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From: kkaneko
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Sent: Friday, February 21, 2003 7:53 AM
Subject: EEE会議(Re:IAEA核査察制度の有効性)


各位

イラク、北朝鮮核問題に関連して常に問題になるIAEAの核査察(保障措置)制
度の実態については、どうも一般市民には十分(というより、ほとんど全く)理解さ
れていないような気がします。 当会議でも一流の専門家の方々による白熱した議論
が展開されていますが、この機会にさらに皆様のご理解を深めるため、ある原子力外
交のベテラン(「文化評論家」氏)に同制度の基本的仕組み、政治的背景、限界等々
について、できるだけ分かり易く解説していただきました。これを参考にして、さら
に議論を建設的な方向で一層深化させて行きたいと思います。
金子熊夫

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1.IAEA保障措置の仕組み
 最近は、保障措置についてあまり技術的、あるいはミクロの議論に入っている感
も否めませんので、私見を申し述べます。
 IAEAの保障措置が提案された当初は、そもそも国家主権に介入する査察を受
け入れることが国際常識に反しており、核拡散の検知よりも保障措置を受け入れるこ
とそのものが国家の潔白の証、との意味合いがありました。そうした中で、原子力開
発を円滑に進めたいとの意図の下、日本は大英断をもって査察を受け入れる最初の国
(これには異論もある)となった経緯があります。
 しかし、この当時の保障措置の前提は、国家は核開発を行わず(これは条約でコ
ミットしているので当然といえば当然ですが)、国内の事業者の核転用を監視するも
のです(これは、当時は保障措置がその国に移転された核物質をトレースするという
仕組みだったので、それなり論理的でした)。日本の場合など、ご丁寧に国内査察シ
ステムまであります。もし査察が国家の核転用を監視するのであれば、国家が自らの
核転用を監視するという極めて不条理な話になります。とくにこの時代の保障措置の
欠点は、国家が申告した施設のみを査察対象とするというもので、国家が核開発の意
志を持つ場合関連施設を申告するとはとうてい考えられず、逆に保障措置の受け入れ
を核開発の隠れ蓑に利用するでしょう。イラクや北朝鮮が好例です。
 この欠点は、湾岸戦争以降作成された強化された保障措置(追加議定書)ではか
なり改善されました。具体的には、国家の原子力計画のチェックや、輸出入監視等で
す。その一方で、最も有効とされる無通告査察については、(イラクは例外ですが)
追加議定書上は一定時間の事前通告が必要です。これは施設に査察が入っても、建物
の鍵がなければ立ち入れませんし、内部の図面なども必要という追加議定書作成交渉
の過程における各国の立場に配慮した結果です。イラクの場合についても、無通告査
察が出来ると言っても、IAEAは多くの現地人を雇っていますし、そもそもIAE
A職員も寄り合い所帯ですから、どこから事前の情報が漏れないとも限りません。
 つまり、IAEAの保障措置は核開発の意図を有する国家に対する核拡散防止
に、少なくとも万全の仕組みを提供してはいないと思います。それでも核拡散防止に
現状で最良の仕組みではあるわけです。

2.豊田氏の説へのコメント
 国家が原爆を作る(保有するのとは区別して)ためには、原子炉級Puを選択する
ことはあり得ない? そうでしょうか。米国が懸念しているのは、例えばどこかの国
家が国家を持たない(領土という概念を持たない)テロリスト集団のために、たった
1発の核爆発装置を造り付与することなのです。その方が国家の関与(核爆発装置の
出所)を隠すことが出来ますし、これまでのように核抑止力が「報復による破壊をお
それて先制攻撃をしない」という理論に立つ限りそのような国家は核兵器を持つメ
リットがない一方で、国土を持たないテロリストは報復をおそれず自由に核爆発装置
を使用できるからです。したがって、ある意図(テロリストを利用した米国への報復
等)を持つ国家にとり、原子炉級Puであっても十分戦略的意味を持ちます。

3.河田氏の説へのコメント
 日本は核武装をしないか? 豊田氏の説のように、核武装をしたいと考えている
政治家もいると思いますし、しないと断言できる何の根拠もありません。それよりも
何よりも、金子氏の説にもあるように、ほとんどの国は日本が核武装の意志を持って
いると考えていますし、日本が既に核兵器を持っているなどと誤解している外国人も
少なくありません。核武装をしないと信じている日本人は、井の中の蛙と同じです。

4.それではどうするか
 要はこうした国際的な疑惑にどう応えるかです。結論を先走れば、日本が他の国
と核拡散上で明確に区別できる何かを持っている、例えば24時間オンラインで(停
電等はなくて信頼性が高く)IAEAが監視できるカメラ、計器等々が設置されてい
るという技術的なものでも良いですし、非核三原則が国際約束になる等という法的な
ものでも良いでしょう(もちろん経済性の議論は必要ですが)。
 要は、今のIAEAの保障措置は、(素人の目から見て)疑いのある国にも、ま
たそうでない国にも、一律に同じシステムを適用するところに問題があります。疑わ
しい国とそうでない国を明確に区別できる国際スタンダードを見つける(またはつく
る)ことが、豊田氏の言われる核兵器を持つ意志のない日本への査察を差別的に軽減
する(国際的に説明できる)ことになるのです。このことはまた、IAEAの保障措
置の人材や予算を疑惑国の査察に振り向けることにも繋がります。(因みに、私の記
憶が正しければ、イラクの場合の査察経費は国連監視下で輸出される石油収入の一部
が充当されているので、予算上の問題はなかったかと思います)
 話を戻しますが、私もいくつかこうした日本差別化(保障措置上良い意味で)の
ための提案をしてきました。しかし、日本には現在のIAEAシステムを盲目的に信
奉するグループがあり、実現に至りませんでした。

ハンドルネーム:「文化評論家」