Subject: EEE会議(北朝鮮核問題をどう見るか?)
Date: Mon, 10 Feb 2003 07:51:32 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

北朝鮮核問題に関し、吉田康彦氏(大阪経済法科大教授、元NHK,IAEA))か
ら大変貴重なご意見をいただきました。 この問題は、とくに日本の安全保障(日本
核武装論を含む)との関連において、当会議で繰り返し議論してきました(金子=1
月6、8、12、27日、澤田哲生氏=1月10日、豊田正敏氏=1月29日、2月
9日付けメールなど)。 この際、これらメールに、吉田氏の意見も加えて、もう一
度徹底的に議論をしてみたいと思います。反論、異論をどしどしお寄せ下さい。 
金子熊夫
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 10年前、核開発疑惑が浮上した時、私は「北朝鮮の核開発技術はきわめて初期段
階で、核保有には至っていない。アメリカの関心を惹き、体制生き残りの保障を得る
ための駆け引きのカードにすぎない」と一貫して主張しました。この認識は今も変わ
りません。

 ラムズフェルド米国防長官は「核弾頭を1−2個保有しており、近い将来、6−8
個保有するだろう」などと放言していますが、釈迦に説法ですが、核弾頭というもの
はプルトニウムを固めてオマンジュウのようにこねれば製造できるものではありませ
ん。プルトニウム原料の核弾頭製造にはimplosion(爆縮)という高度のハイテク技
術を要するプロセスが不可欠で、核実験なくしては製造は不可能というのが経験則で
す。

 濃縮ウランの場合を含めても、核爆発実験なしに核保有国になった国はありませ
ん。イスラエル、南アフリカも秘密実験をしたとされています。インドの核開発はプ
ルトニウム型国産技術ですが、1974年に「核爆発装置」の実験に成功してから、
98年に一連の地下実験に成功、核保有宣言に至るまで24年の歳月を要していま
す。

 北朝鮮の核開発は1980年代のことで、1987−88年、寧辺地区の5000
キロワット天然ウラン使用・黒鉛減速型実験用原子炉の稼動を停止、その間に使用済
燃料を取り出して再処理、プルトニウムを抽出したらしい、というもので、最大限6
−10キログラムのプルトニウムを保有している可能性がある、という程度とされて
います。衛星写真の解析で、「起爆装置も実験したようだ」という推測も出ています
が、少なくとも核爆発実験はしていません。

 北朝鮮の場合、核開発は100パーセント政治目的で、クリントン政権に対しては
「揺さぶり」が成功。ご存知のとおり、1994年10月、「米朝枠組み合意」とし

結実しました。これは、体制生き残りに賭けた金正日体制にとっては赫々たる外交的
勝利で、交渉をまとめた姜錫柱第一外務次官は、平壌空港で凱旋将軍並みの大歓迎を
受けました。これは空港に居合わせた朝鮮新報の記者から直接聞いた話です。

 北朝鮮が「枠組み合意」を大成果と見なしたのは、軽水炉2基の提供を受けること
になり、KEDOが発足したからではなく、第2条で米側が経済制裁を解除し、国交正常
化に至るプロセスを約束、さらに第3条で「核による威嚇、核の使用をしない」とい
う、いわゆるNSA(消極的安全保障)を北朝鮮に確約しているからです。その意味で、
北朝鮮からすれば、「枠組み合意」を破ったのは、北朝鮮を「悪の枢軸」とみなし、
「核による先制攻撃も辞さず」(ブッシュ・ドクトリン)として政策転換したブッ
シュ
政権にある、ということになります。事実、『労働新聞』や『朝鮮中央通信』をよく
読むと、しきりにブッシュ政権に対し、「枠組み合意」違反の責任を追及しているの
ですが、日本では、破棄したのは北朝鮮で、一方的に北が悪いという情報操作、世論
操作が成功し、北は情報合戦で完全に損をしています。

 ブッシュ政権が強硬で、北朝鮮には強い態度で臨んでいるため、単なる疑惑では動
かない、つまり譲歩しないのが現状です。となると北朝鮮としては何とかして保有ま
で進み、実験して核保有を宣言する、というところまで行かざるを得ないと思ってい
る節があります。誤算、相手の出方の読み違いなどによる「暴発」の可能性もある以
上、もちろんこの事態は避けるべきです。

 現時点で北朝鮮がアメリカに要求しているのは「不可侵条約」締結です。ブッシュ
政権からすれば難しい注文ではありません。日本としては、北朝鮮に核開発計画廃棄
を要求するだけでなく、ブッシュ政権に「不可侵条約くらい結んで、体制を認知して
やれ」と説得すべきです。これで北東アジアの緊張が軽減するならコトは簡単です。
金正日総書記が味をしめて、次々に新しい要求をしてくるなら、その時こそ関係国一
致して封じ込めに転じるべきです。

 北朝鮮が核再開発計画を認め、昨年末以来、凍結施設の封印解除、IAEA査察官追
放、NPT(核拡散防止条約)からの即時脱退・・・・と次々にエスカレートさせて
いったのは、ブッシュ政権がイラクで手一杯の間に要求を通したかったという思惑も
ありますが、ブッシュ政権は既成事実を突きつけないと動かないという判断があった
からと思われます。

 その意味で、時間がかかるにせよ、アメリカが要求を呑まない限り、核開発から核
保有の道を突き進むでしょう。食糧難に苦しむ民衆が気の毒です。北朝鮮が核再開発
の道をまっしぐらという経過になったのは、日朝国交正常化が当面実現しないという
判断に立ち、対米揺さぶりの原点に戻ったことを意味します。

 日本を動かして補償(経済協力)を勝ち取り、経済再建を目論んだものの、日本国
民の関心は拉致一色になり、世論に引きずられて政府は外交の主体性を失った。その
結果、「アメリカさえ動かせば日本は動く」という計算で、外交戦略を建て直したと
いうことです。日朝国交正常化を諦めて、北朝鮮側が日本を見限ったのです。日本側
から現在の膠着状態打開を目指すなら、拉致問題解明を前提とせず、正常化交渉再開
を呼びかけ、「平壌共同宣言」で約束した経済協力交渉に入らねばなりません。「そ
れは日本の世論が許さない」というなら膠着はいつまでも続くでしょう。「そのうち
に金正日体制が崩壊する。それまで待て」というのは甘い希望的観測だと思います。
アメリカ、韓国、中国、ロシア、どこも崩壊を望んでいません。犠牲と被害が大きす
ぎるからです。 (2003年2月10日・吉田康彦)