Subject: EEE会議(Re:イラク攻撃、中東情勢、石油問題など)
Date: Fri, 31 Jan 2003 17:47:01 +0900
From: "金子 熊夫" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

標記テーマに関して、横堀恵一氏((財)産業創造研究所専務理事)から、次のような
メールをいただきました。 日独比較はともかく、イラク攻撃による中東情勢の変化
が国際石油市場、ひいては日本の長期的なエネルギー安全保障や原子力の将来にどう
いう影響を及ぼすか、という問題は極めて重要だと思いますので、引き続き十分議論
していただきたいと存じます。
金子熊夫

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異論反論も良いということで、あえて未熟者の意見述べたいと思います。

品川先生の日独比較論について、私も欧州に在勤したり、上司がドイツ人であったの
で、先生の多くのドイツに関するご指摘はその通りと思います。ただ、日本では、戦
前のことについて何ら批判的な教育がなかったかの意味でのご指摘であれば、そこに
は、異論があります。これは、私の世代のことかもしれませんが、戦争中の空襲の経
験も忘れず、多くの友人の父親は戦死しています。戦後の「民主・平和教育」もしっ

り受けてきました。我々の世代に限ってのことかもしれませんが、「日本では、徳川
時代ぐらいまでのことは学校で教えても、明治以降のこと、特に大正時代以降のこと
などは、ほとんど教えてきませんでした。」というのは、まったく事実に反する、と
思います。私個人は、戦争の悲惨さを思い残すために、戦没者を悼むのに、靖国神社
に総理大臣が参拝するのは、当然である(追悼のような儀式から宗教色を拭い去るこ
とは不可能と思っています)、と思います。ただし、最後の点は、思想信条の問題な
ので、皆様の意見が異なるとは思います。

ただ、日本での問題は、受験戦争のあおりで、だんだんに、学校で重点的に教える歴
史の内容が、試験に出る可能性の低いあるいは時間がなくなって教えられない(その
頃を教えるのは、受験シーズンの頃に当たってしまい誰も生徒がいない時期になる)
近現代にふれなくなった(教科書には書いてあっても)ということだ、と思います。意
図的に、歴史教育を曲げたというよりも、状況に流された結果だ、通っています。こ
れを改めるには、フランスのように、歴史を中学から高校まで一貫して教える、すな
わち、古代のことは中学校に任せて、高校では、教えない、その代わり近代・現代を
もっと濃密の教えるというようなことが必要(いまや高校進学率はきわめて高いので)
ではないか、と思っています。

「石油の備蓄増強」についてですが、私は、日本に関する限り、現在の水準はかなり

分ではないか、と思っています。150日分の輸入はまかなえる計算になります。実
は、国際エネルギー機関(IEA)の算定方式ではもっと低いのですが、この算定方式
では、低めに出る(例えば、備蓄タンクの底の部分(10%)は利用不能との前提など)の
で、日本の石油公団の方式でかまわない、と思っています。問題は、むしろ、韓国、
台湾、中国などの備蓄が不十分で、石油危機が起こるとそれらの国での買い漁りによ
る高値が出現する恐れがあります。従って、日本の備蓄をこれらの消費国に開放する
一方、彼らが備蓄する(できれば日本の空きタンクを使ってもらう)よう誘導すること
が大事であると思っています。

さらに、暴論ですが、イラクだけの石油生産が阻害されるだけであれば、イラク攻撃
による市場への影響は、対応意可能と思います。確かに、ベネズエラの石油生産の停
止は問題ですが、湾岸戦争のときも、クウェートからの生産が止まったので、生産減
の影響は同程度ではないかと思います。東電の原発停止の影響も心配ですが、北半球
の冬も過ぎつつあり、湾岸戦争のときと同様の対応、産油国の増産とIEAの緊急対
応の組み合わせでしのげるのではないか、と思います。影響はあるが、大混乱ではな
い、と思います。

ただし、問題はもっと、中長期的なことではないか、と思います。日本では専門家以
外の人は気にしていませんが、アラブ産油国の国内の政治、社会的な不安が増大して
いるように思います。ビン・ラーディン他のアル・カイダのメンバーがサウジ・アラ
ビア人であったように、これらの国の状況は、心配なものがあります。この背景に
は、石油収入の減少がありますが、そのために、石油の余剰生産能力の維持にも問題
が出ているそうです。アラブ・イスラエルの対立だけが中東の問題ではない、と思い
ます。イラク戦争が米軍の勝利に終わっても、問題解決ではない、と懸念します。石
油の供給先の多様化などの金子先生や品川先生のご提案は、むしろこういう中長期的
な観点からも大事なことと思います。

又、金子先生のメールにあったように、湾岸戦争の経験からも戦争による油田の火災
等での大気、海洋汚染の心配も忘れてはならない問題だ、と思います。

横堀 惠一
(財)産業創造研究所 専務理事
113-0034 東京都文京区湯島1−6−8
電話: 03−5689−6351; FAX: 03−5689−6350


-----Original Message-----
From: 金子 熊夫 [mailto:kkaneko@eagle.ocn.ne.jp]
Sent: Friday, January 24, 2003 11:20 AM
To: Undisclosed-Recipient:;@m-kg202p.ocn.ne.jp
Subject: EEE会議(Re:イラク攻撃問題:日独比較)


