Subject: EEE会議(Re:「もんじゅ」判決について)
Date: Fri, 21 Mar 2003 18:52:02 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

標記テーマに関し、先日(3月13日)豊田正敏氏からコメントをいただきましたとこ
ろ、
これに対して、核燃料サイクル開発機構の伊藤和元氏(敦賀本部高速増殖炉もんじゅ
建設所)から次のような詳細なコメントが寄せられました。ご参考まで。
金子熊夫
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 先日、豊田正敏氏から「もんじゅ」の行政訴訟の高裁判決についてご意見が出され

したが、読ませていただいたところ、主に技術的事項について補足説明をさせていた

きたい部分や当方の見解を述べさせていただきたい部分がございますので、少し専門
的になりますが、以下に記述させていただきました。よろしくお取り計らい下さい。
        
1.<ご意見:日本原子力学会主催の「もんじゅ」の緊急討論会に出席して、この判
決は国側の対応が不適切であり、負けるべくして負けたということと、この際安全設
計の基本的考え方などを明確にしておく必要があるとの感を深くした。
先ず、裁判官への対応であるが、事前協議の場で、裁判官から提起された疑問点に対
して、もっと積極的に対応し、裁判官に判って貰えるよう適切な説明をするよう努力
すべきであった。裁判官にさえ判って貰えないようでは、一般国民の理解を得ること
は到底出来ないのではなかろうか。>
→<補足説明:(進行協議(争点説明会)は、第2回進行協議から行政訴訟の結審直
前まで、ほぼ毎月1回行われました。進行協議は、行政訴訟・民事訴訟同時に行われ
ましたので、保安院関係者だけではなく、機構の技術専門家なども積極的に説明に当
たりました。
  今回の判決は、安全対策設備の全機能不全とした『最悪の事態』においても安全
を求める考え方が全体的な底流をなす考え方となっているように思われます。例え
ば、炉心崩壊事故では、1次系ナトリウムの循環は、循環ポンプの主モータ、及びポ
ニー(小型)モータのいずれも作動させず、自然循環だけを考慮しますが、進行協議
での裁判長の質問、意見は、「すべての冷却系が機能しないという『最悪の事態』を
考えたらば、どうなるのか」というものでした。すべての安全対策設備の機能不全を
考えてなお、安全を求めることは、工学的設備における安全確保の考え方として受け
入れ難いことを繰り返し説明しましたが、裁判長の理解を獲得できず、残念な結果と
なりました。この教訓を次の活動に生かして行きたいと思います。ただ、裁判長の考
えに従えば、いかなる安全対策も無意味となり、工学的技術は全て安全ではないこと
になると思われます。>

2.<ご意見:また、判決が不当であるといった批判をするだけでなく、判決内容を
今一度読み直して、安全設計の基本的考え方、安全審査のあり方なども含め、今後の
対応策を検討すべきである。>
→<補足説明:「もんじゅ」の安全設計については、随時見なおしを行うことに吝か
ではありません。現に、「もんじゅ」事故後の安全総点検の結果を踏まえ、更なる安
全性向上を目指してナトリウム漏えい対策等について設置許可変更申請を行い、許可
を受領しています。
「もんじゅ」の安全設計の基本的考え方の原点は、原子力安全委員会の各種指針類に
示され、関係者の共通理解とされてきた考え方です。「もんじゅ」に対する安全確保
の基本的考え方は、軽水炉と同等ないしはそれ以上の安全性を確保することとしてい
ますが、今回の裁判で示されたように安全対策設備の全機能不全を考えてもなお安全
を求めるというものではありません。
 特に、「もんじゅ」では、設計基準事象には当たりませんが、念のための位置づけ
として炉心崩壊事故までも想定して、施設の安全余裕(原子炉格納容器によって放射
性物質の環境への放散が抑制されるか)を安全審査で確認されています。
判決では、証人の証言や準備書面による主張、進行協議における保安院やサイクル機
構からの繰り返しの説明が受け入れられずに、「考えているということは、現実に起
こると思っているから考えているのであろう。」「現実に起こると思っているのだか
ら、事故評価と同じように、保守的な解析条件が必要である。」と判断されました。
このような扱いは、原子力安全委員会によって定められた評価指針(FBR評価の考
え方)における評価の位置づけについて、今判決で裁判所が独自の見解を示したもの
と言えます。>

