Subject: EEE会議(Re:「もんじゅ」判決について)
Date: Thu, 13 Mar 2003 12:18:31 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

標記テーマに関し、豊田正敏氏から次のようなコメントをいただきました。このコメ
ントの最後にありますように、
反論、異論のある方はこの際どしどしお寄せください。
金子熊夫
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日本原子力学会主催の「もんじゅ」の緊急討論会に出席して、この判決は国側の対応
が不適切であり、負けるべ
くして負けたということと、この際安全設計の基本的考え方などを明確にしておく必
要があるとの感を深くし
た。
先ず、裁判官への対応であるが、事前協議の場で、裁判官から提起された疑問点に対
して、もっと積極的に対
応し、裁判官に判って貰えるよう適切な説明をするよう努力すべきであった。裁判官
にさえ判って貰えないよ
うでは、一般国民の理解を得ることは到底出来ないのではなかろうか。
また、判決が不当であるといった批判をするだけでなく、判決内容を今一度読み直し
て、安全設計の基本的考
え方、安全審査のあり方なども含め、今後の対応策を検討すべきである。以下、気付
いた問題点について述べ
る。
(1) 原子力委員会の行う設置許可時の安全審査は、基本設計の審査であって、機器、
装置の具体的詳細設計は
設工認で行われること及び放射能の放出抑制に重点がおかれることを明確に広報すべ
きである。また、高温ナ
トリウムと鉄の腐食機構は、もしJNCにナトリウム漏れの認識があれば事前に実験に
より知り得たことであ
る。しかし、新知見であることには違いなく、このような新知見に対しては、建設中
であれば設置許可変更
で、運転後には重要なものは変更許可変更で、軽微なものは設工認で審査するといっ
た手順を明確にしておく
必要がある。
(2) 安全設計の基本的考え方については、確率やリスクの考えは一般国民には判り難
いとして、表向きには、
絶対安全の考えが取られているが、実際には、例えば、設計基準事象を選定するに当
たって、一次配管破断事
故は、発生確率が10−4~10−5/年であるので採用するが、原子炉容器破断事故は、発
生確率が10−6~10−7/年
であるので採用しないこととしているように安全審査に当たっては確率の考えを採用
していると考えられる。
また、リスクの考えも反映されている。裁判官も「リスクゼロの絶対安全」を求めて
いるわけではなく、何処
までリスクを減らせば社会的に認められるかについての考えに違いがあるだけであ
る。即ち、How safe is
safe enough? についてもっと真剣に議論し、何処で線を引くかについて明確な考え
を示さなければ、議論は
平行線を辿るだけである。確率とかリスクという概念は一般国民が理解し難く、また
人為ミスとか、運転実績
の乏しい高速増殖炉の機器の不動作や誤動作の確率を正確に推定することは難しくエ
ンジニャリング・ジャジ
メントに頼らざるを得ないという問題はあるが、これに代わる良い手段があればお聞
かせ願いたい。
(3) 二次系漏洩事故については、漏洩が起こった場合、漏洩検出器が確実に作動し、
運転員が直ちに、ドレン
弁を開きナトリウムがドレンされるとの前提で解析されているようであるが、漏れの
発生確率は10−2/年程度
であり、漏洩検出器が作動しないか、またはドレン弁が開かないかの確率も10−2/年
より大きいと考えられる
ので、綜合した発生確率が10−4/年程度までであれば、ドレン出来ない場合について
解析すべきである。審査
指針にも「事故の解析に当たっては、想定された事象に加え、結果が最も厳しくなる
安全系の単一故障を仮定
すべきである」と規定されている。従って、ナトリウムとコンクリートが直接接触す
るような事態も考えられ
なくはない。
判決では「漏洩により、ナトリウムとコンクリートが直接接触し、反応が起これば、
その被害は他のループに
も及び、二次主冷却系の全冷却能力の喪失となり、これに伴い、一次主冷却系の冷却
