Subject: EEE会議(Re:日本核武装論: どう反論するか? その核燃料サイクルへの影響は?)
Date: Tue, 14 Jan 2003 17:38:45 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

 新年初めから、北朝鮮問題との関連で、「日本核武装論」について色々論じ
て参りました。国内ではまだあまり問題になっていないようですが、米国を中
心に海外では最近また、この種の議論が結構盛んになっているようです。

 こうした議論を聞くと大抵の日本人は、またかと、うんざりします。広島や
長崎の被爆者達ならずとも、こうした海外の無責任な議論に、憤慨する日本人
も少なくないでしょう。しかし、ただうんざりしたり、憤慨するだけではダメ
で、その都度きちんと反論しておくべきだと思います。国際社会で反論しない
ということは、相手の主張を認めたことになります。かつて、第二次世界大戦
開戦前の日本の態度について、英国のチャーチル首相がそう批判したことがあ
ります。

 どうも、広島、長崎のトラウマのせいか、日本人には、核問題は一種のタ
ブーで、これを表立って議論することを忌避する傾向が未だにあります。とく
に原子力の専門家や関係者の場合は、妙な発言をするとかえって世界の疑惑を
招く惧れがあると考えているためか、この問題にはことさら口が重いように感
じます(その結果、一部の政治家が生半可な知識で、危ない発言をするケース
が後を絶ちません)。 しかし、こうした消極的な態度はそろそろ卒業し、核
問題をできるだけ客観的、理性的に議論した上で、随時適切な対外発信を行な
う必要があると小生は思うのです。

 ただし、海外の日本核武装論に反論する場合には、単に、唯一の被爆国だか
ら、核アレルギーがあるから、非核三原則や原子力基本法の歯止めがあるか
ら、日本核武装などということは到底あり得ないのだというような反論の仕方
では、いくらやっても余り効果がありません。これは小生も、今まで何度とな
く国際会議等の場で経験してきたことです。被爆体験は現に風化しかかってお
り、国民の核アレルギーも不確かなもので、まして非核三原則や法律は日本人
が自分で作ったものだから、その気になればいつでも改変できるから当てにな
らないと言われれば、それまでです。

 そうした主観的、情緒的な説明ではなく、日本が、核兵器製造能力は十分
持っていながら、敢えて核武装をしないのは何故かを戦略的、外交的分析に基
づき理路整然と説明する必要があると思います。また、ときには、「よろし
い、日本にはその能力はあるのだから、思い切って核武装したと仮定しよう。
そうしたら国際政治上どういうことになるか、果たして本当に日本の安全保障
上プラスを齎すだろうか」という角度から説明するのも効果的だろうと思いま
す。こういう議論を説得力を持って展開するためにも、もっと我々は日本を取
り巻く国際政治の現状をしっかり把握し、日頃から十分理論武装をしておく必
要があることは申すまでもありません。
        * * *

 ところで、小生が最近益々心配になっているのは、実は、こうした海外の日
本核武装論が日本の原子力発
電計画、とりわけ核燃料サイクル計画に及ぼす影響であります。日本が使用済
み核燃料を再処理して抽出したプルトニウムをトン単位で保有していることは
世界中に知られています。「もんじゅ」のトラブルで高速増殖炉計画が宙に浮
き、いままた東電データ不正事件でプルサーマル計画が大幅に遅れ、未利用の
プルト
ニウムが溜まる一方です。いくら専門家が、「日本が持っている原子炉級プル
トニウムは兵器級プルトニウムとは組成が大違いで、そう簡単に核兵器にはな
らないから心配無用だ」と釈明しても、残念ながら、なかなか納得が得られそ
うにもありません。

実は、日本の専門家の間にも、「原子炉級プルトニウムでも粗製核爆弾なら十
分製造できるはずだ。それに、日本には少量ながら準兵器級の高濃縮ウラン
(研究用)があるし、遠心分離法による濃縮技術はすでに確立したものとなっ
ている。だから世界から疑いの目で見られても仕方がない」という意見も聞か
れます。当EEE会議でも、昨年春から夏にかけて、小沢自由党党首や福田官房長
官、安倍官房副長官らの発言をきっかけに日本核武装問題が話題となった際
に、この兵器級プルと原子炉級プルの問題についても相当突っ込んだ議論をし
たことは皆様のご記憶に新しいところです。
 
 実は、先日(1月7日)ご紹介した、昨年末ワシントンで開かれたカーネ
ギー平和財団主催の国際会議でも、北朝鮮核問題とは別のセッションで、米国
の核管理協会(NCI)やグリーンピース等の反原発、反プルトニウム運動家た
ちが、六ヶ所村の再処理工場問題にしつこく言及し、日本核武装論に油を注ぐ
ような発言を繰り返しております。これに触発されたのか、ワシントンでは一
部の政治家達までが日本の核燃料サイクル計画に批判の目を向け始めていると
いう情報もあります。クリントン政権時代とは違って、ブッシュ大統領の共和
党は基本的に原子力賛成であり、日本の原子力政策にも理解があるとされてい
るので、それほど心配することはないとは思いますが、要注意であることは否
定できません。
 
 いつまでも「日本核武装論は米国人の勝手な妄想だ」とタカをくくってばか
りいると、思いがけない方向に議論が発展してゆく危険性がないとは言えませ
ん。新年早々不愉快な話題で恐縮ながら、日本の原子力関係者にとって「頂門
の一針」となれば幸いです。

以上、長くなりましたので、この辺で一旦止めますが、拙論に対し忌憚のない
ご批判を歓迎します。

金子熊夫