Subject: EEE会議(原子力における予防と治療)
Date: Sun, 16 Mar 2003 21:38:56 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

原子力をめぐる諸問題に関し、東京電力の榎本聡明氏(前副社長)から、次のような
傾聴すべきコメントをいただきました。ご参考まで。
この機会に、現下の日本の原子力が抱える諸々の基本問題に関し、同氏のコメントを
も踏まえて、お互いにじっくり考えてみたいと存じます。 匿名でも結構ですから、
できるだけ率直かつ建設的なご意見をお寄せください。
金子熊夫
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EEE会議の議論並びに金子先生がされる解説など本当に興味深く読ませて頂いて
おります。さて、NHKの維持基準の報道については、私は昨今の諸々の報道姿勢
と比較しても、極めて中立的な報道と受け止めており、その意味では林様のご意見
に組するものです。このようなことがお許し頂けるかどうかですが、維持基準等
について、私の反省も含め、感想を述べさせていただきたいと思います。

(感想)
1)原子力に携わる関係者の中に、「原子力は成熟した」という思い上がりもしくは
  錯覚があったのではないかと感じている。また、それが率直で謙虚な対応を遅ら
  せる要因となっていた可能性をあわせて反省すべきかもしれない。
  病気の予防や治療の世界でも、細菌やウィルスによる疾病に対する対策は前世紀
  において、著しい進歩を遂げたが、癌や遺伝子病のように今尚大きな課題として
  取り組んでいるものもある。また社会環境の変化によって、生活習慣病と言われ
  る新たな疾病も発生している。

2)原子力も同じ。これまで原子力に携わってこられた方々の努力によっていかほど
  多くの課題を克服して来たことであろう。しかし、癌は残っている。SCC(応

  腐食割れ)もその一つである。健康は、病気の予防だけで、対応はできない。
  人間が考えるものである以上、完璧なものばかりではないから、適切な治療も必

  である。予防と治療がバランスよく行われて、健康体が保たれる。
  しかし、原子力の場合は、治療に後ろめたさを感じ、治療の大切さを訴えたり、
  そのための体制の整備が後手に回ってきたのではあるまいか。

3)次は生活習慣病に相当するものである。これは、「慣れ」や「意識の変化」が当

  はまる。原子力産業の現状を見るに、原子力開発当時に比べると、原子力発電所

  数も増え、産業の規模も広がってきた。そのために、技術者の分業が進行し、技

  全体を概観出来る人が少なくなってきている。常に原点に戻って、原子力技術の
  全体像を教育していく必要がある。その全体像は、原子力発電所の技術だけでな
く、
  フロントエンドからバックエンドに至るまで、広くカバーする必要がある。
  というのも、最近、原子力、すなわち原子力発電所と思いこんでいる人達が多く
  なってきており、原子力発電所による恩恵は、フロントエンドから、再処理を
  しようとしまいと、バックエンドに至るまでの道筋がついてこそ、それを享受す

  資格があるということを教育していくことが不可欠と思う。
  私は、将来原子力を扱う企業のトップ・マネジメントに参画する人に、このよう

  教育をするスクールがあってもよいと考えている。

4)本EEE会議の会員による「サイクル政策の是非」についての議論も興味を持っ

  読ませていただいている。賛否両論それぞれに、主張の部分については一理ある

  思っている。しかし、我が国がサイクル政策を選択したときの原点が今どう変
わっ
  てきたのか、この問題を自由化が進む中、電気事業者の経済的負担が大きいこと
  だけが否定の理由足りうるのか、原子力の国外依存部分は、ウランのみであり、
  そもそも発電費用の数%に過ぎず、その他の経費は国内の産業に還元されてい
る。
  国家的見地から、エネルギー・セキュリティ確保のための技術確保にいかほどの
  投資なら是認さるべきか、原子力の環境貢献はいかほどの価値があると見込まれ

  か等々幅広い議論とそれに基づくサイクルの是非論の展開を期待したい。
 
    榎本 聡明:Toshiaki Enomoto
    東京電力(株)