3.<ご意見:以下、気付いた問題点について述べる。
(1) 原子力委員会の行う設置許可時の安全審査は、基本設計の審査であって、機器、
装置の具体的詳細設計は設工認で行われること及び放射能の放出抑制に重点がおかれ
ることを明確に広報すべきである。>
→<補足説明:ご指摘のとおりだと思います。判決はこの点、設置許可に際しての安
全審査で、基本設計から詳細設計に至る全ての安全性を確認しなければならないこと
を要求しており、原子炉等規制法で採用されている、段階的な安全規制体系を否定す
る論理が採られています。>

4.<ご意見:また、高温ナトリウムと鉄の腐食機構は、もしJNCにナトリウム漏れ
の認識があれば事前に実験により知り得たことである。しかし、新知見であることに
は違いなく、>
→<補足説明:サイクル機構としては、ナトリウム漏れへの対策は重要事項と考え、
その設備上の対策を厳重に行うとともに、その妥当性を確認すべく数十回にわたるナ
トリウム燃焼実験を実施してきましたが、鉄の有意な腐食は見られませんでした。海
外の実験でも、「もんじゅ」事故後に実施した「燃焼実験U」で見られた溶融塩型腐
食の知見はありませんでした。溶融塩型腐食については、「燃焼実験U」以降、サイ
クル機構で実施した腐食実験において、初めてそのメカニズムや腐食速度データの知
見が得られたものです。>

5.<ご意見:このような新知見に対しては、建設中であれば設置許可変更で、運転
後には重要なものは変更許可変更で、軽微なものは設工認で審査するといった手順を
明確にしておく必要がある。>
→<補足説明:新知見が得られた場合には、必要な新知見については、慣例的に、い
わゆる「バックチェック」が行われているところであり、今後は、法的な位置づけ、
法的な運用の仕方・方法を明確にしておくことは、必要なことだと思います。しかし
ながら、バックチェックの法的な位置づけが明確でないことをもって、安全性確認の
根拠とならないとする考え方は賛成できません。
  なお、判決では、床ライナの腐食については、新知見である溶融塩型腐食の腐食
速度を基に判断していますが、一方、炉心崩壊事故時の発生エネルギーの評価につい
ては、安全審査を経由してないことを理由に新知見に基づく評価を無視しており、新
知見に対する評価に一貫性がありません。>

6.<ご意見:(2) 安全設計の基本的考え方については、確率やリスクの考えは一般
国民には判り難いとして、表向きには、絶対安全の考えが取られているが、実際に
は、例えば、設計基準事象を選定するに当たって、一次配管破断事故は、発生確率が
10−4~10−5/年であるので採用するが、原子炉容器破断事故は、発生確率が10−6~10
−7/年であるので採用しないこととしているように安全審査に当たっては確率の考え
を採用していると考えられる。>
→<補足説明:安全設計の基本的考え方は『決定論的手法』に基づくもので、絶対安
全の考え方になっていないと思います。ご例示のように安全設計で想定する範囲の検
討には、頻度概念の考察が暗に含まれているからです。また、安全評価においては、
事象の起こりにくさを考慮して判断基準を定めており、リスクの概念を考慮したもの
となっていると考えられます。軽水炉におけるこの考え方は、「もんじゅ」に対して
も踏襲されております。>

