Subject: EEE会議(Re: IAEAの核査察能力の限界)
Date: Mon, 17 Feb 2003 10:39:02 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

イラクや北朝鮮問題を前にして国際原子力機関(IAEA)は無力である、核査察能
力には限界がある、という意見が世上しばしば聞かれますが、それは必ずしもIAE
Aだけの問題ではなく、現在の国際法や国際社会の構造自体にかかわる問題だという
ご意見です。岡松暁子氏(国立環境研究所、国際法専攻)のメールです。

金子熊夫

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 IAEAの構造上の欠陥というご指摘についてですが、IAEAの決議、決定等に
強制執行力がないのは、IAEAの構造上の問題というよりは、全ての国際組織に
共通の性質であるかと思います。もとより国際法は、締約国を拘束はしても、
それを強制することは原則としてできません。国家主権を超えた強制力が存在すると
いうことは、むしろ非常に危険なことになるように思います。
 最近、専門分野が大きく異なる人たちと一緒に仕事をしていると、多くの人が
国際法に過度の幻想を抱いているということを痛感します。拘束力があるということ
と、
強制力あるいは執行力がある、ということが同じことのように考えられているよう
で、
とりわけ、国連などには、万能の世界政府であるがごときの期待を寄せているように
思います。国連も所詮は多国間条約体制の一つであり、国家主権に踏み込む
権限は持ちえていないということを理解しなければならないと思います。
すなわち、国家は条約の締約国になることで、国際条約上の義務を負いますが、
その義務を履行するかどうかは各締約国の意思に委ねられており、義務違反が
あったとしてもそれを正す強制力は存在しないわけです。
 ただ、国連憲章7章下の軍事制裁は、その中でも強制力を有する唯一の手段です。
IAEAは国連の専門機関ではありませんが、国連との強い連携を有する関連機関です
ので、IAEAが問題を国連マターにすることで、7章下に持っていくことは、手続さえ
踏めば、理論上は可能であるかと思います。どのような国連決議が出されるかという
問題は別ですが。

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岡松 暁子 (おかまつ あきこ)
独立行政法人 国立環境研究所
地球温暖化研究プロジェクト
NIESポスドクフェロー
〒305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
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