各位

昨日、標記題名のメールを差し上げましたところ、早速品川信良先生
(弘前大学名誉教授)より次のような示唆に富むメールをいただきまし
たので、ご参考までに転送いたします。
金子熊夫
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「イラク攻撃問題:日独比較」を、大変興味深く拝読しました。
それに対する「忌憚のない意見」というほどのものではありませんが、
戦中派の一人として、また戦後、かなりしばしば、ドイツに行ったことがあり、
ドイツに多くの友人を持つ者の一人として、2、3コメントをさせて頂きます。
雪国の老人の「独り言」と思ってお読み下さい。

 1.まずは、日独の比較からですが、同じ第二次大戦の敗戦国と言っても、
両国民には、国際問題などに関する「経験」や「勘」のようなものに、
非常に大きな違いがあります。日本は極東の島国。
特に江戸時代は、鎖国までした国です。
明治以降、アジア大陸などに出て行って、こっぴどい目にあい、
「あつものに懲りて膾(なます)を」ふいているようなところのある国です。
日本も第二次大戦末期に空からはかなり酷くやられましたが、
それでもドイツのように、本土で地上戦まで戦ったわけでもなければ、
四つの国に分割占領されたわけでもありません。

  これに対しドイツは、僅かに北のほうだけは海に面していますが、
あとは陸続きで、たえず異民族に接し、もまれ、何度も何度も外国と戦争を
繰り返してきた国です。特に冷戦時代は、東西に分断されてきました。
民族的経験が違います。

  もう一つ日本と大きく違うところは、あの戦争のことや、ヒトラー/ナチスの
時代のことを、学校では子供たちなどに、いわば徹底的に教えてきたことです。
例えば 1995年に多くの大学などでは、敗戦50年を記念して、
ナチス時代に自分たちの大学と大学人がどんなであったかに関する
自己批判をやりました。
日本のどこの大学が、「敗戦50周年記念行事」をやったでしょうか。
また、ドイツで一番広く読まれている週刊誌「シュピーゲル」には、
今でも毎週のように、ヒトラー時代のことや、第二次大戦のことが、
延々と書き続けられています。

これに対し日本では、徳川時代ぐらいまでのことは学校で教えても、
明治以降のこと、特に大正時代以降のことなどは、
ほとんど教えてきませんでした。

 正式にはその差が、いま出てきているのだと思います。
その、戦争を知らないばかりか、教えられもしなかった世代が、
いま国会議員を始めとする国の要職にもおれば、
マスコミなどを支配したりもしているのです。
そこに、何かの歪みや甘さのようなものが無い筈はありません。
歴史教科書問題、靖国神社参拝問題、「神の国」発言問題等々、
そのルーツは皆、この教育の欠陥と、あの敗戦を「終戦」と言い張って、
直視しなかったためなのです。

 2.第二には、アラブ産油国からの石油の輸送ルートの確保に関してですが、
さればこそ、早々とイージス艦はインド洋まで出かけ、国会の皆さんも、
余り反対されなかったのかとばかり私は思っていましたが、
そうではなかったのでしょうか。それにしても、石油もさることながら、
核燃料やその廃棄物を、アラブよりももっと遠いフランスやイギリスと
六ヶ所村などとの間を、よくもこれまで、一度も事故なく運んでいたものと、
天地神明海洋に感謝致します。

 3.実は、この三番目のことが一番申し上げたいことなのです。
「石油の輸入先を多元化せよ」との御意見には、全面的に賛成です。
例のオイルショックのときにも、このことは国会などでも大きな話題になり、
いわば国策になっていた筈ですが、それがその後、余り履行されていませんでした。
善意に解釈すれば、つい先日の小泉総理の訪ロの目的の一つも
そのためだったのでしょうが、この「多元化」の問題は、
一朝一夕には実現できません。

 そこで、次善の策を提案します。それは、石油の国内備蓄量を、
飛躍的に増やすことです。いままでのように、やれ80日分の、
160日分のと言っていないで、国策として、もっと増やすことです。
それも、港や大工場などの近くにだけ備蓄するのではなくて、
全国津々浦々、それこそ全市町村にあまねく備蓄することです。
石油の備蓄に貯金をするのです。預貯金や外貨の問題、
雇用の問題などにも、かなり貢献できるかとも思います。
 
 この際私は、金子熊夫さんのような有力なお方が、
私の意見に賛同して下さることを、このメールの場をお借りして、
切にお願い申し上げます。
 
 勿論それと同時に政府は、もっともっと、国民に対して、広く、
「日本は資源の無い、エネルギー資源の乏しい国だから、
アメリカやアメリカ人の真似をしないで、石油も、電気も、
大いに節約しましょう」と呼びかけるべきものだと思います。
あの敗戦のときのことまでは無理としましても、せめて、
オイルショックのときのことを、もう一度思い出しましょう。

 なお、私の記憶ちがいでなければ、スイスは昔から食料と燃料を
確か5年分、貯蔵している筈です。

長々と、大変失礼しました。反論などを歓迎致します。

弘前市  品川 信良