7.<ご意見:また、リスクの考えも反映されている。裁判官も「リスクゼロの絶対
安全」を求めているわけではなく、何処までリスクを減らせば社会的に認められるか
についての考えに違いがあるだけである。即ち、How safe is safe enough? につい
てもっと真剣に議論し、何処で線を引くかについて明確な考えを示さなければ、議論
は平行線を辿るだけである。確率とかリスクという概念は一般国民が理解し難く、ま
た人為ミスとか、運転実績の乏しい高速増殖炉の機器の不動作や誤動作の確率を正確
に推定することは難しくエンジニャリング・ジャジメントに頼らざるを得ないという
問題はあるが、これに代わる良い手段があればお聞かせ願いたい。>
→<補足説明:軽水炉においても、運転実績に基づき原子炉容器破断事故の発生確率
を10−6~10−7/年レベルで正確に推定することは難しいと考えられ、すべて運転実績
に基づくリスク評価を行うことは困難な面があります。
  高速炉と軽水炉で運転実績の違いの程度があるのは事実ですが、高速炉について
も日米の高速炉のデータに基づいた信頼性データベースを開発整備してきており、す
べてエンジニアリングジャッジメントに頼らざるをえないというわけではありませ
ん。現段階では、リスク評価は決定論的手法を補完的に使用することが現実的であ
り、有用と考えられます。現在、原子力安全委員会において、安全目標に関する検討
が行われていますが、今後はリスク情報に基づく合理的な安全確保策の検討等が議論
されるものと考えられます。>

8.<ご意見:(3) 二次系漏洩事故については、漏洩が起こった場合、漏洩検出器が
確実に作動し、運転員が直ちに、ドレン弁を開きナトリウムがドレンされるとの前提
で解析されているようであるが、漏れの発生確率は10−2/年程度であり、漏洩検出器
が作動しないか、またはドレン弁が開かないかの確率も10−2/年より大きいと考えら
れるので、綜合した発生確率が10−4/年程度までであれば、ドレン出来ない場合につ
いて解析すべきである。審査指針にも「事故の解析に当たっては、想定された事象に
加え、結果が最も厳しくなる安全系の単一故障を仮定すべきである」と規定されてい
る。従って、ナトリウムとコンクリートが直接接触するような事態も考えられなくは
ない。>
→<補足説明:「安全評価審査指針」においては、単一故障は、「原子炉停止」、
「炉心冷却」、「放射能の閉じ込め」の原子炉の基本的安全機能に直接関係するもの
について仮定することとなっています。また、訴訟の対象となっている設備改善前の
安全審査では、ナトリウムのドレンを前提としない安全評価としています。設備改善
後は、ナトリウムのドレン設備の故障を考慮した設備対応としています。ライナの具
体的健全性の評価は基本設計段階で確認するものではなく、詳細設計段階で確認され
るものですが、設備改善の前後いずれにおいても、ナトリウムとコンクリートの直接
接触は防止できることを確認しています。>

9.<ご意見:判決では「漏洩により、ナトリウムとコンクリートが直接接触し、反
応が起これば、その被害は他のループにも及び、二次主冷却系の全冷却能力の喪失と
なり、これに伴い、一次主冷却系の冷却能力を失って炉心溶融が起こり、さらに出力
は暴走し、外部環境に放射能が放散する可能性は高い」と述べている。しかし、これ
は明らかに「風が吹けば桶屋が儲かる」式の確率を無視した論理の飛躍がある。ナト
リウムとコンクリートの反応により、被害が他のループに及び全冷却能力が喪失する
までには、かなりの時間がかかり、その間に防止対策が十分採れるはずであり、ま
た、一次系は、原子炉停止系及び炉心冷却系が多重に設けられており、一次系の冷却
能力が喪失することは考えられない。>
→<補足説明:ご説示のとおり、論理の飛躍があります。ナトリウム・コンクリート
の反応により発生する水素は、ナトリウム燃焼の炎により順次燃焼するため、水素が
蓄積して爆発的に燃焼することはないことが実験的に確かめられています。また、実
験データによれば、ナトリウム・コンクリート反応によって侵食をうけるコンクリー
トは高々30cm程度であり、建物健全性が損なわれたり、系統分離されている健全
ループへ影響が及ぶことはないと考えられます。炉心冷却機能の全喪失に至るには、
さらに多くの仮定を要します。>

