Subject: EEE会議(Re:イラク、北朝鮮問題に対する緊急提言)
Date: Mon, 3 Mar 2003 23:32:44 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

イラク、北朝鮮問題に関する吉田康彦氏のコメント(2月28日)に対して、天野牧
男氏から次のコメントをいただきました。ご参考まで。
金子熊夫
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 私の2件の疑問に対して、吉田氏からコメントがいただけるとは思いませんでし
た。実は、昨年吉田氏が電気新聞(平成14年6月25日付け)の「時評」欄に発表さ
れた「原発推進はエネ安保のためか」と題する論文に対し、「エネルギー問題に発
言する会」の会員益田恭尚氏から意見がEEE会議で出されましたし、また追っかけ
てお出しした、私のコメントに対しても何の返事もありませんでした。このことがそ

考えた理由です。 ところで今回はコメントをいただきましたが、それについて少し
申し上げたい事があります。

1. イラクの問題についての私の疑問が『素朴すぎる』との事ですが、素朴でも何
でも結構です。しかしアメリカの大統領や政府高官が大きな声で、「イラクに攻め込
む、もうイラクに残された時間はない」と言うのを聞くと、そうだ開戦は時間の問題
だと納得してしまうのと、次のように考えるのとどちらが素朴なのでしょうか?実際
にイラクに対して戦いを始めた場合、生じるマイナスの要因があまりにも大きい。そ
れは単に戦いによって生じる直接のダメッジだけでなく、その後のイラクの再建も簡
単なものではないし、イスラム社会との断絶の拡大、世界の精神的な荒廃にも繋がる
問題でもある。米国の国内問題もある。ブッシュ政権を形成している人たちが、この
ことを考えることもなく、計算もしないで行動するほどお粗末なものではないのでは
ないか。更にここで巧みに戦争をしないで、フセインの力をそぐことが出来れば、次
期大統領選挙にも有利に働く筈ではないか。戦争によらないで、フセインを無力にす
る方法を考えているのではないか、だからこそ軍隊を集結し、デモンストレートし、
戦争が始まるぞ、始まるぞと声を高くしているのではないか、という疑問を持つこと
です。

2. 吉田氏の、最近の北朝鮮に対する厳しい世論の中でも、変らない態度には敬意
を表します。しかし吉田氏の北朝鮮を庇う態度が,かへって北朝鮮、いや北朝鮮の
人々にとって悲劇を長いものにし、深いものにするのではないかと、そして東北アジ
アの政情を不安定なものにするものでないかと私は考えています。
 
 昨年の9月13日にEEE会議にお出しになった「小泉訪朝と拉致問題」で、拉致
で確証のあるのは2件だけだといっておられました。氏は北朝鮮とは10年ほど拘
わったりして、この問題には詳しいのだという前言があってからのお話でした。これ
が全くの誤りであることはその数日後の小泉首相の訪朝があってハッキリしました。
それも北朝鮮の一番のトップが自分で、拉致があったことを認め謝罪したのです。今
まで拉致はないと言い切っていた、朝鮮総連や社民党も謝罪しました。彼らも梯子を
はずされてしまったわけです。勿論謝ったからすべて解決するわけではありません
が、この方たちはまだいいと思います。吉田氏はその同じご発表の中で「横田めぐみ
さん救出運動」などの本質は、反北朝鮮、反金正日を標榜する体制打倒運動なので
す。拉致拉致と騒ぎ立てるのは、このためだとして、その運動を扇動しているという
新聞、雑誌、人名が出ていました。ここまで踏み込んで発言されている吉田氏は、拉
致が事実であると分った時、社民党や朝鮮総連よりもはるかに深く謝罪し、態度をお
変えになるべきなのに、あまりなさっているように見えません。
 
 日朝の赤十字会談などで、拉致という言葉が日本側から出ると、あるいは出そうに
なると、北朝鮮側は席を立って出て行ったり、この事を議題とするなら会議をするこ
とは出来ないと言われたと報道されていました。吉田氏は拉致はないと言っておられ
たのですから、拉致と聞くとさっと席を立つというのを見て、やっぱり拉致はなかっ
たのだとご判断なさったわけですね。私は怒ったような態度で席を立ったという事を
聞いて、やっぱり拉致は本当にあったのだなと思いました。

 2月10日のご投稿では、「ラムズフェルト長官は、北朝鮮が核弾頭を1−2個保
有しており、近い将来6−8個保有するだろうと放言していますが」とありました。
こういた発言が日本語で「放言」というものか、相当に疑問です。その後吉田氏はそ
う簡単にプルトニウムから核爆弾が出来ないとか、核実験をしなければ、プルトニウ
ムの核爆発は出来ないなどと言っておられますが、プルトニウムを抽出し、爆弾を作
ろうとすること自身問題です。既に日本をカバーするだけのミサイルは保有している
わけですし、おかしげな爆弾でもプルトニウムを装備したものが、日本のどこに落と
されても大変でしょう。効力の高いものが出来るかどうかは別としても、脅かしの材
料になることは間違いありません。 

