Subject: EEE会議(Re:対ベトナム原子力輸出問題)
Date: Mon, 20 Jan 2003 09:15:01 +0900
From: "金子 熊夫" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

対ベトナム原子力輸出問題に関する小生の意見(1月16日付け電気新聞掲載)に対
して、その後、ベトナム在勤中の複数の友人(日本人)からも有益なコメントをいた
だきました。その中の1つをご参考までに紹介します。
金子熊夫

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貴メールを興味深く拝見しました。 ヴェトナムの原子力発電計画に対して日本はで
きる限りの技術的支援を行うべきであり、できれば日本製の原子力発電所をヴェトナ
ムに輸出すべきであるとする貴見は、それなりに筋が通っており、とくに異論はあり
ません。

しかし、当地で長年暮らしてきた者として率直な感想を申し上げれば、ヴェトナムの
原子力発電計画については、あまり楽観すべきではないと思います。 確かに1昨年
の第9回共産党大会で将来の原発導入計画が基本方針として承認されましたが、これ
でもってヴェトナムが原発導入を決定したわけではありません。あくまでも、将来の
導入を視野に入れた予備的検討を始めるということで、導入が正式決定されるまでに
は、まだ色々な紆余曲折があるとみるべきでしょう。 つい数年前まで東南アジアで
原子力に最も熱心であったインドネシアでも、1997年の通貨危機を契機にスハル
ト政権が倒れ、中心人物であったハビビ技術研究大臣(後に大統領)が失脚すると、
あっという間にムリヤ原発計画は吹っ飛んでしまいました。 その前には、フィリピ
ンのバターン原発計画の例もあります。 これらは、金子先生も指摘される通り、東
南アジアのような開発途上国における原子力発電計画がいかに困難なものであるかを
如実に示すものです。

確かにヴェトナムの場合、現在は共産党の一党独裁で、党のコントロールがかなり利
いており、「言論の自由」も制限されているので、政府の方針に反対して反原発を
大っぴらに唱える人はいないようですが、このような状態が今後どのくらい続くか、
誰にも予測できません。 おそらく後10年ないし15年もすればヴェトナム社会も
大きく変わるでしょう。 ドイモイ政策下で市場経済化が進めば、政治体制だけがい
つまでも不変というわけには行かぬはずです。中国より小さく、小回りが利くだけ
に、ヴェトナムの場合は変わり始めたら早いだろうと思います。すでにヴェトナム社
会の各分野で変化の胎動が始まっていると私は見ています。

とくに原子力については、まだ当国に実際に原発が建設されるかどうか決定してもい
ないのに、早くも市民層の間では反原発的な機運が徐々に醸成されてきていると思わ
れます。 私が日ごろ親しくしているハノイ大学等の社会科学分野の学者たち(共産
党幹部のブレーン。欧米で教育を受けた者が比較的多い)の中には、欧米流の「反原
発・親自然保護」思想が浸透しつつあるように見受けられます。 ヴェトナムでもイ
ンターネットで自由に海外の情報を入手できる時代ですから、そうした動きをストッ
プさせることはできません。 "Small is beautiful"的な発想は若年層にはとくに受
け入れやすいものです。

ヴェトナムの原発第1号が2010年ころまでに完成すると言うならまだしも、20
17年以後ということになると、状況は中々厳しいと言わざるを得ません。 日本の
企業が対越原発売り込みを図るためには、こういった状況への対応ももっと工夫する
必要があると思います。 具体的にどうすべきかは今ここで論ずることは差し控えま
すが、1つだけ言って置きたいのは、ヴェトナムに原発を売り込む前に、ヴェトナム
にとって何故原発が必要なのか、他に適当なエネルギー源がないのか等について、
もっと分かりやすい説明、ないし教育をヴェトナムの市民レベルに対して行う必要が
あると考えます。そんなことはヴェトナム政府の責任だと言えば正にその通りです
が、日本が本当にヴェトナムのエネルギー・電力問題を心配しているのなら、そこま
で踏み込んだ対応をすべきだということを申し上げたかった次第で、他意は全くあり
ません。

このほか、貴論文で指摘しているようなコストダウンや原子力協定問題等もあります
が、それら以上に重要なことは、ほかならぬ日本国内における原子力発電の建て直し
を急ぐことであって、それが出来ないようではヴェトナムへの原発輸出などというこ
とは最初から無理だと私は思いますが、この点については別の機会に議論しましょ
う。 ではまた。

<胡志明=ハンドルネーム>