Subject: EEE会議(Re: イラク問題に関する緊急提言)
Date: Fri, 28 Feb 2003 19:20:57 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

先日、「イラク問題について米国の立場と行動を支持する」と題する(財)日本国際
フォーラムの緊急提言をご披露し、その後これに対する吉田康彦、天野牧男両氏のコ
メントを転送しましたところ、再度吉田氏より、次のようなコメントをいただきまし
たので、これに対する小生の簡単なコメント(末尾)と共にご披露いたします。ご参
考まで。
金子熊夫
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2月25日付けの天野牧男氏の疑問と金子熊夫氏の見解について、以下コメントしま
す。

(1)「戦後の日本は日米協調体制を国是としてきた」というのは「きれいごと」
で、実態は「対米追随」で、地球環境問題、核廃絶問題などで若干の路線の違いを打
ち出しているにせよ、こと安全保障の問題では、ほぼ全面的に米国に追従、従属して
いるのが実情です。日本国際フォーラムの緊急提言は「提言」というより、政府の方
針の追認にすぎず、それは国際社会で日本という国が信頼され、その存在感を示すこ
とにはならない、と私は考えます。特に戦争が長期化した場合、イスラム諸国を敵に
回し、日本がテロの標的になりかねない危険な選択です。

(2)「アメリカは本当にイラクに武力行使をしようとしているのでしょうか」とい
う天野氏の疑問は素朴すぎます。ブッシュ政権の目的はフセイン政権打倒とフセイン
追放にあります。そのフセインに亡命などの意思が全くなく、徹底抗戦を叫んでいる
以上、開戦は時間の問題です。私も無辜の市民が殺傷される武力行使は極力、回避す
べきと考えていますが、大量破壊兵器をあくまでも放棄せず、使用した前歴もある
(イラン=イラク戦争ならびに国内のクルド族弾圧で化学兵器を使用)以上、フセイ
ン政権打倒と追放は不可避であると思います。問題は、これを米英など一部の国の意
思で強行するか、国際社会の総意として、つまり国連憲章に定められた安保理決議の
「制裁」として実施するか、ということです。日本政府は早々と(後者が望ましい
が)
前者でもよい、どこまでも米国に附いて行きます、と旗色鮮明にしたわけです。

(3)金子さんご指摘の通り、UNMOVICとIAEAの活動には限界があります。受入国の
協力、つまり大量破壊兵器廃棄に応じる意思がない限り、完全実施は不可能です。多
くの人は「査察」(inspection)と「捜査」(investigation)を混同し、国際機関

過大な期待を抱いています。現在のイラクは安保理決議でがんじがらめにされていま
すが、原則として国家主権が常に優先し、事前通告なしの「特別査察」も受入国政府
があらかじめ同意していないと発動できない仕組みになっています。ちなみブリクス
が金子さんに話したとう南アの例は、彼が在任中あらゆる機会に強調していたこと
で、”We are not a nuclear police.” というのが彼の口癖でした。なおブリクス
は1997年12月に退任しており、金子さん主催の会議に出席したのは退任後でし
た。

(4)北朝鮮に関しては、金正日政権が異様で異常な体制であることは事実ですが、
日本のメディアは、特に拉致問題が顕在化して以来、日本国民の怒りと憎しみを刺激
し、助長させる内容ばかりを意図的、集中的に報道しています。私自身テレビ出演す
るたびに、担当ディレクターが「北朝鮮の醜悪なイメージを強調すればするほど視聴
率を稼げる」と自嘲気味に語っています。現在の体制は金日成・金正日父子を教祖と
する宗教国家、俗に言うカルト国家といってよいでしょう。しかし客観的に見れば、
朝鮮半島には冷戦終結後10年以上経つのに、いまだに冷戦構造が残り、38度線は
いまも休戦ラインで、朝鮮戦争は「休戦状態」にあるに過ぎないという事実を知る必
要があります。北から見れば、3万7000の在韓米軍は北を「敵軍」とする存在
で、これが大きな脅威として映っています。北にとって、韓国は日本以上に米国の属
国で、こと安全保障に関しては当事者能力は全くなく、交渉相手にはならないので
す。金大中前大統領が平壌に来たから「南北首脳会談」が実現しましたが、金正日は
ソウルへは行きません。訪韓して、例えば「南北平和宣言」のようなものを出して
も、ブッシュ政権が”NO”と言ったら紙くずになってしまうのです。そのことを金正
日は熟知しているのです。だから北は核とミサイルにしがみついて、米国だけを交渉
相手とし、ブッシュ政権に対し、体制存続の保証として「米朝不可侵条約」締結を訴
えているのです。

以上、吉田康彦(大阪経済法科大学教授・元IAEA広報部長)

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<吉田氏のコメントに対するコメント>

日本外交が「対米追随」オンリーかどうかは、単に見方の違いと片付けるべき問題で
はないと思うので、この1点に絞ってコメントしますが、小生は、「対米追随」だと
は考えておりません。 表面的には確かにそのように見えるし、国民の多くは、マス
コミの影響もあってそのように見る向きが多いのは事実です。しかし、日本は、戦後
58年間、自らの判断でーー日本自身にとっての利害得失を現実的に計算した上
でーー対米協調を外交の基軸と定め、一貫して日米関係の緊密化を図ってきたので
あって、決して盲目的に米国に追随してきたのではないはずです。 この点は、日本
人は自らの胸に手を当てて冷静に反省し、再認識すべきであり、そのような日本外交
の基本的スタンスにもっと自信を持つべきであると考えます。自国の国益を最重視
し、それを外交の基礎に置くことは当然の理で、恥ずかしいことではありません。 

ただ、かつて外務省に奉職した者として、日頃痛感するのは、外務省は日本外交の原
則、つまり対米協調外交の意義について一般国民に赤裸々に、かつわかり易く説明
し、その納得を得るための努力を十分してこなかったということです(昨今の外務省
にはとてもその余裕はないようですが)。 敗戦後日本人は、常にタテマエやきれい
事で外交を議論してきただけで、ホンネの真剣な議論をして来なかったと言って過言
ではありません。 そういう意味で、日本人は、例えばイギリス人のような「大人の
外交感覚」を身に付ける必要があると思います。いまからでも遅くないから、今回の
イラク危機を奇貨として、徹底的な議論をすべきでしょう。

今回のイラク危機に際し、小生が日本国際フォーラムの一会員としてこの緊急提言に
名を連ねたのも、決して政府の「対米追随」外交を追認したのではなく、むしろ、こ
の期に及んでなお躊躇逡巡しているかのごとき政府や外務省を叱咤激励したものであ
ります。 さらに小生自身は、同緊急提言で明示した理由のほかに、日本はエネル
ギー安全保障上も米国の立場を支持する必要があると考えております(中東石油への
依存度が90%にも達する日本の生命線であるタンカールートの安全は、最終的には
米軍に頼らざるを得ないという一事からみても明らか)。 ただし、この点について
は、これまでの小生の論文や発言等からも十分ご理解いただいていると思いますの
で、ここではこれ以上敷衍しません。

以上が最も重要な点で、残余の問題点については、とくに反論するまでもなかろうと
思います。

金子熊夫