Subject: EEE会議(ベトナムの原子力計画と日本の対応)
Date: Thu, 16 Jan 2003 10:51:36 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

小生がベトナムから帰国してはや半月になりますが、ベトナムの原子力開発計
画とこれに対する日本の対応について、ハノイ滞在中に考えたことを小論に纏
めました。本日(1月16日)付けの電気新聞の時評「ウェーブ」欄に掲載さ
れましたので、ご覧頂いた方もいるかと存じますが、ご参考までに以下のとお
りご披露します。 異論のある方はもちろん、忌憚のないコメントを賜れば幸
いです。すでに今朝早速コメントを下さった方々には、この場を借りて御礼
申し上げます。
金子熊夫
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情けは人の為ならず?
             
 新年早々、北朝鮮核開発、イラク攻撃、東電事件後の日本の原子力等々緊急
に論ずべき話題が山積しているが、折角の機会だから、前二回(昨年十月二十
二日及び十一月二十六日)に続きベトナムの原子力発電問題について今少し書
いておきたい。

 二ヶ月間に及ぶ今回のハノイ滞在中改めて実感したことだが、現在ベトナム
では、長年の立ち遅れを一気にとり戻すかのように、急テンポで経済開発が進
行している。そのため、今のペースで経済発展が続くと、早晩深刻なエネル
ギー不足に陥る惧れがある。

 現在同国の総電力量は約三百億kWhで、現在の日本の約三十分の一、昭和三
十年代初期の規模に相当する。その五四%が水力、二八%がガス、八%が石炭
という構成だ(二〇〇一年)。水力は北部中心で、新規にいくつかの大型発電
所が計画されているが、いずれ後十五年くらいで限界になる。中南部は火力発
電がメインだが、急増する需要をカバーするのは難しい。

 そこで原子力への期待が高まるわけで、一昨年春の共産党大会の決定に基づ
き、二〇一七〜二〇年に原発一号機運転開始を目途に、目下諸般の準備作業
(プレ・フィージビリティ・スタディを含む)が進められている。サイトも
三ヶ所くらいに絞られてきた。

 こうした動きに呼応して、すでにロシア、フランス、カナダ、日本、中国、
韓国等数カ国が自国製原子炉の売り込み合戦を展開している。ロシアはプーチ
ン大統領以下首脳レベルで、他の諸国も政府主導でそれぞれ働き掛けを強めて
いる。韓国の場合、北朝鮮の核問題でKEDO計画が頓挫すれば、「北」用の百万
キロワット軽水炉二基を格安でベトナムに提供するのではないかという噂もあ
る。

 これに対して、アジアの原子力最先進国である日本は専ら民間主導で、関連
企業が懸命に売り込みを図っているが、苦戦は避けられない。日本政府当局
は、無理をしてベトナムに原子力輸出をする必要はないと考えているふしがあ
り、原発輸出の前提となる二国間原子力協定は未だに締結していない。日本か
らの原発輸出が確実となり、協定が必要となれば、その段階で締結を考えると
いう姿勢らしいが、政府の消極姿勢が日本のチャンスの芽を潰す惧れがある。

 筆者はもちろん業界代表ではなく、何が何でも日本製の原子炉を売り込むべ
きだとは考えていないが、できれば安全性とアフターサービスに定評のある日
本製を購入してもらって、ベトナムで「安全で効率的な」原子力発電が行なわ
れれば、日越両国のためにも大いにプラスになると考えている。ベトナムが将
来、インド、パキスタン、北朝鮮等のように、原発を悪用して核兵器製造を目
論むとは思わないが、平和利用に徹する日本が同国の原子力計画にしっかりし
た関係を持っておくことは、政治的、外交的にも極めて望ましいと考えてい
る。

 ただ日本製原子炉の最大の弱点は、他国製に比べて値段がかなり高いこと
だ。短期的な採算を度外視する傾向のあるロシアは別として、総じて他国製の
炉は日本製の三〜五割安いと言われている。日本製が高いのは国内の特殊事情
によるもので、電力会社と連携して国内向けの炉だけを作っていた時代はそれ
でもよかったが、輸出となると話は別だ。

 日本の対越原子力輸出の成否は、日本政府の対応に加えて、今後関連メー
カーが、最大限にコストダウンを図りつつ、どれだけベトナムのニーズに合っ
た炉を提供できるかどうかにかかっている。それは、単にベトナムのためだけ
でなく、日本の将来の原子力産業にとってもプラスの経験となるのではないだ
ろうか。
金子熊夫


  (電気新聞 2003年1月16日付け「時評・ウェーブ」欄掲載)