 いままでの北朝鮮の手法は、いたずらをして、駄目だと言われると、やめるからお
菓子頂戴という、まさに駄々っ子ですが、このやり方を促進するような現状を黙って
見ているのでしょうか。そのうちにお菓子頂戴から、包丁投げるよとなる恐れが出て
きます。
 
 少し話が飛びますが、何故北朝鮮がこんな国になってしまったかという一つの原因
は,かっての共産ソ連にあるように思います。当時のソ連は衛星国に色々な援助をす
ることで、隷属関係を作るとともに、産業などもその国だけでは成り立ちにくいよう
な配慮をしていました。その国だけでは完成品が出来ないようにしていたように思わ
れます。このためソ連に対する依存度を更に高め、ソ連なしではやっていけないよう
にしていました。巧みな衛星国管理です。人間誰でもそうですが、依存して生きてき
た人が、その習性から抜け出ることが容易ではありません。一度援助が打ち切られる
と、よっぽど自意識がしっかりしていないと、そこから立ち上がるのは大変です。今
の北朝鮮にはその現象が多分に出ているようです。
 
 北朝鮮の陸地面積は韓国より広いのですが、耕地面積は少し狭いようです。しかし
人口は半分より少し少ないぐらいですから、一人当たりの耕地面積は倍近くありま
す。勿論気象条件が厳しいことは明らかですが、もっと寒冷の地にも人は住んでいま
す。対策は十分あるはずです。それなのにこの国の国民が飢餓に苦しむようになって
いるのです。独裁主義と共産主義的な経済体制、それにソ連の依存体制への馴化にあ
ります。それと勿論今の政権の国家運営にあります。朝鮮民族の個人の能力が劣った
ものでは決してないことは、いろいろな例から見ても証明されています。優れた民族
であるのに、こういった悲惨な状態にあるということは、政治の形態に問題があると
しか言えません。

 更に吉田氏は2月10日のメールで、『時間が掛かるにせよ、アメリカが要求を呑
まない限り、核開発から核保有の道をまっしぐらに突き進むでしょう。食糧難に苦し
む民衆が気の毒です。』と言っておられます。民衆が気の毒だと気が付かれたのは非
常に結構ですが、民衆を気の毒にしたのは誰なのでしょうか?本当に北朝鮮の一般の
人たちが気の毒だと思われるならば、北朝鮮と何らかのつながりをお持ちの方たち
は、世界が今どうなっているか、同じ民族の隣り合った国がそういう生活をしている
かの情報をもっと伝える努力をするべきではないかと考えます。そういったことを理
解し、今のような敵対政策をすべて捨てて、自立の努力を始めれば、各国も心からの
協力をするでしょう。吉田氏はアメリカ、韓国、中国、ロシアどこも金正日政権の崩
壊を望んでいませんと断定されていましたが、その根拠はどこにあるのでしょうか?

 また吉田氏は金正日政権が異様で異常な体制であることを認めながら、どうしよう
というのでしょうか。なるべく刺激しなしでそのままそっとしておけというように見
受けられます。しかし今の体制が一日でも長く続くほど、多くの北朝鮮の人達は劣悪
で、希望のない生活から逃れられない苦しみが長引くのです。苦しんでいるのだから
国際的な援助を大々的にやるべきだと言われるのでしょうか。

食料不足と言うと必ず出て来る言葉が、寒冷な気候が続き、洪水があったからだで
す。そしてそれだけでその後の話が何にもありません。ジャーナリストもその後を何
故報道しないのでしょうか。時々寒気が襲って収穫に大きな被害をもたらすのは、北
朝鮮だけでなく、また昨日今日の話ではありません。わが国でも徳川時代以来、多く
の悲劇がありました。しかし今その問題は相当に克服されています。農業技術の進歩
と農業を行う人たちの努力の集積によってです。洪水では、拉致された方のお墓が流
されたという報告も聞きました。私は北朝鮮の実情を見ていませんが、これは天災で
はなくまさに人災だと思います。河には治水がいるのです。中国の昔から政治は水を
治めることでした。この数十年北朝鮮での治水工事がどの程度なされたのか知らない
ので、これ以上話が出来ませんが、国を治める基本がどうも抜けているのではないか
という疑問を払拭する事が出来ません。そういった最も根幹になることを忘れて、テ
ポドンやプルトニウム爆弾を作る事などに資金や人力をかけているのであれば、北朝
鮮に長くコンタクトし、その情報に詳しい吉田教授なのですから、適切なアドバイス
を是非なさるべきではないかと思います。国際的な援助というのは、一時的な事件や
災害などで、その国ではどうにもならない時にするものです。そういう時はそれに
よって助かることも多いでしょう。しかし北朝鮮のように慢性的な飢餓に援助を続け
ることは、その国を本当に駄目なものにしてしまいます。自分の足で立たなければ、
その民族の将来はありません。
 最近の情報を見ると、話はもっときな臭い方向に動いているようです。しかしそう
であってもこの基本を主張することは大切だと思います。
  まだ申し上げたいことはいくらでもありますが、お分かりいただけたと思います
ので、これぐらいにしておくことと致します。                 
                                      
  天野牧男