Subject: EEE会議(「新しい核ドクトリンの採用を」)
Date: Fri, 24 Jan 2003 23:29:09 +0900
From: "金子 熊夫" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>








各位
 
イラクや北朝鮮の核問題をきっかけに、「日本核武装論」が再燃してい
る一方で、従来の核兵器に関する国際レジ―ムのあり方、とくに核不拡散条約
(NPT)体制のあり方について抜本的な再検討を促す意見が世界の各方面で提起され
ております。 
次にご紹介するのは、外務省OBの英正道氏(元イタリア大使)のご意見
で、同氏が主宰している「日本英語交流連盟」(ESUJ)のHP日本語版
(http://www.esuj.gr.jp/jitow/jp/)
に1月17日付けで掲載されたものです。
この傾聴すべきご意見には、小生若干コメントがありますが、皆様のご
意見やご感想をまずご披露いただければ幸いです。
金子熊夫
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新しい核ドクトリンの採用を

英 正道 日本英語交流連盟会長


1945年の原子爆弾によるホロコーストの経験以降、人類は相互確証破壊
の恐怖による核兵器不使用の期待や核不拡散のための国際的取り決めの締結を通じ
て、核戦争を回避する努力を行って来た。しかし21世紀の初頭の現時点では、核保
有の5安保常任理事国に加えて、更に数カ国が核兵器を保有するに至り、加えて世界
はイラクと北朝鮮の核兵器保有阻止の問題に直面している。いまや我々は21世紀に
おけるこれ以上の核兵器の拡散を止める新しい核ドクトリンを早急に見いだす必要が
ある。

揺らぐことなく非核政策を堅持して来た日本人の目から見ると、核不拡散条約
の締結以降、核兵器保有国の核軍縮へ向けての努力の不足は明らかである。核不拡散
条約の存在やさまざまな圧力と障害にも拘わらず、核兵器の拡散は続いた。現実論か
ら言えば、国際競争関係はあまりにも苛烈であり、また非核保有国の安全保障につい
ての配慮があまりにも欠如していたので、多くの国がその安全保障を核兵器の保有に
求めることを「不法」とすることにはそもそも本来的に無理が有ったと言わざるを得
ない。

ブッシュ大統領がアメリカ人の生命を守るに熱心であると同様に、イスラエ
ル、インド、パキスタン、イラク、北朝鮮の指導者も彼らの国民の生命を守るのに熱
心なのである。

しかしもしこの傾向が続けば早晩世界は恐るべき核戦争の惨禍を経験するよう
になるであろう。もし人類の英知がこの悪魔の贈り物とも言うべき核兵器に打ち勝つ
ためには、我々は現存する不拡散の仕組みの強化に全力を傾注しなければならない。
私は以下に述べる三つの原則が受け入れられ、現在の制度に組み込まなければならな
いと考える。

第一の最も大切なことは、大量破壊兵器の保有国にこれらの兵器を非保有国に
対して使用することを禁じ、その使用を国際的な犯罪として対処することである。

第二は大量破壊兵器の非保有を宣言する国は、国際原子力機構(IAEA)の完全
な査察を含むセーフガード措置を受け入れることである。そのためには核開発につい
てのインテリジェンス情報へのアクセスを含む同機構の査察機能を、安保理常任理事
国の共同責任において、現在より一層強化することが必要となろう。

第三は原子力の平和利用において、核兵器非保有国が不利を被らないことを確
保することである。

勿論これらの原則のいずれについても深刻な困難が存在する。最も論議を呼ぶ
のは大量破壊兵器保有国に非保有国をこれらの兵器で攻撃することを禁止する第一の
原則であろう。米国が、必要とあれば「望ましくない」国の大量破壊兵器保有を阻止
するために一方的に行動する自由を持ち続けるべく、第一の原則に強く反対するであ
ろうことは疑いをいれない。

また第一の原則採用の結果、通常兵器による戦争の可能性が増大するかもしれ
ないし、いわゆる「ならず者」国家が有利な立場に立つとの主張がなされるかもしれ
ない。日本のような国でさえも、アメリカの核の傘の信頼度がそれだけ損なわれる結
果、自国の安全保障が弱体化するとの恐れから、第一原則を受け入れることを躊躇す
るかもしれない。

他方米国のハイテク兵器による軍事的破壊能力の発展には目ざましいものがあ
る。湾岸戦争やアフガニスタンに於けるタリバン勢力との戦いで何が起こったかを知
るとき、一匹狼の「ならず者」国家が侵略行為に乗り出すことは不可能に近くなって
いるといえよう。

第一原則の受諾について日本が抱くかもしれない不安について言えば、もし非
核国が最近のハイテク兵器を導入することにより非核の防御的能力を増大できるな
ら、これらの非核国はこれを保護する核保有国に過大に依存したり、従属したりする
危険を克服できるであろう。

筆者はこの新核ドクトリンの採用は、核保有国がどこまでも増大するという問
題の解決に資すると確信している。これら諸国が必要とする保証が十分に与えられる
なら、一層多くの国が非核の英知を受け入れるであろう。もし慎重に機略をもって進
めれば、新ドクトリンは北朝鮮との問題の平和的な解決の風穴を開けることが出来る
かもしれない。現在世界は一方で核兵器拡散、他方で一方的なアメリカによる平和の
分かれ道に立っているが、いずれの道も日本にとっては好ましいことではない。

特に北東アジア地域に於いて、日本は北朝鮮ないしは統一朝鮮が核保有をする
という事態に手を拱ねいているわけには行かない。恐らくそのような状況の下では、
将来の世代の日本人は核兵器保有を余儀なくされたと感じるかもしれない。しかし私
は、新しいドクトリンが採択されるのであれば、将来と言えども、高度に都市化した
日本にとっては、近隣諸国に脅威を感じさせない非核通常兵器による自衛力の向上の
方が、核兵器の保有よりも遥かにリスクの少ないより賢明な選択であると考える。

(筆者は日本英語交流連盟会長。)


2003年 01月 17日