Subject: EEE会議(Re:「もんじゅ」判決について:豊田・伊藤氏のご意見)
Date: Sun, 23 Mar 2003 03:54:52 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

標記テーマに関し、「エネルギー問題に発言する会」の益田恭尚氏から
いただいたメールです。なお、同氏のコメントは、核燃料サイクル開発
機構の伊藤和元氏のメール(3月21日付け)の中にも赤字で若干示されて
おります。ご参考まで。
金子熊夫
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敗訴について、被告側の説明不足という大方の見方があり、
一技術者として実情が知りたいと思っておりました。
豊田さんの論文に対し初めて詳細に答えて頂き、
反対派と裁判官の無理難題に対して、
精力的に技術説明をされた様子はおぼろげながら理解でき、
伊藤さんを始めとする関係技術者のご苦労に敬意を表します。

しかし、全体的印象としては何か議論のすれ違いが感じられ、
“安全とはなにか”についての論説が不足しているのではないか
との印象を強く受けました。このままでは上告審でも危ないとの
危惧の念を持つのは私だけではないと思います。

上告に当たって、既に準備を始めておられることと拝察いたしますが、
一つ一つの技術的事項についての説明を十分行うことは当然として、
“安全とはなにか”ということに対する理念と理論、その具現化に対し
国として立法と行政の点から何をしているのかという立場に立って
先ず関係者の総力を挙げて徹底的に議論し、理論武装を整え、国の
基本方針として打ち出す必要を痛感致します。

今回の上告審には原子力の未来が掛かっています。容易なことでは
ないことは十分承知している積もりです。政府関係者を含めた、さら
なる努力を期待するものです。


「エネルギー問題に発言する会」会員
 益田恭尚
 takmasudajp@ybb.ne.jp



----- Original Message -----
From: kkaneko
To: Undisclosed-Recipient:;@m-kg202p.ocn.ne.jp
Sent: Friday, March 21, 2003 6:52 PM
Subject: EEE会議(Re:「もんじゅ」判決について)


各位殿

標記テーマに関し、先日(3月13日)豊田正敏氏からコメントをいただきましたと
ころ、
これに対して、核燃料サイクル開発機構の伊藤和元氏(敦賀本部高速増殖炉もん
じゅ
建設所)から次のような詳細なコメントが寄せられました。ご参考まで。
金子熊夫
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 先日、豊田正敏氏から「もんじゅ」の行政訴訟の高裁判決についてご意見が出さ
れま
したが、読ませていただいたところ、主に技術的事項について補足説明をさせてい
ただ
きたい部分や当方の見解を述べさせていただきたい部分がございますので、少し専

的になりますが、以下に記述させていただきました。よろしくお取り計らい下さ
い。
        
1.補足説明: 今回の判決は、安全対策設備の全機能不全とした『最悪の事態』
においても安全
を求める考え方が全体的な底流をなす考え方となっているように思われます。例え
ば、炉心崩壊事故では、1次系ナトリウムの循環は、循環ポンプの主モータ、及び

ニー(小型)モータのいずれも作動させず、自然循環だけを考慮しますが、進行協

での裁判長の質問、意見は、「すべての冷却系が機能しないという『最悪の事態』

考えたらば、どうなるのか」というものでした。すべての安全対策設備の機能不全

考えてなお、安全を求めることは、工学的設備における安全確保の考え方として受

入れ難いことを繰り返し説明しましたが、(何故受け入れられないのか)
裁判長の理解を獲得できず、残念な結果と
なりました。
2.補足説明「もんじゅ」の安全設計の基本的考え方の原点は、原子力安全委員会
の各種指針類に
示され、関係者の共通理解とされてきた考え方です。「もんじゅ」に対する安全確

の基本的考え方は、軽水炉と同等ないしはそれ以上の安全性を確保することとして

ますが、今回の裁判で示されたように安全対策設備の全機能不全を考えてもなお安

を求めるというものではありません。
 特に、「もんじゅ」では、設計基準事象には当たりませんが、念のための位置づ

として炉心崩壊事故までも想定して、(位置づけは明確化されているのか)
施設の安全余裕(原子炉格納容器によって放射
性物質の環境への放散が抑制されるか)を安全審査で確認されています。
判決では、証人の証言や準備書面による主張、進行協議における保安院やサイクル

