Subject: EEE会議(Re: 「もんじゅ」判決について)
Date: Sat, 22 Mar 2003 09:32:17 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

名古屋高裁金沢支部の「もんじゅ」控訴審判決については、近日中に国から
最高裁に対し上告受理申し立てが行われる模様です。この2ヶ月間新聞、雑誌
等でいろいろな報道が行われましたが、どうも今ひとつ、真に核心をついた
報道が少なく、隔靴掻痒の感じがしています。今朝拙宅に届いた「原子力報道を
考える会」の第23報(3月16日)は、遅ればせながらすばりこの点を衝いてお
り、
我が意を得た思いです。因みに、「原子力報道を考える会」は、中村政雄氏(元読
売新聞論説委員)、尾崎正直氏(元朝日新聞科学部長)、石川迪夫氏(元北海道
大学工学部教授)、阿部道子氏(元放射線医学総合研究所養成訓練部長)らに
よるグループです。ご参考まで。
金子熊夫
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名古屋高裁金沢支部は、高速増殖炉実証炉「もんじゅ」の安全審査
に看過し難い過誤、欠落があったと判決した。国の専門家集団の判断
を、技術的には素人の裁判官が否定したのである。原子力安全委員会
は当然反論し、メディアがそれを伝え、安全論議が深まることを期待
したら、さっぱりだった。

 この高裁判決は、原子力関係者にショックだった。「厳しい状況にあ
る原子力への見方が、さらに厳しくなった」(日本原燃佐々木正社長の
定例記者会見、1月31日付朝日新聞朝刊)という言葉にも表れてい
る。安全審査が否定されたのは「もんじゅ」に限ってのことだが、原
子力発電全体に対する安全のイメージを下げる判決だった。

 原子力発電の信頼にかかわる判決に対し原子力安全委員会が発言を
しないまま放置すれば、一般の人は「安全審査はいい加減だったんだ」
と思うに違いない。原子力技術の素人である裁判官が、技術の専門家
集団の安全審査を否定した判決がなぜ出たのか、原子力安全委員会に
とって拱手していい問題ではない。

 判決の背景や波紋について新聞各紙は2−3回の短期連載をした。
朝日新聞「緊急報告もんじゅショック」、毎日新聞「もんじゅ判決の衝
撃」、中日新聞「衝撃の判決」などである。

 「控訴審では裁判官が難解なもんじゅの仕組みをできるだけしっか
り把握した上で判断したいとの意向を示した。通常は日程などを打ち
わせる進行協議が住民側、国側双方の説明の場となった。意を尽くす
場とした住民側に対し、国側は裁判所側から詳しい説明を求められて
度々、答えに窮する場面もあったという」(中日新聞1月28日付朝刊)、
「住民側の説明者として参加した元阪大講師の久米三四郎さんは、裁
判官はわかってくれていると手応えを感じた」「裁判官がわからない
点をどんどん質問して高速増殖炉への理解を深めていった、と久米さ
んは進行協議を評価する」(朝日新聞1月30日付朝刊)などの記事を
読むと、住民側の説明は上手で裁判官によく理解できたのに対し、国側
は説明が下手で、説明責任を十分に果たせなかったことが分かる。

 説明の上手下手で、安全かどうかの判断が左右されては困る。判決
はすこぶる大胆な判断をしたが、判断に至る理屈が粗雑である。たと
えば、蒸気発生器伝熱管の高温破裂が発生すると、その影響で中間熱交
換器が損傷、破裂、原子炉制御不能、炉心崩壊と事故が進行するとし
ている。リスクの確率からみてそんなに容易に安全が崩れるとは思え
ない。原子力技術に厳しい評価をする技術評論家桜井淳さんも「市民
的危機管理入門HP2003/01/31」に「この確率は一億分の一以下にな
ります。これが問題だとすれば、工学的装置は造れないということに
なり、いまの軽水炉ばかりか、新幹線、航空機も使用禁止にしなけれ
ばならないでしょう。そのくらいきびしい判決です」と書いている。

 読売新聞は1月28日付社説で次のように論じた。「判決について
疑問に感じるのは、技術の基本についての配慮に欠けるきらいがある
のではないか、という点である。原子炉には絶対安全が求められると
するかのような考え方が、判決の随所にうかがえる」「潜在的な危険性
の付きまとう原子炉に、できる限りの安全性が求められるのは当然で
ある。だが、リスクゼロの工学システムはあり得ない」「リスクの存在
を認めたうえで、いかにそのリスクの低減を図るか。経験の蓄積を既
存施設にいかに生かしていくか。そうした努力を認めなければ、そもそ
も新たな技術開発は成り立たない。このような視点も忘れずに、もん
じゅの設置許可を無効とする判断を下したのだろうか」

 このような視点の記事が読売の社説以外に見当たらなかったのが情
けない。原子力安全委員会は存在をコケにされながら沈黙を保ってい
る。原子力委員会も何も言わない。「もんじゅ」開発の責任官庁だった
文部科学省は冷淡。毎日新聞2月27日付朝刊「記者の目」は「もん
じゅが安全と言うのなら、国は安全性についての説明責任を十分果た
すべきだ」と書いた。その通りだが、判決が指摘したほど危険かどう
か取材して書いてほしい。

 国は身を低くして嵐が通り過ぎるのを待っている。このだらしのな
い国の態度をメディアは放置してはならない。