10.<ご意見:これらの点について、JNCは判り易く説明し理解を得る必要があ
る。
→<補足説明:以上述べたとおり、裁判では裁判長の『最悪の事態』を想定すべしと
する考え方などに対して縷々説明しました。しかし、理解がえられませんでした。
この問題は、工学的安全対策を如何に考えるのかという安全哲学の問題ではないで
しょうか。
もちろん、サイクル機構としては、広く国民の皆様のご理解を得るべく、判り易い説
明に努めていく所存であります。>

11.<ご意見:(4) 蒸気発生器伝熱管破損事故についても、伝熱管の漏れを検知
し、直ちに水・蒸気の急速ブローなどの事故拡大防止策を採っているので、高温ラプ
チャーは起こらないとしている。しかし、漏れの検出器が作動しないか、急速ブロー
出来ないとか、それらの作動に遅れがあった場合、または、圧力開放板の検出器のみ
が作動した場合には、高温ラプチャーの起こる可能性があるとするならば、それらの
綜合発生確率は10-4/年程度と考えられるので、このような場合の解析をする必要が
あると考える。>
→<補足説明:高温ラプチャの起こる可能性のある水リーク率は、1〜数kg/sの水漏
えい率の場合だけで、それより小さい水リーク率の場合には、ウェステージ型の破損
伝播のモードになります。蒸気発生器伝熱管の破損が微小リークから進展していくこ
とを考慮すると、その破損規模になるまでには、水素検出計により検出することで破
損の拡大が防止されます。英国のPFR炉では、その水素計が故障したまま運転を継
続していたため、未然に防止することができなかったものと考えられます。また、1
本の伝熱管のギロチン破損時には水リーク率が10数kg/sとなりますが、その場合に
は、水素ガスが大量に発生することにより、高温の反応界面が定在化せず、伝熱管の
破損伝播が生じないことを実験で確認しています。>

12.<ご意見:伝熱管破損伝播の実験は大洗で多数行われているが、実プラントで
の経験は皆無である。実プラントでは、運転中に伝熱管は減肉し、強度も落ちている
かもしれないし、また、実プラントでは、予期していなかったトラブルが起こること
は軽水炉で何度も経験しているので、大洗の実験結果のみで判断するのは問題であ
る。>
→<補足説明:「蒸気発生器伝熱管破損事故」の評価においては、寿命中に想定され
る減肉量を見込んだ伝熱管厚みを解析条件としています。蒸気発生器については、
「もんじゅ」実機の伝熱管と同じモデル(ただし、伝熱管本数は1/5)の50MW
蒸気発生器試験施設を用いて、延べ約2万時間の通水運転行って、「もんじゅ」型蒸
気発生器の運転経験を得るとともに、運転後の材料試験において、伝熱管等の健全性
を確認しています。さらに、海外の先行FBRのトラブル経験を積極的に収集、反映
して蒸気発生器等の設計・製作を行い、信頼性の向上を図っています。また、運転中
は伝熱管の減肉を定期的に調べる供用期間中検査を実施します。>

13.<ご意見:判決では、「蒸気発生器伝熱管破損事故により、水素ガスを含む二
次系ナトリウムが中間熱交換器の障壁を破って一次冷却系に流入し、ナトリウムボイ
ド反応度が正であることにより、炉心崩壊に至る」と述べている。しかし、これは明
らかに論理の飛躍があり、中間熱交換器の健全性及び原子炉の停止の確実性について
配慮すべきである。
→<補足説明:ご説示のとおり。この事故では、中間熱交換器の伝熱管は壊れない
し、直ちに循環ポンプが停止すると同時に制御棒が挿入され、原子炉は未臨界状態に
維持されているので、仮に炉心がボイド化しても臨界に達することはありません。>

