Subject: EEE会議(Re: 「もんじゅ」の判決について)
Date: Sat, 15 Feb 2003 13:40:56 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

「もんじゅ」判決の問題点について、豊田正敏氏(元東電副社長、元日本原燃社長)
から大変詳しく重要なコメントをお寄せいただきました。ご参考まで。 反論、異論
を歓迎します。
金子熊夫
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「もんじゅ」の判決について多数の方からコメントが出されておりますが、今後の原
子力政策の進め方も含めて
意見を取り纏めてみましたので、会員各位の参考にしていただければ幸甚です。な
お、判決の細部についてのコ
メントは別添ファイルに纏めておりますので参考にされたい。

1. リスクの概念
 近代技術が社会に容認されるかどうかはそれによるメリットとリスクのバランスに
よって決められるべきで
ある。裁判の判断においても、リスクをどの程度に抑えれば、社会的に容認されるか
といった視点で判定され
るようなルールについて話し合うべきである。
 国及び事業者は、リスクという概念を一般国民に十分説明しておくべきであり、リ
スクコミュニケーション
による広報を行い万一のトラブル発生時の現象及び対策について了承を得ておくべき
である。旧動燃のよう
に、「ナトリウム漏れは起こりえない」など都合の悪いことは説明せず、都合の良い
ことだけを説明していたの
では一般国民の信頼を得られないのは当然である。

2. トラブルの対処方法
 判決に述べているように、ナトリウム漏れによる鉄との腐食機構の知見は許可申請
時に当然、実験によって
確かめておくべきであった。振動疲労割れによる漏れは、軽水炉でも何回か経験して
おり、それに伴う対策は
実験を含め検討しておくべきで、これを新知見というのは問題である。
この程度のトラブルに対しては、2~3年で運転再開するよう努めるべきであり、再開
までに10年以上かかって
も当然であるといった態度で、責任者の責任が問われないのは理解出来ない。
船頭多くして責任者の一存で決められないという事情があるにしてもあまりにも長す
ぎる。FBRの実用化まで
にはこの程度のトラブルは何回か起こると考えられるが、その都度このようなことで
は実用化は到底期待出来
ない。今のような核燃料サイクル開発機構の組織、陣容で実用化までの技術開発の実
施スケジュールもなく、
責任者不在で、ただ漫然と進めていたのでは実用化など期待すべくもない。
10年も停止しておれば、この間に今回のような裁判の判決もあり、知事や市町村長も
反対派が当選したり、県
議会の構成も変わったりして難しい局面になることは当然考えておかなければならな
い。従って、トラブルに
よる停止は極力短くするように努めるべきである。

3. 安全審査
 裁判所は安全審査では基本的安全設計の審査のみで、系統、機器の具体的細部設計
は、工事認可によって審査されるという安全審査の仕組みを十分弁えた上で判断すべ
きである。
 新知見に対する安全審査については、申請者が新知見を知った時点に直ちに設置許
可変更申請を行うべきで、
これを行わなかった場合には処罰する規定を採用すべきである。運転開始後といえど
も、新知見が発見されれ
ば、重要なものは、設置許可変更申請により、軽微なものは、工事認可申請により対
処すべきである。このような
仕組みを法的に明確に定めておくことが必要である。近藤教授の言う運転開始時に審
査をやり直すことには賛
成できない。新知見が発見された時点に直ちに設置許可変更を行い、その安全審査の
結果により設計変更を行
うべきであり、運転開始時点まで待って審査するのでは、いたずらに建設期間を長引
かせるだけである。もし、
新知見が発見されているにも拘わらず、変更許可の申請を怠っているが事業者がいれ
ば、その時点に原子力安全
委員会は変更許可申請をするよう行政指導をすればよい。

次に、安全審査に携わる官僚には、少なくとも10年以上の経験を有する専門知識を
持った人材を配置するととも
に、安全審査委員には、直ちに審査に入れる知識と能力があり、かつ片手間でなくか
なりの時間を割くことの出
来る専門家を当てるべきであり、これにより審査期間の短縮を図るべきである。私に
は、審査期間を長くする
ことにより、審査を慎重にやっているというふりをしているだけのように思われる。

4. 高速増殖炉の開発及び核燃料サイクル政策の見直し
今回の判決が出る前から、高速増殖炉の実用化の見通しは不透明であったが、今回の
判決により,不透明度が増
した。即ち上述のように、今のような核燃料サイクル開発機構の組織、陣容で技術開
発の実施スケジュールも
なく、責任者不在で、ただ漫然と進めていたのでは40~50年後といえども実用化の見
通しは暗いといわざるを
得ない。原子力委員会は、10~15年に期限を切って厳正なチック・アンド・レビュー
を行い、中断を含む決断を
行うべきである。

もう一つの問題点は、原子力関係者の安全と一般国民の安心との間には大きなギャッ
プがあることである。今回の判決では、ナトリウムの化学的活性特に蒸気発生器での
破断事故の問題や原子炉の正の温度係数の問題が取り上げられており、またプルサー
マルさえ受け入れられるのが難しいのに対してプルトニウムを大量に含む原子炉であ
ることなどから、実証炉や実用炉の立地は、並大抵の努力では難しいことである。

また、核燃料サイクル政策を見直すべきである。英仏への再処理委託により貯蔵され
ている32トンのプルトニ
ウムは「余分のプルトニウムは持たない」との国際約束を果たすためにも、プルサー
マルにより燃やさざるを得
ない。しかし、プルサーマルが思うように進まず、貯まる一方であり、しかも、高速
増殖炉は40~50年後にも実
用化の見通しが暗く、ウランはむしろ安くなっており、他方再処理費及びMOX燃料加
工費が極めて高くなってき
ているので、プルサーマルの経済性は著しく悪くなってきている。従って、ウランの
価格が高くなり、かつ、高
速増殖炉の実用化の見通しが確実になるか、プルサーマルが経済的になる時点まで、
使用済燃料を発電所敷地内
に長期貯蔵するよう政策変更をすべきである。ただし、原子力委員会が地方自治体に
対して、使用済燃料は敷
地外に持ち出すという約束をしているので、地方自治体の了承を得て、長期貯蔵施設
が完成するまでには10~15
年かかるであろうからその間、増えつづける使用済燃料の量を減らすためには、六ヶ
所で再処理せざるを得な
い。

 しかし、六ヶ所で再処理すれば、プルトニウムがさらに貯まり続けるので、プルト
ニウムを回収しないとの
前提で再処理すべきである。なお敷地内の長期貯蔵については、貯蔵期間を明確に約
束し、期限後には持ち出す
ことを確約すべきである。このためには、期限後にも、高速増殖炉の実用化の見通し
がなく、かつプルサーマ
ルも経済的でない場合に備えて、使用済燃料の直接処分の研究開発も並行的に進める
べきである。

 最後に、原子力関係者に申し上げたいのは、独りよがりで閉鎖的であり、社会的視
点に欠け、一度決めたことは
なかなか変更しょうとせず、問題を先送りする傾向があることである。  
原子力関係者の安全と一般国民の安心との間には大きなギャップがあることを踏ま
え、独りよがりの安全を押
し付けるのではなく、双方向対話によって一般国民の考えを十分理解した上で進める
べきである。実用化に向
けた技術開発に当たっては、経済性を軽視ないし無視することなく進めるべきであ
り、経済性なくして実用化は
あり得ないことを銘記すべきである。また、一度決めた政策は、状況変化により変え
るべきであることが明ら
かである場合にも、政策の継続性などの理由から変えようとしないことである。これ
らの点を改めなければ、原
子力は社会から見放されるであろう。

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp