
  ある地帯(例えば、人口密度の低い地帯)をいうものとする。

3.原子炉敷地は、人口密集地帯からある距離だけ離れていること。
  ここにいう”ある距離”としては、仮想事故の場合、全身線量の積算値
  が、集団線量の見地から十分受け入れられる程度に小さい値になる
  ような距離をとるものとする。

このような指針が適用された結果、現在の原子力発電所があるのですが、
一般的には敦賀半島の先のような人口過疎地に立地されています。
しかし九州電力玄海発電所のように、目と鼻のさきに結構多くの方が居住
されているのも事実です。

一方欧米にも同様な審査指針(名前は別として)があります。
例えば米国には、10CFR100 (Code of Federal Regulation) があり、各
発電所は建設前に立地条件が審査され、プラント毎に Safety Analysis
Report に評価結果が記載されています。何マイル以内は人口密度が
いくらだとか、大きな町は何マイル離れているとか、農地はどうなっている
とか。
米国は国柄土地が広いですから海辺や森に囲まれた非常に人口密度
の低いところに立地されていますが、それでもなかには結構近くに人々が
暮らしている発電所もあります。
ヨーロッパも低人口密度のところが基本のようですが、ベルギーに代表
されるような国は立地難で、事実原子力発電所のすぐそばに町があったり
して、多くの方が居住しているように聞いています。

これらのことから云えることは、上記B項のような広い敷地が必要だから、
都市部での立地は無理、あるいは難しいというような漫然とした言い方では
説得力に乏しいのではないでしょうか?
特に今回の議論の出発点は東京立地となっていますが、日本国内には
多くの大都会があります。そのような都市群のなかで(都市部郊外も含め)
上記@、A項も満足できる場所がないか、というような具体的な議論にまで
発展させないと、話し合いは難しいのでしょうね。
この会で話を纏めるには情報量と人材面で厳しいのでしょうが!

更に都市部への立地を考えるならば、原子炉の立地審査指針そのものの
原点(設定されたときの考え方、経緯など)にも立ち返らなければいけない
のでしょう。
今までにご意見を出されえた諸先輩方は、このような背景を十分に承知の
うえでのことと存じますが、金子様への何かのご参考になればと生意気な
ことですが筆を執った(キーを叩いた!)次第です。
                        
匿名希望  

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EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか? 放射線被ばく問題)...........2003.10.21
皆様

標記のテーマに関する益田恭尚氏のコメント(10/18)に対し、豊田正敏氏から、再び
次のようなメールをいただきました。ご参考まで。 

このテーマは、最初に小生が「東京のような大都会の近くに何故原発を建設できない
のか」という素人的な発想で問題提起したものですが、いろいろな方々からの専門的な
コメントを拝読し、この問題の奥の深さが小生なりに分かったようで、大変勉強になり
ます。ただ、この問題をどこまで議論するべきか、何か具体的な結論(あるいは政策
提言)が出てくるのかどうか、といったような点も併せてご検討いただければ幸いです。
--KK

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この問題は、原子力発電所の立地について正確な認識の下に議論しなければ、かえっ
て、一般国民の信頼を失うことが懸念される。
益田氏の言い直された『敷地の広さが、「現行基準」によって決められている』とい
う表現も、正確とはいえないと考える。発電所の立地は、一般に、原子炉の詳細設計
の行われる前に、地元の了解を得て決めているのであって、立地審査指針(基準では
ない)は、その立地条件の適否を判断するための指針にすぎない。

1. 平常運転時
同氏の表現を次のように訂正したい。「米国NRCは、原子炉1基あたりの通常時被ばく
をICRPの ALARAの精神により、一般公衆の線量限度1mSvの1/20の0.05mSvという
線量目標値を設定した。(自然放射線は、国によりまた、地域により異なるが、平均的
数値は、2mSv程度のはず) これに対し、わが国は、原子力施設全体の線量目標値を
0.05mSvと設定している。ただし、この線量目標値は達成されないからといって、安全上
支障があると考えるべきものではないが、達成されない場合には、改善のための一層の
努力が要請されている。この線量目標値が設定された当初は、これを超える発電所も
あり、タービン建屋の換気を高い排気塔から放出する措置をとった発電所もあった。
その後、燃料の破損率が大幅に減り、現在では、敷地境界の放射線量は、線量目標
値の1/10以下になっており、平常時の原子炉運転による被ばくは離隔距離の制約条件
にはなっていない。」