14.<ご意見:(5) 炉心崩壊事故については、問題は5項事象の取り扱い方であ
る。
→<補足説明:この点は、福井地裁、そして、控訴審での主張・立証や説明に際し
て、現実には起こりがたいが、あえて想定することによって、施設の安全余裕を確認
するためのものであることを、証人の証言等々によって明らかにしてあるところで
す。>
 
15.<ご意見:「高速増殖炉の安全性の評価の考え方」によれば、5項事象につい
て「事故より発生頻度は低いが、LMFBRの運転実績が僅少であることにかんがみ、そ
の起因となる事象とこれに続く事象経過に対する防止対策との関連において十分に評
価を行い、放射線物質の放散が適切に抑制されることを確認する」と述べられている
が、どの程度の確率の事象まで考えるべきか、また、目的は防止対策の検討なのか、
格納容器の余裕度の確認なのか明確でない。これらの点については、「解説」で明確
にしておくべきである。>
→<補足説明:基本設計段階に行われる安全審査では明示的に確率論的安全評価が行
われるわけではなく、それは「もんじゅ」においても同じです。しかし、「事故より
発生頻度は低い」とされているように5項事象が考えられた背景には確率論的考察が
あり、また、「防止対策との関連において・・・放射性物質の方策が適切に抑制」と
されていますので、明らかに「リスク」という概念が考えられています。一般論とし
ては、「事故」を超える事象としては、発生頻度が10-6/炉年を下回る事象というこ
とになりますが、それに加えて、高速増殖炉のリスクを代表する事象(例えば、炉心
損傷時に即発臨界に達し、機械的エネルギーの発生が重要となるような事象)に関す
る考察が加えられ、評価を通じで原子炉施設の安全裕度の確認を行うことになりま
す。なお、「もんじゅ」においては5項事象として5つの事象が評価の対象となりま
したが、安全審査においては、以上のような評価に基づき、事象選定についても妥当
であったとの評価がなされています。>

16.<ご意見:また、防止対策については、チェルノヴィル事故やスリーマイル事
故の主な原因の一つが運転員の誤判断に基づく人為ミスであることに鑑み、人為ミス
についても検討の対象にすべきである。例えば、制御棒を運転員が誤って連続引抜き
し、その際、緊急停止装置が働かなかった場合、ナトリウムボイドの正の温度係数に
よって、暴走事故に発展しないかどうか検討しておく必要があると考える。>
→<補足説明:ご説示のとおり人為ミスを起因とする異常状態の発生は、安全設計や
安全評価においても当然考慮すべき事項です。「安全評価審査指針」においては、
「運転時の異常な過渡変化」や「事故」の起因事象は「機器の単一の故障若しくは誤
動作又は運転員の単一の誤操作」による異常状態として定義されています。
また、「もんじゅ」では、「運転時の異常な過渡変化」として「未臨界状態からの制
御棒の異常な引抜き」「出力運転中の制御棒の異常な引抜き」、及び「事故」として
「制御棒急速引抜事故」を選定し評価し、安全設計の妥当性が確認されています。
これに加えて、5項事象においては、ご説示のような制御棒異常引抜きにスクラム失
敗を重ね合わせた「制御棒異常引抜時反応度抑制機能喪失事象」を想定し、評価して
います。この事象は炉心崩壊事故のひとつですが、損傷した燃料が冷却材により炉心
外に運ばれる結果、部分的な炉心損傷にとどまる(すなわち、もうひとつの炉心崩壊
事故である「1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」に包絡される)との結
果を得ています。>

