Subject: EEE会議(北朝鮮・寧辺の再処理施設について)
Date: Mon, 10 Mar 2003 00:35:33 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

北朝鮮の寧辺(ヨンビョン)にある核燃料再処理施設に関し、核燃料サイクル開発機
構の河田東海夫氏(経営企画本部 企画部研究主席)から、次のような貴重なメール
をいただきました。ご参考まで。
金子熊夫
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(1)TBPの購入
Global Security.org のウェブサイトにある Yongbyon [Nyongbyon] という記事(注
1)に、「2002年12月はじめに、北朝鮮は大連にある中国の会社から20トン
の燐酸トリブチル(tributyl phosphate: TBP)を受け取った」とありますが、これ
は大変重要な情報です。この試薬は、まさにピュレックス法再処理でウランやプルト
ニウムを抽出するために使用する溶媒です。この溶媒は,
ウランの精製にも使い、また希土類とよばれるほかの鉱物の回収にも使えますが、北
朝鮮が、希土類の産出国とも聞いていません。
仮に、実験室規模でウランやプルトニウムの分離研究を行うのであれば、kgオー
ダー購入すれば十分です。
東海再処理工場は、抽出装置が旧式で工程内にたくさん溶媒を必要としますが、それ
でもTBPにして工程全体で数トンだと思います。
北朝鮮がこの時期、20トンのTBPを再処理のために購入したのであれば、量的には
中途半端ではなく、本気だという気がします。
(注1)http://www.globalsecurity.org/wmd/world/dprk/yongbyon.htm

(2)Yongbyon施設の大きさ:
Center for Nonproliferation Studies (CNS) のウェブサイトにある情報(注2)に
よれば、Yongbyonの再処理プラントは、ピュレックス法を採用しており、その長さは
600フィートとあります。これと上述Global Security.org のサイトでみられる
Yongbyon再処理プラント周辺の衛星写真(2003.1.15及び2003.1.28)を見ると、もっ
とも中心と思われる建物の大きさは、
    長さ約180m×幅約18m×高さ20〜30m(影からの推測)
となります。
ところで、米国ハンフォードの Purex Plant (1956年1月稼動開始、1990
年運転停止。設計処理能力8トン/日、実際は16トン/日以上の能力発揮)の建物
の大きさは、
    長さ約306m×幅約19m×地上高さ20m(地下約12m)
です。
Yongbyon再処理プラントの主建屋は、幅、高さともハンフォードの Purex Plant 並
みで、長さのみが短く、約6割の長さです。
そのほか、まわりにいろいろな建屋がありますので、全体としてみれば規模的には
(少なくとも建屋の全体容積としては)ハンフォードの Purex Plant 並みと言って
も過言ではありません。
主建屋がこのように真っ直ぐで長いのは、ハンフォードのプラントと同じように
「キャニオン型」とよばれる施設設計になっている可能性があるようにも思われま
す。
ちなみに、わがJNCのホットの再処理研究施設CPFの建屋の大きさは、
    長さ約73m×幅約26m×地上高さ19m
で、実際に再処理研究に使われているのはその半分であり、残り半分は高レベル廃液
のガラス固化研究に使われています。
Yongbyonの再処理プラントは、現時点でどこまで内部の装置が整備できているのかは
知りませんが(1993年査察時は40%据付完了と推定されたとの報告あり。70
%と書いている報告もある)、建物の大きさの比較から考えても、単なる研究ではな
く、「生産」を意図して建設されたことは明らかです。
ピュレックス法については、1970年代はじめだったと思いますが、ハンフォード
のピュレックス・マニュアルという詳しい技術文書が公開されており、こういう情報
をもとにすればそうとうきちんとした設計が可能です。
(注2)http://cns.miis.edu/research/korea/nuc/yongbyon.htm

TBP、ピュレックス法の話が出ついでに、日本原子力学会誌昨年9月号にのせても
らった、「ピュレックス法はいかにして生まれたか?」を添付しました。お時間のあ
るときにでもご笑読ください。
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核燃料サイクル開発機構
経営企画本部 企画部
研究主席
河田 東海夫
TEL:029-282-1122(代表)
FAX:029-282-4915
E-Mail: kawata@hq.jnc.go.jp
〒319-1184
茨城県那珂郡東海村村松4-49
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