Subject: EEE会議(Re: 「もんじゅ」判決について)
Date: Fri, 31 Jan 2003 21:52:19 +0900
From: "金子 熊夫" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

「もんじゅ」判決に関して、近藤駿介教授(東京大学大学院)から次のメールをいた
だきました。大変貴重なご意見だと思います。ご参考まで。
金子熊夫

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忙しくてなかなか意見を申しあげる暇がないのですが、ひとこと。

1)行政処分により不利益を被る者は取り消し訴訟や無効確認の訴訟を起こせるわけ
ですが、従来、無効確認というお手軽な訴えは訴えとして認められるには明白性が必
要とされてきました(取り消し訴訟はそうでもないようです。)。しかし裁判の民主
化の流れはこういう行政のプロの世界の常識を裁判官がとるところではなくしている
ようです。今回も、関係者の負けるはずがないという思い上がりに裁判官が市民常識
を発動させたとみるべきでしょう。

2)しかし、本当の問題は、もう10年も前に、行政処分後の新知見をもって不利益を
見出し、取り消しなり無効確認訴訟を提起した場合について、伊方訴訟で最高裁は、
それが行政処分では考えていないことで不利益をもたらす蓋然性があれば、権利保護
の観点からその許可処分を取り消すことができるとしたことです。これはいわば、何
かあったら訴えることで、それを踏まえていない(新知見ですから当たり前ですが)
古い行政処分を取り消す、そういう判示を行なえとルールを作ったのですから、この
判示を受けた瞬間、政府は規制法を変えて、新知見を得た場合には既設置許可処分を
見直す仕組み、例えば、設置許可の後に運転許可をおいてこの間の新知見をふまえて
の運転許可を行なうというようにしなくてはいけなかったのです。それは関係者は皆
知っていたのです。それだからこそ我々は機会あるごとに原子力法改正をとさけんで
きたのです。この点で、この判決はproactiveどころかreactiveにすら動かなくても
よければ動かないですまそうとしてきた原子力界のうけるべき天罰とおもうべきで
しょう。

3)また、今回のもう一つの問題は、一審と違う新知見を争っているのに、それにつ
いて証人を立てての公開審理をおこなっておらず、8回の公判で結審したことです。
これは双方合意で裁判の迅速化手続きを活用したからと理解していますが、新知見に
関する専門家の公開デベートがないまま、書面を通じて、素人の裁判官が心証形成を
行なったことになるわけで、現場の人々からこの国に絶望したといわれても返す言葉
がないでしょう。

わが国の原子力界は本気で構造改革を行なわなければ先がないことだけは確かです。
ご参考まで。

   近藤駿介

----- Original Message -----
From: 金子 熊夫
To: Undisclosed-Recipient:;@m-kg202p.ocn.ne.jp
Sent: Friday, January 31, 2003 7:29 PM
Subject: EEE会議(Re:「もんじゅ」判決について)


各位

「もんじゅ」判決については、技術的な問題点は小生の専門外なので論評の限りで
はありませんが、法律論として問題としなければならない点が、少なくとも1つある
のではないかと考えます。

すなわち、一般に司法裁判所が、行政処分についてこれを無効とできるのは、当該
処分に「重大かつ明白な」違法事由がある場合に限られるというのが通説であるとさ
れています。 「明白な」とは英米法でいう"clear and present (danger)"と同じ概
念で、違法性の有無を判断する基本的要件とされています。

しかるに今回の判決では、「原子炉設置許可処分については、原子炉の潜在的危険
性の重大性をもって足り、明白性の要件は不要と解すべきである」との判断を示して
おり、この点が一番問題だと思います。 確かに原子炉の事故は一旦起これば重大な
結果を齎しますが、だからといって、設置許可処分に明白な違法事由が認められなく
てもこれを無効とすることができると言うことになると、今後原子炉設置に関するあ
らゆる許可処分が訴訟の対象になる惧れがあり、大変なことになりかねません。

その意味で今回の名古屋高裁金沢支部の判決にこそ重大かつ明白なミスがあると思
いますが、この点をクリアにするためにも、最高裁への上告は必要不可欠と考えま
す。 以上は、昔大学や役所で法律をかじった者のとりあえずの所感ですが、皆様は
どうお考えでしょうか?

金子熊夫