Subject: EEE会議(Re: 「もんじゅ」と核燃料サイクル政策の進め方)
Date: Sun, 23 Mar 2003 23:28:37 +0900
From: "kkaneko" <kkaneko@eagle.ocn.ne.jp>

各位殿

「もんじゅ」判決に関連して先に豊田正敏氏より提起された一連の問題点(3月17日
及び22日配信メールの添付ファイル)に関し、柴山哲男氏(エネルギー問題に発言
する会)から次のような有益なコメントをいただきました。ご参考まで。

なお、「もんじゅ」問題は日本の核燃料サイクル政策の根幹にかかわるものであり、
どうしても複雑かつ広範な議論に発展してしまいますが、当EEE会議の性格(小生
自身をはじめ原子力工学に疎い方々も多数含まれています)に鑑み、極力議論の
拡散を避け、とくに下記1及び2の諸点を中心に、できるだけわかり易く論じていた
だければ幸いです。

その上でさらに、小生の率直な希望を申し上げれば、「もんじゅ」の将来的意義に
ついて、@技術論、A資源論、B経済論、C政治・外交論、D広報・教育論等々に
分けて、それぞれの観点から冷静な再評価を行っていただければなお一層幸いで
す。初めに「もんじゅ」ありきーーという硬直した態度では、今後国内世論を納得さ
せ、国民的理解を広げて行くことは到底不可能だろうと考えますので。
金子熊夫
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豊田正敏氏の「原子力開発の進め方に関する提言」は良くまとまっており、賛同す
る点もありますが、二、三の点について私の個人的な考えを述べさせて頂きます。

1 核燃料サイクルについて 
  我が国の核燃料サイクルは、将来のエネルギーセキュリティを確保することを目
的として、使用済み燃料を再処理し、得られたプルトニウムを当面プルサーマル、将
来的には高速増殖炉で増殖させることを主眼としており、この必要性は現時点におい
ても変わらないと考えている。但し、この方針を策定した時点より次のような変化が
あり、現状では見通しが立て難くなっていることも事実である。
 (1) 経済成長の鈍化により、将来のエネルギー需給が当初想定より緩んだこと
 (2) 解体核などの発生により、プルトニウム自体余剰気味であること。
 (3) 高速増殖炉の経済性が当初想定より低く、現時点では実用化の見通しが立て難
   くなっていること。 米、仏、独などがそれぞれの理由もあるが開発を中断し
てい
   ること
 (4) 再処理、プルサーマルについても経済性に問題があること
 (5) 電力自由化の方向に伴い、長期的な見通しが立て難いこと
 (6) 最近のプルサーマル停滞、もんじゅ判決などによりプルトニウム利用の見通し
   が立て難いこと
 (7) なお、一方では地球温暖化問題などにより、今後の原子力依存の必要性は増加
   しており、また中国その他の国の原子力開発により(・・・?)

 これらの状況は、プルトニウム利用、増殖利用の必要とされる時期が遅れることに
はなるが不要であるとの結論を導くものではない。特に高速炉の開発については、過
去の長期計画がスケジュールなどが硬直的であるとの反省から、現在の長期計画では
位置づけ及び目標が不明確になっているが、経済性を含めた開発目標及びマイルス
トーンを示して開発を進める必要があると考えられる。目標等については経済その他
の要因により弾力的に見直すことは必要であるが、避けるべきは目標を示さないこと
ではなく、目標の硬直性であると思う。
 なお、蛇足になるが高速炉も以前は夢の原子炉であったが、開発が進むに連れて問
題も発生してきている。技術の見極めをつけることは必要であるが、問題を一つずつ
解決していくことも必要である。新しい概念を導入した場合、当初予想しなかった問
題が発生する可能性もあることは留意しておく必要がある。

2 使用済み燃料の直接処分について
  使用済み燃料の直接処分については、日本では未だ十分な検討が行われていない
が、現在の高レベルガラス固化体による処分を実現するためにも、一つの対案として
十分な検討を行っておく必要があると考えます。検討に際しては技術的問題の他、政
治的、社会的問題についても検討が必要になります。以下主要な検討、懸念事項につ
いて簡単に列記します。
 (1) 技術的問題:長期貯蔵か永久処分か、冷却期間、発熱の処理、気体状核分裂生
成物の処理(ベントの有無)、上記を前提とした固化方法等
 (2) 処分場設計:ガラス固化体に比し数倍の面積が必要であるとの結果もあるが、
実際にどの程度になるか。安全設計上の影響(安全解析上はプルトニウムが不溶性で
あり大きな影響はないと思うが、再臨界等考慮の必要がないかどうか等)
 (3) 核不拡散、保障措置:長期貯蔵の場合、余剰プルトニウムの保管と見なされる
ことはないか、永久処分の場合も将来の絶対的な採掘防止手段がなければ同様になら
ないか。処分場は査察対象になるのか、計量管理は可能か等、これにより処分場設計
にも影響あり。
 (4) 社会的問題:ガラス固化体の処分であっても立地は相当な難航が予想される。
プルトニウムが入ることにより、アレルギーが強く立地は現状以上に厳しくならない
か。(3)項を含め海外立地の可能性はどうか等。

3 トリウムサイクル
  トリウムサイクルについては一部で検討が行われているだけであるが、資源面、
核不拡散の面から見て有利な点も多く、将来プルトニウム路線が完全に行き詰まった
場合の選択肢の一つとして検討を進めて行くことは必要であると考えます。但し、ト
リウムサイクル実現のためには、トリウム炉のの技術的検討、設計、実証等の他次の
2点についての検討も必要と考えます。
 (1) インフラの整備:現在の軽水炉については導入初期に米国の技術を導入出来た
他に濃縮ウラン、燃料の供給を受けることが出来たことにより、燃料サイクル、特に
国産の燃料供給時期が多少遅れることが可能であった面がある。トリウムサイクルの
場合、状況によっては炉の建設と平行してこれらのインフラ整備も必要となり、初期
投資が多大になる可能性がある。どのような段階を踏んで導入するか、国際分業など
の検討も必要となる。
 (2) 立地問題:現在検討されている溶融塩方式は再処理施設の内蔵が可能である等
の利点も多いが、市民感情から見て、逆に立地を難しくする面がないか。
                           以上 
 
柴山 哲男
tetuo shibayama
shibayama@mvh.biglobe.ne.jp