17.<ご意見:また、事故解析に使用される解析コードについては、部分的現象に
ついての小規模のものしかなく、実験データは限られており十分な検証が行われてい
るとは言えず、十分な安全余裕をとるべきである。>
→<補足説明:炉心崩壊事故の事象推移を評価する際に重要となる現象を解明し、評
価に用いる解析コードのモデルの妥当性を検証しておくことはきわめて重要です。評
価の時点での実験的知見を可能な限り活用することになりますが、「もんじゅ」の安
全審査に当たっては、当時の世界最先端の評価手法と知見を活用しましたが、実験
データが不足していたり、あるいはデータのばらつきが大きい現象の取扱いについて
は、合理的な範囲でもっとも結果を厳しくするような(すなわち、保守的な)解析条
件の設定を行っています。なお、安全審査以降も炉心崩壊事故に係わる安全研究は進
められ、実験データの拡充や解析コードの高度化を通じて、安全審査当時の解析条件
がきわめて保守的なものであったことが確認されています。>

18.<ご意見:また、原子炉出力密度が高いので、炉心に異物が入り、燃料チャン
ネルが塞がれたり、流量が減るなどにより、燃料が溶融する事故は、エンリコ・フェ
ルミ炉で経験しており、また、福島第二、3号機で再循環ポンプが振動で壊れ、壊れ
た部品が数多く燃料チャンネルに入ったという経験がある。この場合、溶けた燃料が
原子炉容器壁に落ちてきて、やがて容器を貫通し、コンクリートと激しく反応し、格
納容器の機能を失うことも考えられる。従って、コア―・キャッチャーの採用につい
て検討すべきである。>
→<補足説明:ご説示の事象は、炉心局所事故または燃料集合体事故と呼ばれ、出力
密度が高く冷却材の流路が狭い液体金属高速増殖炉では、重要な安全評価事象のひと
つとなっています。「もんじゅ」の安全審査では、「事故」として「冷却材流路閉塞
事故」を想定し、5項事象として「局所的燃料破損事故」を、それぞれ評価していま
す。なお、フェルミ炉の事故は原子炉容器の底に設置された整流版という板がはがれ
て、燃料集合体の入口を完全に閉塞させて起こったものですが、この事故以降の高速
増殖炉の設計では、燃料集合体入口のエントランスノズルと呼ばれる構造に冷却材の
流入口を複数設けて、仮に冷却材中に固形物が流れていたとしても燃料集合体の入口
を一挙に塞いでしまうことのないような防止対策が施されています。
また、仮に燃料が局所的閉塞により溶融した場合は、炉心局所事故がゆっくりと拡大
するため、その間に、遅発中性子法破損燃料検出器により燃料破損は確実に検知で
き、原子炉は停止されることが確認されています。このとき、原子炉が停止できない
まま炉心全体に損傷が拡大する事態をあえて仮定するのであれば、そのような事象推
移は、前述の炉心崩壊事故の想定に包含されます。後者においては、全炉心の損傷を
仮定した場合においても、損傷した炉心燃料は原子炉容器内に分散、沈降して、除熱
能力の高いナトリウムの自然循環によって安定に崩壊熱除去が可能であるとの結果を
得ています。>

19.<ご意見: 上述のように、安全審査の内容には問題点がないとは言えず、国
の対応にも問題があつたと考えざるを得ない。これらの点について十分反省し、今後
の対応策を十分検討すべきである。EEE会議のメンバーの中には、国には非の打ちど
ころが無く、裁判官のみが悪いと批判する人が何人かいるようであるが、これらの
方々から反論をお聞かせ願いたい。>
→<見解:サイクル機構としては、安全審査は、厳正に行われたものと認識していま
す。今回の高裁においては、国や機構の説明が理解されず、残念な判決となりました
が、最高裁に上訴されましたので、全面的に国を支援していきたいと考えています。
また、「もんじゅ」開発の意義や安全性について、国民や地元の方々に対して理解い
ただけるように、さらに一層努力を傾注し、1日も早い運転再開を目指してまいる所
存です。>

伊藤 和元
核燃料サイクル開発機構
敦賀本部高速増殖炉もんじゅ建設所
郵便番号919-1279
福井県敦賀市白木2丁目1番地
電話:0770-39-1031
FAX:0770-39-9112
E-mail:ito@t-hq.jnc.go.jp