Subject: EEE会議(北朝鮮、日本核武装論、核燃料サイクル計画など)
Date: Wed, 29 Jan 2003 00:29:21 +0900
From: "金子 熊夫" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

先日北朝鮮核問題や「日本核武装論」、さらに、それらが日本の原子力活動、とりわ
け核燃料サイクル計画に及ぼす影響などに関する卑見(月刊「エネルギー」2月号掲
載)をご披露しましたところ、早速これに対するコメントを幾人かの方々から頂戴い
たしました。次にご紹介するメールは、さる高名な専門家(匿名希望)からのもの
で、さすがに鋭いところを衝いたコメントだと思います。俄然EEE会議が面白く
なってきました。

ここで提起されている問題点は大きく分けて2つ。@日本は北朝鮮(将来的には中国
も)の核の脅威に対して自ら核武装をしなくても本当に大丈夫なのか? A日本が現
在保有している原子炉級プルトニウムでも核兵器の製造は可能であるとすれば、いか
にして(余剰の)プルトニウムの保有を正当化するか(六ヶ所再処理工場の運転問題
を含めて)? という点に絞られるのではないかと思います。@は主として外交戦略
・安全保障問題、Aは主として技術・国内政治・経済問題と捉えることができましょ
う。

あいにく小生は目下他用で忙殺されていて、このメールに対して直ちに本格的な反論
を書く余裕がありませんので、まず皆様の中でどなたか率先して、しかるべきコメン
トをお寄せくだされば誠に幸いです。@とAのどちらか一方だけでも、また、賛否い
ずれの立場からでも自由自在に論じてください。
金子熊夫
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月刊誌「エネルギー」2月号の貴殿の提言を読ませていただきました。これについ
て、ご意見を受け賜りたく、メールさせて頂きます。

北朝鮮が、核開発を再開することが決まってから、わが国の核武装論議が活発になっ
てきたと述べておられますが、従来から、有力議員や外務省の幹部の一部に、「現
在、唯一の原爆被爆国であるわが国が核兵器を持つことは、国民感情からありえない
が、中国や北朝鮮との間で屈辱的外交が続くならば、将来、核兵器を所有することに
より、事態を有利に解決する必要がある」と考えている人がいるように見受けられま
す。福田官房長官も小泉政権では、核兵器を持つことはありえないが、将来の可能性
については言及を避けておられます。

もし、北朝鮮が、核ミサイルを日本に落とした場合、日本は、一体どのような報復手
段が採れるのでしょうか。国際的な世論を喚起して対処すればよいなどと言っておれ
ばよいのでしょうか。北朝鮮の核ミサイルに対するはっきり効果のある報復措置を準
備しておくべきであるとの議論に対してどのように反論すればよいのでしょうか。
「戦略的、外交的分析に基づき、理路整然とした説明」といっておられるが、関係諸
国が納得するような説明について具体的にお伺いしたい。   

次に、貴説のように、この問題は、核燃料サイクル計画に重要な影響を与えることが
懸念されます。わが国には、「原子炉級プルトニウムは、簡単に核兵器にはなり得な
い」と考えている専門家がおり、私もかってそのような考えを持っておりました。し
かし、

(1) プルトニウムの圧縮技術などの技術進歩により、原子炉級プルトニウムでも所要
量8kgで核兵器になり得るとの米国核兵器専門家の主張に反論するにたる根拠となる
データがない。
(2) プルトニウムの蒸気または弗化プルトニウムにレーザーを当てることにより、プ
ルトニウム239を選択分離できる可能性がある。
(3) 劣化ウランまたは天然ウランの燃料棒を軽水炉の炉心周辺部に配置しておき、半
年ないし1年後に取り出し再処理によりプルトニウム239の純度の高いプルトニウムを
回収することが出来る。

 特に、北朝鮮の場合には、既に再処理技術を持っているので、(3)の方法でプルト
ニウムを回収し核兵器を作ることは比較的容易に出来るのではないかと考えます。
従って、米国が北朝鮮に軽水炉の建設を援助しているのは政策の矛盾であり、直ち
に、火力発電所の援助に切り替えるべきであります。むしろ、我が国にとって脅威と
なるのではないでしょうか。
 
 また、我が国では、プルトニウムが既に、32トン貯まっており、しかもプルサーマ
ルが思うように進まない現状で、六ヶ所再処理工場でプルトニウムを回収するという
前提で再処理を行うことが可能かどうか疑わしいと考えます。私としては、国際的な
理解を得るためには、六ヶ所ではプルトニウムを回収しないとの前提で再処理するこ
とにすべきであると考えております。事実、米国は、英仏から日本に持ち帰るMOX燃
料輸送に当たって軍艦などの護衛をつけるよう要求しているし、六ヶ所再処理工場の
保障措置にMUF(測定誤差を含む行方不明量)を極力抑えるよう要求している。また、
「余分のプルトニウムは持たない」との国際約束をせざるを得なかった。

 このような事情を考えると、六ヶ所再処理工場の運転開始及びMOX燃料工場の建設
に対して米国がどのような反応を示すかが問題であります。米国の国務省は、外交上
の配慮から好意的に取り扱おうとするでしょうが、反プルトニウム運動家の動きもあ
り、また、強硬な核不拡散論者の一部上院議員や国防総省及びエネルギー省などが、
どのような反応を示すか予断を許さないのではないでしょうか。

 以上に対し、貴説をお伺い出来れば幸甚に存じます。

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