Subject: EEE会議(原子力開発の進め方)
Date: Sat, 1 Mar 2003 00:05:27 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

日本の原子力開発の今後の進め方や原子力の競争力の問題等に関し、先日林勉氏(エ
ネルギー問題に発言する会)や「匿名希望」氏から重要な問題提起が行われましたと
ころ、これに対し、再び豊田正敏氏から次のような傾聴すべきコメントをいただきま
した。ご参考まで。この際他の方々からも積極的なご発言を期待します。
金子熊夫
****************************************************

豊田正敏
林氏及び匿名氏より、原子力価格低減や今後の進めかたについて意見を求められてい
るようなので次のような見解を述べたい。

本論に入る前に、林氏のメディアに対する要望であるが、朝日の解説は中立公正なマ
スメディアの立場としては、極めて妥当な解説であり、一方に偏った記事を要望する
方が無理である。また、匿名氏の国に原子力価格の引き下げを求めるのは、原子力委
員会が、政策の継続性に固執して問題を先送りし、また決められた政策を計画どおり
進める指導力も実行力もない現状では多くを期待出来ない。

上述の2氏のような他力本願の態度では、厳しくなって来ている現状を打開すること
は不可能である。原子力産業界は、自らこの難局を切り開く気概と意欲を持って取り
組まなければ原子力に明日はないであろう。現状を打開するための原子力開発の進め
方については、近く、月刊誌「エネルギー」で詳述したいと考えているが、以下にそ
の一端を述べることとする。

@ 原子力の役割
原子力発電は、安定な電力を安定的に供給出来る電源として、コンバインド・サイク
ル火力とともに、電力供給の主軸に位置づけられるべきである。また、CO2を排出し
ないので、地球温暖化の解決策としても有効であり、国家として、その位置づけを明
確にし、推進を図るべきである。

然しながら、このような考えを一般国民に納得して貰うためには、その前に経済性の
確保と一般国民及び地域住民の信頼を得ることが肝要である。いくら必要性を主張し
て見ても、経済性がなくまた信頼が得られなければ、受け入れられないことを銘記す
べきである。

A 原子力の信頼
原子力発電の技術的な信頼性は確保されていると考える。然しながら、原子力関係者
は独りよがりで、閉鎖的であり、社会的視点に欠けている傾向があり、一般国民特
に、地域住民との双方向対話により、その考えを十分聞き、如何にして安心して貰う
かといった配慮に欠けている。その上、トラブル隠し、データの改ざんなどが相継ぐ
ことにより、信頼は全く失われているといわざるを得ない。関係者一人一人が企業の
社会的責任を自覚し、企業倫理の徹底を期し、意識改革をすること以外に信頼回復の
道はない。また、情報公開に努め、双方向対話により地域住民の考えを十分聞き、安
心して貰えるように努め、トラブルの起こる前に、リスク・コミュニケーションを行
うことが極めて重要である。

高レベル廃棄物処分の見通しの不透明さ及び再処理・プルサーマルが割高になってき
ており、かつプルサーマルが思うように進まないことも、原子力の信頼を失わせてい
る要因の一つである。

また、いくら放射能が低くても人体に影響があるとの考えが、一般国民の間に根強く
あることが原子力を進める上で大きな障害となっている。国は、国際協力により、低
線量の人体に対する影響を解明し、その結論に基づき、ICRPの考えを変えさせるとと
もに、一般国民に明確な説明をして正しい知識を持たせるように努めるべきである。

B 経済性
 私の経験からは、安全性及び経済性を確保しつつ、経済性の向上を図ることは可能
であると考えている。
 先ず、原子力発電所の建設費は、人件費が高く、耐震設計などのための経費増があ
る上に、二次系のポンプやバルブなど安全上重要でない機器についても官庁検査が厳
しく、火力発電所の機器に比べて3倍になっていることなどのため、国際価格に比し
て割高である。A-BWRでは、内部循環ポンプ、格納容器と原子炉建屋の一体化などに
より、建設費を2割削減出来たが、なお、国際価格に比してかなり割高である。今
後、設計の合理化による建設費の低減、定期点検期間の短縮による設備利用率の低減
による経済性の向上に努めることは勿論必要であるが、建設される原子炉基数が少な
くなっていることもあり、国際価格に近づけることは容易ではない。

 抜本的改善策としては、国内にある原子炉メーカー3社を他の重電機器も含めて一
社に統合し、国際競争力を持たせることにより、海外の原子炉プラントも受注するこ
とによって受注する原子炉の数を多くしてコストダウンを図ることが必要と考える。
また、機器、装置の発注に当たっては、海外も含めて国際競争入札により、価格の低
減に努めるべきである。この際、我が国の安全基準を国際並に近づけるとともに、海
外のメーカーに対する官庁検査の立会いを海外の検査機関に代行させることも考慮す
べきである。また、これらの輸入される機器、装置の関税を撤廃すべきである。

 次に、原子燃料サイクル施設については、濃縮、再処理、燃料成型加工何れも国際
価格の約3倍であリ、極めて割高である。その上、プルサーマルを行うことにより、
さらに経済的負担増が求められている。その原因が何処にあり、どのようにして国際
価格に近づけるべきかについては、月刊誌「エネルギー」で詳述する予定であるの
で、関心のある方は参照願いたい。

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp