Subject: EEE会議(「もんじゅ」判決: 秋元勇巳氏の意見)
Date: Wed, 5 Mar 2003 00:40:21 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

1月末の名古屋高裁金沢支部の「もんじゅ」判決に関する秋元勇巳氏(三菱マテリア
ル会長、日本原子力文化振興財団理事長)のご意見をご紹介します。 これは月刊
「エネルギーフォーラム」の依頼で書いた原稿である由で、同誌はまだ刊行されてお
りませんが、その内容の重要性と緊急性に鑑み敢えて小生独自の判断で、EEE会議の
一部の方々の高覧に供させていただくこととした次第です。右お含みおき下さい。引
き続き本件に関し皆様からのご意見やコメントを歓迎します。(匿名OKです)
金子熊夫
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「特集:もんじゅ判決! 私はこう見る」への寄稿

    三菱マテリアル(株)  秋元 勇巳

 (1).絶対安全をふりかざし、文明社会を支える原子力発電を窒息死に追い込も
うとする反原子力運動の自家撞着論が、マスコミばかりか裁判所の一角にまで浸透し
始めた。新聞報道で見る限り、敗れた行政側も「今回の判決はもんじゅに固有の技術
課題を問題としたもの」など、視野狭窄から抜け出せず、敗訴の一因をここにも見る
思いがする。

 今回の判決は、安全工学の基本もわきまえない理不尽なものであるが、原子力界
は、この敗訴を原子力推進体制の綻びへの警鐘と受け止め、いまこそ、永らく原子力
界を蝕んできた戦略喪失・行動先送り症候群からの脱却に、全力をあげるべきではな
かろうか。

(2)(3).「司法が行政処分を無効とできるのは、重大かつ明白な違法性が認め
られる場合に限る」との最高裁判例を、「もんじゅ判決」は正面から覆し、明白性の
要件は不要と断じた。安全実績で他のエネルギー源を凌ぐ原子力を、このように差別
的に扱う論拠としては、「原子炉の潜在的危険性の重大性」という曖昧な理由が示さ
れているだけである。

 明白性の要件が不要となれば、安全審査の合理性を徹底審理することなく、心証と
形式的法律論のみで、安易に違法と認定する途が開ける。このようなハードルの恣意
的な押し下げが認められれば、あらゆる原子炉設置許可に対し乱訴が起こり、司法の
混乱、原子力安全行政の麻痺をもたらす可能性が高まろう。土俵を勝手に移し変える
ような判例逸脱には、最高裁の厳正な判断が下されるよう期待する。

 判決文は、明白性を不要とするほどに重大な原子炉の危険性に「炉心崩壊」を擬し
たうえで、争点の「ナトリウム漏洩」「高温ラプチュア」を強引に「炉心崩壊」と結
びつけ、更にその影響を過大に見積もるなどの筋立てで、明白性不要論を正当化しよ
うとしている。しかし判決が想定する事故拡大シナリオは、多重防護をはじめとする
安全工学の基本的枠組みを否定し、技術的根拠もなく事象の発生、展開をつなぎ合わ
せるなど、著しく妥当性を欠いている。

 さらに、このような高度の技術的判断に立ち入りながら、一回も専門家を立てての
公開審理を行わず結審した訴訟指揮は、問題と云わざるを得ない。行政側がこのよう
な審理展開となることを知りながら、十分に説明責任を果たせない「進行協議」に同
意したのであれば、その判断にも疑問の残るところである。

 また判決では、もんじゅの事故で判明した「ナトリウム酸化物による床ライナーの
腐食」を、安全審査が考慮の対象としていなかったことを理由に、安全許可全体を無
効としているが、納得できない。燃料を満載したジャンボジェットがテロの凶器とな
ることが判ったからといって、それを考慮していなかったジャンボジェットの基本設
計や安全許可までが無効となるであろうか。絶えず新知見を踏まえ、改良を重ねる事
で進歩するのが技術であるとの基本認識が、この判決には欠落している。

 どんな技術にも絶対安全はあり得ない。そして原子力技術は、マスコミを揺るがす
数々の「大事件」にも関わらず、どのような文明手段にもまして高い安全実績を維持
し続けている。上告に当たっては、高速炉の開発を頂点に据えた核燃料サイクルの推
進こそが、安全でクリーンなエネルギーの安定供給を可能にし、21世紀文明の持続
的発展を保証する途であることを、説得性をもって主張してほしい。       
  (2003年3月)