Subject: EEE会議(Re:原子炉級プルトニウムで核兵器ができるか?」)
Date: Wed, 12 Feb 2003 19:05:16 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位様

標記テーマに関連して、澤田哲生氏(東京工業大学)から豊田正敏氏(元東電副社
長、元日本原燃社長)あてに次のメールをいただきました。 重要な情報だと思いま
すので、皆様のご参考までに。
金子熊夫
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豊田様

ご回答有り難うございました。
1994年のCISACの報告とのことで、おそらく以下の文献が関連しているのではな
いかと思います。
J. Carson Mark, "Explosive Properties of Reactor-Grade Plutonium," Science &
Global Security, 1993, Volume 4, pp. 111-128.
※ J. Carson Markは、Director, Theoretical Division, LANL, 1947-1972.

この論文の意図は、テロリスト集団が原子炉級Puを用いて有意な原爆が製造可能か否
かを論じることにあったようです。もう少しいえば “primitive”Trinity-style
device と原子炉級Puの組み合わせでもキロトンオーダーの威力をもつ原爆(?)が
実現可能であることを理論的に示すことにあったようです。

結論を再現しておきます。
◆ Reactor-grade plutonium with any level of irradiation is potentially
explosive material.
◆ The difficulties of developing an effective design of the most
straightforward type are not appreciably greater with reactor-grade
plutonium than those that have to be met for the use of weapon-grade
plutonium.
◆ The hazard of handling reactor-grade plutonium, though somewhat greater
than those associated with weapon-grade plutonium, are of the same type and
can be met by applying same precautions. This, at least, would be the case
when fabricating only a modest number of devices. For a project requiring an
assembly line type of operation, more provisions for remote handling
procedures for some stages of the work might be required than would be
necessary for handling weapon-grade material or for handling a limited
number of items.
◆ The need for safeguards to protect against the diversion and misuse of
separated plutonium applies essentially to all grades of plutonium.

Carson Markは(R. Rhodesによれば)、カナダ人の理論家で、戦後にトルーマンの指
揮下で、研究所がテラーやウラムなどと水爆開発に邁進した時代に上記のように
LANL, Theoretical DivisionのDirectorだったようです。
上に再現した“結論”は相当に挑発的で、結論先にありきのような印象(特に結論の
第4項目)を強く受けます。もっとも、論文本文のなかでは、そのことを裏付けるた
めに結構細かな論理展開をしております。
しかるべき期間に原爆開発のご本尊の理論部長であった人物が、いわば証拠を論って
導いた形にしている結論なので、反駁するにはなかなかしんどいものがあるように思
います。

以上ご参考までに。

澤田哲生

on 03.2.12 1:22 AM, kkaneko at kkaneko@eagle.ocn.ne.jp wrote:


各位様

原子炉級プルトニウムで核兵器ができるかどうかの問題に関する澤田哲生氏の質問
(2月9日付け)に対し、豊田正敏氏から次のようなメールを頂きました。 とくに
豊田氏のメールの最後の部分(「原子力委員会は直ちに・・・」うんぬん)は極めて
重要なご提言であると思います。

因みに、この問題に関しては、昨年6月福田官房長官と安倍官房副長官による「日
本核武装」発言が問題となった際に、当EEE会議上で6、7月の2ヶ月間にわたっ
て多数の方々(今井隆吉、近藤駿介、藤井靖彦、鈴木達治郎、栗原弘善氏ほか数名の
匿名氏)の間でかなり集中的な議論が行われた経緯があります。当時の関連メールを
保存しておられる方は是非この機会にもう一度それらを再読されるようお勧めしま
す。 ご希望の方には関連メールのいくつかを再送信いたしますので、ご一報を。
金子熊夫

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私のコメントに対して澤田氏より質問がありましたので、次のように回答及びコメ
ントします。

先ず、原子炉級プルトニウムによる核兵器の可能性については、米国のCISAC(米国
科学アカデミー・国際安全保障と軍備管理委員会) 1994 Management and
Disposition of Excess Weapons Plutonium及びOffice of Technology
Management(議会技術評価局)1994に述べられております。例えば、CISACは結論とし
て、「原子炉級プルトニウムを使って簡単な設計で1ないし数キロトン(kt)の爆発力
を、より進歩した設計によればさらに大きな爆発力を得ることが可能である。」と述
べており、「原子炉級プルトニウムは、早期連鎖反応の発生の可能性が大きいが設計
上最悪の時点で早期発生が起きた場合にも長崎型の比較的単純な装置で1ないし数キ
ロトン(kt)程度の爆発力(fizzle yield)になる筈である。より高度の設計技術を適用
すれば、原子炉級プルトニウムでもより高度の破壊力を持つものが生産可能であ
る。」と説明している。

私も米国が原子炉級プルトニウムの規定有意量を8kgとし、IAEAの査察に当たって
六ヶ所工場のMUFの量を出来るだけ小さくするよう要求した際、その後のプルトニウ
ム爆弾の爆縮のメカニズムがどのように進歩しているかを知らなければ納得できない
として問いただしたが、核拡散防止の観点から答えられないとの返事しか得られな
かったが納得せざるを得なかった記憶がある。
私は、米国の説明を必ずしも信用していないが、どの程度設計技術が進歩している
かの証拠をつかまなければ、国内でいくら議論していても問題解決にはならないと考
えます。


私の提案は、月刊誌「エネルギー」2月号に述べているように「米国がどのような
メカニズムでどれほど効率的な核兵器が可能になっているかについて掘り下げた検討
をする必要がある。また、レーザーによるプルトニウム239の選択分離の可能性も考
えられる。これらに対する米国政府のはっきりした回答は期待出来ないであろうか
ら、政府は核兵器専門家や米国のコンサルタント会社に調査を委託して真相を解明す
べきである。その結果、河田(澤田?)氏の指摘のように、将来に亘って核兵器は作
れないことが確認される場合には、原子力委員会は直ちに、米国に対してMOX燃料輸
送の際の護衛の要求を撤回させると共に、米国及びIAEAに対して原子炉級プルトニウ
ムを機微物質から除外するとともに、六ヶ所再処理工場及びMOX燃料工場を保障措置
対象から外すよう要請すべきである。また、日米原子力協定の改訂交渉を開始すべき
である。これらの点について、原子力委員会の見解を聞きたい。」


豊田正敏