能力を失って炉心溶融が
起こり、さらに出力は暴走し、外部環境に放射能が放散する可能性は高い」と述べて
いる。しかし、これは明
らかに「風が吹けば桶屋が儲かる」式の確率を無視した論理の飛躍がある。ナトリウ
ムとコンクリートの反応
により、被害が他のループに及び全冷却能力が喪失するまでには、かなりの時間がか
かり、その間に防止対策
が十分採れるはずであり、また、一次系は、原子炉停止系及び炉心冷却系が多重に設
けられており、一次系の
冷却能力が喪失することは考えられない。これらの点について、JNCは判り易く説明
し理解を得る必要があ
る。
(4) 蒸気発生器伝熱管破損事故についても、伝熱管の漏れを検知し、直ちに水・蒸気
の急速ブローなどの事故
拡大防止策を採っているので、高温ラプチャーは起こらないとしている。しかし、漏
れの検出器が作動しない
か、急速ブロー出来ないとか、それらの作動に遅れがあった場合、または、圧力開放
板の検出器のみが作動し
た場合には、高温ラプチャーの起こる可能性があるとするならば、それらの綜合発生
確率は10-4/年程度と考
えられるので、このような場合の解析をする必要があると考える。
伝熱管破損伝播の実験は大洗で多数行われているが、実プラントでの経験は皆無であ
る。実プラントでは、運
転中に伝熱管は減肉し、強度も落ちているかもしれないし、また、実プラントでは、
予期していなかったトラ
ブルが起こることは軽水炉で何度も経験しているので、大洗の実験結果のみで判断す
るのは問題である。
  判決では、「蒸気発生器伝熱管破損事故により、水素ガスを含む二次系ナトリウ
ムが中間熱交換器の障壁
を破って一次冷却系に流入し、ナトリウムボイド反応度が正であることにより、炉心
崩壊に至る」と述べてい
る。しかし、これは明らかに論理の飛躍があり、中間熱交換器の健全性及び原子炉の
停止の確実性について配
慮すべきである。
(5) 炉心崩壊事故については、問題は5項事象の取り扱い方である。「高速増殖炉の
安全性の評価の考え方」
によれば、5項事象について「事故より発生頻度は低いが、LMFBRの運転実績が僅少で
あることにかんがみ、そ
の起因となる事象とこれに続く事象経過に対する防止対策との関連において十分に評
価を行い、放射線物質の
放散が適切に抑制されることを確認する」と述べられているが、どの程度の確率の事
象まで考えるべきか、ま
た、目的は防止対策の検討なのか、格納容器の余裕度の確認なのか明確でない。これ
らの点については、「解
説」で明確にしておくべきである。また、防止対策については、チェルノヴィル事故
やスリーマイル事故の主
な原因の一つが運転員の誤判断に基づく人為ミスであることに鑑み、人為ミスについ
ても検討の対象にすべき
である。例えば、制御棒を運転員が誤って連続引抜きし、その際、緊急停止装置が働
かなかった場合、ナトリ
ウムボイドの正の温度係数によって、暴走事故に発展しないかどうか検討しておく必
要があると考える。ま
た、事故解析に使用される解析コードについては、部分的現象についての小規模のも
のしかなく、実験データ
は限られており十分な検証が行われているとは言えず、十分な安全余裕をとるべきで
ある。また、原子炉出力
密度が高いので、炉心に異物が入り、燃料チャンネルが塞がれたり、流量が減るなど
により、燃料が溶融する
事故は、エンリコ・フェルミ炉で経験しており、また、福島第二、3号機で再循環ポ
ンプが振動で壊れ、壊れ
た部品が数多く燃料チャンネルに入ったという経験がある。この場合、溶けた燃料が
原子炉容器壁に落ちてき
て、やがて容器を貫通し、コンクリートと激しく反応し、格納容器の機能を失うこと
も考えられる。従って、
コア―・キャッチャーの採用について検討すべきである。  
 上述のように、安全審査の内容には問題点がないとは言えず、国の対応にも問題が
あつたと考えざるを得な
い。これらの点について十分反省し、今後の対応策を十分検討すべきである。EEE会
議のメンバーの中には、
国には非の打ちどころが無く、裁判官のみが悪いと批判する人が何人かいるようであ
るが、これらの方々から
反論をお聞かせ願いたい。

豊田正敏
toyota@pine.zero.ad.jp