Subject: EEE会議(Re: Re: 日本核武装論)
Date: Fri, 10 Jan 2003 19:27:22 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

日本核武装論については新年早々から色々議論して参りましたが、
ここに来て、東工大の澤田哲生氏から大変傾聴すべきコメントを頂き
ました。 色々な問題点がカバーされており、今後のEEE会議でさらに
議論を深めてゆく上で大いに参考となると思いますので、全文を皆様
の高覧に供します。 反論やコメントを歓迎します。

金子熊夫
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原子力平和利用を唱道し推進する立場からは、核武装論に触れること自体がそ
もそも
忌諱に感じられるところがありますが、日本にとっての核武装の意義のなさと
非現実
性(つまり、核武装が如何に割に合わないものかを等々)を正当に認識し、必
要に応
じて議論できなければならないと常々考えています。
先に配信されたワシントンポスト紙1月3日付の論調は尤もらしく聞こえはす
るので
すが、核の問題の実態がなかなかつかめない(当たり前ではありますが)の
で、記事
の意図が字義通りなのかさえもなかなか判断に難しいところがあります。

しかしながら、中国が既に再処理用の化学物質を20トン輸出したという点、
中国に
とって日本の核武装がどのような意味(脅威)を持ちうるか等の視点は耳目に
値する
と思います。

昨今、原子力平和利用におけるひとつのムーブメントである「第4世代の原子
力開発」
においては、原子炉システムの具備するべき要件として、「より高い核拡散抵
抗性」
が挙げられているのは周知のところかと思います。平和利用に資するための核
拡散抵
抗性の強化策に真っ当に取り組むためには、当然ながら拡散性とはなにか、つ
まり核
の軍事利用がどのように行われているのか、はたまた不拡散性を確保するに当
たって
てのintrinsicおよびextrinsic barriersに関する理解が求められるかと思い
ます。
畢竟、原子力の平和利用を促進するための不拡散レジームをよりリアリス
ティックな
ものにするには核の軍事的利用の現状を知る必要があるということになれば、
これは
我々日本人の手にはなかなか負えない。そのような条件の下では、米国などと
組むし
かないし事実そうなっているのですが、そうすれば(やや短絡的ではあります
が)第
4世代のような将来炉システムの開発においても、核不拡散性という頸木を
もって、
日本の独創性は必ずしも思うように発揮できないとも考えられます。

安全保障の観点からは、原子力平和利用との関連で以下のようなポイントを論
じるこ
とに意義があるのではないでしょうか。
 1.米国が日米安保を破棄してきたとき、あるいは自国の安全保障は自分で
始末し
てくれと通告してきたとき、日本にとって核武装のオプションが浮かび上がっ
てくる
可能性があるのか。
 2.米国が日本の核武装を戦略上要請した場合、あるいは日本の‘非核3原
則’を
陽に破って、核を堂々と持ち込み配備したとき、日本の原子力平和利用はある
意味で
危機(論理破綻)を迎える可能性がありますが、それは単なる絵空事に過ぎな
いのか
(ワシントンポストの記事にほこの点で驚きを禁じ得ない)。また、論理破綻
せしめ
ないための方策・論理とはなにか。
 3.日本の弱腰外交に対する疑問、苛立ちは20代以下の若い世代の一部に
もりあ
がりつつあるようにいわれているし、実際そのように感じることがあります。
彼らが
40代になる頃には、戦後80年です。広島−長崎というキーワードがいつま
で実効
性とシンパシティーを保持していられるか。このような今後の日本を担う世代
が、い
ままだつづくこの国の控えめな外交姿勢に対してどういうメンタリティーを形
成しつ
つあるかは要注意だと思います。失われた10年といわれますが、将来このこ
とを彼
らの世代がどのように位置づけるかにもちょっと不安を感じるところがありま
す。

3.はともかくとして、1.&2.には関してはある程度そのリアリティーに
ついて
思考訓練しておく必要が、原子力平和利用推進の観点からあると思います。

昨年の日本の核武装の可能性(核武装が必ずしも憲法と矛盾にしない可能性が
ある)
に言及したのそもそもの発端が安倍晋三氏であるともいわれていますが、安倍
氏のそ
の後の北朝鮮問題への取組と世論を省みるに、今後の日本の政治状況の或る種
のベク
トルが示唆されているようにも思えます。
安倍氏の支持母体は、目先のことにとらわれず、100年先の日本の繁栄を視
野に入
れた政治を行えと叱咤激励しているようです。

杞憂だと思いたいのですが、この閉塞した時代状況のなかでなにかしら胎動し
ている
ものがあり、それが原子力平和利用という日本の拠って立つべきところを脅か
しかね
ないような気さえいたします。
R. L. Garwin, G. Charpak,“Megawatts and Megatons - A turning point in
the
nuclear age?”(2001, Knopf, New York)とう本があり、ここでは字義通り核
利用の
両面を公平な立場で論じてあります。この本は教科書的ないしは啓蒙書の装い
であり
まして、核の両義性と平和利用と軍事利用の相互関係に対する公平なマインド
へ読者
を一旦誘うのが本書の意図と見ました。(GwrwinはEnrico Fermi賞を、
Charpakはノー
ベル賞を受賞していますが、こういう物理学者がものした本のインパクトは小
さくな
いと思います。)
平和利用だけを念頭に邁進すればよいという時代が少々変わりつつあるのかも
知れま
せん。

東工大
澤田哲生