構からの繰り返しの説明が受け入れられずに、「考えているということは、現実に

こると思っているから考えているのであろう。」「現実に起こると思っているのだ

ら、事故評価と同じように、保守的な解析条件が必要である。」と判断されまし
た。
このような扱いは、原子力安全委員会によって定められた評価指針(FBR評価の

え方)における評価の位置づけについて、今判決で裁判所が独自の見解を示したも

と言えます。>

3.補足説明:設置許可に際しての安全審査で、基本設計から詳細設計に至る全て
の安全性を確認しなければならないことを要求しており、原子炉等規制法で採用され
ている、段階的な安全規制体系を否定す
る論理が採られています。(法体系の根拠を示しえたのか)

4.補足説明:ナトリウム漏れへの対策はその設備上の対策を厳重に行うととも
に、その妥当性を確認すべく数十回にわたるナトリウム燃焼実験を実施してきました
が、鉄の有意な腐食は見られませんでした。
海外の実験でも、「もんじゅ」事故後に実施した「燃焼実験U」で見られた溶融塩
型腐
食の知見はありませんでした。溶融塩型腐食については、「燃焼実験U」以降、サ

クル機構で実施した腐食実験において、初めてそのメカニズムや腐食速度データの

見が得られたものです。
5.補足説明:新知見が得られた場合には、必要な新知見については、慣例的に、

わゆる「バックチェック」が行われているところであり、今後は、法的な位置づ
け、
法的な運用の仕方・方法を明確にしておくことは、必要なことだと思います。
しかしながら、バックチェックの法的な位置づけが明確でないことをもって、安全
性確認の
根拠とならないとする考え方は賛成できません。
(新知見についてどのように対応すればよいとしたのか。賛成できないでは根拠薄
弱)

  なお、判決では、床ライナの腐食については、新知見である溶融塩型腐食の腐

速度を基に判断していますが、一方、炉心崩壊事故時の発生エネルギーの評価につ

ては、安全審査を経由してないことを理由に新知見に基づく評価を無視しており、

知見に対する評価に一貫性がありません。 (守る側の一貫性は十分か)

6.補足説明:安全設計の基本的考え方は『決定論的手法』に基づくもので、絶対

全の考え方になっていないと思います。ご例示のように安全設計で想定する範囲の

討には、頻度概念の考察が暗に含まれているからです。また、安全評価において
は、
事象の起こりにくさを考慮して判断基準を定めており、リスクの概念を考慮したも

となっていると考えられます。軽水炉におけるこの考え方は、「もんじゅ」に対し

も踏襲されております。 (思うというような説明では勝てない。論拠を示す必要
がある)

7.<ご意見:また、リスクの考えも反映されている。裁判官も「リスクゼロの絶

安全」を求めているわけではなく、何処までリスクを減らせば社会的に認められる

についての考えに違いがあるだけである。即ち、How safe is safe enough? につ

てもっと真剣に議論し、何処で線を引くかについて明確な考えを示さなければ、議

は平行線を辿るだけである。確率とかリスクという概念は一般国民が理解し難く、

た人為ミスとか、運転実績の乏しい高速増殖炉の機器の不動作や誤動作の確率を正

に推定することは難しくエンジニャリング・ジャジメントに頼らざるを得ないとい

問題はあるが、これに代わる良い手段があればお聞かせ願いたい。>
→<補足説明:軽水炉においても、運転実績に基づき原子炉容器破断事故の発生確

を10−6~10−7/年レベルで正確に推定することは難しいと考えられ、すべて運転実

に基づくリスク評価を行うことは困難な面があります。 (困難では説明にならな
い。
こうやるのだという説明が必要)
  高速炉と軽水炉で運転実績の違いの程度があるのは事実ですが、高速炉につい

も日米の高速炉のデータに基づいた信頼性データベースを開発整備してきており、

べてエンジニアリングジャッジメントに頼らざるをえないというわけではありませ
ん。現段階では、リスク評価は決定論的手法を補完的に使用することが現実的であ
り、有用と考えられます。現在、原子力安全委員会において、安全目標に関する検

