Subject: EEE会議(Re: 北朝鮮をどう見るか: 吉田・天野論争)
Date: Thu, 13 Mar 2003 10:16:01 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

吉田・天野論争は、当EEE会議の主旨からはやや外れていますが、問題の重要性と、
各位の中にこの論争に興味を持って読んでいる方がかなりおられるように見受けられ
ることに鑑み、あえてここまで継続してきた次第です。 しかし、どうやら、この論
争も
最終ラウンドを迎えたようです。 以下、天野牧男氏の再々々反論を。
(金子)                                  
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吉田康彦様
平成15年3月12日
ご返事有難う御座いました。何回かのやり取りで、あなたの目を通した北朝鮮とい
う国がかなり分ってきました。また北朝鮮に対するお考えも大体分りました。
問題は北朝鮮がどうなって欲しいかですが、あなたはソフトランディングしかない
と言っておられます。しかし今度のメールで、極端な貧富の差、農村の疲弊と朝鮮労
働党の幹部の贅沢な生活態度が述べられてありましたが、旧ソ連での私の経験からも
うなずける状況です。特権階級が贅沢な生活を享受して、極端に貧しい多くの国民に
悲惨な日々をしいているのが現状であるわけです。こういった現状が続く限り、中国
の真似をした特区や開放政策によって多少北朝鮮の経済が潤ったとしても、それが北
朝鮮の状況の改善に繋がるとは思えません。
恐らく貧富の差が更に広がるのと、原子爆弾やミサイルの整備が進むだけで、到底問
題解決に近づくものではないでしょう。どうしても金正日独裁政治がなくならない限
り、改善の効果は出て来ません。
 あなたは北朝鮮の治山治水、農業改善の開発を言い続けたが、国会も世論も動かな
いと言っておられます。私はあなたのお書きになった物を一々読もうなどとは思って
おりません。しかし100篇もお書きになって、人を納得させられておられたら、北
朝鮮に関する新聞などの論調の中でその話に触れられていてもいいように思います
が、私には何の反応も見たことがありません。入ってくるのは飢饉や食料不足は洪水
のせいだとするだけで、その原因に踏み込んでいません。あなたの100篇の論文で
どうお書きになられたか知りませんが、北朝鮮政府の無策を明瞭にするためのもので
なければ意味がないのです。またそれだけお書きになったということは、相当山河は
荒れているのでしょうね。食料不足の原因は洪水にもあり、それは北朝鮮政府の政治
の貧困さにあるのです。
その国自身にその気がないのに、農業の改善や、治水のような本格的な援助がどうし
て、まして国交もない国が出来ることとお思いなのですか。どうも良くわかりませ
ん。治水はその国の政治そのものではありませんか。あなたは日本の世論が動かない
と嘆いておられましたが、当たり前でしょう。
 我々短期の予測は、政治であれ、外交であれ、経済であれ非常に難しくてなかなか
当たらないものです。しかし長い歴史の流れを見ると、それは一つの方向に動いて
いって、かなり予測可能なものになります。20世紀に行われた壮大な人類のイデオ
ロギーについての実験、4千万を超える人々の生命を犠牲にした実験で我々が学んだ
ものがあります。途中までは予測は難しかったかも知れませんが、段々人間性に逆
らったイデオロギーの終末はかなり予測可能になりました。また植民地政策というも
のがどう移ろっていったかも、目の当たりにしました。此れ等は大きな流れで、容易
に変えられるものではありませんし、流れて行く方向もかなり予測が出来ます。
 もっと端的なケースが戦後のドイツです。第二次世界大戦が済んで、ドイツは東西
に分離させられ、二つの国になりました。1989年11月、ベルリンの壁が崩され
て、東ドイツが吸収される形で一つの国になりました。この少し後ドイツへ行ったの
ですが、西ドイツの私の友人は、東と西との経済格差は思っていたよりももっとひど
かったと言っていました。申すまでもないことですが、統一後のドイツの経済的な困
難さはこのことが大きな原因です。
この50年前には、東も西も同じ国で、民族も同じでした。ドイツは南北ではかな
り違いがあって、例えば言葉などもそうだといわれています。しかし東西の差は少な
いし、東西に分割された時、どちらかといえば、東の方が経済的には優位にあったよ
うでした。それがこの間に此れだけの大きな違いが出来たのは何かです。
 それはシステムの違いしかありません。社会主義体制をとったか、自由主義体制を
とったかの違いしかないのですが、それが此れだけの格差を作ったということを、こ
の実験は示してくれました。私はこの現象が非常に興味深く、少し資料を調べました
が、ドイツ語では知りませんが、どうも日本にはあまりないようで、いい解説が見つ
かりませんでした。どなたかご存知の方がいらしてご教示いただければ幸いです。
 朝鮮半島では、地理的にも民族的にも、ドイツとは少し状況が違うかもしれません
が、ほとんど同じことが起きています。そしてこの問題を解決するには、システムを
変える以外手がありません。
北朝鮮という時代に逆行したシステムをとる国が,永らえる筈がないことは、歴史が
証明しています。しかし下手に延命に加担されることは、関係する人々の負担を大き
くするだけでしょう。
韓国が東西ドイツの事例を見て、統一に逡巡しているようなお話がありました。私も
そう思います。しかし統一は時代の流れでです。どういう道筋をたどっても、多少時
間が掛かっても、韓国はそのためにきびしい負担をせざるを得ないと思います。統一
する以上その重荷から逃れることは出来ないでしょう。
 このために武力による変換は絶対に避けるべきなのですから、北朝鮮の人達が、世
界や自分達の周りがどうなっているのか、自分の国の政治のあり方と較べての実情を
知って、自分達で判断することしかないのです。今度のメールで私の質問、どうして
外界の情報を知らせようとなさらないのかというのに対してのご返事をいただきまし
た。あなたの回答は、多くの国民は貧しすぎて、そんなことを聞いても何の力にもな
らないということのようでした。容易ではないことはよくわかりますが、これしか方
法はないと思います。
私の最初の小文は,あなたとこういった論争をしようと思って金子氏にお届けした
ものではありません。拉致といういたましい,ご本人は勿論、その家族にとってもこ
んなに辛いことが、しかも全く北朝鮮によって頭から否定されていたことが、小泉訪
朝によって事実だと明らかにされたのです。しかも金正日の口からです。このことは
現在日本に在留している多くの北朝鮮の方々にも大きなショックであったと思いま
す。幹部の人は知りませんが、多くの人にとっては梯子をはずされた感があったと思
います。
 そういうことで、日本におられる北朝鮮の方々にとっても、祖国がどういった状態
にあるいのか、恐らくはっきり認識される機会でもありました。そして勿論世界のこ
ともご存知な訳です。したがって今祖国を健全にして、その人々にとって希望の持て
る国にする努力をされるのに非常にいい時ではないかと思ったのです。それには皆
が、北朝鮮に住んでいる人達が、事実を知る必要があります。そのために立ち上がっ
て働きかけることが,極力流血を避けながら、今の体制を変える手段になるように考
えます。
確かに北朝鮮は気候風土はそう恵まれていないかもしれませんが、だからといって
国がやっていけないことはありません。先年アイルランドを旅した時、かって国民の
多くが国を捨てて新大陸に逃れて行ったその国が、今英国より一人当たりの国民所得
が高くなっていました。私は朝鮮民族の力なら、自分たちの足で立つことは十分可能
だと考えます。この機会を是非生かすべきではないかと思うのです。
                            
     <天野牧男>