Subject: EEE会議(イラク問題: 「みんなが悩んだ」)
Date: Thu, 20 Mar 2003 10:08:24 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

今朝(3月20日)配信された小泉内閣メルマガに載っている外務省OBの
岡本行夫氏(外交評論家、内閣官房参与)の特別寄稿です。多くの日本人
の気持ちを代弁していると思いますので、すでにお読みになった方もおら
れるかと思いますが、ご参考までに。 
金子熊夫
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      ● みんなが悩んだ ●

 アメリカの武力行使の可能性が高まって、僕はずいぶん悩みました。何と
か査察の継続で大量破壊兵器を押え込むことができないか、武力行使ではな
く外交的な手段で解決できないかと。官邸の関係者も同じでした。僕みたい
な下っ端と比較しては気の毒ですが、アメリカのパウエル国務長官も年末ぐ
らいまでは何とか戦争を避けられないかと考えていたと聞きます。

 僕は2月に入ってからサダム・フセインの非協力ぶりを見て、アメリカは
これでは引くまいと思いました。フセインは25万の大軍の圧力の下でよう
やく、しかもほんの一部だけ、大量破壊兵器を出してきました。アメリカが
包囲を解けばまた元の12年間無視の立場に戻るでしょう。

 武力行使が良くないと言うのは簡単だし、僕自身もそう論評してきました。
ただここに至って「武力なしでの問題解決」という最善の選択肢が消滅して
しまった後の日本の「次善の選択肢」としては、アメリカを支持することし
かないと思うのです。フセインが大量の毒ガスや細菌兵器を隠し持っている
ことはまず疑いないでしょう。でなければ彼は巨額の経済的損失をイラクに
もたらす国連の経済制裁を甘受し続けてきたはずがない。アメリカは国連に
見切りをつけて少数国だけで、その除去に乗り出したわけです。

 ひとつだけお伝えしたいことがあります。僕はこの問題で何回か小泉首相
とお話しする機会がありましたが、最終段階での小泉さんの揺らぎのない信
念には正直言って感銘を受けました。このような難しい決断を国民にわかっ
てもらうためには、小賢(こざか)しい論理や手続論をかざすのではなく、
自分の信念を正直に自分の言葉で語りかけるしかないと強い口調で言ってお
られました。僕はこれまでに日本の安全保障政策の難しい場面を幾度となく
目撃してきましたが、感心しました。小泉さんは戦争を何とか避けられない
かという思いでした。しかし、地球上の全人口を何度も繰返し殺害できるく
らいの大量破壊兵器をイラクの手から取り上げなければ、そうした兵器がや
がて世界中に拡散して取返しのつかないことになる。それにその行動の先頭
に立つアメリカは、いざというときに日本を守ってくれる唯一の同盟国であ
る。アメリカ支持しかない…。そのとおりだと思います。武力を行使せずに
このような恐ろしい脅威が除去できればベスト、しかし残念ながらそれはで
きなかった。みんなが悩んだ末、苦しい道をとりました。

 今はただ、少々荒っぽくてもこの苦しみの過程ができるだけ早く終結し、
双方の犠牲者が最小限にとどまることを祈るばかりです。

     (岡本行夫)