が行われていますが、今後はリスク情報に基づく合理的な安全確保策の検討等が議

されるものと考えられます。>

8.<ご意見:(3) 二次系漏洩事故については、漏洩が起こった場合、漏洩検出器

確実に作動し、運転員が直ちに、ドレン弁を開きナトリウムがドレンされるとの前

で解析されているようであるが、漏れの発生確率は10−2/年程度であり、漏洩検出

が作動しないか、またはドレン弁が開かないかの確率も10−2/年より大きいと考え

れるので、綜合した発生確率が10−4/年程度までであれば、ドレン出来ない場合に

いて解析すべきである。審査指針にも「事故の解析に当たっては、想定された事象

加え、結果が最も厳しくなる安全系の単一故障を仮定すべきである」と規定されて

る。従って、ナトリウムとコンクリートが直接接触するような事態も考えられなく

ない。>
→<補足説明:「安全評価審査指針」においては、単一故障は、「原子炉停止」、
「炉心冷却」、「放射能の閉じ込め」の原子炉の基本的安全機能に直接関係するも

について仮定することとなっています。また、訴訟の対象となっている設備改善前

安全審査では、ナトリウムのドレンを前提としない安全評価としています。設備改

後は、ナトリウムのドレン設備の故障を考慮した設備対応としています。ライナの

体的健全性の評価は基本設計段階で確認するものではなく、詳細設計段階で確認さ

るものですが、設備改善の前後いずれにおいても、ナトリウムとコンクリートの直

接触は防止できることを確認しています。 (議論の摺れ違いがあるように感じら
れる)

9.<ご意見:判決では「漏洩により、ナトリウムとコンクリートが直接接触し、

応が起これば、その被害は他のループにも及び、二次主冷却系の全冷却能力の喪失

なり、これに伴い、一次主冷却系の冷却能力を失って炉心溶融が起こり、さらに出

は暴走し、外部環境に放射能が放散する可能性は高い」と述べている。しかし、こ

は明らかに「風が吹けば桶屋が儲かる」式の確率を無視した論理の飛躍がある。ナ

リウムとコンクリートの反応により、被害が他のループに及び全冷却能力が喪失す

までには、かなりの時間がかかり、その間に防止対策が十分採れるはずであり、ま
た、一次系は、原子炉停止系及び炉心冷却系が多重に設けられており、一次系の冷

能力が喪失することは考えられない。>
→<補足説明:ご説示のとおり、論理の飛躍があります。ナトリウム・コンクリー

の反応により発生する水素は、ナトリウム燃焼の炎により順次燃焼するため、水素

蓄積して爆発的に燃焼することはないことが実験的に確かめられています。また、

験データによれば、ナトリウム・コンクリート反応によって侵食をうけるコンク
リー
トは高々30cm程度であり、建物健全性が損なわれたり、系統分離されている健

ループへ影響が及ぶことはないと考えられます。炉心冷却機能の全喪失に至るに
は、
さらに多くの仮定を要します。 (この点十分説明できたのか)

10.<ご意見:これらの点について、JNCは判り易く説明し理解を得る必要があ
る。
→<補足説明:以上述べたとおり、裁判では裁判長の『最悪の事態』を想定すべし

する考え方などに対して縷々説明しました。しかし、理解がえられませんでした。
この問題は、工学的安全対策を如何に考えるのかという安全哲学の問題ではないで
しょうか。
もちろん、サイクル機構としては、広く国民の皆様のご理解を得るべく、判り易い

明に努めていく所存であります。>


19.<ご意見: 上述のように、安全審査の内容には問題点がないとは言えず、

の対応にも問題があつたと考えざるを得ない。これらの点について十分反省し、今

の対応策を十分検討すべきである。
EEE会議のメンバーの中には、国には非の打ちどころが無く、
裁判官のみが悪いと批判する人が何人かいるようであるが、これらの方々から
反論をお聞かせ願いたい。(そのようなことは誰も言っていないのではないでしょ
うか)
→<見解:サイクル機構としては、安全審査は、厳正に行われたものと認識してい

す。今回の高裁においては、国や機構の説明が理解されず、残念な判決となりまし

が、最高裁に上訴されましたので、全面的に国を支援していきたいと考えていま
す。
また、「もんじゅ」開発の意義や安全性について、国民や地元の方々に対して理解

ただけるように、さらに一層努力を傾注し、1日も早い運転再開を目指してまいる

存です。>

伊藤 和元
核燃料サイクル開発機構
敦賀本部高速増殖炉もんじゅ建設所
郵便番号919-1279
福井県敦賀市白木2丁目1番地
電話:0770-39-1031
FAX:0770-39-9112
E-mail:ito@t-hq.jnc.go.jp