Subject: EEE会議(Re:日露関係: 対ロ非核化支援計画)
Date: Sat, 18 Jan 2003 17:00:33 +0900
From: "金子 熊夫" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

標記の件に関し、旧ソ連非核化支援技術事務局長の川上俊之さんから、追加的コメン
トと関連情報のご提供がありました。2通のメールをまとめて転送いたします。ご参
考まで。
金子熊夫

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ご指摘があった政府調達関連の問題について、次のとおりお答えします。


1. 技術事務局は政策決定機関ではなく、対露支援において如何なるプロジェクトを
如何なる条件で実施するかは、総務会の所掌事項になっています。

技術事務局のホームページ(日本文)www.tecsec.orgのロシアの項で引用されている協
定を参照されると明らかなように、非核化協力に関する日露の委員会は、総務会と技
術事務局で構成されております。技術事務局の役割は、日本政府が拠出した資金を委
員会の共有財産とする資金(Fund)の事務的管理であって、具体的プロジェクトが総務
会で決定され、その実施について総務会の指示があれば技術事務局がその指示を実行
することになっています。

協定にも明示されているように、政策決定機関は、日露両国政府の代表で構成される
総務会になっています。

従って、匿名の方から「川上事務局長のご意見を聞きたいものです」という御指摘が
ありましたが、その点について技術事務局ないし私が公式な見解を表明できる立場に
はないと思いますものの、御参考までに関連する事項を思いつくままに次のとおり列
記したいと思います。

2. ひも付き条件の問題については、日本の無償援助は、untiedを原則としていると
思います。従来、米英ともに日本の対外援助におけるtied loanを批判していたと私
は理解しています。非核化協力の面で、米英が自国企業を優先するようなtiedを原則
としているとは言い難く、協力の実例をみると米国の場合も自国企業が引き受けられ
ないプロジェクト(例えば、原潜解体など)については、ロシアの企業と契約していま
す。

3. 技術事務局が、総務会の指示に基づいて競争入札を行う場合には、WTOの政府調達
コード、国際機関の入札手続などに準じて行っています。 なお、対象となる資金
は、協定上、日本国政府が無償資金として贈与したもので、その所有者は二国間委員
会になっています。

4. Russian businessは、民間企業にとって必ずしも利益にならず、リスクの多い
businessです。「すずらん」の場合、日本の商社と米国企業が応札し、財務と技術な
いし工事とを分業して契約していますが、技術と工事の分野を担当した米国企業は大
幅な赤字となり、その社長は責任をとらされて親会社から更迭されたと聞いていま
す。
当方の経験でも、具体的予定案件について、関心の有無を打診した時に、日本の商社
は引き受けを敬遠したことがあります。

5. 日本政府ないし外務省には、マルチの協力形式を志向しているようですが、現実
には他のG8諸国は自国のプレゼンスを高めることを志向していて、バイの協力が主流
になっています。余剰プルの問題については、カナナスキスのサミット以来、Global
Partershipの枠組みでの対処が模索されています。従って、今後どのような方向で物
事が動くかは、政府間の協議の対象となるかもしれません。

6. IAEAの件は、外務省でも検討されたようですが、IAEA内部では一ヵ国の拠出金を
ベースとした事業の実施を引き受けることについて意見の統一がみられないようで
す。

7. 対露、NISの支援は、最近のカナダでのサミット宣言にもみられるようにこれらの
諸国の自助努力が先行することになっています。カザフ、ベラルーシについて、日本
も協力してきて、当初資金の相当部分は既に使われているので、これ以上の支援は見
送り、実行が遅れているロシアを重点的にみようというのが、外務省の当面の政策の
ようです。

8. 非核化協力の枠組みについては、最近外務省が改革案を公表しています。

論理的に統一した見解になっていないかもしれませんが、取り敢えず私見を回答申し
上げます。

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木村教授は、「すずらん」が一切外国製で、腹が立ったと言われていますが、今手元
に資料がないので私の記憶で書きますと、国際入札に応札した8コンソーシアム(総計
では18企業)のうち、6コンソーシアムは日本の商社をGeneral Contractorとする外国
企業との連合体で、純粋に日本企業のみのコンソーシアムは、1組しか応札していま
せん。

しかも、処理技術は、そのほとんどが外国のものです。日本でも、類似の処理施設が
ありますが、Original Licenceが外国のケースが多いようです。そのため、自社開発
技術を売り込んできた日本企業は皆無に近い実態です。

船体なら、日本企業でもできるのではないないかとのご意見もあるでしょうが、日本
の造船界は企業収益にならないこのような船(実際には自航能力もないハシケ)の建造
には関心がなく、受注意欲もないのが現状です。しかも、当時は円高で、一社は日本
の小規模な造船所を候補にしてきましたが、落札対象になりませんでした。今でも、
日本の造船所は造船台に余裕がないので、高価格で高級な造船に的をしぼっており、
例えば昨年浮きドックの話が出た時に、内々に打診したところ、受注には無関心で、
そんなもの韓国かフィリピンに作らせば良いとのことでした。

以上、ご参考まで。

川上俊之
技術事務局