2. 重大事故
 審査指針によれば、「原子炉の特性、安全防護施設などを考慮し、技術的見地から
見て、最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大事故発生時に、敷地周辺
に住んでいる人が、放射線障害を受けない距離までを『非居住区域』とする。そして、
この距離を判断する目安線量として、甲状腺(小児)に対して、1.5Sv、全身に対して
0.25Svを用いる。」と規定している。原子力発電所の立地審査指針による上述の平常
運転時及び重大事故を考慮した場合、離隔距離を400~500mとしておけば、十分である。

3. 仮想事故
 原子力発電所の立地に関連して、むしろ、重要なのは、原子力発電所敷地の外側の
次に述べる『低人口地帯』及び『人口密集地帯』である。この規定があるために、原子炉
の安全性をいくら高めても、人口密度の高い都市周辺には設置出来ない。
重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられないような事故(以下
仮想事故という)の発生を仮想した場合、範囲内にいる公衆には著しい放射線災害を
与えるかもしれないと判断される地域を『低人口地帯』とする。これは、このような地域に
住む人が、著しい放射線障害を受けないために、適切な措置をとることが出来るような
人口密度の低い地域であることが必要である。低人口地帯の範囲内の目安線量は、
甲状腺(大人)に対して、3Sv、全身に対して0.25Svを考える。

また、仮想事故の場合、全身線量の積算値が、集団線量の見地から、原子炉敷地を
『人口密集地帯』からある距離離しておくことが必要である。集団線量の目安としては、
2万人Svを参考にして決める。

4. 立地指針の問題点
@ 重大事故
  重大事故は、原子炉の構造、特性及び工学的安全施設などによって決めるべきで
あると述べているが、実際には、原子炉の安全設計に関係なく、格納容器内に放出され
るFPの量を炉心内蓄積量に対し、希ガス2%、よう素1%とすることが規定されている。
例えば、A-BWRの場合、一次冷却配管がなく、原子炉冷却材喪失事故を考慮する必要
がないにもかかわらず、同じ基準が適用されるという問題がある。
 また、目安線量として、全身に対する0.25Svは大きすぎると考える。これでは、敷
地周辺に住んでいる人の癌の発生確率が、1万人に対して、25人となるので、大幅に
引き下げる必要があるのではないかと考える。
益田氏の言っておられる「事故時被ばくについても同様な考え方で、確率的安全評価
:PSAを行い、サイト周辺の最悪の状態にいる人の、癌による死亡確率を10マイナス6乗
程度に抑えようという考えに基づいて被ばく評価がなされます。」は、何を根拠で言って
おられるのかお聞きしたい。

A 仮想事故
  この場合にも、原子炉の安全設計に関係なく、格納容器内に放出されるFPの量を炉
心内蓄積量に対し、希ガス100%、よう素50%とすることが規定されている。
仮想事故は現実には起こりえない事故であり、立地が適切であるかどうかを判断する
ために用いられるものであるが、その意味するところを地元住民に適切かつ懇切に説
明して理解を得るよう努める必要がある。特に、『低人口地帯』については、技術的に
起こるとは考えられない事故が起こり、しかも安全防護施設のいくつかが働かない場合
を想定したものであること、しかも、かりに、万一、このような事態になっても退避など
適切な措置をとることにより、放射線障害を受けないようにすることが可能であることを
明確に説明する必要がある。

最後に、東京湾岸の海上立地については、技術的には可能であるとしても、実証され
ていないし、経済的な問題もあるが、最も問題なのは、東京近郊のような人口密集地
帯に立地すれば、集団線量がどのくらいになるか計算されたことがおありでしょうか。
なお、念のために、関連する立地審査指針を別添ファイルで送りますので、今後は、
これらをよく読んでいただいて発言されるようお願いする。以上


----- Original Message -----
From: "Kumao KANEKO" <kkaneko@eeecom.jp>
To: <Undisclosed-Recipient:;>
Sent: Saturday, October 18, 2003 5:15 PM
Subject: EEE会議(Re:何故大都会の近くに原発を建設しないのか? 放射線
被ばく問題)