Subject: EEE会議(Re:原子炉級プルトニウムで核兵器ができるか?)
Date: Tue, 18 Feb 2003 21:17:57 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

核拡散は、国家レベル(national)のケースと、テロ集団など、いわゆる
subnationalなケースが考えられます。 IAEAの保障措置は、前者を押さえ込むため
のものであり、後者までは視野に入れていません。 subnationalな不正転用は、サ
ボタージュや盗取などの行為を伴うものであり、これに対する防護は、Physical
Protection (核物質防護)で対応します。 ただし、9.11以降、テロ集団とは
いえ、組織規模や資金能力、武器保有能力などでなかなか侮れないということが明ら
かになったため、これまでのPhysical Protection では不十分なのではという心配
が出ているのも事実です。

Puの民生利用に反対する組織NCI(去年までレーベンソールが所長)のコンサルタン
トで、かつてロスアラモスの理論部長をしていたことがある、いわば反PU利用組織の
ブレーンであるマーク・カールソンは、以下のように述べています。

「原爆というのが、いわゆる兵器としての核爆発装置(ある種の生産ラインである程
度量産し、配備後いつでも使用が可能なようにメインテナンスを行う)を意味するの
であれば、原子炉級Puは魅力がない。 そのためには、ほかの選択肢を採るだろう。
テロリスト組織が、たった1発(または数発)作り、使用することに興味をしぼるの
であれば、原子炉級Puとはいえ魅力がある。」

国家が国防用に持つ兵器には、それなりの性能の信頼性とメインテナンス性が求めら
れるものであり、それは無視し得ない重要要素ですので、国家が核兵器を持とうとす
る場合、原子炉級Puを選択することは現実にはありえないということだと思います。

したがって、原子炉級Puで「原爆」ができないか、という質問は、テロリスト組織に
よるもくろみについて問う場合にのみ意味のある質問だと思います。 テロ国家に近
い北朝鮮でも、兵器として持とうとするのでしょうから、原子炉級Puで原爆を作ると
いう馬鹿な選択はしないでしょう(事実、彼らは黒鉛炉による原爆級Pu生産と濃縮ウ
ラン生産をもくろんで来た)。KEDOで軽水炉を北朝鮮に建設することにした背景に
は、そういう判断も働いているのではないでしょうか?

上述の二つの問題ははっきりとわけて議論すべきですが、民生用Pu利用に反対する人
たちの多くは、これらをあえてごちゃ混ぜにして議論を展開しています。

また、「すべてのPuは weapon usable である」という言い方が広く流布しています
が、ここでいう weapon の意味は、いかなる規模、形態のものも包含した核爆発装置
という意味であり、カールソンが指摘するような実際的な意味での核兵器を意味する
ものではありません。  weapon をそういうファジーな意味で使うという前提では、
原子炉級Puも「理論的には weapon usable 」という言い方は正しいということがで
きます。 ただし、その先、「したがって、いかなるPuも人間社会で使用することが
許されないほどunmanageable だ」と考えるかどうかは、人と立場によって判断が分
かれるところです。

私は、きちんと保障措置を適用するかぎりにおいては manageable, controlable と
考える一人です。

今は、そういう、「正直者が扱う原子炉級Pu」を攻めるより、どのように危険な未申
告活動、隠匿活動をなくすことができるかが大事な緊急課題ですが、いろいろ議論さ
れているとおり、現在のIAEAの役割の中には、それを積極的に取り締まる警察権限ま
では与えられていないのは事実です。 したがって、そういう問題が深刻な事態に至
れば、それは国連の安全保障理事会マターになると理解しています(安保理事会で完
全合意できなく、かつ事態は逼迫していると判断される場合は、「世界の警察」とし
ての米軍の単独の出番になるのかもしれません)。

PS
昨日送付したメモうちの、MUFと有意量のところは、東海工場スケールの議論を入れ
てしまいました。六ヶ所工場では、処理量が大きいため、いくら分析精度をあげて
も、帳簿と実在庫の差であるMUFを8kg以下に抑えるのは無理で、その対応策として、
いわゆるNRTA(近実時間計量管理)を導入することにし、その実現に向け鋭意努力中
であることを述べるべきでした。この点、少し違う表現ですが、専門家の黒井さんの
立派な見解が示されましたので、小生、これ以上の説明は省きます。

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