Subject: EEE会議(イラク戦争問題:日独比較)
Date: Thu, 23 Jan 2003 09:47:58 +0900
From: "金子 熊夫" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

イラク攻撃問題で主要各国の対応振りがばらついていますが、小生はかねてから、と
くにドイツの態度に注目しております。同国は安保理の非常任理事国で、対イラク開
戦が危険水域に入る2月には安保理議長国となるだけに、同じイラク戦慎重派の常任
理事国フランスと組んで戦争回避に懸命ですが、さらには中国、ロシアを巻き込んで
戦争回避に向けた米英包囲網構築の構えすら見せております。20日の国連安保理外
相級会合でも、フィッシャー独外相(「緑の党」の党首)は、「イラク攻撃が中東地
域の安定に致命的な結果をもたらす」として、ドイツのイラク戦反対の姿勢を改めて
鮮明にしました。

シュレーダー政権が対米関係悪化も覚悟の上で、このように戦争回避を声高に主張し
ているのは、昨年9月の総選挙で「イラク攻撃には人もカネも出さない」と公約して
再選を果たしたからですが、さらに、同政権の今後の浮沈が懸かる2月2日の州議会
選挙を乗り切るためにも「イラク戦反対」の世論に頼るしかないという政治的判断も
あると見られます。ちなみにドイツでは国民の7割以上がイラク戦反対派だそうで
す。

しかし、小生は、ドイツのイラク戦反対の背景には、もう一つ重要な要因、すなわち
エネルギー安全保障問題があると見ています。ご承知のように同国は、もともと石炭
火力が大きな比重を占め(発電量の50%強)、原子力も、脱原発政策の下でも依然
として30%のシェアを維持しており、おかげで石油は主要先進国中最低(1%程
度)です。つまり、中東戦争が嵩じて石油が輸入できなくなってもあまり困らないと
いうことです。

これに対して、わが日本は、石油の100%を海外、しかもその90%近くを中東
(ホルムズ海峡経由)に依存しているわけですから、中東情勢の展開にもっと関心を
持つべきなのですが、国民の目は相変わらず北朝鮮問題(それも拉致問題)に奪われ
ています。私見では、日本が対米協力維持以外に外交上の選択肢がないのは、詮ずる
所、@日本が米国の「核の傘」に依存していることと、A石油輸入のためのシーレー
ン防衛を米海軍に依存しなければならないという2つの安全保障上の理由によると考
えています。 「核の傘」は別の機会に論ずるとして、石油輸入のためのシーレーン
防衛の必要性については、日本人はもっと厳しい認識を持つべきであると思います。

つまり、極論すれば、シーレーンという「生命線」の防衛を米国に頼っている以上
は、対米協力は――仮に日米安保条約がなくてもーー日本の当然の義務である、もし
ドイツのように日本も独自路線を取りたければ、自分のエネルギー安全保障は自分の
手で確保する以外にない、そして、そのためには、@海上自衛隊の守備範囲をペル
シャ湾まで拡大するか、Aもっと石油の対中東依存度を下げるかの2つの選択肢しか
ないと小生は考えます。 

ついでに言えば、石油の対中東依存度を下げるためには、@供給源の多角化を図る
か、A石油依存度自体を下げるかの2つの選択肢しかなく、後者を選択するために
は、ガス、原子力などの既存の石油代替エネルギー源の開発利用を一層促進する以外
にない、という結論に当然なるはずです。因みに、同盟相手の米国は、石油の中東依
存度は僅か15%程度なのに、盛んに供給源多角化を進めておりますし、他方原子力
の強化を図っており、エネルギー安全保障問題に官民ともに真剣に取り組んでいるよ
うです。


しかるに、わが日本では、(少なくとも東電の)原子力はいまや未曾有のピンチにあ
り、火力発電の復活により石油需要が急増するという全く逆の現象が起こっているわ
けですが、にもかかわらず、国民にも政治家にもあまり危機感が見られないのは、一
体どういうことなのでしょうか? 

皆様はこの点どうお考えでしょうか? 以上の私見に対し、忌憚のないご意見、ご批
判をお待ちしております。例によって「金子限り」(転送不可)でも「匿名希望」で
も構いません。

金子熊夫