Subject: EEE会議(イラク、北朝鮮核問題とIAEA核査察)
Date: Sat, 15 Feb 2003 13:15:19 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>


各位

イラクや北朝鮮の核問題と国際原子力機関(IAEA)の核査察の関係については
色々な見方があります。吉田康彦氏から頂いた次のメールも、この問題を考える上で
参考になると思います。
金子熊夫
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北朝鮮によるIAEA査察官追放、NPT脱退、核開発再開をめぐって、IAEAの「構造上の
欠陥」が指摘されていますが、かつてIAEA広報部長の任にあった者として簡潔にコメ
ントします。

「構造上の欠陥」とおっしゃるのは見当違いです。現在の国連システム(あるいはレ
ジーム)で、「国連安保理」の国連憲章第7章(強制行動)の発動以外に、現下の国際
関係で、超国家的機能を与えられている存在はありません。IAEAに国家主権に優先す
る「強制的査察権」を認めたら、そもそも「政府間国際機関」として発足は認められ
なかったでありましょう。

国際機関に超国家的機能を期待するのは日本人が抱きがちな幻想です。ICJ(国際司法
裁判所)の判決(正確には「勧告的意見」)にも強制力はなく、ICPO(国際刑事警察機
構)にも国境を越えた強制的捜査権は認められていません。その後、化学兵器禁止条
約の「チャレンジ・インスペクション」に国家主権を超えようとする国際社会の努力
の一端がうかがわれますが、これも実際に発動されてはおらず、「絵に描いたもち」
のきらいがあります。グローバル化の時代とはいえ、こと国家安全保障に関する限
り、国家主権がすべてに優先する状況は当面続くでしょう。

IAEA査察官が超国家的権限を付与されていたら、今度はそれこそCIAの恣意的な諜報
活動の舞台になり、米国の一極支配がさらに強まりかねません。現状でもIAEAの査察
活動はすべてワシントンに筒抜け、査察情報は米国がほぼ完全に掌握している事実を
ご存知ですか。そうした現状では、国際社会に警告し、注意を喚起するという意味で
「国連安保理に報告し、適切な措置をとることを要請する」という理事会決議が妥当
なところです。その安保理も、第2次世界大戦の戦勝国が常任理事国として君臨し、
拒否権を有している現実こそ問題ではありませんか。今回も日本は「カヤの外」で、
仏独露が「査察の延長による平和解決」を主張する中で、小泉首相は「国際社会の動
向を見て判断する」と、まことに主体性のない答弁を繰り返しています。

以上、吉田康彦