Subject: EEE会議(Re: 民間再処理工場と原爆用Pu)
Date: Mon, 17 Feb 2003 19:47:22 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

年初以来繰り返してきた、一連の諸問題(民間再処理工場と原爆用Pu、IAEA査察
問題等々)に関する議論に、新たにもう一人の論客が参加されました。核燃料サイク
ル開発機構の河田東海夫氏(経営企画本部 企画部研究主席)です。賛否両論、とく
に反論、異論をどしどしお寄せください。
金子熊夫
*************************

「商業用再処理工場でも、軽水炉燃料の燃焼度を抑えれば、原爆級Puを作ることがで
きるのではないか?」



一切の現実的制約を考えないのであれば、答えは「Yes」

軽水炉燃料でも、燃焼度を3,000MWD/t以下で取り出せば、それを再処理して回収さ
れるPuは原爆級となろう。



日本が法治国家であることを認めるのであれば、答えは「No」

・ 六ヶ所再処理工場の場合、使用済燃料受け入れプールは、いわゆる「燃焼度ク
レジット」を取り入れた設計をしている。すなわち、プールの臨界安全設計上、燃焼
にともなう核分裂性物質濃度の減少を考慮することにより、集合体間のピッチを狭
め、たくさん収納できるようにしている。このため、「燃焼度モニター」を設置し
て、使用済燃料受け入れに当っては、持ち込まれる燃料の燃焼度を非破壊的に測定
し、ある値以下のものは臨界安全管理上受け入れないようにしている。したがって、
3,000MWD/t以下などという低い燃焼度の燃料は、仮に持ち込まれてもここではじか
れてしまう。

・ 3,000MWD/t程度の低燃焼度軽水炉燃料の再処理で原爆1ケに必要なPu 8kgを
回収する場合、約 5トン(PWR燃料集合体で12体程度)の使用済燃料を必要とす
る。しかし、実際の再処理工場では、主工程が化学的平衡状態の達成を必要とするこ
とや、処理装置のサイズ、途中の貯槽の大きさなど、もろもろの複雑な事情で、その
5トンだけできっちりと再処理し、8kgだけ回収するということは不可能で、おそらく
5トンの数倍、すなわち、20〜30トン(PWR燃料集合体で50〜80体)を処理し
てはじめて欲しいPuが回収できることになろう(六ヶ所工場のスケールを想定)。

・ 保障措置が適用されているなかで、これだけ大量の低燃焼度燃料を、ごまかし
て軽水炉から取り出し、また再処理工場に運ぶことなど到底不可能。

・ また、再処理工場には、枢要な工程には査察官が立ち会っており、例えば、燃
料をせん断する工程では、いちいち集合体番号の確認まで行っている(東海再処理工
場の場合、フル操業時の査察量は700〜800人・日/年)。こういう保障措置体
制の中でIAEAを騙して原爆級Puを作ることは、現実には不可能。



したがって、再処理工場で、原爆級Puを作るとすれば、IAEAに気付かれずに行うので
はなく、NPT脱退を覚悟し、査察官を追い出し、原子力基本法や原子炉等規制法等国
内法令を一切無視するという極めて異常な条件のもとではじめて可能になる。



「日本人はFanaticな民族だから、いつそういう状況に転ずるか安心できない」とい
う人もいるが、これは明らかにためにする議論であって、まともな議論ではない。



エネルギー的にも、食料的にも、産業資源的にも大きく海外に依存している現在の貿
易立国日本は、NPTからの脱退や、NPTへの意図的違反行為などを行えば、直ちに全世
界から経済制裁を受け、たちどころに自滅してしまうのは明らか。



「IAEAの保障措置のもとでも、国家レベルでやるということであれば、原爆数発分程
度はごまかすことは容易ではないか?」



・ IAEAの保障措置は、そもそも国家レベルでの不正転用を防止するため制度であ
り、その制度設計は、いわば国家性悪説をベースにできており、不正転用につながる
「ごまかし」ができそうなところには、必ずそれを防止する対策(監視や査察員の立
会いその他)を講じている。したがって、国家レベルとはいえ、IAEAに気付かれずに
不正転用することは現実的には不可能です。



(以下、上記についてのやや細かい説明)

・ 不正転用は、必要量を隠匿して一回で持ち出すケース(一括転用)と、ごまか
して少しづつため込んで持ち出すケース(少量分割転用)が考えられる。これらの防
止策として、前者には封じ込め及び監視が、後者には計量管理の検認が適用される
が、それ以外に運転キャンペーン中の査察員の常駐(再処理の場合)や重要工程への
立会い、関連する運転記録のチェックなど、様々な手段が講じられており、それらを
総合して不正転用の可能性の有無を多面的にチェックしている。

・ 保障措置のもとでは、それぞれの施設で考えうる不正転用の方法や経路につい
ての事前分析が行われており、持ち出し経路にはIAEAの監視装置が設けられる。これ
ら監視装置は、施設側で勝手に操作したり、改変したりできないように、封印や施錠
がほどこされる(したがって、勝手に「カメラが故障していました」などという状況
を作り出すこともできない)。

・ 一般に、Puを直接扱えるような施設では、出入り口が制限されており、ここを
核物質を隠し持って通過しようとしても、モニターで検知され、出口ゲートが開かな
くなる。

・ 計量管理では実在庫の調査・検認で、行方不明量(MUF)が評価され、これが
有意量(Puの場合8kg)を超えると、不正転用の疑いありと判定され、MUF発生原因
が詳しく調査されることになる。それ以外でも問題がありそうであれば、適宜調査が
行われる。こうした調査では、問題の攻めどころは明らかですので、事実をを隠蔽し
とおすことはまず不可能。したがって、MUFが30〜60kgも野放しに見過ごされる
などということは決してありえません。



IAEAの査察能力の限界などの議論が行われていますが、きちんと申告された施設や核
物質についての

保障措置は、これまできちんと機能してきたと思います。

問題は、未申告の、または隠匿している施設や核物質についてのIAEAの査察能力の限
界であり、その

ことをもって、IAEAの保障措置は信頼できないとするのは筋違いだと思います。



サイクル機構 河田 東海夫

TEL:029-282-1122(代表)
FAX:029-282-4915
E-Mail: kawata@hq.jnc.go.jp
〒319-1184
茨城県那珂郡東海村村松4-49