Subject: EEE会議(Re: 北朝鮮問題:吉田氏の反論)
Date: Wed, 5 Mar 2003 00:08:14 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

天野牧男様、みなさま

北朝鮮問題に限って以下の通りお答えします。行きがかり上やや長くなりますが、あ
しからず。

(1)「吉田氏の北朝鮮を庇う態度が、かえって北朝鮮の人びとの悲劇を長いもの、
深いものにするのではないか。東北アジアの政情を不安定なものにするのではない
か」とは、的外れな指摘です。そもそも「庇う」というような主観的な感想は謹んで
いただきたい。「庇って」などいません。好きでもありません。われわれは否応なし
に金正日体制と向き合い、付き合わざるを得ないのだということです。

(2)まず拉致問題。「(日本政府認定の)拉致疑惑のうち確証のあるのは2件だ
け」というのは、あの時点では事実です。あとは状況証拠、亡命工作員の証言、裏づ
けのない伝聞の蓄積でした。だから「北朝鮮の犯行とは断定できない」と私は主張し
たのであって、拉致そのものを否定したわけではありません。「この問題(拉致問題
とはいっていません。北朝鮮の政府指導部の考え方、政策のことです)に詳しいのだ
という前言があっての話だったにもかかわらず、これが全くの誤りだったことが小泉
訪朝で判明した」と言われるが、「これが全くの誤りだった」の「これ」とは何です
か。

(3)私は拉致そのものを否定したことは一度もありません。「拉致はあった」と
思っていました。ただし「拉致解明を前提にする限り、北朝鮮側は全面否定し続ける
であろうから、前提にせず、(日本の植民地支配の)「過去の清算」(謝罪と補償)
に応じるべきであると主張していたのです。外務省も同じ方針でした。例えば『週刊
金曜日』2002年8月30日号の論文「過去の清算なくして拉致解明なし」で、こ
の点を強調しています。結果はその通りになりました。日本(小泉首相)が謝罪し、
経済協力に応じたから金正日も拉致を認め、謝罪したのです。ブッシュ政権が相手に
してくれないので、日本を動かし、日本からカネ(経済協力)を引き出そうとしたの
です。

(4)私が最後まで懐疑的で、論文、インタビュー、シンポジウムなどで否定してい
たのは「横田めぐみ失踪」だけです。13才の少女を拉致する目的が理解できません
でした。しかし安明進という亡命工作員の証言が次第に具体的になり、最後は半信半
疑でした。否定していたのは、発覚した1997年2年から半年くらいの間で、あと
は「北の犯行とは断定できない」部類に入れていました。しかし当時の発言が活字と
して残っているため、「お前は拉致を否定していたではないか」とテレビ討論番組
(「朝まで生テレビ」その他)で糾弾されました。そこで私は、テレビ番組(テレビ
朝日「サンデープロジェクト」)で同席した横田滋氏に「不明の至りだった」と謝
罪、そのあと田原総一朗司会の討論コーナーで視聴者にも謝罪しました。2002年
11月24日です。私のホームページにもそのことを記載してあります。最後まで
「拉致はでっち上げ」と反論していた朝鮮総連などと十羽一からげにはしないでいた
だきたい。

(5)その後、鬼の首をとったように勢いづいているのが「現代コリア」グループで
あり、彼らが組織化している「救う会(全国協議会)」「拉致議連」などですが、こ
のグループは金正日体制打倒運動を展開している政治団体です。彼らに同調している
のが安倍晋三官房副長官で、その後の小泉内閣は拉致の全容解明を国交正常化の前提
としているため、日朝関係は完全にこう着状態に陥りました。それなら小泉訪朝、平
壌共同宣言は何だったのかというのが私の疑問です。「拉致解明を前提にせず、国交
正常化交渉を再開せよ」と、私はその後も主張し続けています。その後、核開発再開
で拉致問題は完全に吹っ飛んでしまい、日本政府は現在打つ手なし、ご存知のとお
り、家族が訪米してブッシュ政権に仲介を依頼しているのが現状です。

(5)天野さんは「拉致を否定していた吉田」しかご存じないようですが、私は北朝
鮮が大水害に見舞われた直後の1995年、被災地を訪問、現地視察をした最初の日
本人民間人です。当時「朝鮮の子どもにタマゴとバナナを送る会」代表として被災地
を慰問、その後、みずから「北朝鮮人道支援の会」を結成して、定期的に食糧・医薬
品を現地に届けています。詳しくは私のホームページ(http://www.yy2448.com/) を
ご覧下さい。「脱北者だけを助けても問題解決にはならない。国内の民衆を救わねば
ならない」という信念で、過去7年間、人道支援を続けています。「民衆が気の毒だ
と気がつかれたの非常に結構だ」などと批判される前に、きちんと調べてから反論し
ていただきたい。ちなみに、国連が呼びかけている人道支援には、緊急食糧・医療支
援とインフラ復興建設のための開発援助があり、現在、平壌には国連機関10機関が
常駐、人員にして約50人が援助活動に従事しています。

(6)金正日体制に問題があることは事実ですが、打倒しようと思って簡単にできる
ものではない。内政不干渉、主権平等を原則とする現存の国際関係で他国の政府を転
覆することは認められていません。北朝鮮の民衆の蜂起を促すことは可能だし、脱北
者救援活動を通してそこに誘導しようと試みている日欧韓のNGOは存在しますが、何
よりも同族の韓国民の大多数はそれを望んでいません。「米、韓、中、ロ、どこも金
正日政権崩壊を望んでいない根拠を示せ」とおっしゃるが、ご自分で調べて予備知識
を備えてから批判、反論していただきたい。盧武鉉新大統領の就任式の演説をお聞き
になりましたか、新聞でお読みになりましたか。金正日と辛抱強く対話して朝鮮半島
の平和と繁栄を築きたいと強調しているではありませんか。在韓米軍3万6000も
38度線沿いに駐留し、いわば人質になっています。ブッシュ大統領自身「北とは外
交的に、話し合いで解決する」と繰り返しているではありませんか。中国も黙々と啓
税援助を続け、国連安保理での(武力行使はもとより)経済制裁にも反対を表明して
います。ロシアは必死に核問題解決のための仲介工作を展開しています。プーチン大
統領は金正日が最も信頼する外国首脳をいわれています。周辺諸国はみな現状維持志
向です。結論は明白です。内部改革、いわゆるソフトランディング以外にないので
す。

(7)核問題については次回に譲りましょう。ラムズフェルト発言は「放言」です。
危機を演出し、誇大宣伝して、イラク問題で(国連安保理決議がなく、単独行動とい
うことになっても)日本の支持をとりつけようとしているのです。そのために危機を
煽っているのです。ワシントンでは「北はまだ核保有していない。プルトニウム抽出
から核実験、核保有に至るまでは2、3年かかる。それまでは放っておいてもいい。
イラクが片付いてから本格的に取り組もう」というのが本音のようです。私はプルト
ニウム抽出・生産イコール核弾頭所持ではない点を強調したかったのです。「だから
よい」とは一言もいっていません。「脅威におびえず、踊らされず、日本自身の安全
と北東アジアの平和のために、一度はレールを敷いた日朝国交正常化と取り組み、核
問題の解決にも努力しよう」と訴えているのです。とりあえずこの位にしておきま
す。以上。

2003年3月4日  吉田康彦