Subject: EEE会議(日本核武装論と核燃料サイクル)
Date: Tue, 28 Jan 2003 10:49:28 +0900
From: "金子 熊夫" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

昨日お届けした日本核武装論と核燃料サイクルに関する拙稿(月刊「エネルギー」2
月号掲載)の中で、昨年秋ワシントンで開催されたカーネギー国際会議での議論に触
れておきましたところ、この会議に出席された鈴木達治郎氏(電力中央研究所、経済
社会研究所 上席研究員)より、次のメールをいただきました。ご参考まで。
金子熊夫 

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日本核武装論の議論で、カーネギー国際会議における議論が引用されていましたが、
私も出席した感想をまとめておりますので、関連部分だけ添付いたします。私の記憶
では、
きわめて冷静な議論がなされており、特に「核燃料サイクルが日本の核武装につなが
る」と
いう意見はきわめて少数派で、反核団体の主張も「六ヶ所村が(テロを含む)核拡散
リスク
を高める」という表現で、反対していた、という印象です。日本は六ヶ所村がなくて
も核武
装できる、というのが一般的認識でした。
とりいそぎ。
鈴木 拝
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カーネギー平和財団核不拡散国際会議における主な議論(抜粋)

1. キーノートスピーチ

(3) サム・ナン元上院議員(Nuclear Threat Initiative理事長)
大量破壊兵器が使用される可能性があり、これが安全保障上最大の脅威となってい
る。さらに問題であるのは、そのリスクを犯す可能性が最も高いのがテロリストであ
る、と
いうことである。
その防止対策として、最も有効で重要な対策は、核、生物、化学兵器の材料となる
物質の安全な防護・管理である。残念ながら、今のところその対策のスピードは十分
に早い
とはいえない。
具体的対策として、特にロシア・米国に対し以下の5点を提言したい。
1. 核兵器・核物質および関連施設の防護・管理を強化する事。ロシア・米国間で相

監視も行うこと。高濃縮ウランの希釈、プルトニウムの管理・処分を進めていく事が
重要。
2. 戦術核兵器の正確な把握(計量管理)が必要。
3. 全ての核兵器の警戒態勢を解き、事故による核兵器発射の可能性をなくす事が必
要。
4. 生物兵器対策について、米露の科学者間で検討をはじめるべき。
5. G8サミットで合意に達した「グローバルパートナーシップ」の実行策を早急にす

めること。具体的には(1)対策の国際条約化(2)計量管理の改善(3)核物質防

(4)密貿易阻止(5)機微な物質の輸送防護(6)大量破壊兵器材料の早期処分、
などが
あげられる。
(質疑応答)
2003年は「平和のための原子力」国連演説の50周年だが、平和利用と核不拡散の両
立を図る新たな声明を発表すればどうか:原子力平和利用の重要性は十分に認識して
いる。
平和利用の分野でも、使用済み燃料管理問題、安全性問題など、国際協力が必要。ま

INPO/WANOのような産業自主規制機関を薬品・化学産業も設置してはどうかと考えて
いる。
民生用再処理問題をどう考えているか(特に六ヶ所再処理):プルトニウムの蓄積
は望ましくないが、各国の政策に介入するわけにはいかない。それぞれの国が責任を
持って
管理すべき。
ロシアにおける使用済み燃料貯蔵・再処理問題に対する米国の政策に変化はあるの
か:米国政府の見解については私は述べられない。


2. 日本関連の議論
(1) アジアにおける新しい「核」
このセッションでは、韓国、台湾、日本の3カ国に焦点をあて、各国別に核兵器取
得の可能性、その条件、それを阻止するための対策などについて、専門家たちが意見
交換し
た。
日本については、核不拡散条約(NPT)に署名するときに行われた日本国内の議論
を基本に、「日本の安全保障にとって核保有は合理的でない」という政策判断が紹介
され
た。その理論的背景は、「島国小国である日本の場合、核を保有しても戦略的意味が
ない」
ということであった。
さらに強調されたのが、国内の「非核、反核世論」と米国との同盟関係であった。
米国との同盟関係(「核の傘」を含む)を守る事が、日本の安全保障政策の基本で
あったた
め、核のオプションをとることは決して得策でない、という判断が理由なので、これ
も今も
変わっていない。
また、核不拡散条約に参加する際に時間がかかったことや、最近の政治家の言動な
どを理由に、日本の非核政策への疑惑は後を絶たないが、一方で核不拡散や核軍縮の
分野で一貫して優等生であったという評価もなされていた。
Henry Stimson CenterのSelf研究員は、特に日本の核燃料サイクル(プルトニウム
利用)計画について触れ、平和利用として限定されているとしても、「潜在核武装技
術能力
の確保」という戦略的意義が隠されている(この方が真の核武装計画を持つより価値
が高
い)との見方を紹介していた。これに対し、プルトニウムサイクルのもたらす核拡散
リスク
について、反核団体からの強い質問と批判があった。
台湾、北朝鮮を含め、北東アジアのこの地域においては、全ての国が自らの意思で
核兵器オプションを放棄していることが重要である、との指摘があった。その大きな
歯止め
となっているのが、米国の存在であり、米国の対アジア政策の動向が最も重要な要因
である
ことが指摘された。

(2) 北朝鮮問題への対応
ここでは日本の船越一等書記官がパネリストで日本の対北朝鮮外交について説明を
行った。基本的には小泉外交が成功だったとの認識のもと、現在は拉致家族問題と安
全保障
問題の両方が大きな課題となっているため、国交交渉が困難になっていることが紹介
され
た。
ここでも、結局は米国の外交政策の重要性が指摘された。ただ、日韓が米国と協力
して、「外交努力による解決」に全力を尽くすことを徹底することの重要性が指摘さ
れた。

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鈴木達治郎
電力中央研究所、経済社会研究所 上席研究員
千代田区大手町1−6−1