Subject: EEE会議(IAEA核査察と六ヶ所再処理工場)
Date: Tue, 18 Feb 2003 11:45:09 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位

国際原子力機関(IAEA)による核査察(保障措置)の有効性等に関する
諸氏のご議論に対し、黒井英雄氏(経歴は末尾に)から次のメールを頂
きました。当EEE会議で取り上げるにはやや専門的過ぎる部分もありま
すが、重要な問題点なので、そのままご披露します。
金子熊夫
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古川和男氏の質問に対する豊田正敏様の回答として、以下の文
章を拝見いたしました。六ヶ所再処理工場の保障措置に過去に
携わったものとして、私の意見を述べさせていただきます。

「IAEAの査察は、Puの量的査察であって、その質的査察まで行う
ことは考えられておりません。Puの移動をカメラで常時監視し
ておりますが、カメラがたまたま故障したといういいわけも出
来ますし、量的にもMUF(測定誤差を含む行方不明量)が30〜60kg
であるので、国家レベルでやるということであれば、原爆数発
分程度はごまかすことは容易であると考えます。」


一番気になるのは「MUFが30〜60キロあるので、国家レベ
ルでやることであれば、原爆数発分程度ごまかすことは容易で
ある考えます」というご意見です。
まず、技術論に入る前に、国家レベルでの転用とは、いろいろ
なケースが考えられますが、どのような場合でも、爆弾を製造
するまでには、多数の人間が係ることになると考えます。その
場合、国内法にも違反する行為を複数の人間がかかわって、外
部に漏れないことは、特に核アレルギーが強いといわれている
日本の自由民主主義国家では考えにくいと思います。事実最近
、考え方が多様化してきている日本において、社会正義に基づ
く内部告発の傾向が見られるようになっています。

次に技術的な観点からの意見を述べさせていただきます。

ご承知のように、米、英、独、仏、日、IAEA,EURATOMの
5カ国2国際機関の政府関係者、施設者、保障措置技術開発者
が4年間の議論の結果大型再処理保障措置について技術的
合意を得ております。いわゆるLASCAR合意です。

この合意では、1991年のINNMで大型再処理施設のMUF
はbetter than 0.3%と公表しています。0.3%としますと六ヶ所
再処理工場のMUFは25〜30キロです。
LASCAR報告書の議論は大型再処理工場ではMUFを25
〜30キロ程度は発生すると想定した上で如何に保障措置の信
頼性を担保するかでした。そのために1992年に提出された
報告書では、C/Sやプラントのプロセス・パラメター・モニ
ターなどの手段を計量管理に追加することによって、大型再処
理の保障措置の信頼性を十分担保出来る、ということが5カ国
、2国際機関の結論です。
1997年のIAEAシンポジウムにはBNFL,COGEMA,JNFL
等でSafeguarding of Large Reprocessing Plant and MOX plants
の論文を発表、LASCARの結論を Safegurds in Depth の
考え方で補強しています。

1999年にはIAEAとの保障措置協定の追加Protocolが発
効して、保障措置の手法としては従来の計量管理重点のINF
CIRC−153型から「施設が申告された通り運転されてい
る事」等の検認も必要かつ有効な手段とされ、いわゆる、LA
SCAR報告書で既に述べられているプロセスパラメターモニ
ターなどの質的査察(qualitative)手法が協定上も取り入れ
られるようになりました。

六ヶ所再処理工場では、これらのLASCARの合意に基づき
、計量管理以外に統合封じ込め監視(C/S)及び各タンクの
液位や放射線レベルの常時記録とモニターから「施設が申告さ
れた通り運転されている」事の検証など質的査察が具体的に実
施されます。
また、ご指摘のカメラなども、independent and redundant 設
計思想によって、簡単に壊れないし、Tamper proofとか
authenticationが行われています。したがって、簡単に壊れる
こともないし、壊れたと偽ることは出来ない仕掛けになっています。
更に、加えて連続査察といって、常時査察員がプラントに駐在
して監視しています。

上記の保障措置協定の追加Protocolが発効により、これまでの
核物質を取扱うことを申告していた施設だけではなく、IAE
Aが立入ることを要求する施設に対しては、査察活動(立入、
環境サンプリングの採取など)ができるようになり、未申告核
物質及び未申告活動(平たく申せば、核爆弾を別の場所で製造
する行為)に対するIAEAの査察能力は従来より格段に向上
しています。

従って、MUFが30キロ程度あるからといって、原爆数発分が
容易に誤魔化せる状態では決してありませんので、是非ご理解
を賜りたいと思います。


黒井英雄

元IAEA保障措置局部長。米・英・仏・独・日本とIAEA,EURATOM
参加のLASACAR大型再処理保障措置国際プロジェクト責任者を
務めた。帰国後6年間、日本原燃の保障措置部部長を務め、六ヶ所
の対IAEA交渉、対米交渉に当たって、2年前に退職。